コロナ終息に向けて:各国レポート最終回(15)コロンビア

 

コロンビア(人口約5127万人)

ゴンサロ・ロブレド

南米コロンビアで最初に新型コロナ感染が確認されたのは、2020年2月でした。感染者は、当時ヨーロッパでもっとも感染が広がっていた拠点の1つであるイタリアのミラノから入国した19歳の女性でした。公式発表では、それから2023年5月までにコロンビアでコロナに感染した人の数は630万人、死亡者は14万2,748人にのぼりました。

「ボゴタでは、マスクはもはや私たち年寄りだけのものよ」と言うのは、コロンビアの首都ボゴタのチャピネロ地区で暮らす70代の女性グラディス・ゲバラさん。チェッピネロ地区には、イエズス会が運営するトップクラスの大学があり、学生向けの文房具店、書店、カフェなどが立ち並ぶ中流階級のエリアです。「この辺りの人の流れは、もうコロナ前と変わらないわ。マスク着用義務があるのは、市内の病院など一部だけ。それ以外の場所では、マスク着用は個人の判断となったし、街でマスクをしているのは高齢者ばっかり」。咳が出たり風邪を引いたりしただけでコロナ感染ではないかと疑って警戒する人は多いものの、コロナに対して恐怖を抱く人はほとんどいなくなったと言います。

パンデミックのレガシー

パンデミックがコロンビアに残したレガシーは何かとグラディスさんに尋ねてみたところ、彼女の答えは、「宅配食の増加」でした。消費者の習慣の変化のなかでもっとも目立つものの1つだそうです。コロナ前は、人々は外食を好み、レストランに宅配を依頼するのは必要に駆られた時だけでした。それが今は、「私がランチに行くレストランでは、週末は店内で食べるお客さんよりも、宅配を頼む人の方が多いそうよ」とのこと。外出をためらうことが減って、多くの人々が以前のようにカフェに集い、ショッピングを楽しむようになりました。一方で、ステイホームのままデリバリーで食品を注文することが、ニューノーマルとなったのです。

一方、看護師のマリア・フェルナンダ・モリーナさんにとってのパンデミックのレガシーは、より哲学的なものでした。彼女はコロナ患者を直接診ることはなかったものの、コロナ禍で「命のはかなさ」を実感し、人生観が変わったそうです。「ウイルスがもたらす多大なリスクに気づき、どうしたらより調和のとれた人生を送れるかと考えるようになりました。命を尊び、小さなことに価値を感じるようになったし、日常の普通の生活に感謝できるようになったわ」

教育に暗い影

新型コロナはラテンアメリカとカリブ海地域に特に甚大な被害をもたらしました。ユニセフは、ある調査で「健康、経済、教育のすべてが複合的に打撃を受け、この地域の人々は三重苦に見舞われた」と報告しています。

そのもっとも深刻な弊害の1つは、学校における欠席率の増加でしょう。パンデミック後、学校に戻りたがらない子供たちが大幅に増えました。多くの自治体は、教師による委員会を立ち上げ、子供たちの家を1軒ずつ訪ねて教室に戻るよう呼びかけるなどの対策をとっています。コロンビアでは、家計を支えるために幼少期から働くことを強いられたり自ら選択したりする子供たちが多く、義務教育から離脱してしまう問題は今に始まったことではありません。しかし、パンデミックはこの状況を明らかに悪化させました。

テクノロジーへのアクセスが困難な世帯の子供は、オンライン授業などに出席できないため、教育格差も広がりました。また学校の閉鎖による給食の休止が、子供たちの健康や栄養面にも影響を及ぼしました。

政治の大変動

前回のレポートでは、パンデミックで不安定な生活を強いられた国民から政権交代を求める声が高まっていると報告しました。支持率アップを図った当時のイバン・ドゥケ政権は、経済を活性化しようと消費税免税の日を数日設けました。多くの人が家電や衣類を買い求め、大衆へのアピールにはなりましたが、財政には貢献しない政策だったと、多くのエコノミストの反応は冷ややかでした。

その後、実際に政権がひっくり返り、2022年8月にはグスタボ・ペトロ政権が誕生しました。保守派の前大統領が、前代未聞の事態にうまく対処できず、コロナによる多くの死者を出して有権者を疲弊させてしまったことが、ペトロ政権誕生を後押ししたと分析されています。若い頃は社会民主主義のゲリラのメンバーだったペトロが、コロンビア史上初の左派の大統領となった歴史的政権交代です。

新政権になって約1年が経ちますが、ペトロ大統領も既存の政治や社会システムのなかで身動きが取れず、期待された成果は上げられていません。まだ希望を捨てていない国民の声に応えられるのか、今後の彼の政治に注目していきたいと思います。


ゴンサロ・ロブレド:コロンビア出身のジャーナリスト。スペイン語翻訳者。1981年より日本在住。スペインのエル・パイス紙に寄稿した記事:
https://elpais.com/autor/gonzalo-robledo/


コロナ終息に向けて:各国レポート最終回(14)スロヴェニア

 

スロヴェニア(人口約208万人)

木村高子

前回のレポートから1年あまりが経ちました。世界的なパンデミックもようやく終息しそうな気配で、もとの生活が戻ってきつつあるのは嬉しい限りです。

WHOからコロナの緊急事態宣言の終了が発表されたのは、先月のことですが、スロヴェニアではそれより1年前から、徐々に規制緩和されていました。2022年4月にはマスク着用義務が撤廃され、2022年5月14日以降、入店やホテル宿泊など、それまで日常生活のさまざまな場面で提示を求められていたPCT(回復証明[P]、ワクチン接種証明[C]、陰性証明[T]のいずれかの証明書)が不要となりました。

