コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(20)チェコ共和国

チェコ共和国(人口約1065万人)

岡戸久美子

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

2022年4月現在、1日当たりの新規陽性者数は約4,000人~7,000人と変動はあるものの、減少傾向にあります。PCR等検査実施数は2022年年初の20%程度に減少しており、無症状や感染していても症状が軽いなどで検査を受けていない人がかなりいるともみられていますが、過去最多となった2月初旬の57,000人超に比べればかなり落ち着いたといえます。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

昨年11月末にオミクロン株が確認され、またたく間に感染が広がったため、みんなが楽しみにしていたクリスマスマーケットが急遽中止されるなど、冬の間は規制強化やワクチンのブースター接種の推奨などコロナ対策関連のニュースが続きました。しかしそれも、今年2月をピークに感染者が減少し、落ち着きを見せたことから、3月より徐々に規制緩和が進み、商業施設や飲食店、劇場などに入る際に義務づけられていた陰性証明のチェックも不要となりました。これにより、検査を受ける人が激減したものと思われます。4月9日には、あらゆる国からのチェコへの入国時規制が解除、長く残っていた公共交通機関でのレスピレータ(FFP2マスク)着用義務も4月14日よりとうとう解除されました。医療機関等でのレスピレータ着用義務など多少の規制は残っていますが、普段の生活に大きく関わる部分の規制がほぼすべて解除となったため、周囲では「コロナ規制は完全に終了」といったムードが広がっています。

住宅街にやってきた移動遊園地
マスクやソーシャルディスタンスを気にする人はもういません

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

オミクロン株による感染拡大時にブースター接種が強く推奨されたため、3回目(ワクチンの種類によっては2回目)を受ける人が一時期増えました。その一方で、ワクチンを接種しても感染する、すでに感染したことがあっても再感染するということから、副反応のあるワクチンをまた接種するのは気が進まないという声も多く耳にしました。また、コロナに関する規制強化やワクチンに反対する人もわりと身近に何人もいました。

首都プラハと地方の街を行ったり来たりという生活をしていた私の個人的な印象ですが、どちらかというとプラハに住む友人・知人は規制を受け入れ、ワクチン接種に対しても積極的な人が多く、地方の小さな街に住む人びとに規制反対派が多かった気がします。

非感染証明の提示義務が解除されたいまとなっては、ワクチンの話題を耳にすることはほぼなくなりました。感染から身を守るというよりは、ワクチンパスによる非感染証明のために接種していた人が多かったのではないかと思われます。

公園でリラックスする人びと①

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

この春より、他の欧州諸国と同様チェコでもほとんどの規制が解除となり、ほぼ終息ともいえる状況になっています。しかし、現在人びとの心は、感染が収まってきた時期と前後して起きたロシアによるウクライナ侵攻が気がかりでコロナどころではない、というのが実際のところです。もともとウクライナからの移民も多く、さらに歴史的な経験からも他人事とは思えないチェコでは、隣国であるポーランドやスロバキアとともにいち早くウクライナへの支援を表明し、動いています。一難去ってまた一難、といった悲嘆の声も多く、元の生活に戻る見通しはなかなか立てられそうにありません。とにかく平和で穏やかな日常が一日も早くすべての人に訪れることを願って、日々自分にできることを考え、暮らしていかなければと思っています。

公園でリラックスする人びと②
こういったささやかな日常の大切さを感じます

岡戸久美子(おかど・くみこ):英日翻訳者。チェコ共和国北西部在住


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(19)スロヴェニア

スロヴェニア(人口約208万人)

木村高子

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

前回のレポート(2021年6月)の後、秋になるとスロヴェニアでの感染者が再び急増し、12月には少し落ち着いたものの、今年の1月末から2月上旬にかけてピーク(1日あたりの新規感染者数2万人近く)に達しました。その後感染者数は減少しましたが、3月に入ってからは1日あたりの新規感染者数が2,000〜3,000人あたりで推移しており、これ以上の劇的な減少はまだ望めないようです。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

2021年秋以降、日常生活においてもPCT条件(回復証明(P)、ワクチン接種証明(C)、陰性証明(T)のいずれかの所持)を満たさないことには、日常生活に支障が出るようになりました。私もワクチン接種証明書を保存した携帯電話、身分証明書、それにマスクが外出時には不可欠になりました。こうした規則が施行された当初はまだ運用が甘く、ろくにチェックもせずに入店を許すケースも少なくありませんでした。しかし、感染数を抑えられなかったことから、その後は厳しくなり、入口に常駐する人にいずれかの証明書と身分証明書を提示せずには入店できなくなりました。また飲食店の営業制限や集会の開催制限も続けられました。

学校では、生徒達は抗原セルフ検査を週2、3回行うことが義務づけられました。求められる検査の頻度を含め、規則も頻繁に変わっていたので、生徒も教師も大変だったと思います。一部の学校では、教師が政府の方針に従わず、検査をしなかった児童も教室に迎え入れていたために、一時その学校が閉鎖されたというニュースもありました。その後2月21日以降、PCT条件の確認義務が撤廃され、同時に児童・生徒の検査も廃止されました。さらに店や接客業、集会の人数制限や営業時間の制限などもなくなりました。

4月14日より、屋内でのマスク着用義務も撤廃されました。これでコロナ関連のほぼ全ての規制が撤廃されたことになります。さまざまな規制緩和は、私としては時期尚早だと思うので、まだしばらくは屋内でのマスク着用を続けようと思っています(ただし、逆にマスクをしている人に対して難癖をつける人がたまにいるという話もききます)。

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

スロヴェニア人のワクチン接種率は決して高いとはいえず、2回目の接種を済ませたのは人口の約60パーセントにとどまっています。それでも3回目の追加接種が昨年末から、高齢者や基礎疾患を持つ人を優先して開始されました(現在3回目接種済みの人は人口の約30パーセントです)。希望者は市当局などがホームページで公表している場所・日時に行くだけで、予約なしに接種を受けることができます。オミクロン株の世界的な広がりを受けて、12月中旬には追加接種を、それまで推奨されていた2回目の接種の6か月後からではなく、3か月後から受けられるようになりました。

