スロヴェニア(人口約208万人)
木村高子
前回のレポートから1年あまりが経ちました。世界的なパンデミックもようやく終息しそうな気配で、もとの生活が戻ってきつつあるのは嬉しい限りです。
WHOからコロナの緊急事態宣言の終了が発表されたのは、先月のことですが、スロヴェニアではそれより1年前から、徐々に規制緩和されていました。2022年4月にはマスク着用義務が撤廃され、2022年5月14日以降、入店やホテル宿泊など、それまで日常生活のさまざまな場面で提示を求められていたPCT(回復証明[P]、ワクチン接種証明[C]、陰性証明[T]のいずれかの証明書)が不要となりました。
そして今年に入って4月1日以降、新型コロナウイルスも他の呼吸器疾患と同等に扱うことが定められ、ようやくすべての規制が解除になりました。今では街を歩くと、マスクを着用しているのは数十人に1人いるかいないかで、それも高齢者が多いように感じます。空港、そして医療機関でさえ、(外来では)マスクを着用している人はほとんどいません。現在では、新型コロナウイルスへの感染が疑われる場合は、自分でセルフテストを行い、自宅療養することが求められています。
今のスロヴェニアの様子ですが、完全にコロナ前と同じになりました。3年間中断されていた音楽祭などのイベントが再び開催されることになり、また観光客も戻ってきて、今年に入ってから、ここ数年姿を消していたアジア人の団体観光客もたくさん見かけます。観光ガイドの仕事をしている知人も、今年は予定がたくさん入っていると嬉しい悲鳴をあげています。
唯一の変化として、以前はマスクの着用者はそれだけで不審者扱いされかねなかったのに対して、今では着用していてもそういう見方をされなくなりました。また消毒液などを携行して手の消毒などをする人もいますが、そうした人でも、知人とハグしたり頬にキスしたりということに抵抗がなくなったようです。
一方で最近のニュースなどによると、コロナ禍の初期に高齢者施設で多数の方が亡くなったせいで、こうした施設への入居希望者が減少しているとか。また子どもたちや学生のなかには、リモート学習の方が性格的に合っていたというケースもあり、そうした人たちは再び始まった対面式の授業に苦労しているようです。社会が再び機能しだしたことで、かえって生きづらさが増してしまうケースがあるのだとすれば、残念なことです。勤務形態としては出社だけでなくリモート勤務も定着し、またZoomなどによるオンライン会議は今後も活用されると思われます。
この3年間、否応なしに導入された、生活におけるさまざまな選択肢を今後も上手に利用して、より柔軟な社会を実現していきたいものです。
木村高子(きむら・たかこ):英語・フランス語・スロヴェニア語翻訳者。スロヴェニア・リュブリャナ在住