今月の新刊(2016年9月)9冊目

アメリカ 『愛は戦渦を駆け抜けて 報道カメラマンとして、女として、母として』

今月の新刊9冊目は、『ニューヨーク・タイムズ』紙、『ナショナルジオグラフィック』誌などに写真を提供し、ピューリッツァー賞を含む数多くの賞を獲得してきた女性フォトジャーナリストの自伝です。実際に彼女が撮った写真も多数収録されています。

KADOKAWA刊

KADOKAWA刊

「旅をして、アメリカ以外の世界を知りたい」とカメラマンの道を選んだ著者、リンジー・アダリオは、9・11(米同時多発テロ)事件をきっかけに、「対テロ戦争」の現場を飛び回る日々を送るようになります。戦闘を、葬送を、飢餓を目の当たりにし、一枚の写真のためにみずからの命も危険にさらす毎日……。

結婚と妊娠を経験し、何度となく困難な選択を迫られても、リンジーがカメラマンという仕事を離れることはありません。そして彼女は、「ほかの形の幸せもあるとわかってはいても、これがわたしの幸せ」と力強く語ります。

この作品は、スティーブン・スピルバーグ監督、ジェニファー・ローレンス主演で映画化されることが決定しています。書籍とあわせて要チェックです!

(N)

今月の新刊(2016年9月)8冊目

spain 『太陽と痛み』

今月の新刊8冊めは、スペインの書店が年間ベストセラーに選んだ小説『太陽と痛み』です。

早川書房刊

早川書房刊

村じゅうの男たちの捜索の目を逃れてようやく穴から這い出した少年は、北へと歩きつづける。少年を待ち受けていたのは、想像を絶する厳しい自然だった。

どこまでも続く赤褐色の大地に規則正しく並ぶオリーブの木……

この小説では、背景となる場所も年代も書かれてはいません。ですが、これはスペイン南部を訪れたことのある人ならすぐに思い浮かべる情景なのだそうです。

やがて、少年は年老いたヤギ飼いと出会い旅路をともにするうちに、次第に心通わせていく……

少年がなぜ逃亡しているのかも、ヤギ飼いの過去についてもここには書かれていません。ですが、二人と追っ手をとおして、強者と弱者、善と悪……といった対峙する二つのタイプの普遍的な人間像が浮き彫りになっていきます。

荒野を灼く「太陽」と歩みつづける少年と老人の「痛み」を描く、魂の彷徨の物語。

タイトルも詩的なら、大地にたたずむヤギと男の子のデッサン画による表紙も素敵です。

秋の夜長、スペインワインと生ハムを片手にいかがでしょうか。

(Y)

今月の新刊(2016年9月)7冊目

italia 『パードレはそこにいる』

9月はリベル翻訳本が続々オフィスに届いています。今月の新刊7冊めは、イタリアでベストセラーとなったミステリ『パードレはそこにいる』。

「パードレ」は英語の「father」にあたる言葉。原題のUccidi il Padreは「パードレを殺せ」という意味だそうです。なんとも物騒なタイトルですが……

早川書房刊

早川書房刊

ローマで女性が惨殺され、その幼い息子が行方不明に。ひそかに捜査をまかされたのが、警察官コロンバと、失踪人捜索専門のコンサルタント、ダンテ。

じつはこのふたり、それぞれ心に大きな傷を抱えています。コロンバはある事件の捜査中に大怪我を負い、現在休職中。ダンテには、6歳で誘拐されて11年間監禁されていたという壮絶な過去が……。そんなふたりが力を合わせて大活躍します。

上・下巻ですが、一気読み必至。著者は現在続編を執筆中とのこと。早く読みたいです!

(N)

今月の新刊(2016年9月)6冊目

france 『格差と再分配――20世紀フランスの資本』

世界累計200万部、日本で14万部超を売り上げた『21世紀の資本』。
辞書のように分厚く、内容も硬い経済書がそんなに売れるとは……と話題沸騰し、著者のトマ・ピケティの名は、日本でも一躍有名になりました。

その『21世紀の資本』のネタ本ともいえるのが本書です。
格差の構造をあぶりだすために、フランスの20世紀の100年間にわたる税務データを分析。
その徹底ぶりと細かさは、学者とはこんなにも地道な調査をコツコツとつみあげるものなのか……と実感させてくれます。

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早川書房刊

用語チェックなどをお願いした経済学の先生が原書をごらんになって、「こ、これ、ホントにフランス語から全部訳すんですか!」とおっしゃっただけあって、ボリュームは『21世紀~』よりさらに多く、なんと日本語版で1100ページ超!

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厚さ5センチ超!

ゲラだけでこの量になりました……。

ゲラの山

ゲラの山

そして、フランス語の翻訳者8人、経済学の先生お2人、編集者さん、校正者さん……と、じつにたくさんの方のチームワークで、ついにできあがりました!

