コロナ終息に向けて:各国レポート最終回(8)フランス

 

フランス(人口約6706万人)

野村真依子

フランスでは、2023年2月をもってコロナ関連の規制はほぼなくなりました。感染者の隔離、濃厚接触者の検査、マスク着用などの義務も、もうありません。最後まで残っていた医療従事者のワクチン接種義務も、つい最近、5月に入って解除されたので、ワクチン接種を拒否して停職になった医療従事者が仕事に戻れるようになりました。それまで多くの場合は無料だったPCR検査と抗原検査も一部自己負担に変わり、感染した場合に初日から休業補償が支給されていた特別措置も終了。薬局前の検査用テントも畳まれ、お店や窓口に設置されていたプレキシガラスの衝立も、気づくと姿を消していました。昨年からすでに、実生活でコロナの影響を感じることはほとんどなくなっていて、強いて言えば医療機関でのマスク着用義務ぐらいでしたが、今回の規制解除をもって正式にコロナは過去のことになったと言えそうです。

もっとも、マスク着用義務はなくなりましたが、「マスク着用推奨」の表示は残っています。そのせいなのか、それともコロナ禍で単に癖になってしまったのか(?)、いまだにほんのわずかながら、マスクを着用している人を見かけます。混雑したメトロの1車両にひとりふたり、道行く人のなかにちらほら……という程度ですが、まれに「風邪をひいているので」とマスクをする人もいます。スーパーの「マスク&消毒グッズ」コーナーもまだ健在です。そもそもコロナ以前は、(風邪や花粉症であっても)医療従事者を除いてマスクを着用するという発想自体がなかったフランスで、この変化は注目に値すると思います。

薬局入口の「マスク着用推奨」の張り紙(2023年5月)

リモートワークについてはきちんとしたデータが見つからなかったのですが、大都市を中心に、(週に少なくとも数日は)在宅で仕事をする人が以前よりも増え、選択肢のひとつとして定着したと言われています。複数のアンケート調査でもリモートワークに対する肯定的な意見が多く、労働効率が低下するどころか高まるという声も上がっています。最近では、交通機関のストライキが予定されている日には、「できれば自宅で仕事をしてください!」という呼びかけが聞かれるようになりました。

医療機関のオンライン予約サイト「Doctolib」でも、コロナとともに登場した「対面での診療」か「ビデオ通話を使ったオンライン診療」かを選ぶ欄がそのまま定着しました。オンライン診療で事足りるケースは限られるかもしれませんが、移動の手間やただ順番を待つだけの時間が節約できるのは助かります。

その一方で、おしゃべりをするときの距離の近さとしゃべる勢い(唾が飛んでいます!)や、あいさつ代わりにキスやハグをするといった習慣はまったく廃れることなく、ソーシャルディスタンスが叫ばれなくなってからはすっかり元どおりです。このような習慣は、日本に比べて欧州で感染が急拡大した原因のひとつだったと思いますが、ちょっとやそっとでは変わらないようです。

晴天のパリ(2023年5月)

コロナ禍は、思い出としてはまだ色あせていませんが、日常の話題はもっぱらロシアのウクライナ侵攻や物価の高騰といった世界共通のトピックのほか、年金改革をめぐるストライキやデモ、例年以上に早い山火事の発生や水不足注意報といった国内の諸問題に移り変わっています。工事だらけで通行止めや不通が頻発しているメトロや道路を見ては、来夏のパリ・オリンピックに間に合うの?と心配になり、夏休みをどう過ごすかという話題が盛り上がれば、物価高にもかかわらずフランス人のバカンスにかけるエネルギーは衰えないなと感じ入る日々。夏休みは長い(長すぎる)ので我が家も出かけますが、とりあえず今年は持ち物リストにマスクを入れなくてもよさそうです。


野村真依子(のむら・まいこ):英語・フランス語翻訳者。フランス在住