コロナ終息に向けて:各国レポート最終回(1)デンマーク

デンマーク(人口約580万人)

針貝有佳

2023年の1月から3月にかけて、私は3年ぶりにデンマークから一時帰国しました。日本人はいまだにマスク着用率が高いと噂には聞いていましたが、まさか、こんなに高いとは……。本当にびっくりしました。カフェやレストランで、テーブルの間に仕切りがあるのも驚きました。

欧州のなかでも真っ先に新型コロナの規制全撤廃に踏み切った北欧デンマークでは、2022年2月1日以降は再び規制が導入されることもなく、新型コロナウイルスの存在はすっかり忘れ去られています。デンマークの人びとはコロナ前と同じ暮らしを送っていて、私も日常生活でコロナを意識することはありません。

大半のデンマーク人は、きっとこう言うでしょう。「コロナ? ああ、そんなこともあったね」。きっと、デンマーク人がマスク姿の日本人を見たら、過去にタイムスリップしたような気分になるのではないでしょうか。

デンマークの街を歩いても、マスクをしている人は見かけません。ソーシャルディスタンスも誰も気にしていない様子ですし、学校もお店も通常モードです。世界各地から人が集まって密になるような大規模イベントも盛り上がっています。いま、新型コロナの騒動を振り返ると、あれはいったい何だったのだろう、と思うくらい遠い記憶の彼方です。

コロナ後に変わった人びとの行動といえば、リモートワークやオンラインミーティングが以前よりも頻繁に行われるようになったことでしょうか。もともとリモートワークも導入していたデンマークですが、コロナ後は仕事内容に合わせて積極的に取り入れるようになりました。通勤時間が省ける、集中力が求められる仕事は家でした方が効率的といったメリットを考慮して、社員がフレキシブルにリモートワークを選べるようになった職場も多いです。また、効率化のために、同じ社内にいながらオンラインミーティングをすることも増えました。こういった柔軟な働き方は、仕事の効率化のために今後も継続していくでしょう。

現在のコペンハーゲンの様子

さて、コロナ後、私のデンマーク暮らしにもちょっとした変化がありました。今はコロナ前とまったく変わらない暮らしをしているものの、気持ち的には大きな変化があったのです。そして、それはポジティブな変化でした。13年間暮らしているデンマークですが、デンマークという国がさらに面白く魅力的に見えるようになったのです。マスク着用義務が撤廃されたその日から一斉にマスクを外す国民、コロナ禍であってもやりたいことを諦めない国民、どんな状況でも楽観的により良い未来を信じて前進し続ける国民。

新型コロナ騒動を通じて、私はデンマークの人びとから元気をもらい、たくさんのことを学んだ気がします。バイキング時代から受け継がれているデンマーク人のサバイバル能力は、今も健在です。この数年間、デンマーク人のスピリットに触れて、私自身も少しパワーアップしたような、そんな気さえします。

どんなときでも、大丈夫、なんとかなる。私自身がそう思えるようになったのは、コロナの危機を乗り越えるデンマーク人の姿を間近で見てきたからかもしれません。


針貝有佳(はりかい・ゆか):デンマーク語の翻訳者、ライター。デンマーク・ロスキレ在住。ホームページ https://www.yukaharikai.com