アイルランド(人口約490.4万人)
石川麻衣
①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。
ここ数週間(2022年4月10日執筆)の新規感染者数は、平均で1日3,000~4,000人程度です。年末年始は、オミクロン株が猛威を奮い、1日2万人を超えていましたが、今はだいぶ落ち着いています。しかし、いまだに救急外来でも長時間待たされることがあり、現在、75歳以上で診察待ちの患者数(緊急性のある疾患のある人)は約84,500人にも上り、うち25,000人は、1年以上も待たされているとのことです。全人口で見ると、約90万人が治療を必要としていながらも待機させられているとのことで、まだまだ課題は山積みです。
②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?
医療機関でのマスク着用は必須ですが、それ以外の場所でのマスク着用の規制はすべて撤廃されました。2月末にマスク着用が義務ではなく個人の判断にゆだねられるようになってから、お葬式会場、教会、劇場、様々な趣味の講座が開催されるコミュニティーセンター、バス、電車、カフェ、どこへ行ってもマスクをしている人はマイノリティーです。人に会うと、以前のようにハグや握手をするのも当たり前になってきました。ラジオ局では自主的にマスク着用を義務化するなど、仕事場によって異なりますが、コロナ禍では当たり前だったソーシャルディスタンスは嘘のように消え、もはや忘却の彼方です。ハグやキスや握手を断るのは失礼、という雰囲気さえ漂います。つい最近までラジオでは、解除された規制(特にマスクの義務化)を元に戻すか否かの討論が連日のように行われていましたが、そんな議論も、ウクライナ侵攻による難民のニュースに飲み込まれて、徐々に消えつつあります。
そもそもパブのような騒がしい場所では、叫ばなければ相手の声が聞こえないので、距離を保つこと自体厳しかったところに、マスク着用義務がなくなると、ソーシャルディスタンスを含めコロナ禍における習慣があっと言う間に崩れていきました。人が集う場所では、マスクをしなければ失礼どころか、マスクをつければ失礼、という雰囲気に移行しつつあるほどです。ひとりだけマスクをしていると、自分だけが心を閉ざしているようにも感じられて、逆に気まずいのです。
③ワクチン接種については、どのような現状ですか?
2022年4月10日現在、約290万人(アイルランドの人口は約500万人)がワクチンのブースター接種を済ませています。オミクロン株が猛威を奮った2021年のクリスマスシーズンから年始にかけて、いち早くブースター接種をしようと、指定の薬局の前で並ぶ人々の姿が目立ちました。現在、65歳以上に、2回目のブースター接種、つまり4回目のワクチン接種をするよう呼びかけています。
先週、「ゲーム・チェンジャー」と呼ばれている米国ファイザー製の新型コロナワクチンの飲み薬〈パクスロビド〉がダブリンに到着し、まずは入院患者を対象に各病院で使用を開始するようです。
④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。
一歩前に踏み出したら、もう足を元に戻すことはできないというように、マスクも何もかも脱ぎ捨ててズンズンと前へ進むアイルランドの人々のエネルギーを感じます。私も、そのエネルギーに背中を押されて先日、久しぶりに旅行のために航空券を予約しました。コロナ禍で一気に空港の警備スタッフが解雇されたせいで警備が追いつかず、ダブリン空港は連日、搭乗までの待ち時間が3時間を超えているようです。しかし、久しぶりに飛行機のチケットを予約したときは、胸が高鳴りました。
劇場も、ぎっしりと席が埋まるようになってきました。先日、由緒あるゲート劇場でサミュエル・ベケットの『勝負の終わり』を観劇しました。連日満席。開場前にロビーで立ち飲みをする人たち、場内に響き渡る笑い声や、むんむんとした熱気。ふとコロナ前に戻ったような錯覚に陥り、孤につままれたような気分でした。
去年の末に、私自身の企画がある劇団のメンターシップ・プログラムに採用され、現在、英国のシェフィールドにいるアーティストとZOOMでやり取りをしています。また、ZOOMを駆使しながら、アイルランドの戯曲を日本に紹介する機会にも恵まれました。舞台芸術はライブが一番と思い知らされたコロナ禍でしたが、「リモート」という新たなコミュニケーション手段をうまく交えながら、徐々に国際的な演劇プロジェクトが復活していくことを願うばかりです。
石川麻衣(いしかわ・まい):通訳、英日翻訳家(主に演劇、芸術関係)、ナレーター。国際演劇協会会員。アイルランド・ダブリン在住