モザンビーク(人口約3000万人)
森本伸菜
①新型コロナウイルス感染状況について、いまはどうなっていますか。
モザンビークでは感染者数は増えてはいますが、欧米ほどの急激な増加はなく、医療機関の逼迫も起こっていません。6月1日時点での感染者総数は7万850人、死者は836人にとどまっています。1、2月には1日の感染者数が700人にもなりましたが、今は過去1週間の一日平均は31人です。
隣の南アフリカ発の南ア変異種は世界に広がっていますが、南ア自体の感染者数も1月初旬の1日の1万7000人以上から6月1日時点では3,600人にまで下がっています(しかし2週間前の感染者数は1,700人にまで減っていたことを考えると、最近のこの増加傾向は、第3波が始まっていることを示しているのかもしれません)。
世界中の専門家がアフリカで広がると酷いことになると心配していましたが、なぜかそうなってはいません。あえてその理由を考えてみると、ひとつに、人口密度の低さが挙げられるのではないかと思います。その意味でやはり、人口密度が高い首都マプトは感染者数も多いのが実情です。また、先進国では新型コロナウイルスの感染拡大が始まった当初には高齢者施設でクラスターが発生し入所者が多数亡くなったと耳にしましたが、そのような施設がアフリカにはないことも理由のひとつかもしれません。
②ワクチン接種については、どのように進められ、現在(執筆時点)、どのような状況ですか?
医療従事者のワクチン接種は終了しています。現在は45歳以上の人と免疫系疾患のある人が対象になっています。登録などはなく、単に身分証明書を持って病院に行けばよいだけです。現在モザンビークで使われているワクチンはアストラゼネカとシノバックです。近所の60歳代のイタリア人の友人はすでにワクチンを受けたと言っていました。今のところワクチン接種率は人口の0.2パーセントです(ジョンスホプキンスのデータより)。
また、南アフリカ変異種が騒がれていますが、モザンビークでコロナの変異種まで調べることはおそらくできないと思います。
③現在(執筆時点)、国や自治体からの規制や制限、援助がありますか?
第2回目のレポートでお知らせしましたように、モザンビークでは2020年4月に緊急事態宣言が発出されましたがその延長は3回までと憲法で決まっております。そのため、2020年9月から公的災害宣言(State of Public Calamity)に変更し、宣言期間を何回でも延長することができる法律にしました。6月1日現在の規制は以下の通りです。
- 夜の11時から朝4時までの戒厳令
- 商業施設や会社は朝9時から午後7時まで営業可。ただしレストランは夜9時まで可。
- モザンビークにいる外国人はビザなどの滞在許可証の有効期限が切れている場合、6月末まで有効期限が自動的に延長される(毎月見直すので、宣言が延長されれば、また翌月末まで有効になるようです)。
- 宗教集会、会議などの人数は、屋内の場合の上限は75人、野外の場合は150人まで。
- 結婚式のために集まる人数は20人まで可、しかし他の社交的集まりは禁止。
- マスク着用は義務。フェイスシールドはマスクに代わるものではない。
- ゲームセンター、レジャー・スポーツ施設は休業。
- 公共のプールは定員の30パーセントまで可。
- ディスコ、バーは休業。
- 酒の販売は酒屋、食品店、スーパーマーケットでのみ可、なお午前8時から午後1までに限る。
- ビーチは今月(6月)から水泳とウォーキングは解禁。数人で集まったり、日光浴したりするのは禁止。
- カジノ、劇場、博物館、美術館など文化施設は定員の40パーセントまで可。
- 大きなスポーツジムは定員の40パーセントまで。小さなジムは休業。
- ホテルのプールは宿泊客に限って使用可。
- 海外からの入国者は新型コロナウイルス陰性証明書を提示する義務がある。
このように、人数を制限して営業を認める、営業時間も少しずつ長くするなど、規制緩和に向かっていることは確かです。もちろん休業などによる補償や援助は全くありません。
学校は通常授業に戻っています。しかし幼稚園はまだ休園です。
⑤近況について、ご自由にお書きください。