そして今年に入って4月1日以降、新型コロナウイルスも他の呼吸器疾患と同等に扱うことが定められ、ようやくすべての規制が解除になりました。今では街を歩くと、マスクを着用しているのは数十人に1人いるかいないかで、それも高齢者が多いように感じます。空港、そして医療機関でさえ、(外来では)マスクを着用している人はほとんどいません。現在では、新型コロナウイルスへの感染が疑われる場合は、自分でセルフテストを行い、自宅療養することが求められています。

数多くのレストランが参加して毎週金曜日に開かれるオープンキッチン。いつも混み合っています

今のスロヴェニアの様子ですが、完全にコロナ前と同じになりました。3年間中断されていた音楽祭などのイベントが再び開催されることになり、また観光客も戻ってきて、今年に入ってから、ここ数年姿を消していたアジア人の団体観光客もたくさん見かけます。観光ガイドの仕事をしている知人も、今年は予定がたくさん入っていると嬉しい悲鳴をあげています。

唯一の変化として、以前はマスクの着用者はそれだけで不審者扱いされかねなかったのに対して、今では着用していてもそういう見方をされなくなりました。また消毒液などを携行して手の消毒などをする人もいますが、そうした人でも、知人とハグしたり頬にキスしたりということに抵抗がなくなったようです。

一方で最近のニュースなどによると、コロナ禍の初期に高齢者施設で多数の方が亡くなったせいで、こうした施設への入居希望者が減少しているとか。また子どもたちや学生のなかには、リモート学習の方が性格的に合っていたというケースもあり、そうした人たちは再び始まった対面式の授業に苦労しているようです。社会が再び機能しだしたことで、かえって生きづらさが増してしまうケースがあるのだとすれば、残念なことです。勤務形態としては出社だけでなくリモート勤務も定着し、またZoomなどによるオンライン会議は今後も活用されると思われます。

毎年5月中旬に開催される、高校最終学年のための集会。お揃いのTシャツを着て、スロヴェニア各地で一斉に踊ったりして、1日を目一杯楽しみます

この3年間、否応なしに導入された、生活におけるさまざまな選択肢を今後も上手に利用して、より柔軟な社会を実現していきたいものです。


木村高子(きむら・たかこ):英語・フランス語・スロヴェニア語翻訳者。スロヴェニア・リュブリャナ在住


コロナ終息に向けて:各国レポート最終回(13)アメリカ

 

アメリカ合衆国(人口約3億人)

N.K.

今年5月5日に世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス感染症に関する「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の終了を発表し、それに続いてアメリカでも5月11日に新型コロナウイルス感染症に関する国家非常事態宣言が解除された。これまでこのレポートシリーズで報告してきたジョンズ・ホプキンス大学による新型コロナウイルス感染者数のデータ収集と報告業務もすでに今年3月10日で終了しており、日常生活においてはもはやコロナ禍ではないと感じさせられる。

コロナ禍以前の生活に戻りつつあるものの、アメリカは世界最多のコロナウイルス感染者数を記録した。WHOの報告によると、2023年5月23日現在のアメリカ国内の感染者は累計1億343万6,829人、死亡者数は112万7,152人となった。最近では感染状況も落ち着き、また感染しても症状が軽く、検査をせずに自宅療養で完治するケースも少なくないため、実際の感染者数はもっと多いのだろう。

新型コロナワクチンについては、現時点で人口の約81%が1回目を、約70%が接種完了とされる2回目を接種しているが、3回目のブースター接種は約17%に留まっている。今でもワクチン接種を促すポスターなどを目にすることはあるが、話題にのぼることはほぼないように思う。

昨年2月、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)はコロナウイルス感染対策のガイドラインを簡素化して、各州の群単位で感染状況に応じた3つのリスク段階(Low, Medium, High)に分類した。リスクが低い(Low)地域では、マスクの着用は個人の判断によるが、公共交通機関ではマスクの着用を推奨、自治体によってはマスクの着用を義務付けられる場合もある。リスクが中程度(Medium)の地域では、免疫障害等のある人は屋内でのマスクや呼吸器を着用し、また、感染した場合に重症化する可能性のある人と接触する場合には事前に感染検査を受け、室内で一緒にいる際にはマスクの着用を検討するよう推奨。リスクが高い(High)地域では、屋内ではマスクを着用し、重症化する可能性のある人は感染の可能性のある場での不要不急の活動を避けるよう推奨。しかし、ここ1年ほどは一時期の爆発的な感染も見られず落ち着いた状況が続いており、ほぼアメリカ全土でリスクが低い状態が続いている。

ウイルス感染が広がり始めた2020年3月、私の勤める大学でもリモート授業に移行したが、一部の授業を除き、翌年8月末の新年度からは対面授業に戻った。当初はマスク着用、パーテーションの設置、机の除菌などの対策を徹底していたが、2022年3月にはCDCのガイドラインに沿って大学でも屋内でのマスク着用が任意になり、その頃には私たちの感染対策への意識も以前ほどの緊張感はなくなっていたようだ。同年8月には大学がある地域は再びリスクが高い(High)とされ、屋内でのマスク着用、及び、キャンパス内の寮に入寮する学生のPCR検査が求められたが、すぐにまたリスクが低い(Low)状態に戻り、それ以来マスク着用も個人の判断となっている。

