今月の新刊(2016年9月)8冊目

spain 『太陽と痛み』

今月の新刊8冊めは、スペインの書店が年間ベストセラーに選んだ小説『太陽と痛み』です。

早川書房刊

早川書房刊

村じゅうの男たちの捜索の目を逃れてようやく穴から這い出した少年は、北へと歩きつづける。少年を待ち受けていたのは、想像を絶する厳しい自然だった。

どこまでも続く赤褐色の大地に規則正しく並ぶオリーブの木……

この小説では、背景となる場所も年代も書かれてはいません。ですが、これはスペイン南部を訪れたことのある人ならすぐに思い浮かべる情景なのだそうです。

やがて、少年は年老いたヤギ飼いと出会い旅路をともにするうちに、次第に心通わせていく……

少年がなぜ逃亡しているのかも、ヤギ飼いの過去についてもここには書かれていません。ですが、二人と追っ手をとおして、強者と弱者、善と悪……といった対峙する二つのタイプの普遍的な人間像が浮き彫りになっていきます。

荒野を灼く「太陽」と歩みつづける少年と老人の「痛み」を描く、魂の彷徨の物語。

タイトルも詩的なら、大地にたたずむヤギと男の子のデッサン画による表紙も素敵です。

秋の夜長、スペインワインと生ハムを片手にいかがでしょうか。

(Y)

今月の新刊(2016年9月)7冊目

italia 『パードレはそこにいる』

9月はリベル翻訳本が続々オフィスに届いています。今月の新刊7冊めは、イタリアでベストセラーとなったミステリ『パードレはそこにいる』。

「パードレ」は英語の「father」にあたる言葉。原題のUccidi il Padreは「パードレを殺せ」という意味だそうです。なんとも物騒なタイトルですが……

早川書房刊

早川書房刊

ローマで女性が惨殺され、その幼い息子が行方不明に。ひそかに捜査をまかされたのが、警察官コロンバと、失踪人捜索専門のコンサルタント、ダンテ。

じつはこのふたり、それぞれ心に大きな傷を抱えています。コロンバはある事件の捜査中に大怪我を負い、現在休職中。ダンテには、6歳で誘拐されて11年間監禁されていたという壮絶な過去が……。そんなふたりが力を合わせて大活躍します。

上・下巻ですが、一気読み必至。著者は現在続編を執筆中とのこと。早く読みたいです!

(N)

今月の新刊(2016年9月)6冊目

france 『格差と再分配――20世紀フランスの資本』

世界累計200万部、日本で14万部超を売り上げた『21世紀の資本』。
辞書のように分厚く、内容も硬い経済書がそんなに売れるとは……と話題沸騰し、著者のトマ・ピケティの名は、日本でも一躍有名になりました。

その『21世紀の資本』のネタ本ともいえるのが本書です。
格差の構造をあぶりだすために、フランスの20世紀の100年間にわたる税務データを分析。
その徹底ぶりと細かさは、学者とはこんなにも地道な調査をコツコツとつみあげるものなのか……と実感させてくれます。

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早川書房刊

用語チェックなどをお願いした経済学の先生が原書をごらんになって、「こ、これ、ホントにフランス語から全部訳すんですか!」とおっしゃっただけあって、ボリュームは『21世紀~』よりさらに多く、なんと日本語版で1100ページ超!

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厚さ5センチ超!

ゲラだけでこの量になりました……。

ゲラの山

ゲラの山

そして、フランス語の翻訳者8人、経済学の先生お2人、編集者さん、校正者さん……と、じつにたくさんの方のチームワークで、ついにできあがりました!

書店、図書館などで見かけたら、この中身がぎゅっと詰まった本をぜひ手に取ってみてください。

(Y)