反ワクチン派の人々は、ワクチンが開発されたばかりの時期には毎週のように抗議集会を開いていましたが、最近ではそれもあまり見かけなくなりました。とはいえ、上記のPCT条件の確認が厳格化され、日常生活に支障が出始めた頃でも接種を拒否していた人がいたわけですから、この問題を巡る分断が存在することは今も変わりません。同じ家庭内でワクチンを巡って意見が割れる、という話もちらほら聞きました。先日は、1人で7回のワクチン接種を受けた人が逮捕されたというニュースが流れました。通常の2回の接種後、他人になりすまして5回接種し、8度目を受けようとしたところで逮捕されたということです。思いも寄らない考えを持つ人がいるようです。

去年10月に実施された屋外バザー

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

新型コロナウイルスの感染が広まりはじめた頃は、皆が戦々恐々として、街はゴーストタウンと化していました。当初はスロヴェニアの感染者はまだほとんどいない状況でしたが、冬の到来とともに感染率は急上昇し、一時期は人口比で世界最悪レベルになりました。現在でも決して終息しつつあるとは言えません。しかし、街の様子は、マスクをした人の姿が見える以外は、ほとんどコロナ以前と変わらないようになりました。だんだん暖かくなってきたこともあり、街のレストランも喫茶店もにぎわっています。

このような現状は、観光に力を入れている国としては、厳しい規制を続けることに対する反論が大きかったこと、また規制緩和に踏み切った周辺諸国に足並みを揃えた結果でしょう。現在、当然ながらアジア人の団体観光客は完全に姿を消しましたが、近隣諸国からの観光客の数は回復したように感じます。4月24日に議会選挙が行われたことも、規制緩和には大いに関係しているようです。正直なところ、PCT条件のチェックなどは続けてもよいのではないかと思いますが、私自身もこの2年間の「強制引きこもり状態」に疲れ、友人と直接会えることを喜んでいます。

実家の事情により、コロナ禍のもと、これまで3回日本との間を行き来しました。日本入国の際は、特に最初の頃は、多くの書類を揃えたり(2021年2月)、2週間の自宅待機中に毎日厚生労働省のアプリを使ったチェックを受けたり(2021年11月)と大変でした。ですが、スロヴェニアに戻る時は、今年初め以降は、ワクチン接種証明書と陰性証明書さえあればPCR検査も必要なくなり、だいぶ楽になりました。手続きが面倒だったとはいえ、私たち日本人は帰国できてよかったですが、日本人と外国人との間にコロナウイルスを持ち込むリスクに特に違いもないのに、長い期間、日本政府が外国人の入国をほぼ一律に禁じていたことについては、不公平だったのではないでしょうか。

去年の冬から現在にかけて、知り合いの間にもコロナに感染したという人が次々に出てきて、いつ自分が感染してもおかしくないという状況に不安もありました。しかしオミクロン株は重症化しにくいということも関係あるのか、幸い知り合いで重篤化した人はいませんでした。今後については、新型コロナウイルスもインフルエンザのように季節性の風邪のようになっていくのではないかと、希望も込めて考えています。

人通りの多い首都リュブリャナの中心街(今年4月)。

木村高子(きむら・たかこ):英語・フランス語・スロヴェニア語翻訳者。スロヴェニア・リュブリャナ在住


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(18)フランス

フランス(人口約6706万人)

野村真依子

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

オミクロン株による感染拡大が2022年1月末に峠を越えたのち(ピーク時期の1日の新規感染者数は約40万人)、感染者数は順調に減り続けていましたが、3月に入って再び増加に転じました。オミクロン株BA.2の感染力が強い、ワクチン接種から時間が経過してワクチンの効果が落ちている、規制緩和が早すぎた、などがその要因として挙げられています。 とはいえ4月初旬の現在、感染者数増加の勢いは鈍化しつつあり、入院患者数も微増にとどまっています。最近の1日の新規感染者数は10万人くらいですが、規制が復活する兆しもなく、政府も市民も楽観的に見えます。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

2月初めから、それまであった規制(ワクチンパス、屋内外のマスク着用義務、集会の人数制限など)が段階的に解除されています。3月14日以降で残っているのは、公共交通機関と医療機関・関連施設でのマスク着用義務と、医療施設でのワクチン接種・陰性証明の提示くらいです。ただし、マスクは「推奨」されてはいるため、場所にもよりますが街中でも3分の1~4分の1の人がまだ着用している印象です。着用義務がある場でも守らない人はちらほらいますが、警察によるチェックはもはや見かけません。

あいかわらず薬局前に設置されているコロナ検査用テント(2022年4月)

濃厚接触者の隔離義務もかなり緩和され、自己検査であっても陰性であれば隔離する必要はなくなりました。この場合の検査キットも、濃厚接触者である旨を申告すれば基本的に薬局で無料配布されます。そもそもPCR検査や抗原検査も、ワクチン接種を拒否している人が自己都合で検査するなど一部の場合をのぞき、だいたいは自己負担なしで受けられます。

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

4月4日現在、対象となる人口の58.7%がワクチン3回接種済み、79.5%が2回接種済みです。インターネットで簡単に接種の予約が取れるため、希望者は速やかに接種を完了できますが、一方で、依然として接種に抵抗している人もいます。衛生パス(*)・ワクチンパスに反対するデモは一時期、毎週末の恒例行事になっていました。ワクチンパス導入が発表された際は、抵抗をあきらめた人が予約サイトに殺到しましたが、パスも不要になった今、接種率が急上昇することはなさそうです。とくに、2021年の年末から始まった5-11歳児の接種はあまり進んでいません。

接種キャンペーンは、日本のように職場レベルや自治体レベルではなく、全国一律に、年齢や職業、病歴に応じて各自が自由に予約する形で進んだため、全体を見れば効率よくスムーズに進んだと思います。

