コロナ終息に向けて:各国レポート(22)チェコ

Czech

コロナ禍のチェコで感じた、助け合いの心とユーモア

岡戸久美子

チェコでは3月初旬に初の感染者が見つかったころから警戒が強まり、WHOのパンデミック宣言翌日の12日には政府が緊急事態宣言を発令、強硬策を次々と打ち出しました。ロックダウンの経緯と状況については、すでにレポートされているスロヴェニアとよく似ています。ですので、ここでは私が「ちょっと他の国とは違うかも?」と感じたエピソードについてご紹介したいと思います。

ロックダウン開始から数日後に出されたマスク着用令(スカーフ等で口を覆うのも可)。他の欧州諸国と同様に、普段マスク姿の人を見かけることは皆無だったチェコで、発令直後から街中ではほぼ100%の人が素直に口を覆うようになっていました。それだけでも驚きでしたが、SNSでは#rouskyvsem(みんなにマスクを)や#mask4allなどのハッシュタグとともに、家族や隣人のために家にある布を使ってマスクを手作りする姿をアップする人が続々と現れ、カラフルな布マスクが一気に広まりました。困っている人たちにもマスクが届くようにと「Damerousky(マスクあげます)」サイトも誕生。そのような動きを見た政府は食料品店などのほかに手芸品店も営業を許可し、寄付などでマスクを送る際は郵便局が無料で対応してくれることになりました。

それまではマイペースで個人主義の人が多い印象のチェコでしたが、今回の件では、みんなでルールを守り、助け合って早く危機を脱しようという政府と人びとの団結を見た気がします。

そんな中でもユーモアを忘れないのがチェコ人。銅像(偉人の銅像だけでなく動物の像にも)にマスクをかけたり、ヌーディストビーチで日光浴をする人びとに警官が「裸になるのは構わないが、口だけは覆うように」注意したり、といったニュースもありました(まじめな顔でおかしなことをするのがチェコ人の愛すべき特徴だと私は勝手に思っています)。

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チェコといえばビールです。日本ではベルギーやドイツがビールの国として有名だと思いますが、実は、チェコは国民ひとりあたりのビール消費量がダントツで世界一なのです。醸造所も大小さまざま、無数にあります。今回のロックダウンでレストランやパブが閉鎖になり、行き場のなくなったビールやピンチに陥った小さな醸造所たちを救うためのサイトも誕生しました。その名も「zachranpivo.cz(ビールを救え)」です。サイトを開くと、そこにはビールジョッキのマークに埋めつくされたチェコの地図が。パブで飲めなくなった代わりに、このサイトで気になる醸造所を見つけて注文・購入できるという仕組みで、329の醸造所がこのサイトに登録されているようです。

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https://zachranpivo.cz/より引用

うちの近所のパブには「お店は閉めていますが、ビールを買いたい方はお電話を」という張り紙がありました。ロックダウンで外飲みはできなくなったものの、家にいる時間が長くなり、けっきょくは、アルコールの消費量が増えてしまったという家庭は我が家だけではなさそうです。

政府の早めの対応と国民の協力が功を奏したのか、事態は収束に向かい、5月17日には緊急事態宣言も解除されました。店舗の営業再開、スポーツやイベント活動の許可など、段階的な規制緩和が進められることになっています。もちろん第2波の恐れもあり、油断はできませんが、どんな困難な状況でも助け合い、楽しむことを忘れずに乗り切っていく、そんなチェコの人びとの姿を見習っていきたいと思います。


岡戸久美子(おかど・くみこ):英語翻訳者、通訳者。チェコ共和国北西部在住。