コロナ終息に向けて:各国レポート第三弾(17)オランダ

netherlands

オランダ(人口約1728万人)

國森由美子

①新型コロナウイルス感染状況について、いまはどうなっていますか?

オランダでは、ワクチン接種の効果があらわれ始めたのか、新型コロナウイルス感染拡大については落ち着いてきたようです。昨年の同時期にはなにもかもが不確実・不安定だったことを思うと、今は社会全体に安堵の空気が漂っているのが感じられます。

5月末に政府による緩和策の発表がありました。4月末から数えて第三段階目です。これにより、約半年に渡りテイクアウトとデリバリーのみでしのいでいたカフェやレストランなど飲食店の屋内での営業、閉鎖されていた博物館・美術館の再オープンなど、6月5日より規制が緩和されました。ただし、感染予防対策や事前予約の継続が条件です。

4月末の第一段階の緩和では、入店前に要予約など一定の条件下で、飲食店の屋外のテラスが再オープンしました

4月末の第一段階の緩和では、入店前に要予約など一定の条件下で、飲食店の屋外のテラスが再オープンしました

以下、政府がさまざまな数値情報を提供しているコロナ・ダッシュボードよりグラフを引用して、前回2020年8月末のレポート以降の推移を記してみます。

コロナ・ダッシュボードより新規感染者数の推移グラフ

コロナ・ダッシュボードより新規感染者数の推移グラフ

第一波が過ぎたオランダでは、新学期(学年の始まり)とともにふたたび感染者が増え、第二波が押しよせました。ある意味、予測どおりでした。

検査数の拡大やマスク着用を推進しつつ、増加の一途をたどる感染者数に歯止めをかけようと、オランダ政府は教育機関の秋休みが始まる直前の10月13日、ふたたび半ロックダウンに踏み切りました。さらに、新規感染者が一日につき約9,000人に上ったことから、12月14日、ルッテ首相はコロナ禍における二度目のスピーチを全国民に向けて行い、措置の厳格化を発表しました。

本来ならば家族や友人どうしで楽しむイベントの多い時期ですが、最も厳しいハード・ロックダウンでした。これで、秋からしばらく条件つきで開館していた屋外屋内の文化・スポーツ・レジャー施設はすべて閉鎖、生活必需品を扱う店以外はオンライン、テイクアウトあるいはデリバリーのみの営業、教育機関もオンライン授業となりました。クリスマスに家庭に招くことのできる人数もほんのわずか(12歳以下の子どもを除いて最大3名まで)、不要不急の旅行はせず自宅に留まるようにとの政府からの要請、大晦日恒例の花火も禁止という状況での年越しでした。

賑わいのない年末年始が過ぎた今年2021年1月23日からは、英国型や他の変異株への懸念が深刻になったこともあり、夜間外出禁止(午後9時から午前4時30分まで)の措置が取られました。これは延長を重ね、約3ヶ月後の4月29日にようやく完全解除になりました。

ヨーロッパのほかのいくつかの国では第一波の頃から夜間外出禁止措置が導入されていましたが、オランダではこの1月に出された禁止令は、第二次世界大戦のナチスドイツ占領時以来、初めてのことでした。戦時下とはまるで異なる状況とはいえ、国民の行動の自由を大きく束縛することになるので、政府にとっても苦渋の決断だったのではないかと思います。

政府側が苦労してその都度措置を発表していたのはわかりましたが、かたや政府高官や王室の面々にうかつな規制違反など、国民を落胆させるようなお粗末な失態も見られました。

それでも大部分の国民が規制を順守していた一方で、政府に反抗するデモ、若者の集団による店舗や公共物の破壊、医療従事者や関連機関に対する攻撃的な行為などが増えてしまい、警察隊による取り締まりも頻繁に行われるようになりました。わたし自身はそんなようすを間近に目にすることはありませんでしたが、ニュースの映像の中ではかなりシュールな光景がくり広げられていました。

2月からの第三波は若い年代を中心に感染が広まりました。この時期には〈家庭内感染〉という言葉をよく耳にしたように思います。ワクチン接種の始まっていた高齢者では、目に見えて感染者が減りました。3月半ばには総選挙があり、政治的な混乱もありました。そんなこんなで、4月ごろまでは混沌としていました。

②ワクチン接種については、どのように進められ、現在どのような状況ですか?

