コロナ終息に向けて:各国レポート第三弾(3)アイルランド

アイルランド

アイルランド(人口約490.4万人)

石川麻衣

①新型コロナウイルス感染状況について、いまはどうなっていますか?

1日の感染者数は300人から400人の間を2か月ほどさまよっている状態ですが、病床利用率は1月のピーク時に比べれば大幅に下がりました。カトリック教徒が大半を占めるアイルランドでは、クリスマスは欠かすことのできない行事。クリスマスに合わせて去年の12月に規制を一気に緩めたのが大きな間違いでした。これを機に感染者数が跳ね上がり、変異種の影響もあって数字が下がらす、レベル5のロックダウンが5か月間も続きました。

レストラン(一部、テイクアウトは継続)、パブ、小売店、プール、理髪店、劇場、映画館、ジムなどすべてクローズ。仕事や身内の介護といったやむを得ない理由がない限り、活動範囲は5キロメートル圏内にとどめなければなりませんでした。

クリスマス前に一時的に賑わったダブリンの中心街

クリスマス前に一時的に賑わったダブリンの中心街

②ワクチン接種については、どのように進められ、現在(執筆時点)、どのような状況ですか?

昨年末あたりから、医療従事者や高齢者を優先にワクチン接種がはじまりました。70歳以上のグループに入る夫も4月末にワクチン1回目を、5月頭に2回目を無事に接種。ワクチン接種に関わっている近所の看護師さん曰く、目立った副反応の事例はあまり聞かないそうです。夫も痛くもかゆくもなかったようで、その日の終わりには打ったことすら忘れていました。

現時点(5月23日)で、全人口の10.5パーセントが2回目の接種を終えています。高齢者や、医療従事者、重症化するリスクの高い人たちなどの優先グループを経て、今月から40代の人たちの受付が開始されます。一時は、登録しているGP(一般開業医)から直接「接種しに来てください」と連絡が来るかたちでしたが、4月15日より、69歳以下の年齢層は、国の政府機関が運営するHSE(国民保険サービス)のウェブサイト上で予約するようになりました。

基本的に滞りなく進んでいますが、ワクチン接種予約を含む国民保険サービスシステムがロシアを拠点とする犯罪集団によるサイバー攻撃を受け、現在、大きな問題になっています。

③現在(執筆時点)、国や自治体からの規制や制限、援助がありますか?

最近は、「ウォークイン・テスト・センター」が各地にでき、症状がなくても予約なしに立ち寄って無料で検査ができる施設が開設されました。

④変異株の広がり、もしくはワクチン接種普及の前後で、日常生活や街の様子など変わったことがあれば教えてください。

アイルランドの冬は夜が長く、太陽の当たる時間が短いのですが、冬の暗さとロックダウンが相まって、青少年が非常に不安定でした。多くの労働階級(貧困層)がコロナ禍で職を失うことにより、アイルランドに根付いた階級差がさらに表面化したように思います。

長期化した学校閉鎖も影響したのか、労働階級の住む地域で、青少年の犯罪が目立ちました。去年のハロウィン前後は花火の投げ合いが問題になり、冬の間は、ご近所さんの車の窓が立て続けに割られ、殺傷事件が後を絶ちませんでした。家の近くでは、有望視されていたサッカー少年がナイフを使った喧嘩に巻き込まれて亡くなり、また職場からの帰宅途中だった50代のアジア系女性も若い男の子に首を刺されて亡くなりました。

警察が没収したナイフは、数えきれません。そして規制が緩みつつあるいま、今度はストレスを溜めた若者1,000人以上が夜な夜なダブリンのとある広場に集い、酔っ払って大暴れ。苦情が相次ぎ、広場そのものが閉鎖されるという事態に発展しました。

長い冬を終えて、ようやく春を迎えた頃は、こちらの春の象徴でもあるスイセンの花が多くの人の心を癒しました。また、アイルランドには渡り鳥や野鳥が多くみられます。パンデミックを機に鳥を観察する人が爆発的に増えたとか。私もそのひとりです。鳥の種類の多さに魅了され、鳥の写真が100枚以上もたまってしまいました。規制が緩和されてから少し足を伸ばして野鳥を見に行くようになったものの、まだ店は閉まっていて公共トイレもゼロなので、トイレ対策が意外と大変です。

春の到来を告げる水仙。多くの人々を元気づけました

春の到来を告げるスイセン。多くの人々を元気づけました

⑤近況について、ご自由にお書きください。

コロナ禍で影響を受けた人への失業手当(補助金)が6月末で打ち切られるといわれていますが、もう少し延ばしてほしいという声もあります。近所でも、かつてお店があった場所が売りに出されているようで、「売り出し」の看板が目立ちます。在宅勤務になるだけで特に影響を受けなかった人や、多忙極まりない日々から逆に解放された人がいる一方で、職を失い、精神疾患に悩む人も増え、メンタルヘルス・サービスが追いついていない状態です。実際、ロックダウン中にドラッグ使用者が大幅に増えたと言われています。

定期的にダブリンの中心で行われているロックダウン反対デモには、陰謀説を信じる不思議な宗教団体の存在もあり、それが目立つ一方で、コロナ禍で職を失ったごく普通の人たちも参加しています。しかし、1年間の空白期間を経て発表された演劇作品は優れたものばかりです。長い間家にこもって自分自身と向き合った末に良い作品が生まれているのかもしれません。

そんななか、アイルランドの科学コンクールで、16歳の男の子が「3分間入れるだけで、入れたものがウィルスフリーになるケース」なるものを発明し、最優秀賞を受賞しました。そんな微かな希望を感じつつ、かたやコロナ疲れを少し感じながらも、夏は少し遠出して田舎でささやかな「ステイケーション(国内旅行)」を楽しもうと思っています。

鳥を観察する人が激増。ダブリンに生息する野鳥のひとつ、オオジュリン

鳥を観察する人が激増。ダブリンに生息する野鳥のひとつ、オオジュリン


石川麻衣(いしかわ・まい):通訳、英日翻訳家(主に演劇、芸術関係)、ナレーター。国際演劇協会会員。アイルランド・ダブリン在住。