*ワクチン接種証明、陰性証明、回復証明のいずれか。病院や高齢者施設、障がい者施設、飲食店や文化・娯楽施設での提示義務があった。

カフェは元どおりのにぎわい(2022年4月)

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

さすがのコロナ禍もひと段落した感・もう慣れた感があり、日常がかなり戻ってきた気がします。4月10日には大統領選挙の第1回投票がありましたが、投票所では感染者も投票を許され、その場合でもマスク着用は義務ではない、という(ちょっとビックリな?)政府の対応でした。ウクライナ情勢など心配の種には事欠きませんが、夏休みの計画を本格的に立てる時期ということもあり、私を含む多くの一般市民の間では、コロナは頭の隅に追いやられています。

ただ、コロナによる出入国上の制約に次いで、今度はウクライナ情勢による航路上の制約で、あいかわらず日仏間の行き来は(人もモノも)一筋縄ではいかない状況が続いています。この点が早く解消されるとよいのですが……。

劇場で開催できず公園で行われたバレエの発表会での一コマ。足元はスニーカー(2021年6月)

野村真依子(のむら・まいこ):英語・フランス語翻訳者。フランス在住


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(17)アイルランド

アイルランド

アイルランド(人口約490.4万人)

石川麻衣

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

ここ数週間(2022年4月10日執筆)の新規感染者数は、平均で1日3,000~4,000人程度です。年末年始は、オミクロン株が猛威を奮い、1日2万人を超えていましたが、今はだいぶ落ち着いています。しかし、いまだに救急外来でも長時間待たされることがあり、現在、75歳以上で診察待ちの患者数(緊急性のある疾患のある人)は約84,500人にも上り、うち25,000人は、1年以上も待たされているとのことです。全人口で見ると、約90万人が治療を必要としていながらも待機させられているとのことで、まだまだ課題は山積みです。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

医療機関でのマスク着用は必須ですが、それ以外の場所でのマスク着用の規制はすべて撤廃されました。2月末にマスク着用が義務ではなく個人の判断にゆだねられるようになってから、お葬式会場、教会、劇場、様々な趣味の講座が開催されるコミュニティーセンター、バス、電車、カフェ、どこへ行ってもマスクをしている人はマイノリティーです。人に会うと、以前のようにハグや握手をするのも当たり前になってきました。ラジオ局では自主的にマスク着用を義務化するなど、仕事場によって異なりますが、コロナ禍では当たり前だったソーシャルディスタンスは嘘のように消え、もはや忘却の彼方です。ハグやキスや握手を断るのは失礼、という雰囲気さえ漂います。つい最近までラジオでは、解除された規制(特にマスクの義務化)を元に戻すか否かの討論が連日のように行われていましたが、そんな議論も、ウクライナ侵攻による難民のニュースに飲み込まれて、徐々に消えつつあります。

元に戻りつつある街の風景

そもそもパブのような騒がしい場所では、叫ばなければ相手の声が聞こえないので、距離を保つこと自体厳しかったところに、マスク着用義務がなくなると、ソーシャルディスタンスを含めコロナ禍における習慣があっと言う間に崩れていきました。人が集う場所では、マスクをしなければ失礼どころか、マスクをつければ失礼、という雰囲気に移行しつつあるほどです。ひとりだけマスクをしていると、自分だけが心を閉ざしているようにも感じられて、逆に気まずいのです。

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

2022年4月10日現在、約290万人(アイルランドの人口は約500万人)がワクチンのブースター接種を済ませています。オミクロン株が猛威を奮った2021年のクリスマスシーズンから年始にかけて、いち早くブースター接種をしようと、指定の薬局の前で並ぶ人々の姿が目立ちました。現在、65歳以上に、2回目のブースター接種、つまり4回目のワクチン接種をするよう呼びかけています。

先週、「ゲーム・チェンジャー」と呼ばれている米国ファイザー製の新型コロナワクチンの飲み薬〈パクスロビド〉がダブリンに到着し、まずは入院患者を対象に各病院で使用を開始するようです。

毎年、春の到来を知らせてくれる水仙

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

一歩前に踏み出したら、もう足を元に戻すことはできないというように、マスクも何もかも脱ぎ捨ててズンズンと前へ進むアイルランドの人々のエネルギーを感じます。私も、そのエネルギーに背中を押されて先日、久しぶりに旅行のために航空券を予約しました。コロナ禍で一気に空港の警備スタッフが解雇されたせいで警備が追いつかず、ダブリン空港は連日、搭乗までの待ち時間が3時間を超えているようです。しかし、久しぶりに飛行機のチケットを予約したときは、胸が高鳴りました。

劇場も、ぎっしりと席が埋まるようになってきました。先日、由緒あるゲート劇場でサミュエル・ベケットの『勝負の終わり』を観劇しました。連日満席。開場前にロビーで立ち飲みをする人たち、場内に響き渡る笑い声や、むんむんとした熱気。ふとコロナ前に戻ったような錯覚に陥り、孤につままれたような気分でした。

去年の末に、私自身の企画がある劇団のメンターシップ・プログラムに採用され、現在、英国のシェフィールドにいるアーティストとZOOMでやり取りをしています。また、ZOOMを駆使しながら、アイルランドの戯曲を日本に紹介する機会にも恵まれました。舞台芸術はライブが一番と思い知らされたコロナ禍でしたが、「リモート」という新たなコミュニケーション手段をうまく交えながら、徐々に国際的な演劇プロジェクトが復活していくことを願うばかりです。

ダブリンのハップニー橋

石川麻衣(いしかわ・まい):通訳、英日翻訳家(主に演劇、芸術関係)、ナレーター。国際演劇協会会員。アイルランド・ダブリン在住


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(16)スペイン

スペイン (人口約4694万人)

