コロナ終息に向けて:各国レポート最終回(19)バングラデシュ

 

バングラデシュ(人口1億6935万人)

大橋正明

バングラデシュでは、数か月前からコロナ予防のためにマスクをしている人はほとんど見かけず、一見すると以前の日常生活にすっかり戻ったように感じる。

それでも注意深く見ると、コロナ前には盛んだった夕方や週末・休日の親族や友人の家への訪問が減ったままだったり、都市部ではオンラインで買い物をする人が増えたり、自宅で働く人が増えたり、特にそのせいで経済活動に参加する女性が増えていることなどに気がつく。しかし全体的にコロナで多くの就業機会が失われ失業者が増加したこと、そしてコロナ感染による医療費が高いために、貧富の格差が全体に拡大し、かつ貧困層が増えたことも指摘されている。

少数派のヒンドゥー教徒の秋のお祭り、ドゥルガプージャの様子

本稿では、特に子どもたちに生じた深刻な負の影響を挙げておこう。

子どもたちが通う学校は、コロナ感染を防ぐために1年半余りという長期間にわたって閉鎖されていた。富裕層が通う私立学校の大半は、その期間にオンラインでの授業配信を行い、児童・生徒たちは自宅でデバイスを使って学習を続けた。しかし予算や設備が貧弱でかつ貧しい家庭の子どもが多い公立の小学校では授業の配信ができず、仮に配信できても大半の子どもたちはそれを受けるためのデバイスを購入できなかったので、子どもたちの多くは長期間、学ぶ機会を失った。

そのため農村部では、この間も閉校せずに教育を続けた近所の「コウミマドラサ」に親が子どもを転校させた例が目立った。これは、公的な初等教育課程に従わずにアラビア語やコーランを中心に教える宗教学校である。平日の昼間に子どもが自宅やその周辺にいるよりよい、と親は考えたのだろう。しかしこのマドラサは公的支援を受けない代わりに情報公開もしないので、どれくらいの子どもがここに転校し、かつそこで就学を続けているのか、それともドロップアウトしたのか、まったく不明だ。また、転校もせずに小学校からドロップアウトした子どももいる。

コックスバザール県にあるロヒンギャ難民キャンプの様子

ちなみにバングラデシュでは、コロナ前は小学校でもすべての学年の児童は年次試験に合格しないと次学年に進級できなかった。しかし政府はコロナの最中この試験を取りやめ、日本のように自動で進級できるようにした。このことは必ずしも悪い面ばかりではないものの、バングラデシュの場合、そのために学校再開後の新学年の学習内容についていけない子どもが増加しており、その結果ドロップアウトが増えているのかもしれない。

繰り返すと、今日の児童たちの教育には大きな遅れが生じているだけでなく、学校からドロップアウトした子どもたちが、就業させられたり、児童婚を強いられたりしている。児童婚は、貧しい家庭の口減らしのためでもあり、隣国インドでもコロナの最中にこの増加が広く指摘された。こうした問題の詳細に関して、公式な統計が明らかにされていないことも、対応の遅れや不足を招くことになる。

このままでは、大事な基礎教育の一部を欠いた世代が社会に出ていくことになりかねない。

ダッカ市内の元はビハール難民キャンプだった地区の商店街の様子


大橋正明(おおはし・まさあき):聖心女子大学グローバル共生研究所招請研究員、恵泉女学園大学名誉教授、SDGs市民社会ネットワーク共同代表、シャプラニール=市民による海外協力の会シニア・アドバイザー、日本バングラデシュ協会副会長