コロナ終息に向けて:各国レポート(11)オーストラリア

australia

早めの対策で危機を乗り切ったオーストラリア

徐廷美

オーストラリアでは、3月下旬に感染者数のピークを迎えた。しかしその後、4月10日頃には一日の新規感染者数が100人を割り、現在では20人を下回っている。感染者の総数は現在(5月20日)までに7,079名で、死亡者数は100名。死亡者の多くが70歳以上の高齢者だが、日本のように高齢者施設でクラスターが発生した例は数件だった。

国内での爆発的な感染を防止できたのは、感染対策が早期に実施されたおかげだろう。国内感染者の6割以上が海外で感染しており、その27%は早い段階で感染源が特定されていたため、オーストラリア政府は旅行者の入国を原則禁止し、そのほかの入国者については14日間の強制隔離を義務づけた。結果的に、爆発的な感染を防止でき、現在までの総検査数は1,111,567件で、陽性率は0.6%となっている。検査希望者が検査を受けられないという話はいまのところ聞いたことがない。

3月下旬からは、幼稚園から大学までのすべての学校が閉鎖され、オンライン授業に移行している。また、多くの職場ではリモートワークが行われ、教員も自宅から授業を配信するなどしている。食料品等の買い物、通院、やむを得ない通勤や通学を除く不要不急の外出は認められておらず、家族以外で3名以上が集まることも禁止された。悪質な違反を犯した場合には、逮捕されることもある。図書館、美術館などの公共施設、レストラン、バー、フードコート、ジム、ビーチ、映画館などの娯楽施設はすべて閉鎖。ただし、スーパーなどの食料品店、薬局、雑貨店は営業しており、飲食店は持ち帰りのみ営業が許されている。

3月以降、感染者数の増加にともない、一部の人の買い占めによってトイレットペーパーが店舗から姿を消した。さらに米、小麦粉、パスタ、缶詰類といった保存がきく商品も品薄になった。そうした事態を解消するため、大手スーパーでは、高齢者が品薄の商品も手に入れられるように、通常よりも早い時間に店を開けるなどの工夫も行われている。スーパーの入り口には手指消毒剤が置かれ、1.5mのソーシャルディスタンスが保たれる程度の入店制限も実施されている。

政府はマスク着用を推奨しておらず、病院でさえ、マスクを着用するのは感染症患者に対応するときのみである。町中では、特にアジア系と思われる人はマスクを着用していることが多いが、実際にマスクをつけている人は全体の2~3割といったところ。マスクの品薄状態はいまもつづいているが、雑貨店などで通常より高い値段で売られていることもある。現在、オーストラリアの医療機関では、緊急時以外の外科手術が原則禁止されている。マスクやガウンといった感染対策に必要な物品の確保に力を入れたために医療機関でマスクやアルコール消毒剤が足りなくなったという話は出ていない。

政府は、失業者を始めとして、収入が減った個人や家庭に向けて補償を行っている。また、事業者への補償や年金の早期還付等のサービス、隔離政策が原因となって起こる家庭内暴力を防止したり、メンタルヘルス問題を解決させたりするための予算増も行われた。モリソン首相と各州の首長はほぼ毎日オンラインの記者会見を行っているので、国民はコロナ感染症に関する最新情報を知ることができる。

とはいえ、新型コロナウイルスによる経済的影響は大きい。政府はつい先日、感染者数の減少を受け、段階的に隔離政策を緩和して経済の再活性化に向けて始動すると発表した。5月11日からは、小学校、中学校、高校で人数を割り振って週1回の通学授業が開始され、25日からは全面的に通常登校となる。隔離政策は3段階にわたって緩和していく方針だという。第一段階では、他の家庭への訪問(最大5名まで)、職場や公共施設における集会(最大10名まで)が許可されるほか、レストランやカフェが営業開始、図書館やコミュニティセンターも再開される。これが、5月15日より開始されている。第二段階ではジムや映画館などの再開が許可される。第三段階では、100名までの集会が許され、バーやサウナを含むあらゆる娯楽施設が営業を再開するという。ただし、1.5mのソーシャルディスタンスの確保と、アルコール消毒や手洗いなどの衛生管理は引きつづき推奨される。

こうした動きを通して、オーストラリアは爆発的感染と死亡者数の増加を防いできた。さらに隔離政策への国民の適応が非常にスムーズだったことを考えると、オーストラリアのコロナ対策はおおむね成功しているといえるのではないだろうか。


徐廷美(そ・じょんみ):オーストラリア・シドニー生活6年目。日豪両国の看護師資格をもち、現在は大学院で看護学を専攻している。