早期ロックダウンから段階的解除へ、危機で育まれた連帯感
針貝有佳
日本で新型コロナが騒がれ始めた頃、デンマークの人びとは「アジアは大変なことになっているらしい」と、どこか他人事だった。だが、2月末に国内初の感染者が発見されると、新型コロナはいっきに「身近な恐怖」として迫ってきた。
3月上旬に大規模な集会が禁止されたかと思うと、その後、あっという間に保育園・幼稚園・学校が閉鎖され、国境が封鎖された。まだ国内で死者が出ていない初期段階での、大胆なロックダウンだった。国民が非常事態を認識したのはこの時期だ。3月中旬には必要な機能を残してほぼすべてのインドア施設が閉鎖され、大半の人が在宅ワークに切り替わり、10人を超える集会が禁止された。
このような危機のなか、デンマークを引っ張っているのは、わずか42歳の女性首相メッテ・フレデリクセンである。彼女のストレートかつ明確なメッセージは、外国人である私にもわかりやすく、子ども向け会見では、寄せられた質問に子どもに理解できる言葉で回答していた。
驚いたのは、「物流は大丈夫だから、買い占めはしないように」という首相の呼びかけに、国民が応えたことだった。世界各地での買い占めの様子を聞いていた私は、正直「そうは言っても買い占めは起こるだろう」と思っていたが、実際には、地元スーパーではパンの発酵に使うイースト菌が売り切れになったくらいで、結局、大規模な買い占めは起こらなかった。これには、デンマークの人びとは政治や他人を信頼しているのだな、と感動させられた。また、ロックダウン中、地元のスーパーでは、客と客の間にも店員と客の間にも、普段以上の心遣いと連帯感があるように感じられた。
ロックダウンのおかげで、デンマークは感染爆発を起こすことなく、3月末から4月頭にピークアウトした。現在も順調に感染者数は減少し、終息に向かっている。フレデリクセン首相の支持率はロックダウン以前に比べて飛躍的に伸び、約40%から約80%にまでアップした。初期段階でのロックダウン、企業や個人への補償のほか、真摯な態度と明確なメッセージが支持率につながったのだ。念を押すが、42歳の女性首相である。なんと頼もしいのだろう。
現在、デンマークは段階的にロックダウンを解除中だ。4月中旬に保育園・幼稚園・小学校(5年生まで)、医療機関・歯医者の通常診療や美容院などが再開し、5月中旬にはショッピングセンター・ショップ・カフェ・レストランも再開した。6月にはミュージアム・映画館・水族館・動物園などの文化施設、語学学校などの教育機関が再開し、8月以降にはすべての教育機関・フィットネス・アミューズメントパーク・ナイトクラブなども再開する予定だ。
日常生活はバタバタである。子どもが家にいると在宅ワークはかなり厳しい。ロックダウン中は夫婦が交代で仕事と育児を担っていた家庭も多かったようだ。保育施設・学校が一部再開して楽にはなったが、まだ日常に戻ったわけではない。各施設・学校・職場ごとにさまざまな条件つきの再開で、なかなか落ち着かない日々である。
それでも、コペンハーゲン郊外にある地元ロスキレを散歩すると、ゆったりとした空気が流れ、心なしか人びとは嬉しそうな表情を浮かべている。見知らぬ人でも目が合えば軽く挨拶することも多い。新型コロナによるダメージは大きいが、危機を通じて連帯感が育まれたことも、たしかな事実である。
ありがたいことに、この数か月間、天気には恵まれていた。明るい春の陽光と青空にどれだけ救われたことだろう。この危機をデンマークで迎えることになったのは、私にとってはラッキーだったのかもしれない。このまま第2波が到来することもなく、無事に終息してほしいと心から願っている。
針貝有佳(はりかい・ゆか):デンマーク語の翻訳者、ライター。デンマーク・ロスキレ在住。