コロナを封じ込めたニュージーランド、次なるフェーズへ
目時能理子
私の住むニュージーランドでは、新型コロナウィルス感染の波が到達した早い段階で、厳格なロックダウン政策が打ち出されました。その成果が出て、最近の新規感染者は連日ゼロから多くて数名。今週からは封鎖がほぼ解除され、経済の立て直しに焦点が移っています。
「ウイルスの封じ込め」という意味では、有数の成功国となったニュージーランド。ここでは一連の流れから、実際のロックダウン下の生活はどうだったかを振り返ってみたいと思います。
3月26日、ニュージーランドは警戒レベル4(最も厳しいレベル)となり、ロックダウンに入りました。「バブル」と呼ばれる一つ屋根の下に住む人たちごとに自主隔離が求められ(バブルは基本的には家族単位ですが、ニュージーランドにはシェアハウスをしている人も多いので、その場合はシェアメイト同士がバブルを構成)、学校は閉鎖となり、子どもたちはオンライン授業などで自宅学習。大人は医療関係や食料品販売など「必須業務」でない限り、自宅勤務となりました。
店舗はスーパーマーケットと薬局以外ほぼ閉店。市民が外出できるのは、食料品や医薬品の買い出しと、バブル単位での近所の散歩だけに限られました。たとえ親子であっても、離れて暮らしていれば会うことができなくなりました。
ロックダウンに入る数日前、ニュージーランドの女性首相ジャシンダ・アーダーン の発表を聞いたときは、これからどうなるのだろうと不安がよぎりました。ですが、過ぎてみれば特に混乱もなく、市民のあいだにも比較的リラックスした雰囲気が漂っていたように思います。
その要因としては、都市封鎖と給与補償がセットになっていたことがまず挙げられるでしょう。自宅で仕事ができず、働けない人々(飲食業や小売業など)には、常勤者であれば週に585.80NZドル(約38,000円)、パートタイム勤務であれば350NZドル(約23,000円)が政府から支払われることになりました。「お金の心配はしなくていいから、家にいて下さい」というわけです。ニュージーランド警察は、「史上初、テレビの前に寝そべって何もしないだけで人類を救える」というユーモラスなキャンペーンを打ちました。
次に、政府の一貫した明確な方針の説明も人々に安心感を与えていたように思います。毎日13時から開かれるアーダーン首相とブルームフィールド保健省長官の記者会見では、国内で起こっていることと今後の見通しが明快に語られ、私を含め自宅にいるしかない市民にとっては会見を見ることが一種の楽しみでもありました。
日常生活では、道路を行き交う車が格段に減り(連日、元旦の朝のような静けさ!)、散歩をする人の数が確実に増えました。道で出会ったら、2mのソーシャルディスタンスを取りながら、「Hi」とあいさつを交わし、すれ違います。スーパーに買い物に行くと、入場制限によって、店の外で2mの距離を保ちながら入店する順番を待ちました。品揃えは比較的充実していましたが、小麦粉、イースト、パスタなどの在庫がないことも多かったです。
感染経路が特定され、新規感染者数の抑制が進んだ4月28日からは警戒レベル3に移行、それまで一切できなかった食べ物の持ち帰りやドライブスルー、デリバリーが許可されました。初日にはファストフードのドライブスルーに車が長蛇の列をつくり、新聞の見出しを飾りました(ニュージーランド人はファストフード好きが多いように思います)。
5月14日にはいよいよ警戒レベル2となり、会社や店舗、学校の再開が決まりました。数々の制限はありますが、外食や国内旅行も解禁され、ウイルス排除から経済立て直しへの新たなフェーズに入ったといえます。今はウイルスをコントロールしたうえで経済などを再開していく出口戦略の段階にいます。
ニュージーランドの一大産業である観光業などが大きな打撃を受けていることや、世界的に見れば終息への道のりは不透明なことを考えると、一筋縄ではいかないことも予想されますが、人口500万に満たない小国ならではのチームプレイで、なんとかこの難局を切り抜けたいです。
現在、日本-ニュージーランド間の飛行機は飛んでいません。早く運航を再開し、安心して行き来できる日が再び来ますように。
目時能理子(めとき・のりこ):イタリア語・英語翻訳家、英語・イタリア語コーチ、ニュージーランド・オークランド在住。