現在、スーパーなどではソーシャル・ディスタンスを促すサインなどが貼られたままになっているところもあるが、実際に気にしている人はいないようだ。屋内の人数制限や店舗の営業制限なども特にない。アメリカではもう屋内でもマスクをしている人はほぼいない、と日本では報道されているようだが、 実際にはマスク着用者はさほど珍しくない。地域にもよるが、特にバスなどの公共交通機関では、マスクをしている乗客や運転手をよく見かける。娘の通う高校ではマスクをしている生徒はほとんどいないそうだが、大学の教室では今年に入ってもマスクをしている教員や学生は少数だがまだいる。

毎年4月ごろ、変わらずきれいな花を咲かせるヒメリンゴの木

日常生活では、コロナ感染が広がり始めた当初の行動制限はなくなったが、職種によってはまだリモートワークを続けている人も少なくない。私の大学でも、週に数日在宅ワークをしている事務職員が多い。また、通常の学期は対面授業をしているが、5月に始まったサマープログラム(夏季講座)のなかには、オンラインで開講されているものもある。大学付近のアパートや寮に滞在しなくても授業を履修できるという利点を活かして、自宅から履修できるリモート授業を希望する学生がある程度いるということだろう。また、教員同士のミーティングや学生への個別指導や相談への対応なども、私自身、時間を効率的に使えるなどの便宜上、場合によってはオンラインでの対応を続けている。コロナ禍でやむなく始めたオンライン形態での働き方・学び方も、今となっては選択肢が増えることに繋がったようだ。

前述のとおり、今年5月11日にアメリカで新型コロナウイルス感染症に関する国家非常事態宣言が解除されると、アメリカに入国する外国人に対するワクチン接種証明の提示も不要になった。同時に、ウイルス感染拡大を理由に2020年3月に発動された「タイトル42」と呼ばれる入国規制も解除され、今後しばらく中南米からの移民が殺到することが予想されており、当面は難しい対応を迫られそうだ。


N.K.:大学講師。アメリカ東部在住


コロナ終息に向けて:各国レポート最終回(12)マダガスカル

 

マダガスカル(人口約2697万人)

フランス語情報センター翻訳チーム(中平信也、脇るみ子)

WHOの新型コロナ「緊急事態宣言の終了」をうけて、マダガスカルの最近の様子をお伝えしたい。

まずは、コロナウイルス感染状況から。今年5月中旬にマダガスカル公衆衛生省が発表した最新(5月13~19日の1週間)の感染状況は次のとおり。

  • 新規感染者数:15人(検査者総数:253人、陽性率:5.9%)
  • 新規死亡者数:0人
  • 重症者数:0人

最近は、感染者が少なく死者がゼロの傾向が続いている。

次に、WHOのデータをもとに、コロナ発生からこれまで(2023年5月23日まで)のマダガスカルのコロナ禍に関する統計を見てみよう(ワールドデータ・インフォより)[※クリックすると別サイトが開きます]。

  • 感染者総数:68,266人(国民の0.25%相当)
  • 死亡者総数:1,424人
  • コロナ罹患者の死亡率:約2.1%

さらに、同じくWHOのデータから、マダガスカルのワクチン接種については以下のとおり(2023年5月7日までの統計)。

  • 初回ワクチン接種者数:2,570,000人(接種率:9.3%)
  • 2回目ワクチン接種者数:154,441人(接種率:0.6%)
  • ミスを除いた有効ワクチン接種者数:2,490,000人 (接種率:9%)
  • マダガスカルの接種率は世界最低レベルである

そして、日本と比較するために、日本の状況に関するWHOのデータ(2023年5月24日まで)を見てみよう。

  • 感染者総数:33,803,572人(国民の28%相当)
  • 死亡者総数:74,694人

日本とマダガスカルを比較すると、奇妙なことに気づく。国民全体に占める感染者総数の割合(コロナ感染率)が、ワクチン接種率が世界最低水準といわれるマダガスカル(0.25%)よりも、初回ワクチン接種率が80%超の日本(28%)の方が圧倒的に高いのだ。さらに、人口が約5倍の日本の死亡者総数はマダガスカルの52倍にも上るのだ(*)。WHOの提言をよく聞く「優等生」日本よりも、あまり聞かない「劣等生」マダガスカルの方が成績が圧倒的によいのである。

ワクチン接種がコロナ感染防止に有効であるというWHOの見解が正しいとすれば、上述の「優等生」と「劣等生」の成績逆転をもたらした原因を考える必要がある。思い当たるのは、マダガスカルには65才以上の老齢者が少ないことだ。

国連経済社会局の「世界人口推計2019年度版」[※クリックすると別サイトが開きます]によると、マダガスカルの平均寿命は66歳なのだ。そして、コロナ感染が重症化しやすい65歳以上の高齢者は、人口100人あたり、日本の28人に対しわずか3人である。

つまり、総人口に占める65歳以上の高齢者の割合は、日本がマダガスカルの9.3倍である。その分だけ、日本はマダガスカルよりもコロナに脆弱といえる。少なくとも、ワクチンを受けたか受けなかったにかかわりなく、日本の人口構成の老齢化がコロナに罹患しやすくしていたのだろう。

しかしながら、結局は「罹った人の数」と「治った人の数」をベースとする医療統計だけでは、現状を十分に解釈できないのだ。今回は上記の人口動態統計で補完したが、「優等生」と「劣等生」の逆転の理由は、初回で報じた薬草アルテミシアのマダガスカル人による摂取など、まだ他にもあるかもしれない。