米田真由美

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

2022年4月の時点での感染者数は、ピーク時(2022年1月13日)の5%と減少傾向にあります。感染状況は、2021年の夏以降一旦落ち着いていましたが、やはりその前年同様、クリスマス休暇を境に一気に増加傾向に転じ、2022年1月には新規感染者数が7日間平均で12〜13万人(*)、1日あたり20万人を超える日もありました。その後2月に入ると徐々に減少し、現在の新規感染者数は7日間平均で6,000人ほどまでに減少しています。

*直近7日間の新規感染者数累計を7で除した1日あたりの平均数。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

規制については、一部の州を除き、ほとんどの州で撤廃されています。

飲食店内の人数や営業時間制限も徐々に緩和され、ナイトクラブなども夜間通常営業に戻っています。ただし、屋内でのマスクは引き続き義務づけられています。屋外では義務づけられていないのですが、街中の様子を見てみるとマスクをしている人は多いように思います。

ワクチンパスポート(COVID PASS)の提示義務についても地域により差があります。私が暮らすバレンシア州においては飲食店、映画館(屋内レジャー施設)、特別養護老人ホームなどでは引き続き提示が求められています。

学校や教育機関では2021年9月の新学期以降、ほぼ完全に対面で授業が行われています。イベントや行事も可能な限り通常開催するようになっています。もちろん地域差はあるでしょうが、海外からの留学生もほぼ通常通りの受け入れを行っています。しかし、11月中旬ごろからオミクロン株の流行とともに、子どもの間での感染が急速に拡がり、小中学校では学級閉鎖になることが度々ありましたが、その学級閉鎖のルールも徐々に緩和されていきました。

2022年1月に入るとクリスマス休暇明けでさらに感染が拡がり、保健局の対応に混乱がみられました。感染者の隔離期間、PCR検査を受ける必要がある濃厚接触者の基準や手順など保健局の対応が度々変更しました。ピーク時において、軽症者へは電話診療のみで、休職手続きなども、全て電話とメール、地域医療センターのWEBで行われていました。これは医療体制や病床の逼迫を防いだ一方で、デジタル作業に明るくない高齢者などにはとても親切と言えるものではありませんでした。

また、人口が少ない地方では対応が遅れることがよくあったそうです。最寄りの地域医療センターでPCR検査や適切な診療が受けられないなど、都市部との格差に驚くことがありました。

市内の公園でマスクをして遊ぶ子どもたち

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

スペインはEUのなかでもワクチン接種率が高く、3回目の接種も進んでいます。2021年夏以降、高齢者や基礎疾患のある人から接種が開始されました。他のEU諸国に比べると始動は少し遅かったように思います。ファイザーやモデルナが2回接種で完了なのに対し、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)社製のワクチンは1回のみの接種タイプだったため、バレンシア州でのブースター接種はJ&J社製ワクチン接種者を優先して開始されました。これはあくまで個人の感想ですが、職場ではワクチン接種が遅かった人のなかに感染が多かったように思います。

また、外国人留学生や1か月程度の一時滞在者にもワクチン接種用の一時的な医療保険カードを発行(*)するなど、シムテム化も迅速で、誰もがスムーズに接種できる環境だったように思います。

*ワクチン接種は、地域医療センター(日本でいう保健所)が管轄しており、接種するには公的医療保険に加入している必要がある。公的医療保険に加入するにはスペインで税金を納めている必要があるため、旅行者、留学生などの加入は不可となる。そのため、一時滞在者対象に、医療サービスを含まない、ワクチン接種用のための医療保険カードが発行された。

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

スペイン全土としては「アフターコロナ」ではなく、市民の意識、政府の政策が「ウィズコロナ」へと向かっているという印象です。

バレンシア州では3月下旬からコロナ感染者の隔離や休職などの定義が大きく変更されました。働く現場では新たな混乱を招くことが予想されていますが、確実に「コロナとともに暮らす」を目標としているのがわかります。

昨年12月から3月頃までの第6波では、私自身が一家で感染したこともありますが、これまでと違って、家族や友人、知人など直接の知り合いに感染をした人が急激に増えた印象がありました。長引くコロナで経済的に大きな問題を抱えながら、習慣や文化的慣習が人々の暮らしに大きく影響しているスペインではクリスマス時期の人の集まりや流れを規制することが難しく、いかに医療を逼迫させずにコロナとともに市民の社会生活を維持するかが政策のポイントでした。

2020年3月の非常事態宣言以降、これはスペインだけではないかもしれませんが、コロナ禍で最も適応能力が高いのは子ども達だと、感慨深く思う場面が沢山ありました。楽しみにしていた行事やイベントが担任の先生や学友のコロナ感染で中止になることがあっても、決して大人を責めたりせずに、子どもも保護者とともに頑張ろうという姿勢がありました。もちろん、そういったことばかりではなく様々なドラマがあったと思いますが、スペインは少なくとも感染者が生きづらいというような社会ではないと改めて思いました。これはレポート第一弾から一貫して感じていることです。

市街のオープンカフェで外食を楽しむ人々

非常事態宣言中、親が医療従事者であったり、リモートワークが不可能な職業の場合は、その子どもたちは特に辛い思いをしていたと思います。いまようやく、また学校に通えるようになった子どもたちは、校庭で遊ぶ時にマスク着用を強いられても文句一つ言わず学友との時間を精一杯楽しんでいるように思います。隔離生活がどういうものか身に染みてわかっているのでしょう。

こうした子どもの柔軟な姿勢や、学びの速さ、感謝の気持ちはぜひ大人も見習いたいものです。コロナでネガティブなことは多くありましたが、コロナがなければ学び得なかったこと、海外で暮らしていたからこそ多くの気づきがありました。今後のウィズコロナ生活でも困難にぶつかることは多くあるでしょうが、子どもたちに倣って学びの多い生活にできればと心から思っています。


米田真由美(よねだ・まゆみ):スペイン・アリカンテ在住のコーディネーター・通訳者。アリカンテ大学語学教育センター勤務


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(15)マダガスカル

マダガスカル(人口約2,697万人)

