誰にでも、使いたい言葉があります。
それは、うまく使えば「文章の個性」になりますが、使い方を間違えると「文章の癖」につながります。
多用することで訳文の「癖」となってしまうのに、なぜか、じつに多くの翻訳者が共通して使いたがる言葉……。
その代表格を挙げてみましょう。
*「……つつ」「……しつつ」
資料に目を通しつつ、昼食をとった。
徐々に注目されつつある。
同時進行の表現をほぼ自動的に「……つつ」と訳す翻訳者がとても多いです。
間違いではないですが頻出すると疲れます。おそらく古風な表現だからでしょう。
できれば、「資料に目を通しながら……」「徐々に注目されている」にしたいです。
*「……しうる」「……し得る」
手元の訳文にこんな表現がでてきました。
それは深刻な脅威となり得る。
私にも果たしうる役割がある。
硬いですよね?
「……脅威となりかねない」「果たせる役割がある」のほうがずっとスムーズに読めます。
ですが、この表現、論文調でない一般の読みものの訳稿でもよくお目にかかります。
*「とある+名詞」
その男は、とある店の前で立ち止まった。
ああ、これも使ってみたくなるんだろうなあ、と思います。
でもたいてい、訳文のなかで「とある」だけが浮いています。
「ある」だけで充分、不定冠詞を訳す必要がない場合も多いのでは?
これらの言葉は、「不要な言葉」と同じく、日本語として間違っているわけではありません。
文脈や文体に合っていて、たまに出てくるならOKです
ですが、繰り返し使っている訳稿があまりに多いのです。
違和感を覚えるのは私だけなのかしら?と心配になるほどです。
そこで、新聞社に勤め文章講座の講師をしている友人にきいてみました。
友人も私と同じ意見でした。
なぜそれぞれの言葉に違和感があるのかの分析もしてくれましたが、長くなってしまうので、ここではそこまではお伝えできません。
翻訳しながら、カッコいい気がしてついつい使ってしまう(と思われる)言葉、ほかにもいろいろあります。
そういう言葉に気づき、読み手にとってストレスのない言葉に置きかえれば、翻訳のクオリティがアップすることはいうまでもありません。
(Y)