コロナの予防や治療に伝統的な薬草かと失笑するのは早計である。何故なら、今日もっともポピュラーな抗がん剤の1つに挙げられるエトポシドは、メギ科の植物の結晶性成分であるポドフィロトキシンを原料とし、1966年に合成された抗悪性腫瘍剤なのである。他にも、針葉樹のセイヨウイチイの成分からは「パクリタキセル」や「ドセタキセル」が、また落葉樹の高木カンレンボクの成分からは「イリノテカン」「ノギテカン」が作り出され、肺癌や大腸がんの化学療法の第一選択薬として日本の臨床現場においても高い支持を得ている。

マダガスカルでは、コロナに関係なく人口の増加が社会問題となっている。ちょうど上記の人口動態統計に各国の人口推移の推算が掲載されていたので、その抜粋を以下に紹介する。

マダガスカルの人口は、増加の一途をたどり、今世紀末には日本を追い抜くと予想されている

ここで人口統計から離れ、最近のマダガスカルの庶民の生活を紹介したい。

1月初旬の国家統計局(INSTAT)の発表によると、マダガスカルでは以下のとおり消費者物価が上昇している。

  • 2022年(21年11月~22年10月)消費者物価上昇率は10.8%。
  • その内訳は、生活必需品:8.7%、米価:5.6%、家内用品・電気料金:34.5%、運賃・輸送費:20.8%、石油製品を含むエネルギー価格:13.9%、既成食料品・ノンアルコール飲料:12.4%、通信費:0.6%、医療・健康関連費:7.3%

今回の発表では、電気料金と運賃・輸送費の値上りが突出している。また、エネルギー価格の13.9%という上昇も、非産油国のマダガスカルにとっては、消費者物価を押し上げる大きな要因となっている。

エネルギー価格はウクライナ紛争が解決しない限り下降することはないだろうが、ロシアのウクライナ侵攻から1年にあたる今年2月24日に国連総会においてロシア軍の即時撤退を求めるとともに軍事侵攻を非難する議事に対し、マダガスカルは賛成票を投じている。しかしロシアの軍事侵攻を非難する2022年3月2日の国連総会決議ではマダガスカルは「棄権」にまわっていた。今回の「西側主導の正義」への賛成がマダガスカルの物価に悪影響を与えないことを祈りたい。

物価上昇の発表の後の1月下旬にはサイクロン・シュヌソーに、2月には同フレディに見まわれた。南部の干ばつはかなり解消されたが、いずれのサイクロンも10人前後の死者をもたらした。昨年2022年には4つのサイクロンが襲来した。うち1つは100人近い死者をもたらしたので、今年は去年よりは被害が少なかったといえよう。

3月になると、干ばつで痛めつけられた南部でバッタが大量に発生した。この頃は毎年のようにバッタが大量発生する。

3月にはまた、マヨット島への不法移民の渡航失敗が大きく報じられた。マヨット島への不法入国者47人を乗せた小型船が沈没し、22人が死亡したという。報道によると、2022年の1年間でマヨット島に不法入国して同島で国外退去処分となったマダガスカル人は503人。マダガスカル人の多くが、マヨット島に上陸できれば、フランス本国へわたる道が開け、マダガスカルよりも容易な現金収入の道があると考えている。

アフリカ大陸の若者は、自国に夢を持つことができずに、大西洋や地中海をわたって欧州にたどり着こうとしてきた。そして、その多くが途上の大西洋や地中海で海の藻屑となってきた。マダガスカルの場合、一番近い欧州は、モザンビーク海峡に浮かぶフランス海外県のマヨット島である。マダガスカルの若者にとって、モザンビーク海峡が海の墓場にならないよう祈りたい。

*マダガスカルの2019年の人口は2696万9,000人。人口1億2,686万人の日本がマダガスカルの人口と仮定すると、日本の死亡者数はマダガスカルの約11倍の1万5,892人になる。


株式会社フランス語情報センター翻訳チーム:代表の中平信也(なかだいら・しんや)とパートナーの脇るみ子(わき・るみこ)で運営。どちらも日本在住のフランス語通訳・翻訳者。マダガスカルと日本のあいだを定期的に往復している


コロナ終息に向けて:各国レポート最終回(11)イタリア

 

イタリア(人口約6036万人)

アヤ・ナカタ

コロナ禍が残したもの 北イタリア

トリノ大学では、今年度の始まり(2022年9月)からマスクの着用とリモート授業の義務はなくなりました。マスクで授業をするのはとても苦しかったので、その義務がなくなったとたん、わたしはマスクなしで授業しています。年度初めの頃は、マスクをつけている学生を見かけましたが、今では珍しくなっています。

留学が解禁になったため、それまで足止めされていた学生たちが「先生、今日がわたしの最後の授業です」と言って、日本へ向けて次々に飛び立っています。3月に出発することになった学生から、「日本でもマスクの着用義務はなくなったようですが、ニュースなどを見るとマスクをしている人がかなりいるようです。マスクをしなければいけないのでしょうか?」という質問を受けました。そこで、「日本はマスク大国で、コロナ以前からも多くの人たちがマスクを使っています。花粉症を患っているとか、理由はいろいろあります。ですので、それほど気にする必要はないとは思いますが、日本は同調圧力が強いので、みんながマスクをしている場所であなただけがマスクをしていないと白い目で見られる可能性もあります。嫌な思いをしないですませるという意味で、周りの状況を見て、その場その場で臨機応変に対処してはどうでしょうか」と答えました。

