アメリカ合衆国(人口約3億人)
N.K.
今年5月5日に世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス感染症に関する「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の終了を発表し、それに続いてアメリカでも5月11日に新型コロナウイルス感染症に関する国家非常事態宣言が解除された。これまでこのレポートシリーズで報告してきたジョンズ・ホプキンス大学による新型コロナウイルス感染者数のデータ収集と報告業務もすでに今年3月10日で終了しており、日常生活においてはもはやコロナ禍ではないと感じさせられる。
コロナ禍以前の生活に戻りつつあるものの、アメリカは世界最多のコロナウイルス感染者数を記録した。WHOの報告によると、2023年5月23日現在のアメリカ国内の感染者は累計1億343万6,829人、死亡者数は112万7,152人となった。最近では感染状況も落ち着き、また感染しても症状が軽く、検査をせずに自宅療養で完治するケースも少なくないため、実際の感染者数はもっと多いのだろう。
新型コロナワクチンについては、現時点で人口の約81%が1回目を、約70%が接種完了とされる2回目を接種しているが、3回目のブースター接種は約17%に留まっている。今でもワクチン接種を促すポスターなどを目にすることはあるが、話題にのぼることはほぼないように思う。
昨年2月、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)はコロナウイルス感染対策のガイドラインを簡素化して、各州の群単位で感染状況に応じた3つのリスク段階(Low, Medium, High)に分類した。リスクが低い(Low)地域では、マスクの着用は個人の判断によるが、公共交通機関ではマスクの着用を推奨、自治体によってはマスクの着用を義務付けられる場合もある。リスクが中程度(Medium)の地域では、免疫障害等のある人は屋内でのマスクや呼吸器を着用し、また、感染した場合に重症化する可能性のある人と接触する場合には事前に感染検査を受け、室内で一緒にいる際にはマスクの着用を検討するよう推奨。リスクが高い(High)地域では、屋内ではマスクを着用し、重症化する可能性のある人は感染の可能性のある場での不要不急の活動を避けるよう推奨。しかし、ここ1年ほどは一時期の爆発的な感染も見られず落ち着いた状況が続いており、ほぼアメリカ全土でリスクが低い状態が続いている。
ウイルス感染が広がり始めた2020年3月、私の勤める大学でもリモート授業に移行したが、一部の授業を除き、翌年8月末の新年度からは対面授業に戻った。当初はマスク着用、パーテーションの設置、机の除菌などの対策を徹底していたが、2022年3月にはCDCのガイドラインに沿って大学でも屋内でのマスク着用が任意になり、その頃には私たちの感染対策への意識も以前ほどの緊張感はなくなっていたようだ。同年8月には大学がある地域は再びリスクが高い(High)とされ、屋内でのマスク着用、及び、キャンパス内の寮に入寮する学生のPCR検査が求められたが、すぐにまたリスクが低い(Low)状態に戻り、それ以来マスク着用も個人の判断となっている。
現在、スーパーなどではソーシャル・ディスタンスを促すサインなどが貼られたままになっているところもあるが、実際に気にしている人はいないようだ。屋内の人数制限や店舗の営業制限なども特にない。アメリカではもう屋内でもマスクをしている人はほぼいない、
日常生活では、コロナ感染が広がり始めた当初の行動制限はなくなったが、職種によってはまだリモートワークを続けている人も少なくない。私の大学でも、週に数日在宅ワークをしている事務職員が多い。また、通常の学期は対面授業をしているが、5月に始まったサマープログラム(夏季講座)のなかには、オンラインで開講されているものもある。大学付近のアパートや寮に滞在しなくても授業を履修できるという利点を活かして、自宅から履修できるリモート授業を希望する学生がある程度いるということだろう。また、教員同士のミーティングや学生への個別指導や相談への対応なども、私自身、時間を効率的に使えるなどの便宜上、場合によってはオンラインでの対応を続けている。コロナ禍でやむなく始めたオンライン形態での働き方・学び方も、今となっては選択肢が増えることに繋がったようだ。
前述のとおり、今年5月11日にアメリカで新型コロナウイルス感染症に関する国家非常事態宣言が解除されると、アメリカに入国する外国人に対するワクチン接種証明の提示も不要になった。同時に、ウイルス感染拡大を理由に2020年3月に発動された「タイトル42」と呼ばれる入国規制も解除され、今後しばらく中南米からの移民が殺到することが予想されており、当面は難しい対応を迫られそうだ。
N.K.:大学講師。アメリカ東部在住