フランス語情報センター翻訳チーム(中平信也、脇るみ子)

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

マダガスカルの公衆衛生省の発表によると、3月26日~ 4月1日の一週間の新型コロナウイルス感染状況は次のとおり。

  • 新規感染者数:検査者総数 2,527人、内 41人陽性
  • 新規死亡者数:4人、重症者数:22人
  • 新規快復者数:33人

2022年1月初旬の感染者数1700人超/週、死亡者50人超/週をピークにコロナ禍は減少の一途をたどっている。しかし、南半球に位置するマダガスカルはこれから寒くなること、首都にある国際空港の再稼働に続いて地方空港での国際便の再開が閣議決定されたこと、ワクチン接種率が低いことを考えると、コロナ感染再拡大も懸念されている。

私たちの現地法人の従業員。写真撮影は唯一の日本人(会社代表)による。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

外出時間の制限、多人数での集会の禁止、他県への移動の禁止または制限、飲食店に対する営業時間の制限、屋外でのマスク着用の義務化など、ほとんどの規制・制限は解除されている。ただし、病院、スーパーマーケット、オフィスではマスクの装着が奨励されており、マスク非着用の場合、入店・入室が拒否される場合がある。首都圏でマスクをしている歩行者は全体の30%程度。政府はテレビを通じ、手洗い、うがい、1メートル以上の間隔確保を繰り返し推奨している。政府はまた、希望者への新型コロナワクチンの無料接種を行っている。

出国の場合、出発前のPCR検査が(政府指定の病院で出発2日前に検査を受け、翌日結果が出る)、場合によってはワクチン接種証明の提示(要求される時とされない時がある)が必要である。入国の場合、到着時にPCR検査が行われる。政府指定のホテルで検査結果を待ち(2日間)、陰性であれば翌日から自由行動となる。陽性であれば、政府指定のホテルで2週間の隔離の後に再検査となる。

「国境なき医師団」は、そのHPの「活動ニュース」の2021年5月31日付「マダガスカルで最悪レベルの食料危機(*)」のなかで、「新型コロナウイルス感染症流行により、マダガスカルへの入国制限、首都と南部地域を結ぶ国内便の停止などの措置がとられ、援助物資の運搬に影響が出ている 」としているが、このような状況は改善されつつある。ただし、食糧危機の解決にはほど遠い。

*同ニュースによると、マダガスカル南部の地域全体で急性栄養失調に陥っている子どもの数は7万4,000人、そのうち1万2,000人は重度の栄養失調である。

タマタブ最大の市場バザールケリー

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

UNICEFのマダガスカル支部の発表によると、3月9日時点でのマダガスカルの新型コロナワクチンの接種状況は次のとおり。

  • 1回目の接種を終えた人が125万8,980人、2回目の接種を終えた人が101万2,453人
  • 2回接種を終えた人はまだマダガスカルの全人口の3.5%
  • ワクチン接種は、兵士・憲兵隊・警察官等の治安関係者・医療従事者・公務員そして都市部住民を中心に奨励されており、マダガスカルの全人口の7割近い農村部居住の人々のほとんどはまだ接種を受けていない

我々の関係する現地法人ソマコワでも、事務職10名のうちワクチン接種に応じたのは3名のみ。コロナに対する警戒感は、マラリアやエイズのそれよりも低い。つまり、マダガスカルの人々の生活環境には、新型コロナウイルスよりも恐ろしい疫病が存在する。

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

マダガスカルでは、新型コロナウイルスの前に肺ペストが流行し、誰もがマスクを着用して外出していた。21世紀になってペストが流行する国が残っていることに驚いたが、マダガスカル公衆衛生省は今年2月、2021年にマダガスカルで新規に確認されたハンセン病患者数が1334人と公表した。世界保健機関(WHO)によれば、マダガスカルでは毎年、1,000人ほどの新規ハンセン病患者が発生している。今なお、らい病がこの規模で発生する国があることにも驚かされる。

驚くのは病気についてだけではない。昨年のクリスマス(2021年12月25日)には、ミサが行われているカトリック教会に落雷し、大人4人と7歳~17歳の子ども6人の合計10人が即死した。マダガスカルの雨季(11月頃~4月頃)には雷雨が多発し、これほどの規模ではないものの、落雷による死亡は毎年発生している。

フランスのTVニュース「フランス24」によると、我々の拠点とするマダガスカル第2の都市タマタブ近郊の観光地セントマリー島付近で昨年末150人を乗せた木造船が沈没、85人が死亡した。沈没した船は下の写真のとおり小さい。よく150人も乗れたと思うし、乗せたと思う。

このように不条理としか言い得ない出来事と背中合わせの日常を生きるマダガスカルの人々にとって、新型コロナウイルス感染は当初から我々が思うほどに特別な事柄ではなかったのかもしれない。彼らにとっての身に迫る危機は、コロナ前と比較して、30%上昇した物価、25%上昇した主食のコメの価格である。増大する生活苦は犯罪の凶暴化をもたらしている。


株式会社フランス語情報センター翻訳チーム:代表の中平信也(なかだいら・しんや)とパートナーの脇るみ子(わき・るみこ)で運営。どちらも日本在住のフランス語通訳・翻訳者。マダガスカルと日本のあいだを定期的に往復している


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(14)バングラデシュ

バングラデシュ(人口1.63億人)

大橋正明

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

バングラデシュでは、2021年7~8月がこれまでの最悪の流行期で、新規感染者数のピークは8月2日の15,989人、死者数のピークは8月8日の245人だった。しかしその後順調に減少し、12月の新規感染者数は数百人に落ち着いた。ところが2022年に入った途端に新規染者数は再び急増し、1月27日で15,807人と最悪の記録に迫った。

しかしこの流行期の死者数の最多は2月9日の33人と、昨年8月に比べるとかなり少なく、このパンデミックが軽症化したように見える。新規感染者数はその後急激に減少し、4月に入ってからは数十人ほどで、死者数も一桁台かゼロになり、状況はほぼ落ち着いた。それでも毎日のTVニュースでは、ヘッドラインの一つになっている。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