ソーシャル・ディスタンスに関しては、もはや考慮ゼロだと思います。東京のような過密なラッシュはありませんが、地下鉄やバスはかなり混んでいることもあります。最初のうちは「座席に一つ置きに座る」などという配慮もありましたが、今ではなくなりました。

レストランなどは元通りに営業しており、今まで以上に混んでいるようで、平日でも予約が必要との声もあります。コロナ禍に耐えられず、消えていった店が多々ある反面、新たに開店する店もまた、たくさんあります。コロナの疑いがあっても隔離義務も検査義務もなくなっています。「自主隔離します」という声ももはや聞かなくなりました。

ポルタ・ヌオーヴァ駅にあるヴェンキ(チョコレート屋)がジェラートを始めていました

ヴェネツィアでは、コロナ禍の間、観光客がまったくいない状態が生まれました。そのおかげで住民たちは「かつてのヴェネツィアの静かな暮らし」を取り戻し、「もう観光客ラッシュはたくさんだ」と思うようになったそうです。そのせいか、入場制限や入場料制度が始まる、というような話も耳にします。

さらに、人と出会ったときに、今までよりも一歩離れて対話しているような気がします。イタリア式の頬にキスをする挨拶ではなく、握手ですませることもあります。イタリアには老若男女を問わず心配性の人も多いので、そういう人たちはコロナ後も他者と距離をとっているように思われます。実際の距離ではなく、心理的に人間関係に距離ができたという人もいます。たとえば、あるツアーコンダクターは、コロナ後のクライアントは、いままでのように「ざっくばらん」ではなくなっていて驚いたと言っていますし、オフィス勤めの女性も同僚との関係が微妙によそよそしくなったと感じているようです。

「なぜだと思う?」と訊ねたところ、「コロナで隔離生活を強いられ自分とばかり向き合っているうちに、世界が自分中心になってしまったのではないか」という答えでした。自分は気にしないけれど、「コロナのせいで神経質になってしまった人を煩わせたくない」という優しさから、挨拶の仕方などでも一瞬戸惑い、一歩引いてしまう人もいるように、わたしは感じます。抱き合って挨拶する習慣を持つ人たちが長い間、顔を合わせることすら許されなかった生活を強いられ、心理的な打撃を受けたことは否めません。

オンライン授業に慣れてしまい、授業に出席しづらくなっている学生もいるようです。「人間恐怖症」的な人はつねにいますが、コロナ禍で助長された部分があるかもしれません。

フェルトゥリネッリ(本屋チェーン)で見つけたマイボトル

リモートワークに関しては、部署(職種)によって違いますし、一概には言えませんが、週の半分くらいはリモートという人もけっこういます。2年くらい前からスマートワーキング(テクノロジーを駆使し、仕事とプライベートのバランスをとりやすくする働き方。ex: リモートワーク、フレックスタイムなど)に切り替え、「会社には一切行かない」という人も。さらには、オフィス自体が消滅し、スマートワーキング・オンリーになったという会社もあります。スマートワーキングを選んだ人の中には、自分の好きな土地(山や海)に引っ越し、より快適な生活を手に入れたという話も聞きます。

会議のための出張がなくなったという話もあります。会議自体は短いのに時間をかけて家と職場を往復するという非効率的なことをしていたが、そういったタイプの会議はすべてオンラインでの打ち合わせに切り替わり、研修会など、対面でやったほうがいいことだけは出かけていくのだそうです。オンライン会議、スマートワーキングは、雇う側にも働く側にもそれなりのメリットがあるため、今後も続きそうです。

大きな会社の場合、100人単位のオンライン合同会議に切り替わったせいで、地方や海外の同僚と知り合うチャンスがなくなり、ちょっと寂しいという声も聞きます。「無駄」を省くことで会社のサバイバルはうまくいっても、人間関係は希薄になるというデメリットもありそうです。

わたしが肌で感じるのは、コロナ禍のことよりもウクライナ戦争のあおりですかね。ガスや電気代の大幅値上げがあり、小麦、ひまわり油の価格も高騰し、その結果、パンや野菜などもじわじわと値上がりしています。そのせいで一般市民にとっては、厳しい生活がこれからも続くと思われます。


アヤ・ナカタ:日本語教師。1987年イタリアへ移住。トリノ市郊外のコッレーニョ市在住


コロナ終息に向けて:各国レポート最終回(10)中国

 

中国(人口約14億人)

高希

今年5月5日、世界保健機構(WHO)はようやく新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言の終了を発表しました。とはいえ、多くの中国人は新型コロナによる緊急事態は2023年2月にすでに終わったと感じているでしょう。なぜかというと、中国の防疫措置は去年の12月に一気に大緩和され、そのあとの2ヶ月間で中国の人口の約80%が新型コロナウイルスに感染したからです。

2022年12月まで、中国は世界で一番厳しい防疫措置を実施していたと言えるでしょう。「ゼロコロナ」という政策によって、人々の日常生活や移動は厳しくコントロールされていました。例えば、マンションや団地の中で感染者が一人見つかると、そこに住む全員に行動制限が課せられ、週に3回PCR検査を受けることで他の感染者を全員洗い出すという措置がとられました。クラスターが発生すると、感染者数によっては区や市のロックダウンも実施されていました。

