コロナ終息に向けて:各国レポート第二弾(17)ネパール

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ネパール(人口約2,370万人)

勝井裕美

①新型コロナウイルス感染状況について、いまはどうなっていますか?

8月29日現在、感染者数の累計は37,340名。第一弾のレポートを書いた6月2日の2,099名から約18倍となった。8月28日の1日の感染者数は884名。ネパールでは、陸続きのインドから帰国した出稼ぎ労働者やその濃厚接触者からの感染が多く、感染者数の多い地域もインド国境に接する南部だった。それが最近では、首都カトマンズ周辺の都市部にホットスポットが移っている。上記の884名中、186名がカトマンズ周辺の人たちだ。また、当初は政府指定の公立病院だけが新型コロナウイルスの検査や入院対応をすることになっていたが、私立病院も対応するように政府が呼びかけはじめている。すでにカトマンズ周辺では病床数が足りておらず、無症状の人や軽症の人は自宅待機となっているようだ。

②国や自治体からの規制や制限はありますか?

6月中旬から徐々に移動の規制緩和がされていたが、バスやタクシー業界などの訴えを受け、7月22日に突然、全土のロックダウンが解除となった。そのとたん国中の人びとがこれまでの反動のように動きはじめ、慌てた政府は急遽マスク着用やソーシャルディスタンスを呼びかけた。罰金(当初、100ネパールルピー=約100円)なども課されたが、現在のマスク着用率は約7割にとどまっているとの報告がある。カトマンズにも自由に出入りができるようになり、地方から都市部に戻る人が急増。その結果、上に書いたようなカトマンズ周辺のホットスポット化が生まれたと言われている。

再ロックダウン前のカトマンズ。車両が戻ってきた

再ロックダウン前のカトマンズ。車両が戻ってきた

8月に入ると感染者数が急増した郡(日本の都道府県に相当)でロックダウンが再開し、とうとうカトマンズ周辺3郡も8月20日から1週間のロックダウンが宣言された。現在、その期間は再延長され、9月2日までとなっている。しかし、感染者数の減少は見られていないため、さらなる延長の見込みが高い。

ネパールで唯一の国際空港はずっと閉じられたままで、出稼ぎ先の中東などに取り残されたネパール人の退避便を飛ばすだけだったが、9月2日からはいくつかの国との間で国際便が再開している。政府が発表した9月30日までのフライトスケジュールを見ると、通常運行とは言えないが、それでも、日本との直行便が計3回。観光業界が熱望していた外国人観光客の入国はいまだ不可で、ネパール人、もしくは外交官や国連関係者などの外国人のみが入国を許されている。ただし、入国する72時間前までに受けたPCR検査の陰性証明書、入国後2週間の自宅隔離が必須だ。

がらがらの国際空港。野良犬がソーシャルディスタンス休憩

がらがらの国際空港。野良犬がソーシャルディスタンス休憩

③国や自治体からどんな援助がありましたか? あるいはありますか?

基本的には何もない。中央政府は市町村レベルでの貧困世帯への食料配布等の支援を促したが、市町村によって実施の濃淡があり、支援が十分に行きわたっているとは言えない状況だ。経営者はローンの返済猶予や低金利のローン貸し付けなどを要望しているが、具体化の話は聞かない。

④日常生活や街の様子など、とくに前回のレポート時から変わったことがあれば教えてください。

カトマンズ周辺3郡の8月20日からのロックダウン以降、再度、食料の買い出しと病院・薬局以外の外出禁止は禁止となった。前回の全土ロックダウン時はカトマンズの感染者数は少なかったので、外出禁止令下と言えども「できたら外出したい、店を開けたい」という人が多かったように思う。しかし、今回は空気がピリついている。外に出るのは危険だと、レストランのテイクアウトすら禁止されている。食料品店の営業は朝の9時頃に終わってしまう。

⑤近況について、ご自由にお書きください。

日本では政府がいくつかの製薬会社からのワクチン購入の交渉をしていると報じられているが、ネパールではそのような話は聞かない。ただ、現在、低所得国でもワクチンを入手できるようにさまざまな国が参加するネットワークが作られつつあり、それを通じてネパールも最低限のワクチンは入手(支援)されるとの楽観的情報はある。また、ロシアや中国、イギリスで開発されているワクチンの臨床試験への協力を検討中だという。これによって、ワクチン開発が成功した暁には優先的、または安価にワクチンが入手できるのではないかという期待もあるようだ。このウイルスの脅威はどの国にも平等だ。でも、その対応力は改めてこの世界にある残酷なまでの経済格差を浮かび上がらせている。


勝井裕美(かつい・ひろみ):NPO法人シャプラニール=市民による海外協力の会(https://www.shaplaneer.org/)ネパール事務所長。ネパール・ラリトプール市在住