政府によるマスク着用の指示は今も出されており、街中ではそれを守っている人もいるが、守ってない人、顎に引き下げている人も目立つ。学校はこのパンデミックの初期から長期間閉鎖され、リモート授業は富裕層が通う私立学校では実施されていたが、公立学校では全国的なテレビやオンライン授業が行われていた。とはいえ、そもそもテレビやパソコンを持っている家庭が少なく、その効果は限定的だった。

しかし今年2月中旬から学校は開き始め、3月中旬に全面再開となった。4月初めに始まったイスラム教徒の断食月の期間、例年授業は短縮されるか休みになるが、今年度はこれまでの遅れを少しでも取り戻すべく、通常時間で授業が行われている。

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

4月4日現在、1回以上の接種を受けたのが77.4%、必要回数完了(恐らく2回と推定される)が65.4%、3回目のブースター接種を受けた人が6.1%となっている。ただ、ダッカ市では3回目を受けた人も珍しくない。

副反応の違いはかなり大きい。1~2回の接種のワクチンの大半が、中国製のシノファーム社かインド製のアストラゼネカ社のものであった。ところが3回目で使われているワクチンはモデルナ製が多く、副反応はそれまでより強いという。

バングラデシュはこのワクチンの供給の大半を他国や国際機関からの支援に頼っているが、3月初め、リトアニア政府がバングラデシュへの50万回分のワクチン提供をキャンセルした。その理由は、3月3日の国連総会のロシア非難決議にバングラデシュ政府が賛成せず、棄権したからだ。ワクチン外交の一端を垣間見た思いがする。

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

3月中旬の学校全面再開以来、登下校に車を使う児童生徒が多いことから、ダッカ市内の交通渋滞が以前のような深刻な状態に戻ってしまったことも、多くの人に大きな影響を与えている。また例年この断食月の間は消費増のために食料品や燃料などの価格が上るが、今年はウクライナ侵攻などもあり物価が異常に高騰しており、庶民の一番の関心事はそこに集中している。

新型コロナウイルス感染症に話を戻すと、新規感染者数の減少は、バングラデシュに留まらず、周辺の南アジア諸国でも同様だ。この状態が継続するなら、このパンデミックについてのバングラデシュの人々の関心は、今後さらに小さくなっていくだろう。

多くの人々の現在の健康に関する関心は、ダッカ市で大流行している下痢である。今年3月27日付の現地紙は、首都ダッカで「下痢病院」として知られる大規模な国際下痢研究所(International Centre for Diarrheal Disease Research, Bangladesh)附属病院では、毎日1,200人の下痢患者を治療するという過去60年で最悪の事態に陥っており、市内の他の病院でも同様な傾向がみられる、と報じている。原因としては市内の上水道の汚染が疑われているが、特定はされていない。また例年7~9月に大流行するデング熱に対する警戒の声も、聞こえ始めている。

取材協力:(NPO法人)シャプラニール=市民による海外協力の会 内山智子バングラデシュ駐在員

参考資料:

https://www.thedailystar.net/views/editorial/news/early-diarrhoea-outbreak-alarming-2991061

COVID-19 vaccine Bangladesh

https://qz.com/2139368/lithuania-cancelled-its-vaccine-donation-to-bangladesh/

https://www.dhakatribune.com/dhaka/2022/03/15/dhaka-dwellers-suffer-amid-unusual-traffic-gridlock


大橋正明(おおはし・まさあき):聖心女子大学教授、聖心女子大学グローバル共生研究所客員研究員、SDGs市民社会ネットワーク共同代表、シャプラニール=市民による海外協力の会監事、日本バングラデシュ協会会長 


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(13)デンマーク

デンマーク(人口約580万人)

針貝有佳

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

2022年4月7日現在、デンマークでは新型コロナウイルスの存在はほぼ忘れ去られています。オミクロン株は2月中旬にピークアウトし、その後、感染者は減少し続けています。デンマーク人のなかではすっかりコロナ騒動は過去の出来事となっており、ただいまアフターコロナ生活を満喫中です。

1日の新規感染者数の推移(2021年10月〜2022年4月7日)
参照元: JHU CSSE COVID-19 Data

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

現在、コロナ関連の規制はゼロです。2022年2月1日、デンマークは新型コロナを「社会の脅威になる病気」というカテゴリから外し、EUで初めて新型コロナに関する規制の全面撤廃に踏み切り、世界中のメディアを騒がせました。しかも、デンマーク人は自粛をしないので、2月1日以降、屋内外問わずマスクをしている人を見かけることはほとんどなく、街はすっかり日常の風景を取り戻しています。屋内施設や交通機関でもマスクをしている人はほぼゼロです。ショップ、カフェ、レストランも通常営業していますし、通勤・通学も通常モードで、コロナ前と変わらない様子で社会がフル回転しています。

集会の人数制限もなく、屋内外で大規模イベントが開催されています。さらに、2022年3月29日には、海外からデンマークへの入国者に対する規制や制限措置も撤廃され、デンマークへの出入国も自由になりました。このように、規制はゼロのデンマークですが、高齢者や身体が弱い人への配慮は推奨されています。たとえば、病院や老人ホームなどでは、マスクやフェイスシールドを着用することが推奨されています。

また、コロナ陽性が発覚した場合の自主隔離も推奨されています。ただ、あくまで推奨であって義務ではない上に、陽性から4日後には自己判断で隔離を解除できます。たとえば、無症状や軽い症状(鼻水・喉の痒み・ちょっとした咳など)の場合は、陽性発覚から4日後には自由に外出できますし、明らかに症状が出た場合も、陽性発覚から4日後に症状が軽くなっていれば自己判断で自由に外出できます。尚、コロナ陽性者の同居人には一切の規制がなく、濃厚接触者でも普通に日常生活を送れます。

