コロナ終息に向けて:各国レポート第三弾(2)インド、バングラデシュ

インド bangladesh

インド(人口約13.66億人)、バングラデシュ(人口約1.63億人)

大橋正明

①新型コロナウイルス感染状況について、いまはどうなっていますか?

連日インドメディアは、自国の悲惨な状況とそれに対応した外国支援の動きを伝えている。実際5月13日時点のインドでは、4月以来新規感染者数がどんどん増え続け、5月6日には1日に41万人以上、死亡者数も4,000人を超した。病床や酸素の不足に加えて、医療インフラが乏しい地方への広がりも報じられている。この原因は、感染力が強いとされるインドの変異株が広がったこと、インドの与党BJP(インド人民党)の支持者が多いヒンドゥー教徒数千万人が参加するクンブメーラという大祭が通常どおり開催されたこと、いくつかの州で行われた州選挙でBJPなどが大規模集会を開催したことなどだろう。

インドの新規感染者数も、ここ数日は多少の減少を見せ、5月20日には約26万人になった。これ減少が持続的になるかは、もう少し様子を見る必要がある。この新しい変異株は、日本にとっても脅威になりかねない。

インドの爆発的感染拡大は、北隣のネパールでも西隣のパキスタンでもほぼ同様だが、ピークがインドより少し早い。ネパールでは1日の新規感染者が9,300人ほどの5月11日がピークで、その後少し減少を見せた。しかしその後、再び増加の気配もみせている。一方パキスタンでは、1日の新規感染者が6,000人を超えた4月中旬がピークで、その後少しずつ減少が続き、5月中旬には2,500人程度になったが、ネパールと同様にその後再び上昇している。

インドとミャンマーに挟まれたバングラデシュは、今回の流行のピークがパキスタンよりさらに早く、4月11日に新規感染者が約7,600人に上った。4月11日以降減少に転じ、5月半ばに1,000人以下になったが、5月18日には1,272人になりその後増加が続いている。

インドの新規感染者数も、ここ数日は多少の減少を見せている。インドがパキスタンやバングラデシュのような持続的減少に転じるかは、もう少し様子を見る必要がある。

②ワクチン接種については、どのように進められ、現在(執筆時点)、どのような状況ですか?

インドは世界で最も早く今年の1月中旬に予防接種を始めた国のひとつで、自国で開発や生産したワクチンを周辺国とも無償・有償でシェアしていた。5月13日の時点で1回でも接種を受けた人数は1.76億人と多いが、13億人を超す人口のうち、2回接種を終えたのは2.8パーセントでしかなく、まだ多くの国民が取り残されている。

その一方、前述のインド国内での爆発的な感染拡大で、ワクチンが国内でも不足しはじめ、予定していた近隣諸国への輸出や国際枠組みCOVAX(*)への提供がストップしただけでなく、ワクチン輸入に転じた。

バングラデシュはインドより少し遅れたが、同じ1月、インド製ワクチンを使って接種を開始した。5月13日時点で、1回でも接種を受けたのは931万人で、2回終えた人の割合は2.1パーセントである。先述のインドの状況変化でインドからの輸入が止まったことで、バングラデシュ政府は急遽中国やロシアを含めた他国からの輸入を模索しているが、かなり先になりそうだ。

その結果、そうした国々からの影響力が南アジアで強まることを、インドもバングラデシュも心配している。一方、これらの2国よりかなり遅れて接種が始まった日本だが、おそらくまもなく接種率で逆転するだろう。インドと南アフリカがWTO(世界貿易機関)に提案し米国を含めた多数の国が支持している、Covid-19対策関連の知的財産権の一時停止が早急に実現しないと、ワクチン生産には時間がかかり、貧しい国へのワクチンの適正価格での提供はさらに遅れるだろう。

*新型コロナウイルスワクチンを共同購入し途上国などに分配する国際的枠組み。WHO主導により、2020年に発足。

③現在(執筆時点)、国や自治体からの規制や制限、援助がありますか?

インドの中央政府は、このパンデミックへの対応策を州政府に任せている。例えばデリー首都圏政府は、4月19日からロックダウンを始め、その後3回延長して、現在も続いている。インド第三の大都市コルカタを抱える西ベンガル州政府も、しばらく前から行動制限していたが新規感染者の増加が止まらず、5月16日から交通機関、オフィスやモール、学校の授業やあらゆる集会などを月末まで完全停止する。他の大都市や州も大同小異だ。

バングラデシュ政府も4月14日からロックダウンを開始し、同様に延長を繰り返し、5月23日までロックダウンの予定だ。公立の小学校も一年以上閉鎖が続いており、一部でオンライン授業が行われているが受講できない子どもも多く、教育の遅れや格差は深刻な問題だ。

南アジアでの感染拡大を受け、日本政府は5月12日から当分のあいだ、インド、バングラデシュ、パキスタン、ネパールからの日本人を除く来日者については、「特段の事情」がない限り上陸拒否を始めた。

⑤近況について、ご自由にお書きください。

このようななか、ミャンマーから逃れバングラデシュの人口密度の高いキャンプ地で暮らす100万人ほどのロヒンギャ難民では、巷ほどのコロナ大流行が報告されていないことは不幸中の幸いだった。しかし、5月21日から1週間、ロヒンギャキャンプもCOVID-19の流行でロックダウンが始まった。これまでに 823 人のCovid-19の患者で、12人の死者(1.5パーセント)とのこと。このため、食料配給と医療関係以外の活動が停止された。

WHOの報告によると、4月11日までの時点でロヒンギャの患者の総数は465 人で死者10人(2.2パーセント)だったので、わずか40日間で新規患者が358人、新規死者が2人(0.6パーセント)増えたことになる。

「誰も取り残さない」を掲げるSDGsの時代に、この難民たちへのワクチン接種は、いつ誰の負担で行われるのだろうか。


大橋正明(おおはし・まさあき):聖心女子大学教授、聖心女子大学グローバル共生研究所客員研究員、SDGs市民社会ネットワーク共同代表、シャプラニール=市民による海外協力の会監事、日本バングラデシュ協会会長 。