コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(8)ポーランド

ポーランド(人口約3,839万人)

岩澤葵

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

現在3月30日時点で、新規感染者数は1日6,000人ほどです。2月の頭に1日5万7,000人の新規感染という信じられない数字を叩き出した四度目の感染爆発。ようやくそこから落ち着いてきました。決して良い状況とは言えませんが、ポーランドの人々は楽観的にとらえているように感じます。

2021年の夏から秋にかけて、しばらく落ち着いた時期が続き、それ以降「もうコロナは終了」ムードのポーランドです。政府も、商業施設の営業規制や厳しい入国制限など行わない方針を貫きました。生活はコロナ以前とほとんど変わりません。この一年間で、イベントが中止されたり学校の授業がリモートに切り替わったりしたのは第四波の前後のみでした。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

3月28日から、ついにポーランド全国でマスクの着用義務が完全撤廃されました。その他のことが段階的に規制解除されていくなか、長い間公共交通機関や屋内でのマスク着用は必須でした。今ではコロナによって規制されている内容を探す方が難しいほどです。各所に設置された消毒液、時々見かける店内のパーテーションや人数制限などはすでに日常に溶け込んでしまい、不自由や違和感を感じることはありません。

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

3回目の接種にあまりメリットを感じない――接種しても感染する、国内では未接種者への規制などがない、副反応が強いなど――という意見を多く耳にします。そのためか、2回の接種を完了しているのは国民の半数ほどで、3回目のブースターショットをしている人は国民の3割程度にとどまります。

新型コロナが流行しはじめた当初、マスクをするかしないか、感染対策は必要か否か、ポーランド人たちの間で頻繁に議論が行われていたように、ワクチンについても賛否両論があり、一定数の反対派がいます。ワクチンを打たない派の人たちは、ワクチン接種を条件とした規制に柔軟に対応して生活しているようです。旅行時にはPCR検査を受ける、ワクチン証明がなくても入店できるお店を探す、どうしても無理なら諦めるといった具合です。そもそも、ポーランド国内で生活している分には、ワクチンを打たなくてもあまり影響はないように思います。

コロナ開始からすでに2年が経過し、良くも悪くもみんな慣れ、この少し変化した生活に順応しているように見えます。

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

今年2月、久しぶりにやってきた感染爆発の影響で、出演予定だった約50公演ものコンサートがキャンセルになりました。心の糸がぷっつりと切れてしまいました。これまでの辛い時期を耐えやっと巡ってきた大きなチャンスだったこともあり、くやしさ、虚しさでしばらく立ち直れませんでした。

それから3か月。もうポーランドでコロナのことを気にしている人はいません。2月末に隣国で戦争が始まってからというもの、緊張感と不安が生活を支配し、「それどころじゃない」という空気なのが正直なところです。ウクライナの市街地への攻撃が本格化してから、すでに100万人以上のウクライナ人がポーランドに避難して来ているのは日本でも報道されているとおりです。ポーランドは驚異的な瞬発力ともいえる速さで支援を開始し、政府による正式な受け入れ態勢も瞬時に整えられました。素晴らしいことですし、ポーランドの人々を誇りに思います。

一方で、この状況が長期化した場合に、支援側の体力がどこまで持つのか心配です。もともと西側の諸国と比べ経済的に豊かとはいえないポーランド。避難民への支援は市民のボランティアから民間企業までさまざまな形で行われていて、その多くは個人の好意による寄付がほとんどです。

また、政府は金銭的な援助や無償での就学許可等を発表。各地から賞賛の声が集まっていますが、その資金はどこからやってくるのでしょうか? 昨年9月から現地企業で翻訳の仕事に就いて働き始めたものの、今後のポーランド経済の状況によってはこの国に長く滞在するのは厳しいかもしれません。予測不可能な事態が次々と発生して今後を見通すことが難しいなか、私自身も冷静な判断を迫られているように感じます。

2年ぶりに開催されたクリスマスマーケット。街中にウクライナ国旗があふれています

岩澤葵(いわさわ・あおい):クラリネット奏者・ポーランド語翻訳者。ポーランド・ヴロツワフ在住