コロナ終息に向けて:各国レポート最終回(15)コロンビア

 

コロンビア(人口約5127万人)

ゴンサロ・ロブレド

南米コロンビアで最初に新型コロナ感染が確認されたのは、2020年2月でした。感染者は、当時ヨーロッパでもっとも感染が広がっていた拠点の1つであるイタリアのミラノから入国した19歳の女性でした。公式発表では、それから2023年5月までにコロンビアでコロナに感染した人の数は630万人、死亡者は14万2,748人にのぼりました。

「ボゴタでは、マスクはもはや私たち年寄りだけのものよ」と言うのは、コロンビアの首都ボゴタのチャピネロ地区で暮らす70代の女性グラディス・ゲバラさん。チェッピネロ地区には、イエズス会が運営するトップクラスの大学があり、学生向けの文房具店、書店、カフェなどが立ち並ぶ中流階級のエリアです。「この辺りの人の流れは、もうコロナ前と変わらないわ。マスク着用義務があるのは、市内の病院など一部だけ。それ以外の場所では、マスク着用は個人の判断となったし、街でマスクをしているのは高齢者ばっかり」。咳が出たり風邪を引いたりしただけでコロナ感染ではないかと疑って警戒する人は多いものの、コロナに対して恐怖を抱く人はほとんどいなくなったと言います。

パンデミックのレガシー

パンデミックがコロンビアに残したレガシーは何かとグラディスさんに尋ねてみたところ、彼女の答えは、「宅配食の増加」でした。消費者の習慣の変化のなかでもっとも目立つものの1つだそうです。コロナ前は、人々は外食を好み、レストランに宅配を依頼するのは必要に駆られた時だけでした。それが今は、「私がランチに行くレストランでは、週末は店内で食べるお客さんよりも、宅配を頼む人の方が多いそうよ」とのこと。外出をためらうことが減って、多くの人々が以前のようにカフェに集い、ショッピングを楽しむようになりました。一方で、ステイホームのままデリバリーで食品を注文することが、ニューノーマルとなったのです。

一方、看護師のマリア・フェルナンダ・モリーナさんにとってのパンデミックのレガシーは、より哲学的なものでした。彼女はコロナ患者を直接診ることはなかったものの、コロナ禍で「命のはかなさ」を実感し、人生観が変わったそうです。「ウイルスがもたらす多大なリスクに気づき、どうしたらより調和のとれた人生を送れるかと考えるようになりました。命を尊び、小さなことに価値を感じるようになったし、日常の普通の生活に感謝できるようになったわ」

教育に暗い影

新型コロナはラテンアメリカとカリブ海地域に特に甚大な被害をもたらしました。ユニセフは、ある調査で「健康、経済、教育のすべてが複合的に打撃を受け、この地域の人々は三重苦に見舞われた」と報告しています。

そのもっとも深刻な弊害の1つは、学校における欠席率の増加でしょう。パンデミック後、学校に戻りたがらない子供たちが大幅に増えました。多くの自治体は、教師による委員会を立ち上げ、子供たちの家を1軒ずつ訪ねて教室に戻るよう呼びかけるなどの対策をとっています。コロンビアでは、家計を支えるために幼少期から働くことを強いられたり自ら選択したりする子供たちが多く、義務教育から離脱してしまう問題は今に始まったことではありません。しかし、パンデミックはこの状況を明らかに悪化させました。

テクノロジーへのアクセスが困難な世帯の子供は、オンライン授業などに出席できないため、教育格差も広がりました。また学校の閉鎖による給食の休止が、子供たちの健康や栄養面にも影響を及ぼしました。

政治の大変動

前回のレポートでは、パンデミックで不安定な生活を強いられた国民から政権交代を求める声が高まっていると報告しました。支持率アップを図った当時のイバン・ドゥケ政権は、経済を活性化しようと消費税免税の日を数日設けました。多くの人が家電や衣類を買い求め、大衆へのアピールにはなりましたが、財政には貢献しない政策だったと、多くのエコノミストの反応は冷ややかでした。

その後、実際に政権がひっくり返り、2022年8月にはグスタボ・ペトロ政権が誕生しました。保守派の前大統領が、前代未聞の事態にうまく対処できず、コロナによる多くの死者を出して有権者を疲弊させてしまったことが、ペトロ政権誕生を後押ししたと分析されています。若い頃は社会民主主義のゲリラのメンバーだったペトロが、コロンビア史上初の左派の大統領となった歴史的政権交代です。

新政権になって約1年が経ちますが、ペトロ大統領も既存の政治や社会システムのなかで身動きが取れず、期待された成果は上げられていません。まだ希望を捨てていない国民の声に応えられるのか、今後の彼の政治に注目していきたいと思います。


ゴンサロ・ロブレド:コロンビア出身のジャーナリスト。スペイン語翻訳者。1981年より日本在住。スペインのエル・パイス紙に寄稿した記事:
https://elpais.com/autor/gonzalo-robledo/