コロナ終息に向けて:各国レポート第三弾(16)コロンビア(中南米)

colombia

コロンビア(人口約5034万人)

中南米全体(人口約6.3億人)

ロブレド・ゴンサロ

①新型コロナウイルス感染状況について、いまはどうなっていますか?

2021年5月22日、パン・アメリカン保健機構(PAHO)は、中南米およびカリブ地域における新型コロナウイルスによる死者が100万人を超えたと発表しました。その時点で累計100万1,781人に上っていた死者数の約89%を、ブラジル(44.3%)、メキシコ(22.1%)、コロンビア(8.3%)、アルゼンチン(7.3%)、ペルー(6.7%)の5か国が占めていました。中米の死者数は全体の3%、カリブ地域は1%でした。

しかし、6月2日の報道で、ペルー政府が7万人弱としていた公式のコロナ死者数を見直し、これまでの2.6倍にあたる18万764人に修正したことがわかりました。その結果、ペルーの人口10万人あたりの死者数は500人以上となり、それまで最多だったハンガリーを抜き世界最悪となりました。

また、どこの国も医療機関はひっ迫しています。チリでは集中治療室の病床占有率が94%、コロンビアの首都ボゴタでも96%に上り、公共病院の病床占有率が100%に達したエクアドルでは、医療関係者たちが政府に厳しいロックダウンを求めました。

一方、同機構のデータでは、アメリカ大陸の1億5350万人がすでにワクチンを接種しているといわれ、接種率がとても高いですが、中南米・カリブ地域に住む人たちの接種率は21.6%に留まっています。

②ワクチン接種については、どのように進められ、現在(執筆時点)、どのような状況ですか?

中南米の多くの国は、複数のメーカーのワクチンを購入したり、途上国へのワクチンの公正な普及を進める世界保健機関(WHO)の枠組みCovax(コバックス*)を利用したりしてワクチンの配給を受けています。

コロンビアは中南米で最初にCovaxを通してワクチンが配給された国で、5月末までに受け取った量は約110 万回分です。その他、ファイザー社、アストラゼネカ社、モデルナ社、シノバック社などのワクチンを購入し、国内で最初の新型コロナウイルス感染者が見つかったちょうど1年後に当たる3月9日に接種が始まりました。首都ボゴタでは400施設の医療機関やスポーツスタジアムを接種会場として利用し、5月23日時点では、830万回以上の接種が実施されています(うち約40%の人が2回目の接種)。

スポーツスタジアムで接種を受けた私の友人は、「接種自体はとてもスムーズだった。会場近くで空いている駐車場を見つける方が時間がかかったよ」と言っています。一方で、元看護師の別の友人は、多くのコロンビア人がワクチンの副反応を心配しており、彼女自身は、できればキューバ製のワクチンが届くのを待ちたいと言っていました。中南米では、キューバ革命以降に発展したキューバの医療体制に信頼をおく人がとても多いのです。

*新型コロナウイルスワクチンを共同購入し途上国などに分配する国際的枠組み。WHO主導により、2020年に発足。

③現在(執筆時点)、国や自治体からの規制や制限、援助がありますか?

どの政府も、効果的な感染拡大防止対策を模索し、社会や経済を支えようと尽力しています。各国の補償や支援の政策は以前より手厚くなってきており、それぞれの規模はGDPの4.5%から8.2%を占めています。最も手厚い8.2%の支援策を打ち出したのはブラジルで、続くペルーは7%です。

しかし、インフォーマルセクターで働き、医療保険もなく、生存の保障もされない人々の層が厚い中南米では、多くの人が政府の推奨する対策に反してでも、収入を得るために働きに出ざるを得ません。

パンデミックで社会的格差はさらに拡大しており、大半の人がワクチン接種を心待ちにしている一方で、富裕層の人々はアメリカのフロリダなどに渡航してワクチンを接種しています。アメリカでは、不法移民へのワクチン接種を促進するため、接種希望者に居住証明書の提示を求めないことにしましたが、それと同時に外国からの金持ち観光客を誘致する「ワクチンツーリズム」も盛んに行われているのです。

国際通貨基金(IMF)は、中南米諸国支援の融資制度を拡充しました。しかし、企業や家庭、医療システムを支える補助金が必要な各国政府の債務は増える一方で、2019年に中南米地域のGDPの64%を占めていた負債は、2020年には72%まで膨れ上がりました。

重い債務の影響が最も明らかな形で最初に噴出したのがコロンビアです。コロンビア政府はこの4月、負債に対処するための急進的な税改革として、主に中産階級をターゲットとした増税を発表しました。

異論や拒否反応が出ることは想定していた政府ですが、これが国の歴史上最大の抗議行動にまで発展するとはまったくの予想外でした。学生、農業従事者、会社員、先住民などの団体に一般市民も加わって、「油断するな、大統領こそがウイルスだ!」などと書かれたプラカードを手に、マスクをせず大声で叫ぶ人々が、各地でうねりを作りました。

ドゥケ大統領は、2022年の大統領選での勝利を目論む左派勢力のリーダーたちが、デモ隊を扇動していると抗議しましたが、結局、税制改革案は撤回を余儀なくされ、改革を指揮した財務大臣を解任。

しかし、市民はこれを機にこれまでの積もり積もった愚策を正そうと、政府に次々と困難な要求を突きつけています。いくつかの都市では軍が投じられて死者も出る事態となり、5月末現在もまだ、政府と国民のにらみ合いが続いています。

④変異株の広がり、もしくはワクチン接種普及の前後で、日常生活や街の様子など変わったことがあれば教えてください。

パンデミックが中南米にもたらした最大の問題は、極度の貧困層の拡大です。雇用が崩壊したこの地域では、極度の貧困層の割合が人口の33.7%に上りました。つまり、中南米に暮らす人々の3人に1人が究極の貧困に陥っています。これは、過去12年間で最悪のレベルです。

国連ラテンアメリカ・カリブ.経済委員会(ECLAC)の調査によると、新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年、中南米諸国のなかで極度の貧困者が特に増えたのは、メキシコ、ホンジュラス、エクアドルでした。その一方で、極度の貧困者層が2つの国で縮小したという、驚きの結果も同調査で明らかになりました。

そのひとつはブラジルで、5.5%を占めていた極度な貧困者層が1.1%に減り、パナマでも6.6%から6.4%に減少しました。ブラジルのボルソナーロ大統領は、新型コロナウイルス感染対策に消極的な姿勢を長い間貫いてきましたが、インフォーマルな経済圏に暮らす最貧困層の人々に向け、中南米で最大の支援予算を充て、それが功を奏しました。

⑤近況について、ご自由にお書きください。

中南米諸国全体に共通する懸案事項のひとつが、子どもたちの未来です。学校教育が満足に行われていないことに加え、十分な食生活を送れていないことで、子どもたちの認知能力や体力の発達に、修復不可能な悪影響を及ぼすのではないかと危惧されています。

また、各政府は、緊急事態が収まった後、即座に財政再建に取り組まなくてはなりません。それに失敗すると、現在コロンビアで起こっているように、感染拡大のリスクを顧みず、多くの人々が抗議行動を繰り広げることとなるでしょう。来年大統領選を控えているチリやコスタリカでも、パンデミックが政治の切り札として利用されるのではないかと懸念されています。


ゴンサロ・ロブレド:コロンビア出身のジャーナリスト。スペイン語翻訳者。1981年より日本在住。スペインのエル・パイス紙に寄稿した記事:https://elpais.com/autor/gonzalo-robledo/