コロナ終息に向けて:各国レポート(25)モザンビーク

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モザンビークの新型コロナ事情

森本伸菜

モザンビークで最初の新型コロナ感染者が確認されたのは、他国に比べて遅く、3月21日、首都マプトでのことでした。その直後、政府は隣国との国境を閉鎖し、国際便の運航を停止しました。感染の拡大はゆっくりですが、今後どのような拡大カーブになるのかを予想するにはまだ早すぎるようです。最初の感染者が出てから2か月が経ちますが、現在の感染者数は254人、死亡者数は2人です。

人口3,000万人のモザンビークで死者数の少ない理由については、人口構成が比較的若いから、またそもそもの検査件数が少ないからと言う人もいます。私個人としては、モザンビークの人口密度が低いことや、政府の迅速な対応なども関係していると思っています。

カプラナというモザンビークのプリント地のマスクが作られているようす

カプラナというモザンビークのプリント地のマスクが作られているようす

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外国からやってきたコロナウイルスは、最初は、首都のマプトや多くの外国人がいるLNG油田のある北部のカボデルガド州で広がりました。現在は、コミュニティ内での感染が始まっていて、全国各地で感染者が出ています。5月初めには私のいるイニャンバネ州にも感染者が出ました。

私は地元のコミュニティ・アピール・プロジェクトに参加しているのですが、隔離されている貧しい家族に食料パックを配ったり、200世帯分の募金を集めたりしました。また要所要所に手洗い場「Tippy Tap」を設置したり、村のリーダーに新型コロナの情報を伝えたりする活動もしています。一般的に、アフリカの人々は、結核やHIVエイズのような生命を脅かすウイルスや病気に慣れてしまっている気がします。そのため、新型コロナの恐ろしさを村の人々にどう伝えるかが大きな課題となっています。新型コロナがはやりだした頃、よく「ああ、これは金持ちだけがなる病気だよ」と言うのを耳にしました(先にヨーロッパでウイルスが猛威を振るったせいなのか、モザンビークの感染者第一号がヨーロッパ出張から帰国したアプト市長だったせいなのか……)。

村の手洗い場 Tippy Tap

村の手洗い場「Tippy Tap」

最初は、貧困の度合から、アフリカはこのような状況に弱いだろうと考えられていましたが、実際にはいろいろな面でな対応力を持っています。アフリカ諸国では、事実の受け入れも対応もすばやく、新型コロナウイルスの感染の拡大をコントロールしていると言えるでしょう。

アフリカでは「stay at home」は特権階級にのみ可能で、貧しい地域の人たちに出来ることではありません。彼らは外で働けなくなると知るとすぐに家の周りを耕し食糧生産を始めます。そういった人たちのほとんどが大家族で、とても強い絆で結ばれています。大家族ということは、ソーシャルディスタンスを取る生活を送ることは難しいですが、同時に強いサポートネットワークが身近にあるということでもあります。

マスクをする家族

マスクをする家族

6月に入って、政府は緊急事態宣言レベル4を1か月延長しました。移動の制限や、公共交通機関、個人的あるいは宗教的集会、公共及び私企業などの活動の規制があと1か月は続きます。モザンビークの感染率は抑えられていますが、社会的、経済的荒廃が甚大であることに変わりありません。

実際に、私が住んでいる海岸沿いの小さな町トーフ(マプトから北500キロ)は苦境に立たされています。トーフは主に観光で成り立っている町で、1人の労働者が平均5~6人を養っていると言われています。しかし、新型コロナの影響によって外国人観光客は激減し、いつ戻って来るか全くわからない状況です。多くの人が失業、または大幅な収入減に直面しています。トーフではまだ感染は広がってはいませんが、これから感染拡大が起こるかもしれません。また、検査がわずかしか実施されていないため、感染拡大の実態がわかっていないだけかもしれません。

ソーシャルディスタンスを取りながら、Tippy Tapに並ぶ人々

ソーシャルディスタンスを取りながら、Tippy Tapに並ぶ人々

世界各地で「ニュー・ノーマル・ライフ(新たな生活様式)」が言われはじめていますが、モザンビークがこれからどうなるのか、まだ誰にもわからない状況です。人が大勢集まる闇市や村の集会、外で走り回って遊ぶ子ども……こういった風景が当たり前のモザンビークの人々の生活も、新型コロナウイルスによって変わっていくのでしょうか。

いま私たちにできることは、保健衛生に努め、最善の結果になるよう祈りながらただ待つことだけです。


森本伸菜(もりもと・のびな):モザンビーク・トーフで日本食レストラン「すみバー・アンド・キッチン」を南ア人の夫と経営。現地の子どものためのコミュニティなどの活動に深く関わっている。