コロナ終息にむけて:各国レポート(6)アメリカ

united states of america

変化するいつもの風景

N.K.

5月11日現在、ジョンズ・ホプキンス大学の報告によると、アメリカ全体のコロナウイルス感染者数は134万人以上で、世界感染者の約3分の1を占める。患者数のもっとも多いニューヨーク州では減少傾向にあるが、ペースは非常に遅くアメリカ全体の感染者数は今も増え続けている。アメリカ全土の死亡者は8万人を超えた。

3月13日、トランプ大統領は国家非常事態を宣言した。これによりコロナウイルス感染拡大防止への取り組みに500億ドル(約5兆4000億円)の拠出が可能になり、州や自治体の対策への資金援助、中小企業に対する融資、連邦政府提供の学生ローンの利払い免除、保健福祉省の医療規制緩和など、さまざまな対策が進められている。具体的な対応は州や自治体によって異なり、現在も20以上の州で「stay-at-home order」、いわゆる外出禁止令が出ているが、徐々に規制緩和を進めようという動きもある。

外出禁止令が出ている地域では学校も閉鎖されたが、今では多くの学校でオンライン授業に移行、そして企業も可能な限りテレワークに移行しているようだ。外出はスーパー、薬局、病院など、生活に必要最低限の範囲に限られ、図書館、映画館、ジムなどはすべて閉まっている。

レストランでは店内での飲食はできず、テイク・アウトやカーブ・サイド・ピックアップと呼ばれるサービスのみで営業を続けているところが多い。カーブ・サイド・ピックアップとは、事前にネットや電話で注文した商品を店の駐車場など指定されたところまで取りに行くシステムだ。スーパーでもこのサービスを提供しているところがあり、我が家も4月に入ってから週にいちど利用している。調達した食品のうち、すぐに使う予定のないものや冷蔵庫に入れる必要のないものはそのまま車庫に数日放置しておき、その他の商品は裏庭にあるデッキのテーブルに並べ、ひとつずつ除菌ワイプで拭いてから家に運び込んでいる。

カーブ・サイド・サービスを利用せず、店内で商品を選んで購入している人の方が多いようだが、ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保)のために店内は一方通行になっており、最近アメリカでも一般的になりつつあったエコバックの使用も禁止されている。もちろん、今はどの店でも店員も客もマスク着用は必須だ。運動のための散歩やジョギング、そして犬の散歩は許可されており、我が家もできるだけ家族揃ってウォーキングをするようにしている。散歩中はマスクをしていない人が多いが、すれ違うときにはみんな、社会的距離を保つよう心がけているようだ。

先日、4月の雇用統計が発表された。農業分野以外の就業者数は前の月と比べて2050万人減少、失業率は14.7%となり、大恐慌直後の水準まで悪化した。生活困窮者を支援するフード・バンクには無償で配られる食料品を求めて長蛇の列ができているという。メディアの報道もウイルス感染関連だけでなく、これからますます深刻になるであろう経済や雇用問題に関するものが増えている。

私が働く大学では、2月下旬ごろから、大学の建物の出入り口やエレベータの昇降口などに消毒噴霧器が置かれるようになった。留学やインターンシップで日本に行っていた学生たちに大学からアメリカへの帰国指示が出たのも、このころだ。しかし、そのときはまだ日常生活にはさほど大きな変化はなく、マスクをしている人も皆無だった。アメリカの大学では3月に1週間ほどの春休みがあり、多くの学生が帰省や旅行で各地を移動する。春休みを前にして、私の周囲でも徐々にウイルス感染拡大を懸念する声が聞かれるようになった。そして春休みに入るとすぐに、大学の授業をすべてオンラインに移行するとの連絡が入った。そのころからウイルス感染に対する緊張感が急に高まった気がする。

私はオンライン授業への移行が決定してから実行までの約10日間、休み返上で準備をして、オンライン授業に挑んだ。学生のなかには、予定されていた留学がキャンセルになってモチベーションをなくしたり、ウイルス感染への不安や閉塞感からストレスが溜まり、授業に参加できなくなったりした学生も少なくない。コロナウイルスに翻弄された春学期は4月末にとりあえず終了したが、今後そのような学生たちのケアも大きな課題になるだろう。

大学に勤める者としてとくに気になるニュースがある。今日現在、オンライン授業に対して不満を持った学生たちが学費の一部返還を求めて全米26の大学に対し集団訴訟を起こしているというのだ。8月末から始まる秋学期もオンライン授業になるのか教室に戻ることになるのか、まだ決定していない大学も多い。

我が家でも自宅待機が始まったころ、外では春の花がちょうど咲き始めていた。その後、庭の桜も昨年同様きれいに咲き、今ではすっかり葉ばかりになってしまった。いつもの散歩コースには、いつのまにか新緑が茂って、木陰ができるようになっていた。いつも通りのそんな時間の流れ方が、今年はちょっと違って感じられる。


N.K.:大学講師。アメリカ東部在住。