コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(6)アメリカ合衆国

アメリカ合衆国(人口約3億人)

N.K.

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

2022年3月27日現在、ジョンズ・ホプキンス大学の報告によるとアメリカ国内のコロナウイルス感染者総数は7,994万9,000人、死亡者数は97万6,000人を超えた。また、新型コロナワクチンに関しては、全人口の77.5%が少なくとも1回目の接種、66.0%が2回目の接種、29.5%が3回目の接種を完了している。

昨年2021年11月下旬にアメリカ国内で初めて感染力の強いオミクロン変異株が見つかり、12月中旬には感染者が急増して今年の1月上旬にはピークを迎え、1日の新規感染者が100万人を超えることもあった。しかし、2月に入るとアメリカ国内の感染状況は急激に減少し、3月現在の1日あたりの新規感染者数の平均は約3万人、ピーク時の3%になった。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

アメリカではこれまで各自治体や企業などで独自のコロナ対応をしてきた。私の勤務する大学では2020年3月中旬に学期途中で急遽オンライン授業へと移行し、同年8月末に新年度を迎えて対面式とリモート式の両方を取り入れたハイブリット式授業となった。しかし、実際のところ対面式授業の実施は特殊な場合に限られ、私の担当する授業も翌年2021年の夏学期までは完全オンラインで実施された。

2021年8月末から新年度が始まると全面的に対面式授業が再開され、私も約1年半ぶりに教室での対面授業に戻った。ただし、大学の建物への立ち入りは大学関係者のみに限られ、マスク着用は必須、そして校内のいたるところに消毒噴霧器が設置されていた。各教室には飛沫感染対策として除菌シート、そして教卓にはアクリルパーテーションが設置され、授業の開始前には教卓やプロジェクターなどの機器を除菌するのが常となった。

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

8月末に対面授業が再開された当初、大学側はワクチン接種を任意としていたが、学生や教職員はワクチン接種証明書の提示を求められ、ワクチン未接種者には定期的にPCR検査を受けて陰性証明書を提出するなどの義務が課された。規定に従わない者は大学の建物に入ることができず、なかには一定期間授業に出席できなくなった学生もいた。結果的にワクチン接種が進み、ほとんどの学生や教職員が2回のワクチン接種を完了した。そして12月に入ると、大学は学生を含む大学関係者全員に対してワクチン接種の義務化を決定した。

感染者は今年1月にピークを迎えたあと、2月になると急速に減少し、屋内でのマスク着用義務などの規制緩和も進んだ。私の住む地域でも、3月上旬にはほとんどのK-12(幼稚園年長から高校まで)の学校現場でもマスク着用義務が撤廃された。また、多くの大学でもマスク着用義務が解除されはじめ、私の勤務する大学でも3月下旬にはマスク着用が任意となった。

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

私が住む地域の公共交通機関においては、運転手も乗客もワクチン接種の有無に関わらずマスク着用義務が継続されている。そんななか、3月中旬になって公共のバス会社従業員へのワクチン接種義務化が決定した。だが、運転手を含む従業員約20%が期限までにワクチン接種を済ませられずに、勤務できなくなったため、日々のバス運行スケジュールにも影響が出た。多くの従業員たちはワクチン接種を済ませて徐々に職場復帰したが、ワクチンを接種せずに早期退職を選んだ人たちもいるそうだ。その間バス会社は、乗客の理解を得るために2週間ほどバス運賃を無料にして運行を続けた。

コロナ感染者数の減少に伴い、日常生活における制限の緩和が進んでいるが、最近アメリカ国内で話題になっているのはインフレーションの加速だ。インフレを引き起こしている原因はいくつかあるが、やはりコロナ禍における人手不足、生産の停止、そしてサプライチェーン(*)の混乱が大きな要因となっているようだ。コロナ禍で一時14.7%まで上昇した失業率は現在3.8%までに落ち着いたが、コロナ対策の一環であった手厚い失業手当給付に加えて、働き方や価値観を見直す人が増えた結果、Great Resignation(グレート・レジグネーション)「大退職時代」の到来とまで言われた。

コロナ禍前の日常を取り戻しつつあるアメリカでは、経済活動が再開しはじめたことにより需要が拡大して物価の高騰を引き起こしている。今年1月に発表された消費者物価指数は前年比7.5%の上昇となり、家計を圧迫している。ある統計によると、平均的家庭での1か月の生活費が275ドル(約3万3,000円)ほど上昇しているという。とくに、すでに高騰していたガソリン価格のさらなる上昇が著しく、3月に入ってからはウクライナ情勢の緊迫化により拍車がかかり、車社会と言われるアメリカの日常生活に今後も大きな影響を与えることになりそうだ。

日常を取り戻しつつあるアメリカだが、コロナ禍で変わってしまった人々の価値観や生活が完全に元に戻ることはないだろう。マスクをせずに人々が集う様子を見ると、コロナが収束したかのような錯覚に陥るが、まだ新型コロナウイルスがなくなったわけではない。また、最近ヨーロッパ諸国で急増しているオミクロン株BA.2系統の感染の波が今後アメリカにもやってくるかもしれない。それでも、コロナと共存しようとする新しい日常はすでに始まっているようだ。

*商品や製品が生産され消費者の手元に届くまでの、調達、製造、在庫管理、配送、販売、消費といった一連の流れのこと。

私の勤務する大学の各教室には除菌シートが設置されている

N.K.:大学講師、アメリカ東部在住