検査キットで陽性反応が出たときの写真

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

デンマーク政府は最初から一貫してワクチン接種を強く推奨してきました。また、国民も政府を信頼し、積極的にワクチン接種をしてきました。おかげで、国民のワクチン接種率は非常に高く、2022年4月7日時点で3回目接種率(18歳以上)は76%、2回目接種率(12歳以上)は約89%に上ります。

年齢別に見ると、3回目のワクチン接種率は65歳以上の高齢者では約95%に上っています。リスクグループである高齢者のほぼ全員をカバーしているという安心感がデンマークにはあるのです。また、50〜59歳では85%以上、40〜49歳では75%以上、20〜30代では約55%が3回目接種を完了しています。

現在は身体の免疫力が低い人に4回目接種を実施していますが、デンマーク政府によれば、秋以降には一般の人たちに対しても4回目接種が推奨される可能性があります。

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

2022年1月末から2月は、私にとって忘れられない1か月となりました。コロナ報道のため、日本のテレビ局向けにデンマーク現地の動画を何十本も撮影して送る生活でした。そんな思い出ができたのは、デンマーク政府による衝撃的な記者会見があったからです。

2022年1月26日、オミクロン株が蔓延し、1日の新規感染者数が4万人、ときに5万人を超えるなか、デンマーク政府は2月1日から規制を全面撤廃すると発表したのです。理由に挙げられたのは、高いワクチン接種率、高い検査率、重症化しにくいオミクロン株の特性、重症者数の減少などでした。

2022年1月26日、メッテ・フレデリクセン首相の記者会見。EU初の規制全廃へ。

記者会見が行われた当時、保育施設も学校も職場もコロナによる欠席者が続出していました。感染者数もピークアウトしておらず、私から見れば先が見えない状況だったので、デンマーク政府が規制の全面撤廃に踏み切ったことに大きな衝撃を受けました。

急いでそのことを日本のテレビ局に伝えたところ、この記者会見は衝撃ニュースとして取り上げられ、各局から取材依頼が殺到しました。結局、1か月の間に7本の番組制作のために奔走することになり、コペンハーゲンの街や人びとの様子を撮影しては各局に送りました。

コロナを通じて見えてきたのは、デンマーク人の価値観であり、国民性でした。デンマークの人びとは、敵は他人ではなくコロナであるという共通認識を持ち、コロナ対策をめぐって他人を非難しません。必要以上に自粛しない代わりに、他人にも自粛を求めません。また、どんなときも楽しむことを諦めず、可能な範囲で存分に楽しみ、未来を信じて活動を止めません。パンデミックを通じてデンマーク人から学ぶことは多かったように感じます。

コペンハーゲンの街。コロナ報道のための取材中に撮影

最後に、参考までに、デンマークのコロナ対策の特徴をまとめます。

デンマークのコロナ対策の特徴

  • 1.政府による明確なルール設定とわかりやすい説明→国民の政治への信頼
  • 2.政府による長期的なビジョンの提示→今後の生活の見通し
  • 3.シンプルにデジタル化されたシステム→検査・ワクチン接種のしやすさ
  • 4.高い検査率(無料)→高いデータ監視力→小さな変化に即対応可能
  • 5.高いワクチン接種率→重症化予防
  • 6.メリハリのある対策→国民のストレス軽減(ガス抜き)
  • 7.政府のフットワークの軽さ→何かあれば臨機応変に対応してくれる安心感

現在、アフターコロナモードのデンマークですが、デンマーク政府によれば、秋には再び感染者数が増加し、変異株にも注意する必要があるとのことです。ワクチンの4回目接種も視野に入っており、今後の対応が気になるところです。


針貝有佳(はりかい・ゆか):デンマーク語の翻訳者、ライター。デンマーク・ロスキレ在住。ホームページ https://www.yukaharikai.com


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(12)韓国

韓国(人口約5127万人)

小佐野百合香

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

韓国では2021年の末ごろから新型コロナウイルスの感染対策規制を緩和する方向に政策が転換しました。それから感染者が急増しており、2022年1月末に新規感染者が1万人を超えてから毎日万単位で増加しています。2月の中旬には約10万人、3月の中旬には過去最高の約62万人が感染しました。現在も1日30万人〜40万人前後の新規感染者が出ていますが、次第に減少傾向となっています。

友人や教授など、身近なところでも感染者がどんどん増加しており、新型コロナウイルスの流行を肌で感じています。私自身も3月末に感染し、1週間の隔離生活を送りました。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

オミクロン株の重症化リスクが低いことと、ワクチン3回目の接取率が60%を超えていることから、飲食店の営業制限やソーシャルディスタンスも徐々に緩和されており、オフラインの授業を開始している大学も増えています。感染者は増え続けていますが、規制はどんどん緩和されているためでしょうか、観光地などに行くとあまりの人の多さにコロナ以前の風景を見ているかのようです。

規制緩和により人であふれているソウルの花見の名所

2022年5月10日から、進歩政党の文在寅氏に代わって保守政党の尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏が大統領に就任します。尹錫悦氏は飲食店やカフェの営業制限の全面解除など規制緩和を掲げているため、政権が変わってからは制限が強化される可能性は低いのではないかと思います。

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

韓国の3回目のワクチン接種率は現在(2022年3月26日)63.5%で、私の周りでもほとんどの人が3回目の接種を完了しています。早い人では4回目の通知が届いたという人もいますが、2回目の副反応が強く、3回目の接種を受けない人もいます。人によって副反応にかなり違いがあり、熱が出たという人もいれば、腕の痛みだけしかなかったという人もいました。私は3回目のワクチンを予約しようと思っていた時にコロナに感染してしまったため、次のワクチンをいつ受けるか悩んでいます。

