トルコ(人口約8200万人)
西岡いずみ
大接戦の大統領選挙2回戦が行われているトルコからお送りします(執筆時は5月28日日曜日)。
今年トルコは共和国成立100周年を迎え、初の国内メーカー(TOGG社)製自動車「T10X」の開発、国産軍用ドローン「バイラクタルTB2」の活躍、自国領内での天然ガスの採掘などに沸いています。その一方で2月6日、南東部カフラマンマラシュで2つの大地震が発生し、その復興事業のために莫大な費用がかかり、国の将来に影響を与えている状況でもあります。
そんななか、コロナはほぼ話題にならなくなってきています。トルコ保健省によると、今年3月のCOVID-19感染者数は3万1,054人で死者数は85人、累計感染者数は1723万2,066人、累計死者数は10万2,174人だそうです。
街中には人が戻り、観光地には外国人観光客があふれています。コロナ最盛期には至るところにあった消毒用剤も姿を消し、スーパーなどで山積みになって売られていたマスクの値段も半分ほどに下がり、店の中を探さなければ見つけられなくなりました。
一方、コロナが残したものもいろいろあります。世界中で見られることだと思いますが、インターネットショッピングや外食デリバリーの増加です。これは、以前はトルコでは少なかった原動機付自転車の普及を促しました。
人々の公共交通機関離れもあってか、自動車販売台数の増加(2023年4月の自動車販売台数は昨年比55.7%増で25万2,819台、小型商用車販売台数は昨年比62.7%増で8万831台だそうです)や、レンタルスクーターの増加なども見られます。
洗剤や消毒液の種類も増えました。もともとトルコ国民は非常にきれい好きで、コロンヤと呼ばれるコロン(オスマン朝時代から使用される、アルコール度数80%ほどの手指消毒液)や、塩素系漂白剤の使用量はかなりのものです。家の隅々を塩素系漂白剤でピカピカに磨き、家族や客の手はコロンヤで清め、それらの匂いに酔いしれるという感じです。新型コロナウイルスの出現以降、さらに多種多様な清掃用剤、清潔用剤が現れ、好調な売れ行きを見せたようで、今でもスーパーや商店にはそれらの商品がたくさん並んでいます。
特筆すべきはマスク着用習慣の定着です。もちろん最近では、街中でマスクを着けている人をほとんど見ませんが、公共交通機関では10人に1人くらい、病院などでは10人に3人くらいはいまだにマスクをしています。コロナ前は、マスクをして町の中を歩くと奇異な目で見られたことを考えると、驚くべきことです。今では、だれでも自由にマスクを着用し、いぶかしい目で見られることもなくなったのです!
ところで、コロナが残したもののなかで、私が最も憂えているのは、若い人たちの状況です。その1つは、世界中でも問題となっているコロナ後遺症です。私の娘の友人(ティーンエイジャー)は2年ほど前にコロナにかかった後、味覚及び嗅覚が変化し、いまなお以前の味覚を取り戻せていません。新鮮なキュウリやスイカからは腐ったスイカの臭い、ニンニクと玉ねぎからは汗の悪臭、揚げ物からはガソリンの臭いがするそうです。身近な事例は彼女だけですが、もっと重篤な症状のある子供がたくさん存在するだろうと想像しています。
若い人たちには、教育の遅滞という大きな問題ものしかかっています。コロナ蔓延防止措置期間中、各教育機関でリモート授業が行われましたが、十分な教育効果を上げることができず、そのツケが現在非常に大きな問題となっています。
また、家に引きこもっていた時期が長かったため、どこの国でもそうでしょうが、若い人たちの運動習慣がなくなり、デジタル依存も深刻化しました。大人以上に子供やティーンエイジャーの心身が危険な状態にあると、私は考えています。我が家にもその一例が存在するからです。
世界保健機関(WHO)は、5月5日についに新型コロナ「緊急事態宣言」終了を発表しましたが、二度とこのような病気が蔓延しないことを切に願います。これはおそらくむなしい願いだと思いますが、コロナのような世界規模の伝染病によって、特に子供や若い人たちが大きな影響を受けることを知った私たちは、この経験をもとにこれからの世界を構築していかなければならないと考えています。
さて、最後に我がイスタンブルの「のら猫天国」の様子をお伝えします。コロナが動物たちにも感染するかもしれないという不安をよそに、私の友達ネコはみな無事でした。以前の生活に戻り、何よりうれしいことの1つは、再び彼らと触れ合うことができるようになったことです。
西岡いずみ(にしおか・いずみ):主婦、ときどき翻訳者。トルコ・イスタンブル在住