オランダ(人口約1747万人)
國森由美子
今回の原稿を書くにあたり確かめたところ、前回のレポートは、昨年2022年4月時点での状況についてでした。その後、筆者の住むオランダでは同年9月中旬に入国制限が撤廃され、外国からオランダに入国する際のチェックが不要になりました。そうはいっても、当時はまだまだ数種類のオミクロン株の変異種が流行っていました。
個人的な話になりますが、そんな中で11月中旬、筆者もとうとう感染しました。いくらか気の緩みがあったことも事実です。ひさしぶりに公共交通機関を利用し1日中外出していた日から数日後に発熱、簡易テスターで陽性判明、1週間ほど寝込みました。嗅覚異常があり、熱が下がるとひどい喉の痛みに襲われました。咳や呼吸困難はなく、幸い目立った後遺症もありませんでしたが、2冊の訳書のゲラ校正作業と重なってしまい、なかなか大変な思いをしました。
今年2023年2月末には、コロナ関連の義務・規制をすべて撤廃するという政府の発表があり、これは3月10日から実施されました。コロナ感染症自体が消滅したわけではないものの、感染しても重篤な症状になる例はわずかであるというのが主な理由です。もちろん、持病など健康上のリスクのある方に配慮して行動する、体調不良の場合には市販の簡易テスターを使って陽性だと判明したらきちんと静養する、屋内の換気を十分行うなどは、基本的に推奨されています。それから約3か月経った6月初旬現在では、パンデミック前とほぼ変わらない生活にもどったかのように見えます。
政府の公表しているコロナ関連の統計を見ると、下水中のウイルス量の数値はかなり減っており、実効再生産数(「1人の感染者が平均して何人に感染させるか」を表す指標)は、0.7台となっています。ただ、過去のロックダウンの経験をふまえ、リモートワーク、さらにはZoomを併用してのイベントや会議などが行われることが以前よりも増えたのではないかと思います。Zoomは便利なツールではあるので、必要に応じて今後も活用されるのではないでしょうか? オランダでは友人や親戚どうしであいさつをする際に、左右の頬に軽くキスをし合う習慣があるのですが、個人的には、なんとなく今後は遠慮しようかなと思っています。
私事ですが、2020年から今年2023年にかけて筆者が翻訳を手がけたオランダ文芸書は3冊ありました。3冊とも無事に刊行され、いまは少しゆっくりしながら次の翻訳の準備を始めているところです。今年のオランダは、4月の気温が例年より低く、なかなか春らしくなりませんでした。そのせいもあったのか、心身不調でした。疲れもたまっていたのかもしれません。もしかしたら、これもコロナの後遺症なのかと心配になるほどでしたが、日がどんどん延びて明るい季節となり(6月3日現在の日没は21時55分)、体調も急速に回復し、ほっとしています。
先日は、パンデミックが始まって以来はじめて、アムステルダムのコンセルトヘボウへコンサートを聴きに行きました。わたしも時折館内ガイドの仕事をしているライデンのシーボルトハウス博物館主催の〈Japanmarkt(ヤパンマルクト)〉も、2019年5月以来4年ぶりに行われました。今回は飲食禁止でしたが、日本のクラフトやキャラクターグッズ、中古着物など、たくさんのテントのお店が並び、天候にも恵まれて大盛況でした。
今年が没後100年のオランダの文豪ルイ・クペールスの最新の評伝刊行記念プレゼンテーションもありました。わたしの訳書のうち1冊は、このクペールス著『慈悲の糸』(作品社刊)で、この記念の年に合わせて刊行されたものです。評伝の著者カロリーネ・デ=ヴェステンホルツさんにもお祝いに1冊謹呈し、大変喜んでいただきました。彼女もこの2年というもの、ずっと執筆していたことを知っているので、晴れて大々的な刊行記念パーティーが催されてほんとうによかったと思います。会場はハーグの由緒ある会員制社交クラブでした。
まだなにかと心配は尽きませんが、なんとかこのままCOVID-19が収束し、社会も落ち着いていきますように、あれこれ気を遣いながらでも、徐々に「ふつうの暮らし」といえる日々になっていきますようにと願わずにいられません。
筆者は3年ほど日本に帰国しておらず、日本の入国制限がようやく撤廃されたので、そろそろ日本の家族(筆者にも筆者の夫にもそれぞれ老齢の母がおります)や親類に会いに行きたいと思っています。
國森由美子(くにもり・ゆみこ):オランダ語文芸翻訳者、音楽家。オランダ・ライデン在住