コロナ終息に向けて:各国レポート最終回(10)中国

 

中国(人口約14億人)

高希

今年5月5日、世界保健機構(WHO)はようやく新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言の終了を発表しました。とはいえ、多くの中国人は新型コロナによる緊急事態は2023年2月にすでに終わったと感じているでしょう。なぜかというと、中国の防疫措置は去年の12月に一気に大緩和され、そのあとの2ヶ月間で中国の人口の約80%が新型コロナウイルスに感染したからです。

2022年12月まで、中国は世界で一番厳しい防疫措置を実施していたと言えるでしょう。「ゼロコロナ」という政策によって、人々の日常生活や移動は厳しくコントロールされていました。例えば、マンションや団地の中で感染者が一人見つかると、そこに住む全員に行動制限が課せられ、週に3回PCR検査を受けることで他の感染者を全員洗い出すという措置がとられました。クラスターが発生すると、感染者数によっては区や市のロックダウンも実施されていました。

このような厳しい措置が実施された結果、ロックダウンによる食料不足、医療逼迫、企業活動の停止などの問題が相次ぎました。人々はそうした状況に耐えられなくなり、町中やネット上で「ゼロコロナ政策」に対する反発も強まっていきました。これを受けて、12月7日には「ゼロコロナ政策」は大幅に緩和されました。予告なしの急な政策大転換だったため、薬局の咳止めや解熱剤はすぐに売り切れ、感染者の多くは助け合いながら薬をシェアして感染期を乗り越えました。医療機関にも感染者が殺到して、病床がなく医者や看護師が足りないといった深刻な問題も発生しました。私自身も感染しましたが、幸いなことに解熱剤を事前に用意していたので何とか耐えられました。総人口の80%が12月から感染したため、中国人にとって、国内の新型コロナウイルス感染はその時期に爆発的に広がってから終焉を迎えたというイメージが強いです。

ゴールデンウィークに賑やかな観光地。1人当たりの消費額はコロナ前より20%下がったという

現在(2023年5月)、私の周りには2度感染した人もいて、ニュースによると全国でもまた感染者数が増えているようです。しかし、周りの感染者のなかには高熱が出る人は少なく、症状はだるさと咳だけなので、みんなあまり注意を払っていないようです。PCR検査で陽性であっても隔離は必要とされていないため、ほとんどの人はリモートワークもせずに、風邪薬などを飲むだけで会社に通ったりして、普通に生活しています。

コロナ後の日常生活での変化といえば、町中でマスクを着用する人が以前よりはるかに多くなりました。私自身は、咳が出るときや周りに咳をする人がいるときにはマスクをしようという意識が定着しました。そのほか、コロナ前は自由に出入りできた大学が、いまでは学生カードや教員カードなしでは入れなくなりました。日常生活にはあまり支障をきたしませんが、学問の自由を追求する大学に自由に入れないというのは、なんとなく違和感があります。

一番大きな変化はやはりコロナ後の景気回復の鈍化です。中国ではリストラのニュースがネット上で相次ぎ、若年層の失業率は今年の4月には20%を突破し、過去最悪を更新しました。そのため、人々は経済低迷が長引くと予想し、借金や消費を控えているそうです。同時に、中国は日本と同じように少子高齢化がますます深刻化し、新生児も年々少なくなって、なんとなく日本の「失われた30年」の前夜に似た雰囲気が漂っているようです。

40年間の高度成長期を経てきた中国人は、経済が減速している時代をいかに生き抜くのかについては未経験です。パンデミックで生まれた焦りや未来への不安は、コロナの終息によってなくなったというより、一層深まった気がします。日常生活は以前に戻ったにしても、心のなかで日常と安定を取り戻すには、まだまだ先が長いと思います。


高希(こう・き):中日・中英翻訳者。中国南西部の四川省成都市在住