コロナ終息に向けて:各国レポート(23)ルワンダ

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内陸国であるルワンダのリーダー達に学ぶ

吉田香奈子

ルワンダは、東アフリカにある内陸国で、コンゴ民主共和国、ウガンダ、タンザニア、ブルンジに囲まれています。3月14日にコロナウイルス感染者第1号が確認されてから1週間で、政府は国境、空港を封鎖、国内の移動も規制することを決めました。それからすぐに、ウイルス感染は世界的に拡大していきましたが、世界各国政府の反応に比べ、ルワンダ政府の反応はとても早かったと思います。その後も感染者が爆発的に増えることもなく2か月がたち、6月以降は自由に移動できるようになるのでは、と期待されているところです。

一方で、現在、国内の新規感染者数がなかなか減少せず、そんなに早くは移動規制が緩和されないかもしれないという話もあり、不透明な先行きに国民のモヤモヤも高まってきています。これには、ルワンダならではの事情が絡んでいるように思います。

内陸国のルワンダは、生活必需品を海外から輸入しないと経済が立ちゆきません。国境封鎖中とはいえ、生活必需品については輸入が認められています。特に、発電については、その約半分を水力発電でまかなっているとはいえ、まだ約4割は火力発電であるため、タンザニアから陸路で石油を輸入しています。

ところが、4月下旬、タンザニアから国境を超えてくるトラック運転手の間で感染者が急増しました。当初は、タンザニアから越境してきた運転手に対して、国境を警備している警察が積荷を国境に置いて帰国するようにと指示をしていたようですが、運転手は仕向地まで積荷を持っていかないと報酬をもらえません。そこで、運転手と警察の間で暴力を交えた緊迫したやりとりがあったようです。5月中旬には、ルワンダ政府とタンザニア政府によって国境を往来する運転手についてのテレビ会議が行われ、お互いの運転手に対する検査義務と、タンザニアからルワンダに入国した運転手のモニタリングについての合意がなされました。それでも、トラック運転手のコロナ感染者数はいまだに抑えられていないようです。

ルワンダは内陸国であることに加えて、1994年に部族間の大虐殺を体験しました。だからこそ、国民が分断されるような言説を生み出すことについて、ルワンダのリーダーは厳格で慎重です。先の大虐殺は、人口の大多数派のフツ族が、政治経済の実権を握る少数派のツチ族に対して蜂起し、民族ごと粛清しようとしたとされています。実際は、旧宗主国のベルギーが植民地を統治しやすくするために、便宜上この2つの部族を区分けし、意図的に住民を分断した歴史があるとも言われています。大虐殺がそんな虚構の対立の上に発生してしまった、という苦い経験から、ルワンダのリーダー達は、国民を分断するような物言いに対して大変厳格です。

たとえば、コロナ感染者第1号は国際機関に勤務するインド人の出張者だったのですが、このニュースとともに、コロナ感染とは全く関係のない、市内でスーパーマーケットを経営する在留インド人の身分証明書の写真が、ソーシャルメディア上で広まりました。思えば、キガリ市内で外貨の両替商やコンピューター用品を扱う商店を経営しているのは、そのほとんどがインド系であり、地元のルワンダ人からしたら、繁盛しているインド人たちを見るのが面白くなかったのかもしれません。

インド人店主の写真が流布したことについて、ルワンダ政府は素早く厳格に対処しました。曰く「この情報は虚偽である。今後はコロナ感染者については当局の情報のみを信用すること。虚偽の情報を流布した者は厳しく処罰する」と政府が発表すると、それ以降“あの人たちは感染しているかもしれない”という感染リスク・グループについてのうわさもパタリとなくなりました。

タンザニアからやってくるトラック運転手に感染者が多い、という事実がある一方で、国民によるタンザニア人排斥の言論を認めず、コロナ感染を抑制するという目的に建設的に取り組もうとするルワンダのリーダー達から得ることは多いと思います。とはいえ、5月中旬から、新規感染者の出身国や職業が発表されなくなってしまい、感染者数の実態が見えなくなってしまったのは困ったものだと苦笑いしています。

6月1日時点で、国境封鎖が続いており、外出規制も続きそうな見通しですが、隣国との繋がりを大事にし、国内の分断を許さない「ルワンダ流」のリーダーシップに、私たちが学ぶことは多そうです。


吉田香奈子(よしだ・かなこ):ルワンダ・キガリ在住の主婦。夫は国際NPOに勤務している。