コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(27)ニュージーランド

ニュージーランド(人口約495万人)

目時能理子

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

前回(2021年6月)のレポートでは、市中感染もなく、コロナとは無縁の日常生活を送ることができたニュージーランドでしたが、デルタ株の到来とともに感染者が増え、政府は最大都市オークランドで再び完全なロックダウンを行いました(2021年8月)。しかし完全に感染を抑えることはできず、やがてオミクロン株が流行り出すと、政府は「ウイルスの感染拡大を遅らせる」というようになり、ゼロコロナは事実上断念された形となりました。一時期(2022年2月下旬~3月上旬)は1日に2万人以上の新規陽性者を数えたニュージーランドですが、5月11日現在の政府発表による感染状況は、国内の新規陽性者数7,970人となっており、入院中の患者は381人、死亡者28人、累計の死亡数は902人となっています。

線の左側はワクチンパスをもっている人だけが入れます

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

現在はワクチンパスポートの事実上の強制はなくなったニュージーランドですが、今年の4月までは、接種2回以上の人のみに発行されるワクチンパスポートがなければ、図書館をはじめ、ほとんどの建物に立ち入ることが許されず、飲食店での飲食は拒絶され(持ち帰りは可)、医療や教育従事者は解雇されるという非常に厳しい政策がとられていました。私の周囲にも、仕事を失わないために泣く泣くワクチン接種をした人が多くいます。マスク着用に関しては、現在も公共交通機関でのマスク着用は義務化され、外に出る時はマスク着用が奨励されています。学校は対面授業が再開しましたが、大学など一部ではリモート授業のみという状況がつい最近まで続いていました。

ワクチン接種会場

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

昨年後半に感染者数が増え出すと政府は接種者にクーポン等給付などワクチン接種キャンペーンを大々的に行いました。報道にも偏りが見られ、また上述したようにワクチンを打たないと行動や日常生活が著しく制限され、さらに失職の危機に瀕する政策もあって、対象となる人口の9割以上が2回接種を完了しています。3回目に関しては、71%が接種済みと発表されています。

接種状況からもわかるとおり、ニュージーランドでは比較的容易にワクチン接種が受け入れられました。しかし、日常生活で接種者と未接種者を区別する場面が多く見られたことから両者の間で分断が起きているように思います。フードコートでは飲食店の床が線で区切られ、線の向こう側のテーブル席にはワクチンパスをもつ接種者のみが立ち入り可能という現場を見た時は、複雑な気持ちになりました。自由と平等な国だったはずのニュージーランドですが、新たな局面を迎えているように個人的には感じられます。

ある日のサタデーマーケット。マスクはしていたりしていなかったり

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

2年以上、国境を閉じていたニュージーランドですが、徐々に外国からの訪問者を受け入れ始め、8月からは旅行者を含むすべてのビザ保持者の受け入れを再開すると発表されました。今後は、諸外国に倣って「ウィズコロナ」になっていくのでしょう。ニュージーランドの重要な産業である観光や留学受け入れも再び活発になっていくものと思われます。 パンデミックが起こってからの一連の動きを見て今思うのは、当初、厳格なロックダウンをニュージーランドで実施することができたのは、政府にそれを可能にする力があったからで、その力はワクチンを推進する際にも強烈に発揮されました。ある意味、自粛要請にとどまる日本とは対照的な経緯をたどったわけですが、どちらがいいのか自問自答する日々です。


目時能理子(めとき・のりこ):イタリア語・英語翻訳家、英語・イタリア語コーチ、ニュージーランド・オークランド在住だったが、最近日本に帰国