コロナ終息に向けて:各国レポート(9)イギリス

great britain

まだ出口は遠いイギリスより

安原実津

イギリスでは、3月下旬からロックダウンが続いています。ヨーロッパの他の国とくらべると、遅めのスタートでした。イギリス国内で感染者が増加しはじめたのが遅かったことも一因ではあると思いますが、政府は当初、国民の大多数を感染させて「集団免疫」を獲得することで流行を終わらせる方針をとっていたからです(厳密に言えば、政府がそう明言したわけではないのですが)。実際にジョンソン首相は、コロナ対策に関する演説で、集団免疫の成立を目指しているとしか思えない発言をしています。また、政府の首席科学顧問が集団免疫の有効性についてインタビューで語ったことからも、イギリス政府の基本方針は集団免疫戦略だったというのが大方の見方になっています(ただし保健相はこれを否定しています)。

ところがその後、社会的な封鎖政策をとらなかった場合、集団免疫ができるまでに最大で25万人の死者が出るとの研究報告書が発表され、政府は方針を変えました。コロナ対策の首相演説がおこなわれたのは3月12日、研究報告書が出されたのは同月16日。イギリスでのロックダウンが始まったのは同月23日だったので、短期間でイギリスのコロナに対する政策が大転換されたことになります。

ロックダウンが始まって、生活必需品を売る店以外はほぼすべて閉鎖されました。ただ、別世帯の人と会ってはいけないなどの決まりはありましたが、はじめから一日一度の運動目的の外出は許可されていて、行動範囲にも制限はありませんでした。規則をやぶった場合には罰金が課せられますが、街はものものしい雰囲気ではなく、交通量が減った道路でサイクリングを楽しむ家族連れなどをよく見かけるほどです。

イギリスでは、NHS(国営の医療制度)のスタッフを応援するために、子どもたちが自宅で描いた虹の絵をSNSにアップする運動が広まっています。また、幹線道路沿いにある巨大な広告板のほとんどが、「ありがとうNHS」といったものや、NHSへの感謝のツイートを呼びかけるものに変わっていたりして、国民一丸となってこの危機を乗り切ろうというポジティブさも感じられます。

とはいえ、ロックダウンが長引くにつれて、行動や娯楽が制限されることへの人びとのストレスはたまってきています。5月に入ってから、ヨーロッパ諸国では徐々にロックダウン解除の動きが出はじめたので、イギリスでも変化があるのではと期待していたのですが、まだまだ先は長そうです……。

1対1でなら屋外で人と会えるようになったり、自宅で仕事ができない職種の人が仕事に復帰できるようになったりと、緩和の動きはいくらか見られたものの、学校が一部再開されるのは早くても6月以降、美容院やレストランなどの営業が許可されるのは早くても7月以降だそうです(イングランドの場合)。違反者に課される罰金も増額され、ロックダウンとともに始まった休業補償制度も10月末まで延長されました。もとの日常が戻ってくるまでにまだまだ時間がかかるのかと思うと、気が遠くなりそうです。でも、イギリスの死亡者数がイタリアを超える3万4,000人を突破していることを思えば、仕方がないのかもしれません。

ロックダウンが始まってから自宅で仕事をするようになった夫は、ほぼ毎日、カヤックでテムズ川に繰り出しています。川の上ならソーシャル・ディスタンスの心配をする必要もないですし、運動にもなって一石二鳥なのだそうです。運動が不得手な私は、テムズ川にカヤックを漕ぎに行ったことはないのですが、今後しばらくこういう生活が続くのであれば、気分転換にテムズ川に繰り出してみようかなと思っています。


安原実津(やすはら・みつ):ドイツ語・英語翻訳者。イギリス・ロンドン在住。