さて、私たちは首都マプトから北500キロの海岸にある小さなリゾート地、トーフで日本食レストランと小さな宿B & Bをやっております。昨年6月から少しずつ営業を再開してきました。最初は食事の持ち帰りのみ、そして週末のみの営業を3か月ほどやり、その後は通常営業に戻しましたが、国からの規制で5月までは夜8時までしか営業できませんでした。今月からは夜9時まで可能になっています。
昨年12月末、経営するB & Bの宿泊客1人の感染がわかり、1か月の休業に追い込まれました。当然PCR検査がスタッフ全員に行われましたが、その結果が出てきたのは3週間後で、ウェイターの3人と私の夫も感染していることがわかりました。しかし、検査結果が出てきたときにはすでにスタッフ全員の2週間の隔離は終わり、病状が出たスタッフも回復しておりました。結果が出るのに3週間もかかる状況なので、その結果の信ぴょう性はちょっと疑問です。夫は陽性でしたが、無症状。私と2人の子どもは陰性でした。
まだバーは営業できませんが、食事と共にアルコールを提供することは認められています。そのため、もっと飲んでいたいお客さんに毎晩9時に帰ってもらうのはひと苦労です。一方、そこを狙って、9時10分頃警察官と飲食店の衛生管理をする保健所の人が見回りにやってきます。この先の成り行きはご想像にお任せします。
上記の規制で5月まで閉鎖されていたビーチが今月から再開されましたが、許可されているのは水泳とウォーキングだけ。砂浜に座ったり日光浴をしたりするのは依然禁止。ウォーキングも「通り抜ける感じ」の歩き方と言われています。
ここトーフ・ビーチは水がきれいで観光名所となっています。普段は、週末や連休になると近隣の市町村はもとより、遠くはマプトからも人が押し寄せます。「押し寄せる」と言っても、日本の夏のようにビーチが混むことはないのですが、それでも水泳とウォーキング以外が禁止されているのは、おそらく、バスなどの移動で人との距離を取れなくなる状況が多い、また人の移動は感染の拡大につながるという理由からだと理解しています。
これらビーチの規制はトーフ全体の経済に大きな影響を与えています。しかし、泳ぐだけで、立ち止まって海を見るだけでも咎められそうな状況では国内の観光客はまだ戻ってこないでしょう。
もうひとつ、私たちの趣味であるサーフィンはビーチが再開されてもまだ禁止されたままです。そこで仲間と作っているサーフィン協会でサーフィンを許可してくれるように嘆願書を書き、州書記官に面会しました。それが功を奏して許可され、最新のビーチ規制に関する布告に含まれているのを見たときは、大きな成果を勝ち取った気分でした。1年以上サーフィンもできず、身も心も内に籠っていたものをようやく発散できるようになりました。
毎年、7、8月(当地では冬ですが)は、ヨーロッパからの観光客でホテルはほぼ埋まりますが、昨年はコロナで国境が閉鎖されたため、海外からの観光客はありませんでした。しかし、逆に、例年この時期ヨーロッパに帰る首都マプトの外国人達が帰省できず、トーフを訪れて長期間滞在していました。今年の夏はどうでしょう?
ヨーロッパのコロナ状況が下火になってきているので、今年はそれぞれの国に帰省する人が多いと思います。国境は開いているので、ヨーロッパからの観光客も来るかもしれません。しかし、それも全てそれぞれのコロナの状況によるので予想は難しいです。
私たちの生活は、友達とディナーやパーティーで行き来できないのが普通になってしまいました。今はごく親しい一家族とだけ月に一度会うぐらいです。
幼稚園の休園で2歳と5歳の子どもたちは、友達に会えない半孤立状態が1年以上続き、恥ずかしがり屋になり社交性を失くしたように見えます。いまや感染を怖れるというより、誰にも会わないのがノーマルになってしまったというのが現実です。最近は長く会っていない友達に会うように心がけています。
私は今、「以前のノーマルライフを少しでも早く取り戻したい」、という強い思いに駆られています。
森本伸菜(もりもと・のびな):モザンビーク・トーフで日本食レストラン「すみバー・アンド・キッチン」を南アフリカ人の夫と経営。現地の子どものためのコミュニティなどの活動に深く関わっている。