このような厳しい措置が実施された結果、ロックダウンによる食料不足、医療逼迫、企業活動の停止などの問題が相次ぎました。人々はそうした状況に耐えられなくなり、町中やネット上で「ゼロコロナ政策」に対する反発も強まっていきました。これを受けて、12月7日には「ゼロコロナ政策」は大幅に緩和されました。予告なしの急な政策大転換だったため、薬局の咳止めや解熱剤はすぐに売り切れ、感染者の多くは助け合いながら薬をシェアして感染期を乗り越えました。医療機関にも感染者が殺到して、病床がなく医者や看護師が足りないといった深刻な問題も発生しました。私自身も感染しましたが、幸いなことに解熱剤を事前に用意していたので何とか耐えられました。総人口の80%が12月から感染したため、中国人にとって、国内の新型コロナウイルス感染はその時期に爆発的に広がってから終焉を迎えたというイメージが強いです。

ゴールデンウィークに賑やかな観光地。1人当たりの消費額はコロナ前より20%下がったという

現在(2023年5月)、私の周りには2度感染した人もいて、ニュースによると全国でもまた感染者数が増えているようです。しかし、周りの感染者のなかには高熱が出る人は少なく、症状はだるさと咳だけなので、みんなあまり注意を払っていないようです。PCR検査で陽性であっても隔離は必要とされていないため、ほとんどの人はリモートワークもせずに、風邪薬などを飲むだけで会社に通ったりして、普通に生活しています。

コロナ後の日常生活での変化といえば、町中でマスクを着用する人が以前よりはるかに多くなりました。私自身は、咳が出るときや周りに咳をする人がいるときにはマスクをしようという意識が定着しました。そのほか、コロナ前は自由に出入りできた大学が、いまでは学生カードや教員カードなしでは入れなくなりました。日常生活にはあまり支障をきたしませんが、学問の自由を追求する大学に自由に入れないというのは、なんとなく違和感があります。

一番大きな変化はやはりコロナ後の景気回復の鈍化です。中国ではリストラのニュースがネット上で相次ぎ、若年層の失業率は今年の4月には20%を突破し、過去最悪を更新しました。そのため、人々は経済低迷が長引くと予想し、借金や消費を控えているそうです。同時に、中国は日本と同じように少子高齢化がますます深刻化し、新生児も年々少なくなって、なんとなく日本の「失われた30年」の前夜に似た雰囲気が漂っているようです。

40年間の高度成長期を経てきた中国人は、経済が減速している時代をいかに生き抜くのかについては未経験です。パンデミックで生まれた焦りや未来への不安は、コロナの終息によってなくなったというより、一層深まった気がします。日常生活は以前に戻ったにしても、心のなかで日常と安定を取り戻すには、まだまだ先が長いと思います。


高希(こう・き):中日・中英翻訳者。中国南西部の四川省成都市在住


 

コロナ終息に向けて:各国レポート最終回(9)ルワンダ

ルワンダ(人口約1230万人)

吉田拓

ルワンダにとってのコロナの終わりと新しい時代の始まり

WHOのコロナ終結宣言に先立つ2022年5月14日、ルワンダ政府は「野外でのマスク着用は必要ない」と発表しました。事実上、ルワンダにとってのコロナ禍はこの時に終わり、ルワンダ人は「アフター・コロナ」の社会をつくりはじめたといえます。

2023年5月末現在、ルワンダで日常生活を送るにあたって、コロナ関連の規制も義務も習慣ももはやありません。人々は、すし詰めのバスに乗りこみ、バイクタクシーに2人乗りし、ひといきれのする市場へ出かけ、物を売り、買い、レストランで食事をし、酒場やクラブで踊りを楽しみ、教会で思う存分に讃美歌を歌っています。まったくマスクをせずに。

リモートワークも思ったように普及しなかったようです。仕事とは、「何かを期限内に達成するのではなく、同僚と上司のそばにいる状態をつくること」という労働価値観はコロナ禍では崩れませんでした。2021年、マスク有りなら出勤しても良い、とルワンダ政府が発表してから、事実上、オフィスワーカーは全員出勤していました。

社会全体が大きく変わらなかった理由は、社会的、経済的な理由があるのだと思います。社会的な理由としては、欧米の個人主義的な価値観と違い、「共同体の中にこそ、自分の立ち位置がある」というルワンダ人の社会観がコロナ禍のインパクトよりも強固であったことが挙げられます。自分の立ち位置を与えてくれる集団と一緒にいるからこそ、ルワンダの人々は生きていけるのです。

これに関係して、経済的な理由も挙げられます。一部の特権階級を除き、ルワンダの庶民は、土壁、トタン屋根の小さな家に複数の家族で住んでいます。家の中は密集しており、1人でいられるスペースがないので外に出ざるを得ません。また、マスクを外すことへの抵抗がなかった、というよりも、そもそもマスクを持っていなかったということも挙げられます。2022年10月に私たちが村落部で実施した調査によると、1世帯あたりマスクを3枚弱しか持っていなかったことがわかりました。1世帯あたりの平均人数は4.5人ですから、長期間、数枚のマスクを家族で共有し続けていたことになります。

それでは、変わったことは何かというと、コロナ禍を機に、ルワンダ政府の統制が強くなり、国民も積極的に統制を支持していることです。従来から政府の統制は強いとされていましたが、外出時間、宗教的行事への参加人数、移動範囲など、コロナ禍の統制は広範囲におよび、それを批判できない環境にありました。結果的にルワンダ政府の統制は、国民にとって強いリーダーシップの成功例として受け入れられています。大統領のTwitterは、賛辞する国民のフォロワーで溢れています。