書店、図書館などで見かけたら、この中身がぎゅっと詰まった本をぜひ手に取ってみてください。

(Y)

今月の新刊(2016年9月)5冊目

アメリカ 『オープン・オーガニゼーション』

レッドハット(Red Hat)という会社をご存じでしょうか。
オープンソース・ソフトウェア(たとえばLinux)を利用したビジネスを展開する世界的企業です(本社はアメリカ)。

2007年にデルタ航空のCOO(最高執行責任者)からレッドハットに転じたジム・ホワイトハースト社長兼CEO(最高経営責任者)が、成長しつづける組織をつくる最先端のマネジメントをみずから解説したのが本書です。

日経BP社刊

日経BP社刊

たとえば、
・誰のアイデアでも、平等に競わせる
・影響力は肩書きではなく、生み出した価値に基づく
・縦よりも横のコミュニケーションが重要である
・自発的な関与を重んじる
・「何を?」より「なぜ?」が重視される
……といったことに触れられています。

「未来に活躍できる組織をすでに体現した企業」といわれるレッドハットの経営の秘密を知ることのできる、魅力的な一冊です。

(S)

 

今月の新刊(2016年9月)4冊目

sweden_2 『熊と踊れ』

9月の新刊4冊目は、北欧ミステリの超話題作『熊と踊れ』。

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早川書房刊

「スウェーデンを震撼させた現実の事件をモデルに、怒濤の筆力で書き上げられた最強の北欧ミステリ」(早川書房HPの紹介文より)。読み始めたら止まらないと、すでにあちこちで評判になっています。

熊とはだれなのか、なぜ熊と踊るのか……

著者は、アンデシュ・ルースルンドとステファン・トゥンベリ。
英国推理作家協会賞や北欧最大のミステリ賞「ガラスの鍵」賞ほか数々の受賞歴を誇り、世界的な北欧ミステリ・ブームを牽引する存在であるルースルンドと、今回新たにコンビを組んだシナリオライターのトゥンベリ。二人の手になる極上のミステリをお楽しみください。

じつはこの作品、ハヤカワ・ミステリ文庫創刊40周年記念作品ということで、刊行前に書店などに配る「上下合本版見本」もつくられました。1118ページという圧巻の厚さです。

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上下合本版見本(非売品)

書店のハヤカワ・ミステリ文庫コーナーで『熊と踊れ』を見かけましたら、ぜひお手にとってみてください。

(S)

青森からの到来物

 青森からシードルがたくさん届きました。

そのうちの1本は、弘前シードル工房の「きもりシードル」。
上品な味わいに、思わずうっとり。

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Kimori Cidre

シードルには、カフェオレボウルもよく似合います。

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ごちそうさまでした。

(S)

今月の新刊(2016年9月)3冊目

アメリカ 『森の人々』

今月の新刊、3冊目はフィクション作品です。

人類学者の調査に同行し、南洋の島イヴ・イヴに渡った若き免疫学者ノートン・ペリーナ。島で彼を待ち受けていたのは、ふしぎな部族と、食すと不老不死になる幻のカメだった……!

光文社刊

光文社刊

奇想天外な物語なのに、ノンフィクションを読んでいるかのようなリアリティがあり、引き込まれること間違いなし。いろいろな方向へと心を揺さぶられる、力強い作品です。

本書でデビューした著者のハニヤ・ヤナギハラは、2作目のA Little Life(2015)がブッカー賞、全米図書賞の候補となるなど、いま注目の作家。

日本版の装丁もすてきですが、原書(とくにハードカバー版)の装丁も、物語のさまざまな要素を含んでいて、かっこいいです。

■原書ハードカバー版のカメ

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■原書ソフトカバー版のカメ

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■アロハシャツを着ているようなカメ(Kindle版)

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(N)

今月の新刊(2016年9月)2冊目

Denmark 『ISの人質――13カ月の拘束、そして生還』

今月の新刊の2冊目は、「イスラム国」に拘束されたデンマーク人カメラマンの過酷な体験を、女性ジャーナリストがまとめたノンフィクション作品。

光文社刊(光文社新書)

2013年、紛争地域の人々を撮影するためシリアに入国したカメラマン、ダニエルが消息をたった。まもなく、家族のもとにISを名乗る組織からメールが届く。
「ダニエルを返してほしければ、200万ユーロを現金で払え」……

拘束までの過程、拷問の様子、家族や友人の思い、人質解放にむけた水面下での交渉、自国民のために身代金を払えないデンマーク政府の葛藤などが、綿密な取材をもとに生々しい言葉で語られています。

​「イスラム国」の監獄の実態を描いた​衝撃の一冊です。

 (K)

「ニュー・スパニッシュ・ブックス」

 先日、東京のスペイン大使館でおこなわれた「ニュー・スパニッシュ・ブックス(New Spanish Books)」のイベントにうかがってきました。

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New Spanish Booksの書籍紹介

スペイン大使館経済商務部が運営するニュー・スパニッシュ・ブックスは、日本で翻訳出版が可能なスペインの書籍を紹介するウェブサイトで、年に一度、六本木のスペイン大使館で「日本向けおすすめ書籍」の紹介イベントも主催しています。

今年も、編集者や研究者の5人の皆さんによって、おもしろそうな本がたくさん紹介されました。

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書籍紹介のあとは、大使館内で部屋を移動して恒例のレセプション。
ワイン、生ハム、チーズ……それにおいしいピンチョスが盛りだくさん。
スペイン産の飲みもの、食べものを片手に、あちらこちらで書籍談義、翻訳談義、スペイン談義に花が咲いていました。

(S)