コロナ終息に向けて:各国レポート(19)マレーシア

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厳しい規制と取り締まりで危機を乗り越える

橋本ひろみ

マレーシアでコロナの問題が深刻化したのは、3月初旬に集団感染が発生したのがきっかけでした。その後、政府はその深刻さを受け止め、3月18日に、2週間のロックダウンの措置を講じ、全ての活動が中止されました。

しかし、この時はまだ、休み気分で家族とともに帰省する人も多くいました。それに危機感を覚えた政府は、強硬策に出ます。まずは帰省した人々に対して、都会に帰ってくる道路を封鎖し、警察はあらゆる道路で取り締まりを行いました。また、国民に政府の措置の意図や情報を毎日公開し、理解を求めるため、「STAY AT HOME」の呼びかけや、毎日命の危険に向き合い国民のために必死で戦っている医療従事者などフロントライナーの活躍を報じたりするなど、国民の理解を求める努力もしていきました。

2週間のロックダウンが延長され、国民の移動はもっと厳しく規制されました。スーパーや病院など生活に必須な事業を除いた全ての活動が停止され、食料の調達以外の外出も禁止されました。ジョギングや散歩も認められず、違反者は警察に連行され、罰金が課されました。

入店前に社会的距離を置いて並ぶ人の長蛇の列

入店前に社会的距離を置いて並ぶ人の長蛇の列

ロックダウンはさらに2週間延長されました。このころ、ヨーロッパ諸国が直面している医療崩壊や、感染者や死亡者の急増を受け、マレーシアでもさらに厳しい活動規制が課されました。感染者が出た場所は完全に封鎖され、食料を調達するための移動も1世帯に一人ずつしか認められず、車も一人ずつしか乗れません。スーパーなどでも体温測定、マスクの着用義務、店内への入店も一世帯一人ずつなどが実施されました。

現在は、企業活動のほとんどが再開していて、条件付き活動制限令とされています。教育関係はまだ封鎖されていますが、オンラインによる授業をしている学校も多く、これからもオンラインの需要が増えていきそうです。4度目の延長(6月9日まで)は、それまでの様子を見て、政府が判断することになっています。

現在、マレーシアではイスラム教徒の最大のイベントであるハリラヤ(ラマダン明けの大祭)を目の前に控えています。しかし、毎年ラマダン中の時期にしか見られない料理を屋台で販売するラマダンバザーも、今年は禁止されました。また例年であれば、家を開放して(オープンハウス)親戚や知人を招待する人や、帰省する人も多いのですが、今年は州をまたぐ移動が禁止されたうえに、同じ場所に同時に集まることができるのは最大20人までとされています。オープンハウス自体は禁止されていないものの、常に警察がパトロールをしている状況です。

5月22日の時点のマレーシアの感染者数は7,059人、1日の感染者数74人、退院者数5,796人(全感染者数の82.1%)、死亡者数114人(全感染者数の1.6%)で、新規の感染者数も現在の数字はほとんどが海外からの帰国者や外国人労働者で、全体的にも安定し減ってきている状況です。

実は、ロックダウンが始まる数日前に首相が代わり、マレーシアは政治的にも不安定な状況でした。でもこの厳しい政策のおかげで、さらなる感染拡大を抑えることができたと多くの人が思っています。経済も厳しい状況を迎えていますが、コロナを封じ込め、なんとか感染爆発を抑えることができたのは、マレーシア国民にとっては一つの自信につながったと思います。

これからも新しい課題に直面していくとは思いますが、マレーシアも今、新しい日常の中で、新しい未来に向けて模索しています。


橋本ひろみ(はしもと・ひろみ):翻訳者、日本語教師。クアラルンプール在住。