つまり、コロナ禍で社会や経済は大きく変わらず、政府がより「大きく」なったと言えるのかもしれません。

最後に、コロナ禍をルワンダの人々が乗り切ったかなと初めて思った時のエピソードをご紹介して筆を置きたいと思います。

2021年9月、葬儀、婚礼以外の宗教的な催しが少人数ながら再開されたときのことです。ある夜、近所の教会から久しぶりにマイクを通して歌が聞こえてきました。男性が1人で、気持ちよさそうに歌っています。伴奏がなく、音程がずれており、上手な歌い手ではないのですが、熱心に歌っていることはわかります。しばらくして、彼がAmazing Graceを歌っていることに気づきました。久方ぶりに友人たちが集う教会で、再び歌えるようになった喜びに満ちていることがわかりました。私も、仕事の手を休め、静かに聴き入ってしまいました。朴訥で、感謝の気持ちと前に進む意思に満ちた歌声でした。

ルワンダには1万5,000のキリスト教の教会があるとされています。公立の小中高を合わせても約4,000校なので、圧倒的に教会の数のほうが多いです。市井の人々は、友人たちと繋がり、歌い、善意に満ちた話を聞いて、精神的な充足を得ながら倹しい暮らしを続けています。コロナ禍で礼拝に行けなかったことが彼らにとってどれだけの精神的な負担となっていたか、再び礼拝に戻ることがどれだけ喜びに満ちたことであったか、想像に難くありません。

あの、味わいのあるAmazing Graceこそが、ルワンダ庶民の力強い「アフターコロナ」の始まりだったと思います。

全世界の皆さんが平和に暮らせますように!


吉田 拓(よしだ・たく):国際NPOに勤務


コロナ終息に向けて:各国レポート最終回(8)フランス

 

フランス(人口約6706万人)

野村真依子

フランスでは、2023年2月をもってコロナ関連の規制はほぼなくなりました。感染者の隔離、濃厚接触者の検査、マスク着用などの義務も、もうありません。最後まで残っていた医療従事者のワクチン接種義務も、つい最近、5月に入って解除されたので、ワクチン接種を拒否して停職になった医療従事者が仕事に戻れるようになりました。それまで多くの場合は無料だったPCR検査と抗原検査も一部自己負担に変わり、感染した場合に初日から休業補償が支給されていた特別措置も終了。薬局前の検査用テントも畳まれ、お店や窓口に設置されていたプレキシガラスの衝立も、気づくと姿を消していました。昨年からすでに、実生活でコロナの影響を感じることはほとんどなくなっていて、強いて言えば医療機関でのマスク着用義務ぐらいでしたが、今回の規制解除をもって正式にコロナは過去のことになったと言えそうです。

もっとも、マスク着用義務はなくなりましたが、「マスク着用推奨」の表示は残っています。そのせいなのか、それともコロナ禍で単に癖になってしまったのか(?)、いまだにほんのわずかながら、マスクを着用している人を見かけます。混雑したメトロの1車両にひとりふたり、道行く人のなかにちらほら……という程度ですが、まれに「風邪をひいているので」とマスクをする人もいます。スーパーの「マスク&消毒グッズ」コーナーもまだ健在です。そもそもコロナ以前は、(風邪や花粉症であっても)医療従事者を除いてマスクを着用するという発想自体がなかったフランスで、この変化は注目に値すると思います。

薬局入口の「マスク着用推奨」の張り紙(2023年5月)

リモートワークについてはきちんとしたデータが見つからなかったのですが、大都市を中心に、(週に少なくとも数日は)在宅で仕事をする人が以前よりも増え、選択肢のひとつとして定着したと言われています。複数のアンケート調査でもリモートワークに対する肯定的な意見が多く、労働効率が低下するどころか高まるという声も上がっています。最近では、交通機関のストライキが予定されている日には、「できれば自宅で仕事をしてください!」という呼びかけが聞かれるようになりました。

医療機関のオンライン予約サイト「Doctolib」でも、コロナとともに登場した「対面での診療」か「ビデオ通話を使ったオンライン診療」かを選ぶ欄がそのまま定着しました。オンライン診療で事足りるケースは限られるかもしれませんが、移動の手間やただ順番を待つだけの時間が節約できるのは助かります。

その一方で、おしゃべりをするときの距離の近さとしゃべる勢い(唾が飛んでいます!)や、あいさつ代わりにキスやハグをするといった習慣はまったく廃れることなく、ソーシャルディスタンスが叫ばれなくなってからはすっかり元どおりです。このような習慣は、日本に比べて欧州で感染が急拡大した原因のひとつだったと思いますが、ちょっとやそっとでは変わらないようです。

晴天のパリ(2023年5月)

コロナ禍は、思い出としてはまだ色あせていませんが、日常の話題はもっぱらロシアのウクライナ侵攻や物価の高騰といった世界共通のトピックのほか、年金改革をめぐるストライキやデモ、例年以上に早い山火事の発生や水不足注意報といった国内の諸問題に移り変わっています。工事だらけで通行止めや不通が頻発しているメトロや道路を見ては、来夏のパリ・オリンピックに間に合うの?と心配になり、夏休みをどう過ごすかという話題が盛り上がれば、物価高にもかかわらずフランス人のバカンスにかけるエネルギーは衰えないなと感じ入る日々。夏休みは長い(長すぎる)ので我が家も出かけますが、とりあえず今年は持ち物リストにマスクを入れなくてもよさそうです。


野村真依子(のむら・まいこ):英語・フランス語翻訳者。フランス在住


 

