コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(16)スペイン

スペイン (人口約4694万人)

米田真由美

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

2022年4月の時点での感染者数は、ピーク時(2022年1月13日)の5%と減少傾向にあります。感染状況は、2021年の夏以降一旦落ち着いていましたが、やはりその前年同様、クリスマス休暇を境に一気に増加傾向に転じ、2022年1月には新規感染者数が7日間平均で12〜13万人(*)、1日あたり20万人を超える日もありました。その後2月に入ると徐々に減少し、現在の新規感染者数は7日間平均で6,000人ほどまでに減少しています。

*直近7日間の新規感染者数累計を7で除した1日あたりの平均数。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

規制については、一部の州を除き、ほとんどの州で撤廃されています。

飲食店内の人数や営業時間制限も徐々に緩和され、ナイトクラブなども夜間通常営業に戻っています。ただし、屋内でのマスクは引き続き義務づけられています。屋外では義務づけられていないのですが、街中の様子を見てみるとマスクをしている人は多いように思います。

ワクチンパスポート(COVID PASS)の提示義務についても地域により差があります。私が暮らすバレンシア州においては飲食店、映画館(屋内レジャー施設)、特別養護老人ホームなどでは引き続き提示が求められています。

学校や教育機関では2021年9月の新学期以降、ほぼ完全に対面で授業が行われています。イベントや行事も可能な限り通常開催するようになっています。もちろん地域差はあるでしょうが、海外からの留学生もほぼ通常通りの受け入れを行っています。しかし、11月中旬ごろからオミクロン株の流行とともに、子どもの間での感染が急速に拡がり、小中学校では学級閉鎖になることが度々ありましたが、その学級閉鎖のルールも徐々に緩和されていきました。

2022年1月に入るとクリスマス休暇明けでさらに感染が拡がり、保健局の対応に混乱がみられました。感染者の隔離期間、PCR検査を受ける必要がある濃厚接触者の基準や手順など保健局の対応が度々変更しました。ピーク時において、軽症者へは電話診療のみで、休職手続きなども、全て電話とメール、地域医療センターのWEBで行われていました。これは医療体制や病床の逼迫を防いだ一方で、デジタル作業に明るくない高齢者などにはとても親切と言えるものではありませんでした。

また、人口が少ない地方では対応が遅れることがよくあったそうです。最寄りの地域医療センターでPCR検査や適切な診療が受けられないなど、都市部との格差に驚くことがありました。

市内の公園でマスクをして遊ぶ子どもたち

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

スペインはEUのなかでもワクチン接種率が高く、3回目の接種も進んでいます。2021年夏以降、高齢者や基礎疾患のある人から接種が開始されました。他のEU諸国に比べると始動は少し遅かったように思います。ファイザーやモデルナが2回接種で完了なのに対し、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)社製のワクチンは1回のみの接種タイプだったため、バレンシア州でのブースター接種はJ&J社製ワクチン接種者を優先して開始されました。これはあくまで個人の感想ですが、職場ではワクチン接種が遅かった人のなかに感染が多かったように思います。

また、外国人留学生や1か月程度の一時滞在者にもワクチン接種用の一時的な医療保険カードを発行(*)するなど、シムテム化も迅速で、誰もがスムーズに接種できる環境だったように思います。

*ワクチン接種は、地域医療センター(日本でいう保健所)が管轄しており、接種するには公的医療保険に加入している必要がある。公的医療保険に加入するにはスペインで税金を納めている必要があるため、旅行者、留学生などの加入は不可となる。そのため、一時滞在者対象に、医療サービスを含まない、ワクチン接種用のための医療保険カードが発行された。

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

スペイン全土としては「アフターコロナ」ではなく、市民の意識、政府の政策が「ウィズコロナ」へと向かっているという印象です。

バレンシア州では3月下旬からコロナ感染者の隔離や休職などの定義が大きく変更されました。働く現場では新たな混乱を招くことが予想されていますが、確実に「コロナとともに暮らす」を目標としているのがわかります。

昨年12月から3月頃までの第6波では、私自身が一家で感染したこともありますが、これまでと違って、家族や友人、知人など直接の知り合いに感染をした人が急激に増えた印象がありました。長引くコロナで経済的に大きな問題を抱えながら、習慣や文化的慣習が人々の暮らしに大きく影響しているスペインではクリスマス時期の人の集まりや流れを規制することが難しく、いかに医療を逼迫させずにコロナとともに市民の社会生活を維持するかが政策のポイントでした。

2020年3月の非常事態宣言以降、これはスペインだけではないかもしれませんが、コロナ禍で最も適応能力が高いのは子ども達だと、感慨深く思う場面が沢山ありました。楽しみにしていた行事やイベントが担任の先生や学友のコロナ感染で中止になることがあっても、決して大人を責めたりせずに、子どもも保護者とともに頑張ろうという姿勢がありました。もちろん、そういったことばかりではなく様々なドラマがあったと思いますが、スペインは少なくとも感染者が生きづらいというような社会ではないと改めて思いました。これはレポート第一弾から一貫して感じていることです。

市街のオープンカフェで外食を楽しむ人々

非常事態宣言中、親が医療従事者であったり、リモートワークが不可能な職業の場合は、その子どもたちは特に辛い思いをしていたと思います。いまようやく、また学校に通えるようになった子どもたちは、校庭で遊ぶ時にマスク着用を強いられても文句一つ言わず学友との時間を精一杯楽しんでいるように思います。隔離生活がどういうものか身に染みてわかっているのでしょう。

こうした子どもの柔軟な姿勢や、学びの速さ、感謝の気持ちはぜひ大人も見習いたいものです。コロナでネガティブなことは多くありましたが、コロナがなければ学び得なかったこと、海外で暮らしていたからこそ多くの気づきがありました。今後のウィズコロナ生活でも困難にぶつかることは多くあるでしょうが、子どもたちに倣って学びの多い生活にできればと心から思っています。


米田真由美(よねだ・まゆみ):スペイン・アリカンテ在住のコーディネーター・通訳者。アリカンテ大学語学教育センター勤務