マダガスカル(人口約2697万人)
フランス語情報センター翻訳チーム(中平信也、脇るみ子)
WHOの新型コロナ「緊急事態宣言の終了」をうけて、マダガスカルの最近の様子をお伝えしたい。
まずは、コロナウイルス感染状況から。今年5月中旬にマダガスカル公衆衛生省が発表した最新(5月13~19日の1週間)の感染状況は次のとおり。
- 新規感染者数:15人(検査者総数:253人、陽性率:5.9%)
- 新規死亡者数:0人
- 重症者数:0人
最近は、感染者が少なく死者がゼロの傾向が続いている。
次に、WHOのデータをもとに、コロナ発生からこれまで(2023年5月23日まで)のマダガスカルのコロナ禍に関する統計を見てみよう(ワールドデータ・インフォより)[※クリックすると別サイトが開きます]。
- 感染者総数:68,266人(国民の0.25%相当)
- 死亡者総数:1,424人
- コロナ罹患者の死亡率:約2.1%
さらに、同じくWHOのデータから、マダガスカルのワクチン接種については以下のとおり(2023年5月7日までの統計)。
- 初回ワクチン接種者数:2,570,000人(接種率:9.3%)
- 2回目ワクチン接種者数:154,441人(接種率:0.6%)
- ミスを除いた有効ワクチン接種者数:2,490,000人 (接種率:9%)
- マダガスカルの接種率は世界最低レベルである
そして、日本と比較するために、日本の状況に関するWHOのデータ(2023年5月24日まで)を見てみよう。
- 感染者総数:33,803,572人(国民の28%相当)
- 死亡者総数:74,694人
日本とマダガスカルを比較すると、奇妙なことに気づく。国民全体に占める感染者総数の割合(コロナ感染率)が、ワクチン接種率が世界最低水準といわれるマダガスカル(0.25%)よりも、初回ワクチン接種率が80%超の日本(28%)の方が圧倒的に高いのだ。さらに、人口が約5倍の日本の死亡者総数はマダガスカルの52倍にも上るのだ(*)。WHOの提言をよく聞く「優等生」日本よりも、あまり聞かない「劣等生」マダガスカルの方が成績が圧倒的によいのである。
ワクチン接種がコロナ感染防止に有効であるというWHOの見解が正しいとすれば、上述の「優等生」と「劣等生」の成績逆転をもたらした原因を考える必要がある。思い当たるのは、マダガスカルには65才以上の老齢者が少ないことだ。
国連経済社会局の「世界人口推計2019年度版」[※クリックすると別サイトが開きます]によると、マダガスカルの平均寿命は66歳なのだ。そして、コロナ感染が重症化しやすい65歳以上の高齢者は、人口100人あたり、日本の28人に対しわずか3人である。
つまり、総人口に占める65歳以上の高齢者の割合は、日本がマダガスカルの9.3倍である。その分だけ、日本はマダガスカルよりもコロナに脆弱といえる。少なくとも、ワクチンを受けたか受けなかったにかかわりなく、日本の人口構成の老齢化がコロナに罹患しやすくしていたのだろう。
しかしながら、結局は「罹った人の数」と「治った人の数」をベースとする医療統計だけでは、現状を十分に解釈できないのだ。今回は上記の人口動態統計で補完したが、「優等生」と「劣等生」の逆転の理由は、初回で報じた薬草アルテミシアのマダガスカル人による摂取など、まだ他にもあるかもしれない。
コロナの予防や治療に伝統的な薬草かと失笑するのは早計である。何故なら、今日もっともポピュラーな抗がん剤の1つに挙げられるエトポシドは、メギ科の植物の結晶性成分であるポドフィロトキシンを原料とし、1966年に合成された抗悪性腫瘍剤なのである。他にも、針葉樹のセイヨウイチイの成分からは「パクリタキセル」や「ドセタキセル」が、また落葉樹の高木カンレンボクの成分からは「イリノテカン」「ノギテカン」が作り出され、肺癌や大腸がんの化学療法の第一選択薬として日本の臨床現場においても高い支持を得ている。
マダガスカルでは、コロナに関係なく人口の増加が社会問題となっている。ちょうど上記の人口動態統計に各国の人口推移の推算が掲載されていたので、その抜粋を以下に紹介する。
マダガスカルの人口は、増加の一途をたどり、今世紀末には日本を追い抜くと予想されている
ここで人口統計から離れ、最近のマダガスカルの庶民の生活を紹介したい。
1月初旬の国家統計局(INSTAT)の発表によると、マダガスカルでは以下のとおり消費者物価が上昇している。
- 2022年(21年11月~22年10月)消費者物価上昇率は10.8%。
- その内訳は、生活必需品:8.7%、米価:5.6%、家内用品・電気料金:34.5%、運賃・輸送費:20.8%、石油製品を含むエネルギー価格:13.9%、既成食料品・ノンアルコール飲料:12.4%、通信費:0.6%、医療・健康関連費:7.3%
今回の発表では、電気料金と運賃・輸送費の値上りが突出している。また、エネルギー価格の13.9%という上昇も、非産油国のマダガスカルにとっては、消費者物価を押し上げる大きな要因となっている。
エネルギー価格はウクライナ紛争が解決しない限り下降することはないだろうが、ロシアのウクライナ侵攻から1年にあたる今年2月24日に国連総会においてロシア軍の即時撤退を求めるとともに軍事侵攻を非難する議事に対し、マダガスカルは賛成票を投じている。しかしロシアの軍事侵攻を非難する2022年3月2日の国連総会決議ではマダガスカルは「棄権」にまわっていた。今回の「西側主導の正義」への賛成がマダガスカルの物価に悪影響を与えないことを祈りたい。
物価上昇の発表の後の1月下旬にはサイクロン・シュヌソーに、2月には同フレディに見まわれた。南部の干ばつはかなり解消されたが、いずれのサイクロンも10人前後の死者をもたらした。昨年2022年には4つのサイクロンが襲来した。うち1つは100人近い死者をもたらしたので、今年は去年よりは被害が少なかったといえよう。
3月になると、干ばつで痛めつけられた南部でバッタが大量に発生した。この頃は毎年のようにバッタが大量発生する。
3月にはまた、マヨット島への不法移民の渡航失敗が大きく報じられた。マヨット島への不法入国者47人を乗せた小型船が沈没し、22人が死亡したという。報道によると、2022年の1年間でマヨット島に不法入国して同島で国外退去処分となったマダガスカル人は503人。マダガスカル人の多くが、マヨット島に上陸できれば、フランス本国へわたる道が開け、マダガスカルよりも容易な現金収入の道があると考えている。
アフリカ大陸の若者は、自国に夢を持つことができずに、大西洋や地中海をわたって欧州にたどり着こうとしてきた。そして、その多くが途上の大西洋や地中海で海の藻屑となってきた。マダガスカルの場合、一番近い欧州は、モザンビーク海峡に浮かぶフランス海外県のマヨット島である。マダガスカルの若者にとって、モザンビーク海峡が海の墓場にならないよう祈りたい。
*マダガスカルの2019年の人口は2696万9,000人。人口1億2,686万人の日本がマダガスカルの人口と仮定すると、日本の死亡者数はマダガスカルの約11倍の1万5,892人になる。
株式会社フランス語情報センター翻訳チーム:代表の中平信也(なかだいら・しんや)とパートナーの脇るみ子(わき・るみこ)で運営。どちらも日本在住のフランス語通訳・翻訳者。マダガスカルと日本のあいだを定期的に往復している