コロナ終息に向けて:各国レポート最終回(7)スペイン

スペイン(人口約4694万人)

米田真由美

スペインには再び以前のように活気にあふれる日常が戻ってきました。そして、コロナ後の社会生活には多くの変化がありました。

まずはマスクの使用についてです。コロナ前には考えられなかったマスクの日常使用が一般的になりました。規制緩和によってマスクの使用は一部、医療機関等を除いて義務ではなくなりましたが、マスク着用の意義は浸透しており、違和感なく受け入れられるようになりました。

また、コロナの副産物としてオンライン化が進みました。リモートワークやオンライン学習が一気に広がり、対面で行われていたイベントや仕事もオンラインで行われるようになりました。これはポジティブな変化であり、選択肢の幅が広がったことを意味します。しかし、高齢者など一部の人々にとってはスマートフォンの利用が必須となり、課題も残っています。

さらに、働き方や生活に関わるサービスも変化しました。会社によっては完全出勤や一部リモートワーク、完全テレワークなど、さまざまな就労形態が存在しています。また、スペインは気候が良く、生活費が比較的安いため、外国からのノマドワーカーやワーケーションを受け入れる動きが活発化しています。

ビーチにあるカフェでノマドワーク

スペインはもともと観光大国ですが、コロナ後は外国からのノマドワーカーや観光客の受け入れ、さらに企業誘致に力を入れています。その成果として、コロナ後の渡航制限解除で国内外からの観光客は急増しました。しかし、その一方で賃貸アパートや学生用シェアフラットの多くは民泊(バケーションハウス)へ転換され地元市民や留学生向けの物件の供給が激減、家賃が高騰するなど、厳しい住宅事情が続いています。

また、コロナ後まで定着した変化としてデリバリーフードサービスが挙げられます。オンライン・デリバリーサービスは急速な成長を遂げ、一般家庭でも利用されています。しかし、これからも変化は続き、一部のサービスは形を変えたり淘汰されたりするでしょう。

もし再び、新型コロナウイルスのようなパンデミックが起きたら、スペイン社会はどうなるのでしょう?

スペイン人に尋ねてみましたが、彼らは明るく「今を楽しむことに集中しよう!」と答えます。コロナで辛い経験をした人々は涙を流したり悲しんだり助け合ったりしましたが、いつも明るさを失わず、喜びを共有しました。パンデミックが教えてくれたことはたくさんありますが、スペイン人の明るさは私たちに希望を与えてくれました。

活気の戻るイースター

パンデミックが終息しても、半世紀ぶりの世界的インフレによる生活費の高騰という新たな困難が存在しますが、それにもめげずにスペイン社会は前に進んでいます。

生きることを楽しむ、皆で共に生きる。それがスペインでの生活であり、私たちの未来への希望です。今、コロナ後のスペイン社会は明るさと変化が織りなす未来に向かって進んでいます。

地元民と各国からの観光客でにぎわう春先のビーチ


米田真由美(よねだ・まゆみ):スペイン・アリカンテ在住のコーディネーター・通訳者。アリカンテ大学語学教育センター勤務


コロナ終息に向けて:各国レポート最終回(6)モザンビーク

 

モザンビーク(人口約3000万人)

森本伸菜

新型コロナウイルスによる規制がほぼなくなってからかなりたちます。いったいいつまで規制があったのか、このブログに載せたレポートを読み返さなければなりませんでした。

私たちのレストランと小さな宿B&Bの営業がコロナ以前に戻ってから、もう1年以上になります。国境の規制もほぼなくなっていましたが、正式にすべてが解除されたのはつい2、3週間前です。昨年からほとんどの場合、入国時にワクチン証明または陰性証明の提示を求められることはありませんでした。ですが、つい一か月前に会った観光客は飛行機の搭乗時にワクチン証明提示を求められたと言っていました。多分、機嫌の悪い担当者に当たったのでしょう。しかし、今ではそれも完全になくなりました。

日曜日の海岸に人々が戻っています

そのようにすべての規制は解除されましたが、薬局と病院の入り口にはマスクをするように、という張り紙があります。しかし、マスクを持って歩く人はもういないので、近くの薬局ではあまり守られていないようです。コロナに関する危機感はなくなっていると思います。多くの人がすでに罹ったことと、もうニュースにもなっていないからだと思います。

コロナによって大きく変わったことの一つは、商店の従業員が風邪気味だと思うと、マスクをするようになったことです。そもそもは、店主や私のような事業主が従業員に求めたのですが、いまではかなり自主的に守られています。

夜の繁華街、と言ってもほんの20mぐらいです

またモザンビーク人の友人は、従業員がトイレに行った後に手洗いをするようになった、と言っていました。以前はその辺の木陰などで小用を足した後、すぐ仕事に戻っていたのに手を洗うようになったと喜んでいます。子どもたちも咳をするときは口を覆うのが習慣になりました。コロナでアルコール依存症や薬物中毒者が増えたという人もいますが、詳しいことはわかりません。

マスク、手洗いが今後の習慣として定着するかどうかはわかりませんが、少なくとも咳をするときは口を覆うことはマナーとして残るのではないでしょうか? それはともかく、モザンビークでは、新型コロナは過去のことになっています。

(コロナとは関係ありませんが)モザンビークを走っている車のほとんどは、私の車も含め日本からの中古車です


森本伸菜(もりもと・のびな):モザンビーク・トーフで日本食レストラン「すみバー・アンド・キッチン」を南アフリカ人の夫と経営。現地の子どものためのコミュニティなどの活動に深く関わっている