オランダはヨーロッパ内で最も遅いと国民から批判されていましたが、それでも今年1月6日より、医療・介護従事者や高齢者、知的障碍(がい)者、その関連施設の入居者を優先してワクチン接種が進められました。接種数は当初は徐々に、4月からは急激に増えています。政府のコロナ・ダッシュボードを見ると、6月6日現在、接種総数は約1040万回となっています。

優先順位の高いグループは接種過程をすでに終了しています。現時点での一日あたりの新規感染者数は約1,600人。政府としては、成人(18才以上)の希望者全員が8月末までに接種を完全に終了する計画です。オランダでは、1回で終了するヤンセン(ジョンソン&ジョンソン)接種の人も一部います。感染症の専門家は、英国ではワクチンの2回目を接種済みの人々がインド変異株に感染している例もあるので、まだしばらくは気を緩めずに過ごす必要があると述べています。

筆者も1回目の接種を受けました。オランダでは、順番が来ると政府から個人宛に〈ワクチン接種のご招待〉と印刷された通知が封書で届きます。そこにワクチンの説明や必要事項の記された書類が同封されていて、ネットか電話で申し込みをするようになっています。

筆者の場合は所定のウェブサイトにアクセスして申し込みましたが、1回目、2回目とも同時に申し込む仕様になっていました。当日、必要書類や身分証明書を持参して指定された会場へ予約時刻に行くと、混乱もなく、接種もスムーズに終了しました。

副反応はありました。発熱、接種した側の上腕の張り、肩や首の凝り、首筋や首もと(鎖骨の上あたり)のリンパ腺の腫れなど、10日ほどかかってようやく元どおりになった感じがします。ですが、副反応の個人差は大きいようです。

*オランダ政府のコロナ・ダッシュボードは、オランダ語のみならず、英語でも見ることができます。以下、同ウェブサイトの英語バージョンへのリンクを記しておきます。さまざまな数値について、さらにご興味がおありでしたら参考になさってください。
https://coronadashboard.government.nl/landelijk/vaccinaties

③現在(執筆時点)、国や自治体からの規制や制限、援助がありますか?

前述のとおり、4月末より夜間外出禁止が解除されましたが、基本的な予防策(手洗い、1.5mの距離、所定の場所でのマスク着用)については継続するよう要請されています。PCR検査の数は昨秋からは軌道に乗り、保健所のホットライン経由で予約を取り、誰もが手軽に受けられ迅速に結果もわかる態勢が整ってきました。

これまでオンライン授業を併用していた中・高等学校が来る6月7日より完全に対面授業となります。聞くところによると、生徒全員が事前に無料配布されるキットで簡易検査をし、予防対策をしながらの登校となるようです。

スーパーの入口にて。ボードには、①店内マスク着用義務、②カートあるいはカゴの使用義務、③1.5mの距離、④一人で入店と書かれています。右の容器はサニタイザー

スーパーの入口にて。ボードには、①店内マスク着用義務、②カートあるいはカゴの使用義務、③1.5mの距離、④一人で入店と書かれています。右の容器はサニタイザー

④変異株の広がり、もしくはワクチン接種普及の前後で、日常生活や街の様子など変わったことがあれば教えてください。

恐れられていたアルファ(英国発の変異)株については、それほど猛威を奮うということはありませんでした。当時オランダは入国制限をしており、ちょうど今年1月からブレグジット(*)開始だったことともなにか関連があったかもしれません。

でも、英国でのワクチン接種はオランダよりも先に進められていたため、その効果については大いに参考になっただろうと思われます。また、最近になって主に英国でふたたび騒がれ始めたデルタ(インド発の変異)株は、オランダではまだほとんど見られないとのことです。

総じて、飲食店や小売店、企業や役所、教育関係で在宅テレワークやオンライン授業を余儀なくされていた方々は実に大変そうで、そろそろ限界ではないかと思っていた4月ごろに、ワクチン接種がようやく加速し始めました。

*英国の欧州連合(EU)離脱のこと。Britain(英国)とexit(離脱)を掛け合わせた造語。

⑤近況について、ご自由にお書きください。

個人的には、暮らしが激変したわけではなく、昨年から抱えているオランダ語の文芸作品の翻訳(刊行までまだしばらくかかります……)、ほんの数人ながらピアノの個人レッスン、そして家事・雑用をしながら過ごしています。ピアノの出張レッスンは、一人につき週に一度、一時間弱くらいで、引き続き対面のまま続けています。

朗報もありました。これまで4年ほどみていた小学生が、音楽院のヤングタレントコースの入試にめでたく合格したことです。この子は8月末の新学期から音楽院内に併設されている小学校に通いながら、さらに専門的なピアノのレッスンを受けることになります。小学生にも残念なことが少なくなかっただろうと思われるこのコロナ禍の最中でも、未来への一歩を踏み出すお手伝いができたような気がして、嬉しく思っています。

おそらく、今回のウイルスが完全に消滅することはなく、また、ワクチンを接種すれば絶対大丈夫というわけでもないでしょうが、もう、どうかこのまま終息して、ふつうに暮らせるようになってほしいと切に願っているところです。

自宅裏の水路にて。毎年白鳥が子育てしています

自宅裏の水路にて。毎年白鳥が子育てしています


國森由美子(くにもり・ゆみこ):オランダ語文芸翻訳者、音楽家。オランダ・ライデン在住。