治療センターで提供された薬

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

急激な感染者の増加で、ソウルに住んでいる私も3月末にコロナに感染しました。くしゃみとのどの痛みを感じ、抗原検査キットで検査してみたところ陽性でした。そこで、ソウルの各所にある検査所でPCR検査を受け、大学の寮内にある臨時隔離施設に一時的に移りました。翌日陽性判定が出たため、ソウルの東大門区にある「生活治療センター」という隔離施設で1週間過ごすこととなりました。「自宅隔離が可能な人は、自宅で1週間隔離すること」が原則となっていますが、私が生活治療センターに入れたのは寮に住んでいるからだったようです。現在ソウルでは、ホテルや大学の寮の一部が隔離施設として利用されており、食事や薬、シャンプー、タオルなど生活に必要なものが全て無料で提供されます。海外でのコロナ感染で不安でしたが、外国人に対しても韓国人と同じ対応をしてもらえるのはとてもありがたかったです。

陽性の印が現れた抗原検査キット

4月からワクチン接種者(2回目の接種から180日以内に3回目接種完了が条件)は入国時の隔離が免除されることとなりました。規制の緩和に対して不安もありますが、夏には2年半ぶりに日本に帰国できるかもしれないと期待しています。


小佐野百合香(こさの・ゆりか):ソウル市立大学に在学中。韓国史学科4年生


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(11)コロンビア

コロンビア(人口約5034万人)

ロブレド・ゴンサロ

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

新型コロナウイルスによるパンデミックが始まって以来、コロンビアでは、2022年3月末までに累計608万4,240人が感染しました。そのうち591万7,334人は快復しましたが、13万9,595人はCOVID-19が原因で死亡しています。4月初旬の現在、一日の新規感染者数は300人ほどに減ってロックダウンも解除されていますが、4月30日までは緊急事態の措置が続けられます。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

屋内や公共の乗り物内では今もマスクの着用が義務づけられていますが、2022年3月には、ワクチン接種者の割合が70%を超えた地域で、屋外でのマスク着用の義務が解除されました。しかし多くの人が家の外でマスクを外すことを恐れ、着用を続けています。中国などで感染が再拡大しているといったニュースを聞き、油断をしないよう気を付けている人も多いようです。

一部の県や都市ではまだ独自の規制を敷いているところもありますが、政府による、国内旅行を含む移動の禁止令は解除されました。また、エル・エスペクタドール紙は3月末の記事で、4月3週目のイースターにコロンビアを訪れる外国人観光客の数は2万5,000人にのぼるだろうと書いています。これは2021年同期と比べて230%の増加となります。首都ボゴタと地方の合計9空港では国際便も飛んでおり、到着する外国人の半分をアメリカ人、メキシコ人、チリ人、ペルー人、スペイン人が占めています。海外からの渡航者には、隔離は義務づけられてはいませんが、18歳以上の海外からの渡航者(在留資格を持つ外国人は除外)には、少なくともすでに2回のワクチン接種の完了が求められています。

規制の緩和にともなって経済も回復の兆しを見せています。しかし、ロックダウンや強制的な隔離で経済的に厳しくなった人々に対するいくつかの支援は、2022年の12月まで続けられる予定です。「収入と生活の質」に関する公的な調査の結果、400万世帯が、2か月ごとに98ドルの支援を受けています(ひと月の最低賃金は265ドル)。これはパンデミックの影響をできるだけ軽減するために2020年につくられたプログラムです。

さらに若者や高齢者に対するさまざまな支援や、消費税の還付制度なども実施されています。銀行口座を持っていない受給者は、デジタル決済や、現金受け取りのサービス業者を利用することも可能です。送金のお知らせはスマホなどにテキストメッセージで届くため、貧困層の人たちのデジタル媒体の使用率が上がりました。

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

2022年2月末までに、コロンビア全国で7,724万8,506回分のワクチンが接種されています。認可されているワクチンは、ファイザー、アストラゼネカ、ジョンソンエンドジョンソン、シノバック、モデルナ、ジファックスです。

飲食店によっては、入店時に3回接種の証明書を求めるところもあるようです。健康上の理由で1回しか接種ができていないという看護師の友人は、レストランに入るたびに店員にそのことを説明しないといけないと嘆いていますが、医療従事者の証明書を見せるとたいていは入れてもらえるそうです。

学校では今年1月の新学期から、対面の授業が再開されています。政府は新学期に先立ち、ヨーロッパの例に倣って、子供たちにワクチン接種をさせるよう親に訴えかけるキャンペーンを行いました。昨年末までに新型コロナウイルスの感染が確認された子供は、全国の子供の8%に当たる44万人で、そのうち260人が亡くなっています。

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

社会生活はコロナで大きな打撃を受けています。人々が集まる機会が大幅に減ったことに加え、最低賃金が10%上がったにもかかわらず、物価が上がって購買力が下がっています。2020年には、パンデミックの最中、政府の増税政策に反対するデモ隊の一部が暴徒化し、道路が閉鎖されるなどの騒ぎが起こりました。そのため食料品が届かない地域がでてくるなど問題が拡大し、政府は増税案の延期に追い込まれました。不安定な生活を強いられる国民が増え、コロンビアはOECD諸国のなかで失業率が二桁台にのぼる数少ない国のうちのひとつになっています。

保守派の現政権への不満から、左派政党の人気が高まっており、世論や大方のアナリストは、今年5月の大統領選では政権交代が起こるだろうと予測しています。最も有力といわれている新大統領候補は、1998年に政界入りし、2014年から2015年にボゴタ市長を務めた元ゲリラのグスタボ・ペトロ(61歳)です。彼がコロンビアの大統領になったら、企業の国有化や社会主義政策を進めたチャベス政権下のベネズエラのようになってしまうのではないかと恐れる声も少なくありません。コロンビア人投資家だけでなく、コロンビアでビジネスをしている日本人を含む多くの外国人が、いざとなればすぐに資金を国外に持ち出せるよう準備をしながら、大統領選の行方を見守っています。


ゴンサロ・ロブレド:コロンビア出身のジャーナリスト。スペイン語翻訳者。1981年より日本在住。スペインのエル・パイス紙に寄稿した記事:https://elpais.com/autor/gonzalo-robledo/