バングラデシュ(人口1.63億人)
大橋正明
①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。
バングラデシュでは、2021年7~8月がこれまでの最悪の流行期で、新規感染者数のピークは8月2日の15,989人、死者数のピークは8月8日の245人だった。しかしその後順調に減少し、12月の新規感染者数は数百人に落ち着いた。ところが2022年に入った途端に新規染者数は再び急増し、1月27日で15,807人と最悪の記録に迫った。
しかしこの流行期の死者数の最多は2月9日の33人と、昨年8月に比べるとかなり少なく、このパンデミックが軽症化したように見える。新規感染者数はその後急激に減少し、4月に入ってからは数十人ほどで、死者数も一桁台かゼロになり、状況はほぼ落ち着いた。それでも毎日のTVニュースでは、ヘッドラインの一つになっている。
②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?
政府によるマスク着用の指示は今も出されており、街中ではそれを守っている人もいるが、守ってない人、顎に引き下げている人も目立つ。学校はこのパンデミックの初期から長期間閉鎖され、リモート授業は富裕層が通う私立学校では実施されていたが、公立学校では全国的なテレビやオンライン授業が行われていた。とはいえ、そもそもテレビやパソコンを持っている家庭が少なく、その効果は限定的だった。
しかし今年2月中旬から学校は開き始め、3月中旬に全面再開となった。4月初めに始まったイスラム教徒の断食月の期間、例年授業は短縮されるか休みになるが、今年度はこれまでの遅れを少しでも取り戻すべく、通常時間で授業が行われている。
③ワクチン接種については、どのような現状ですか?
4月4日現在、1回以上の接種を受けたのが77.4%、必要回数完了(恐らく2回と推定される)が65.4%、3回目のブースター接種を受けた人が6.1%となっている。ただ、ダッカ市では3回目を受けた人も珍しくない。
副反応の違いはかなり大きい。1~2回の接種のワクチンの大半が、中国製のシノファーム社かインド製のアストラゼネカ社のものであった。ところが3回目で使われているワクチンはモデルナ製が多く、副反応はそれまでより強いという。
バングラデシュはこのワクチンの供給の大半を他国や国際機関からの支援に頼っているが、3月初め、リトアニア政府がバングラデシュへの50万回分のワクチン提供をキャンセルした。その理由は、3月3日の国連総会のロシア非難決議にバングラデシュ政府が賛成せず、棄権したからだ。ワクチン外交の一端を垣間見た思いがする。
④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。
3月中旬の学校全面再開以来、登下校に車を使う児童生徒が多いことから、ダッカ市内の交通渋滞が以前のような深刻な状態に戻ってしまったことも、多くの人に大きな影響を与えている。また例年この断食月の間は消費増のために食料品や燃料などの価格が上るが、今年はウクライナ侵攻などもあり物価が異常に高騰しており、庶民の一番の関心事はそこに集中している。
新型コロナウイルス感染症に話を戻すと、新規感染者数の減少は、バングラデシュに留まらず、周辺の南アジア諸国でも同様だ。この状態が継続するなら、このパンデミックについてのバングラデシュの人々の関心は、今後さらに小さくなっていくだろう。
多くの人々の現在の健康に関する関心は、ダッカ市で大流行している下痢である。今年3月27日付の現地紙は、首都ダッカで「下痢病院」として知られる大規模な国際下痢研究所(International Centre for Diarrheal Disease Research, Bangladesh)附属病院では、毎日1,200人の下痢患者を治療するという過去60年で最悪の事態に陥っており、市内の他の病院でも同様な傾向がみられる、と報じている。原因としては市内の上水道の汚染が疑われているが、特定はされていない。また例年7~9月に大流行するデング熱に対する警戒の声も、聞こえ始めている。
取材協力:(NPO法人)シャプラニール=市民による海外協力の会 内山智子バングラデシュ駐在員
参考資料:
https://www.thedailystar.net/views/editorial/news/early-diarrhoea-outbreak-alarming-2991061
https://qz.com/2139368/lithuania-cancelled-its-vaccine-donation-to-bangladesh/
https://www.dhakatribune.com/dhaka/2022/03/15/dhaka-dwellers-suffer-amid-unusual-traffic-gridlock
大橋正明(おおはし・まさあき):聖心女子大学教授、聖心女子大学グローバル共生研究所客員研究員、SDGs市民社会ネットワーク共同代表、シャプラニール=市民による海外協力の会監事、日本バングラデシュ協会会長