コロナ終息に向けて:各国レポート最終回(17)ネパール

ネパール(人口約2919万人)

山口七奈

ネパール政府が現在までに公表しているコロナ感染者数は、累計約100万人、死者数約1万2,000人とされている。この数は、報告可能な地域に限られているので、実際はもっと多くの感染者がいたと思われる。2022年3月5日には、カトマンズ盆地内の行動規制が撤廃され、第四弾のレポート(2022年4月)後の1年間の感染者は、毎月3桁以下を推移し、8月頃に一度5,000人台となったが、10月頃にはまた3桁以下に戻り、行動制限解除以前のネパールの状況と比べると感染者数はとても緩やかに推移していた。

現在では、各新聞のコロナ特設ページは消え、街中でのワクチン接種証明書の提示義務はなくなり、飲食店からアルコール消毒液がなくなった(残っているのは、一部の高級なレストランくらい)。一部のIT企業やNGO等では、在宅ワークが業務形態の選択肢として増えたケースはあるものの、大半の一般企業では会社に通勤することが一般的になり、オンラインではなく対面会議がほとんどになっている。また、腕ではなく手のひらでしっかりと握手し、マスクを着用する住民を見る機会も少なくなってきた。

2022年5月の観光地(バクタプル)の様子

街中では、体温検査よりも、飲酒運転の取り締まりの方が多くなった。伝統的な祭りや結婚式では、どんなに混雑していても、伝統やおしゃれが優先され、ほとんどの人がマスクを着用していない。行動規制期間中のようなピリついた空気はなくなり、ほぼコロナ前の状況に戻った印象である。しかし、住民のなかには、コロナによってマスクが習慣化した人々や、コロナ前から大気汚染対策としてマスクを日常的に着用していた人々もおり、意識的に移動時や混雑した場所などでマスクの着用を続けている。また、病院に限っては、医療従事者だけでなく受診する人も、コロナ前よりもマスク着用する人が多くなっている印象を受ける。

ソーシャルディスタンスに関しては、規制時以外は、コロナ前の距離感とあまり変わらないように感じている。もともと公共交通機関の中やスーパーのレジ待ちなどでも、ディスタンスゼロで、他人に触れてしまうような距離感になる状況が多いこの国では、距離を保つ習慣は身につかなかったのだろう。また、室内の家具の配置、乗り物や歩道等の規格が日本より大変狭く、他人と距離を保つことが物理的に難しいことも、習慣にならない大きな理由であると思う。

私は日本に帰国するために、2022年5月に3回目のワクチンを現地で接種することにした。日本政府が当時、入国時に認めていたワクチンを接種する必要があったのだが、どの施設で、どのワクチンが接種できるか、当日にならないと情報が入らなかったため、3件ほどの施設を巡った。しかし、最終的にたどり着いた施設では、待ち時間がなく段取り良く接種することができた(ネパールで「段取りが良い」ことは大変珍しい)。この頃までには、接種を希望するネパール人のほとんどがワクチンを接種していたため、外国人も含め、誰でも待ち時間なく接種できる状況だった。

ネパールで入手できる抗原検査キット(日本円で約500円)

2022年の8月から9月にかけては、ネパール全土の人々がデング熱に苦しめられ、2万8,000件以上の感染例が確認された。通常、デング熱はネパールの南のタライという熱帯地域で感染することが多かったのだが、気候変動の影響もあり、2022年のデング熱は主に中央部のカトマンズ盆地で感染が拡大した。デング熱に感染した人は、ベッドから動くこともままならないほどの関節痛や熱などにうなされ、長いときには1か月以上にもわたって症状に苦しめられる。この時期はよく「デング熱に比べると、コロナの方が症状は全然楽だ。絶対にデング熱には感染したくない」とよく耳にし、コロナよりもデング熱の方が恐れられていた。私の周りには、今までに数回コロナに感染した人も多く、コロナ感染に慣れたためか、デング熱ほどの危機感はコロナにはもうなくなっていた。コロナになっても、病院に行かず自宅で隔離するだけという状態に感染者もその家族も慣れていた。感染後、嗅覚や味覚の違和感を訴えていた人々はいたが、長期的なコロナの後遺症等はニュース等で大きく取り沙汰されることはなかった。

2020年以降、コロナで職を失って地元に帰ってきていた人々が、地方で農業などの家業に従事するケースが増えていた。しかし、2022年以降は国内外で行動規制が緩和されたことによって、より多くの収入を得る機会を求め、再び出稼ぎのために首都や海外に移住している。コロナ前(2019年)のネパールへの海外送金対GDP比率は約26%であり、ネパール国内の雇用促進、経済活動の繁栄はネパール政府の大きな課題の1つであるが、コロナという大きな出来事をもってしても、地方からの住民の流出は止めることはできなかった。

ネパールにかかわる者として、今後もネパールの発展に貢献し、雇用機会の地域差を減らし、ネパールの人々が地方で家族と幸せな生活が送れるようなサポートをしていきたいと考えている。


山口七奈(やまぐち・なな):特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン ネパール事務所長(https://peace-winds.org/activity/area/nepal)。建築家。ネパール・バクタプル市在住