今月の新刊8冊めは、スペインの書店が年間ベストセラーに選んだ小説『太陽と痛み』です。
村じゅうの男たちの捜索の目を逃れてようやく穴から這い出した少年は、北へと歩きつづける。少年を待ち受けていたのは、想像を絶する厳しい自然だった。
どこまでも続く赤褐色の大地に規則正しく並ぶオリーブの木……
この小説では、背景となる場所も年代も書かれてはいません。ですが、これはスペイン南部を訪れたことのある人ならすぐに思い浮かべる情景なのだそうです。
やがて、少年は年老いたヤギ飼いと出会い旅路をともにするうちに、次第に心通わせていく……
少年がなぜ逃亡しているのかも、ヤギ飼いの過去についてもここには書かれていません。ですが、二人と追っ手をとおして、強者と弱者、善と悪……といった対峙する二つのタイプの普遍的な人間像が浮き彫りになっていきます。
荒野を灼く「太陽」と歩みつづける少年と老人の「痛み」を描く、魂の彷徨の物語。
タイトルも詩的なら、大地にたたずむヤギと男の子のデッサン画による表紙も素敵です。
秋の夜長、スペインワインと生ハムを片手にいかがでしょうか。
(Y)