コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(15)マダガスカル

マダガスカル(人口約2,697万人)

フランス語情報センター翻訳チーム(中平信也、脇るみ子)

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

マダガスカルの公衆衛生省の発表によると、3月26日~ 4月1日の一週間の新型コロナウイルス感染状況は次のとおり。

  • 新規感染者数:検査者総数 2,527人、内 41人陽性
  • 新規死亡者数:4人、重症者数:22人
  • 新規快復者数:33人

2022年1月初旬の感染者数1700人超/週、死亡者50人超/週をピークにコロナ禍は減少の一途をたどっている。しかし、南半球に位置するマダガスカルはこれから寒くなること、首都にある国際空港の再稼働に続いて地方空港での国際便の再開が閣議決定されたこと、ワクチン接種率が低いことを考えると、コロナ感染再拡大も懸念されている。

私たちの現地法人の従業員。写真撮影は唯一の日本人(会社代表)による。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

外出時間の制限、多人数での集会の禁止、他県への移動の禁止または制限、飲食店に対する営業時間の制限、屋外でのマスク着用の義務化など、ほとんどの規制・制限は解除されている。ただし、病院、スーパーマーケット、オフィスではマスクの装着が奨励されており、マスク非着用の場合、入店・入室が拒否される場合がある。首都圏でマスクをしている歩行者は全体の30%程度。政府はテレビを通じ、手洗い、うがい、1メートル以上の間隔確保を繰り返し推奨している。政府はまた、希望者への新型コロナワクチンの無料接種を行っている。

出国の場合、出発前のPCR検査が(政府指定の病院で出発2日前に検査を受け、翌日結果が出る)、場合によってはワクチン接種証明の提示(要求される時とされない時がある)が必要である。入国の場合、到着時にPCR検査が行われる。政府指定のホテルで検査結果を待ち(2日間)、陰性であれば翌日から自由行動となる。陽性であれば、政府指定のホテルで2週間の隔離の後に再検査となる。

「国境なき医師団」は、そのHPの「活動ニュース」の2021年5月31日付「マダガスカルで最悪レベルの食料危機(*)」のなかで、「新型コロナウイルス感染症流行により、マダガスカルへの入国制限、首都と南部地域を結ぶ国内便の停止などの措置がとられ、援助物資の運搬に影響が出ている 」としているが、このような状況は改善されつつある。ただし、食糧危機の解決にはほど遠い。

*同ニュースによると、マダガスカル南部の地域全体で急性栄養失調に陥っている子どもの数は7万4,000人、そのうち1万2,000人は重度の栄養失調である。

タマタブ最大の市場バザールケリー

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

UNICEFのマダガスカル支部の発表によると、3月9日時点でのマダガスカルの新型コロナワクチンの接種状況は次のとおり。

  • 1回目の接種を終えた人が125万8,980人、2回目の接種を終えた人が101万2,453人
  • 2回接種を終えた人はまだマダガスカルの全人口の3.5%
  • ワクチン接種は、兵士・憲兵隊・警察官等の治安関係者・医療従事者・公務員そして都市部住民を中心に奨励されており、マダガスカルの全人口の7割近い農村部居住の人々のほとんどはまだ接種を受けていない

我々の関係する現地法人ソマコワでも、事務職10名のうちワクチン接種に応じたのは3名のみ。コロナに対する警戒感は、マラリアやエイズのそれよりも低い。つまり、マダガスカルの人々の生活環境には、新型コロナウイルスよりも恐ろしい疫病が存在する。

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

マダガスカルでは、新型コロナウイルスの前に肺ペストが流行し、誰もがマスクを着用して外出していた。21世紀になってペストが流行する国が残っていることに驚いたが、マダガスカル公衆衛生省は今年2月、2021年にマダガスカルで新規に確認されたハンセン病患者数が1334人と公表した。世界保健機関(WHO)によれば、マダガスカルでは毎年、1,000人ほどの新規ハンセン病患者が発生している。今なお、らい病がこの規模で発生する国があることにも驚かされる。

驚くのは病気についてだけではない。昨年のクリスマス(2021年12月25日)には、ミサが行われているカトリック教会に落雷し、大人4人と7歳~17歳の子ども6人の合計10人が即死した。マダガスカルの雨季(11月頃~4月頃)には雷雨が多発し、これほどの規模ではないものの、落雷による死亡は毎年発生している。

フランスのTVニュース「フランス24」によると、我々の拠点とするマダガスカル第2の都市タマタブ近郊の観光地セントマリー島付近で昨年末150人を乗せた木造船が沈没、85人が死亡した。沈没した船は下の写真のとおり小さい。よく150人も乗れたと思うし、乗せたと思う。

このように不条理としか言い得ない出来事と背中合わせの日常を生きるマダガスカルの人々にとって、新型コロナウイルス感染は当初から我々が思うほどに特別な事柄ではなかったのかもしれない。彼らにとっての身に迫る危機は、コロナ前と比較して、30%上昇した物価、25%上昇した主食のコメの価格である。増大する生活苦は犯罪の凶暴化をもたらしている。


株式会社フランス語情報センター翻訳チーム:代表の中平信也(なかだいら・しんや)とパートナーの脇るみ子(わき・るみこ)で運営。どちらも日本在住のフランス語通訳・翻訳者。マダガスカルと日本のあいだを定期的に往復している