ネパール(人口約2861万人)
勝井裕美
①新型コロナウイルス感染状況について、いまはどうなっていますか?
2021年5月22日現在、感染者の累計は505,648名。第二弾のレポートを書いた2020年9月以降徐々に感染者が増え、10月には1日の新規感染者数が5,743名になったが、その後緩やかに減っていき、2021年3月には1日の新規感染者数は100名前後に落ち着いた。
しかし、インドでの感染者急増とそれに伴うロックダウンを避けてインドに出稼ぎに行っていた労働者の多くが帰国した際に、隔離等の感染対策がほぼ取られなかったため、国境付近で感染者が増えていった。
加えて、2020年末から政情が不安定になり、政治集会や支援者による行進が全国各地で行われたり、また3月下旬から文化的行事で多くの人が集まったが、その際に十分な感染対策が取られなかったりした。そのため、首都カトマンズを中心に4月中旬以降、感染者が急増し、5月12日には最多の9,238名の新規感染者を記録した。検査数が足りていないことも影響していると思われるが、陽性率(1日の検査数当たりの陽性者数の割合)は5月以降40%前後を推移しており、実際の感染者数はもっと多いと思われる。
現在、病床は足らず、医療体制はひっ迫している。患者は、酸素不足で入院できなかったり、病院にいてもただ廊下や建物入り口に座って待機せざるを得ない状況にある。
ネパール国内にはウイルスの遺伝子を解析する公的機関がないため十分な検査ができていないが、最近の感染の多くはインドで最初に確認された変異株B.1.617が多いとみられている。昨年の感染時よりも若い人が重症化しており、知人の知人まで広げると亡くなった方の話の数が格段に増えた。
この悲惨な状況に対し、最近ではネパール政府のみならず国連、WHO(世界保健機関)がネパールへの支援を呼びかけた。それに呼応して酸素シリンダーや酸素濃縮器など医療資機材の支援を各国政府が表明している。
②ワクチン接種については、どのように進められ、現在(執筆時点)、どのような状況ですか?
これまでに211万名以上が第1回目接種を受けた。インド政府から無償提供されたアストラゼネカ社のワクチン100万回分を使った接種第1回目が2021年1月から医療関係者対象に始まり、その後、購入分100万回分と合わせて接種対象は高齢者にまで広がった。
また、中国政府が無償提供した80万回分のワクチンの接種が中高年まで対象を広げて行われた。まさに中国とインドのワクチン外交が繰り広げられている。しかし、インドでの感染者急増によって、既に購入予約ずみのアストラゼネカ社のワクチン(製造会社はインドのSerum Institute)の到着は10月以降になる見込みで、第1回目の接種を受けた人が第2回目を受けられない事態になりつつある。
ワクチンは基本的には、居住地域の行政事務所に接種登録をして指定されたコミュニティセンターや病院で接種する。しかし、感染者が急増した4月後半からは病院の前に接種待ちの行列が朝からでき、一時混乱が見られた。
③現在(執筆時点)、国や自治体からの規制や制限、援助がありますか?
中央政府は2021年4月に入り、各郡(日本の都道府県に相当)や市町村に対して、人々の行動を規制する権限を与えた。4月中旬からProhibitory Order(行動規制)というロックダウンを課す郡が増え、5月17日現在77郡中74郡がProhibitory Order中である。例えば、首都カトマンズでは4月29日からProhibitory Orderが始まった。現在、食料品店や生活必需品店以外の営業は禁止、それらの店も朝10時までのみ営業可、車両通行は原則禁止、バス・飛行機の公共交通機関も停止、食料品や薬を買いに行くときだけ朝の10時までだけ外出可となっている。カトマンズへの出入りも交通許可証がないとできない。
国際線も停止中だが、エベレストに登頂していた人など数千人の外国人観光客がネパール国内に取り残されていると言われ、今後、いくつかの国が自国民を帰すために臨時退避便をアレンジすると思われる。
休業補償などはない。労働者の8割を超える日雇い労働者等のインフォーマルセクターの人々は仕事をなくし、食費や家賃支払いにも困っている。朝の買い出し時に出会う物乞いが増えた。
④変異株の広がり、もしくはワクチン接種普及の前後で、日常生活や街の様子など変わったことがあれば教えてください。
カトマンズのProhibitory Orderと同時に私も在宅勤務となった。買い物が朝しかできないので、6時半ごろ起床して、運動不足解消のためストレッチをしてから、買い物がてらに1時間ほど散歩している。そして、毎朝9時のオンライン定例会議に間に合うよう戻るというのが最近の日課となっている。普段であればカトマンズにいて会える距離にいる日本人とオンラインでおしゃべりするのが息抜きである。
ロックダウン生活が始まってまだ1か月だからか、感染者急増を怖がってか、多くの人が行動規制に従っている。一度昼間に外に出てみたことがあるが、通りにはほとんど車も人影もなく静かだった。
⑤近況について、ご自由にお書きください。
昨年に続いて2回目のロックダウン生活なので、どこで何が買えるか、どこで情報が得られるかがわかっており、昨年ほどの生活上の不安はない。ただ、異常に高い陽性率のなか、ひたすら感染しないようにしなくては!と思いながら生活している。
また、ネパールのような社会保障の整っていない発展途上国では、感染症そのものだけではなくロックダウンによる経済的影響が、もともと経済的に厳しい人々に顕著に表れてしまう。NGOとしてできることをやらねばと他のNGOと検討を進めており、できるだけ早く形にしていきたいと思う。
勝井裕美(かつい・ひろみ):特定非営利活動法人シャプラニール=市民による海外協力の会 (https://www.shaplaneer.org/)ネパール事務所長。ネパール・ラリトプール市在住。