コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(13)デンマーク

デンマーク(人口約580万人)

針貝有佳

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

2022年4月7日現在、デンマークでは新型コロナウイルスの存在はほぼ忘れ去られています。オミクロン株は2月中旬にピークアウトし、その後、感染者は減少し続けています。デンマーク人のなかではすっかりコロナ騒動は過去の出来事となっており、ただいまアフターコロナ生活を満喫中です。

1日の新規感染者数の推移(2021年10月〜2022年4月7日)
参照元: JHU CSSE COVID-19 Data

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

現在、コロナ関連の規制はゼロです。2022年2月1日、デンマークは新型コロナを「社会の脅威になる病気」というカテゴリから外し、EUで初めて新型コロナに関する規制の全面撤廃に踏み切り、世界中のメディアを騒がせました。しかも、デンマーク人は自粛をしないので、2月1日以降、屋内外問わずマスクをしている人を見かけることはほとんどなく、街はすっかり日常の風景を取り戻しています。屋内施設や交通機関でもマスクをしている人はほぼゼロです。ショップ、カフェ、レストランも通常営業していますし、通勤・通学も通常モードで、コロナ前と変わらない様子で社会がフル回転しています。

集会の人数制限もなく、屋内外で大規模イベントが開催されています。さらに、2022年3月29日には、海外からデンマークへの入国者に対する規制や制限措置も撤廃され、デンマークへの出入国も自由になりました。このように、規制はゼロのデンマークですが、高齢者や身体が弱い人への配慮は推奨されています。たとえば、病院や老人ホームなどでは、マスクやフェイスシールドを着用することが推奨されています。

また、コロナ陽性が発覚した場合の自主隔離も推奨されています。ただ、あくまで推奨であって義務ではない上に、陽性から4日後には自己判断で隔離を解除できます。たとえば、無症状や軽い症状(鼻水・喉の痒み・ちょっとした咳など)の場合は、陽性発覚から4日後には自由に外出できますし、明らかに症状が出た場合も、陽性発覚から4日後に症状が軽くなっていれば自己判断で自由に外出できます。尚、コロナ陽性者の同居人には一切の規制がなく、濃厚接触者でも普通に日常生活を送れます。

検査キットで陽性反応が出たときの写真

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

デンマーク政府は最初から一貫してワクチン接種を強く推奨してきました。また、国民も政府を信頼し、積極的にワクチン接種をしてきました。おかげで、国民のワクチン接種率は非常に高く、2022年4月7日時点で3回目接種率(18歳以上)は76%、2回目接種率(12歳以上)は約89%に上ります。

年齢別に見ると、3回目のワクチン接種率は65歳以上の高齢者では約95%に上っています。リスクグループである高齢者のほぼ全員をカバーしているという安心感がデンマークにはあるのです。また、50〜59歳では85%以上、40〜49歳では75%以上、20〜30代では約55%が3回目接種を完了しています。

現在は身体の免疫力が低い人に4回目接種を実施していますが、デンマーク政府によれば、秋以降には一般の人たちに対しても4回目接種が推奨される可能性があります。

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

2022年1月末から2月は、私にとって忘れられない1か月となりました。コロナ報道のため、日本のテレビ局向けにデンマーク現地の動画を何十本も撮影して送る生活でした。そんな思い出ができたのは、デンマーク政府による衝撃的な記者会見があったからです。

2022年1月26日、オミクロン株が蔓延し、1日の新規感染者数が4万人、ときに5万人を超えるなか、デンマーク政府は2月1日から規制を全面撤廃すると発表したのです。理由に挙げられたのは、高いワクチン接種率、高い検査率、重症化しにくいオミクロン株の特性、重症者数の減少などでした。

2022年1月26日、メッテ・フレデリクセン首相の記者会見。EU初の規制全廃へ。

記者会見が行われた当時、保育施設も学校も職場もコロナによる欠席者が続出していました。感染者数もピークアウトしておらず、私から見れば先が見えない状況だったので、デンマーク政府が規制の全面撤廃に踏み切ったことに大きな衝撃を受けました。

急いでそのことを日本のテレビ局に伝えたところ、この記者会見は衝撃ニュースとして取り上げられ、各局から取材依頼が殺到しました。結局、1か月の間に7本の番組制作のために奔走することになり、コペンハーゲンの街や人びとの様子を撮影しては各局に送りました。

コロナを通じて見えてきたのは、デンマーク人の価値観であり、国民性でした。デンマークの人びとは、敵は他人ではなくコロナであるという共通認識を持ち、コロナ対策をめぐって他人を非難しません。必要以上に自粛しない代わりに、他人にも自粛を求めません。また、どんなときも楽しむことを諦めず、可能な範囲で存分に楽しみ、未来を信じて活動を止めません。パンデミックを通じてデンマーク人から学ぶことは多かったように感じます。

コペンハーゲンの街。コロナ報道のための取材中に撮影

最後に、参考までに、デンマークのコロナ対策の特徴をまとめます。

デンマークのコロナ対策の特徴

  • 1.政府による明確なルール設定とわかりやすい説明→国民の政治への信頼
  • 2.政府による長期的なビジョンの提示→今後の生活の見通し
  • 3.シンプルにデジタル化されたシステム→検査・ワクチン接種のしやすさ
  • 4.高い検査率(無料)→高いデータ監視力→小さな変化に即対応可能
  • 5.高いワクチン接種率→重症化予防
  • 6.メリハリのある対策→国民のストレス軽減(ガス抜き)
  • 7.政府のフットワークの軽さ→何かあれば臨機応変に対応してくれる安心感

現在、アフターコロナモードのデンマークですが、デンマーク政府によれば、秋には再び感染者数が増加し、変異株にも注意する必要があるとのことです。ワクチンの4回目接種も視野に入っており、今後の対応が気になるところです。


針貝有佳(はりかい・ゆか):デンマーク語の翻訳者、ライター。デンマーク・ロスキレ在住。ホームページ https://www.yukaharikai.com