コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(24)オランダ

オランダ(人口約1728万人)

國森由美子

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

政府や国立の研究機関が提供している情報によると、新型コロナウイルスの新規感染陽性判明者数は2022年4月初旬に1日あたりの平均が10,000人を超えていましたが、その後減少し、4月22日現在では3,000人台となっています。

オランダでは、昨年2021年11月初旬、陽性判明者数が初めて10,000人を超えました。当時はちょうど南アフリカでオミクロン変異株の出現が報告された頃で、オランダでの主流はまだデルタ株でした。その後、1日当たりの新規陽性判明者数が最高の86,000人を記録した2022年2月時点では99%がオミクロン株に置き換わっていて、現在もオミクロン株が主流となっています。ちなみに、日本では同じオミクロン株でもさらに細かい型について取り沙汰されているようですが、オランダではそれは問題視されていません。

筆者の受けた印象では、今年3~4月にかけてはもう誰が感染してもおかしくはない状況でした。オミクロン株が主流になってからは子どもや10代の感染がひじょうに多く、わたしが直接やり取りをしているピアノの生徒たち(小学生)は、学校および家庭内の感染状況に日々ふりまわされ、大変そうでした。政府の規制により、家庭内感染が判明した場合、同居家族全員が5日間自粛生活をする、その後、最寄りのPCR検査会場で陰性結果が出れば通常にもどる、また、学校でもクラスに感染した生徒が出た場合、当人のみならず兄弟姉妹も5日間自粛、体調が悪くなければオンライン授業を受けるということが義務づけられた期間は、傍目から見てもかなり混乱状態でした。これはもちろん子どもたちだけでなく、教師にも当てはまるので、たとえば担任・副担任のどちらもが検査で陽性になってしまうと学級閉鎖にせざるを得ない状況になります。中学校以上の教育機関でも、生徒・教師そして各家庭の誰もがあれこれ苦労していたと思います。

自宅近くの小学校にて。休み時間の小学生たち
新緑に子どもの歓声が響いていました。平和な光景ですね

わたしの知人(70代)は、ブースター接種を含め3回のワクチンを接種済みにもかかわらず感染したそうで、そういう例はほかからもかなり聞いています。隣人(60代)も「PCR検査で陽性が判明した」とある日連絡をくれました。隣人は持病があるので、ブースター接種を含め常に早めにワクチン接種を受けており、「この二年、ほんとうにとても気をつけて過ごしてきたのに」と嘆いていました。幸い発熱はなく、頭痛と多少咳が出るくらいの症状で、ほどなく回復したそうです。これほどの感染力の強さなので、もしかしたらわたしも知らずに感染していたかもしれません……。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

現時点での規制や制限は限定的で、たとえばマスク着用義務に関しては、病院内や空港および機内などでは継続されていますが、それ以外の場、公共交通機関やスーパーマーケットなどの店舗内や屋内イベント会場、飲食店などでは3月下旬に廃止されました。

教育機関も今回のパンデミック以前とほぼ変わりなく対面授業をしています。そして、マスクの着用も含め、こまめな手洗い、ソーシャルディスタンス(オランダでは1.5m)すべてが3月下旬より義務ではなく推奨、つまりアドバイス(勧告)になりました。プロサッカーなどスポーツの試合もコンサートも人数制限はすでにありません。また、飲食店の営業時間の制限もなくなりました。

4月27日のキングスデー(国王誕生日)の祝日
水上カフェやボートの上で盛り上がる人たち

たくさん特設されていた保健所管轄の無料のPCR検査場もどんどん減っています。今後は各自必要に応じてセルフテストキットを購入、自己責任で健康管理をすることになります。このようになった理由のひとつとしては、オミクロン変異株では感染しても重症になることが少なく、また病院もなんとか逼迫せずに治療に従事できているということがあげられます。ただ、高齢者や持病のある方などは引き続き注意して過ごす必要があるでしょう。

オランダでは、昨年2021年春から夏にかけて規制が緩和されて感染も落ち着いたかに見えたのですが、それはやはり一時的に過ぎず、ウイルスは性懲りもなく変異もすれば蔓延もして、12月にふたたびかなり厳しいロックダウンになりました。その時期にロックダウンしたのは欧州で唯一オランダだけだったそうです。そして、感染者数が下がりきらないまま、規制は段階的に解除され、前述のとおり3月下旬にほぼ廃止となりました。ご存じのように、2月下旬からのロシアのウクライナ侵攻でEU圏内のオランダも大騒ぎになりました。これにより、コロナ問題と優先順位が入れ替わった印象もあります。

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

ワクチンの3回目のいわゆるブースター接種は、2021年11月から医療・介護関係者や高齢者から順に受けられるようになっていました。そもそもワクチン接種が始まった当初は2回接種でこのウイルス騒ぎが収まっていくだろうとの希望的観測があったわけですが、その後の感染症専門家たちの見解でブースターが推奨されたわけですね。そして、今ではさらに二度目のブースター接種(すなわち4回目の接種)も始まっています。政府発表の数字では、オランダの18才以上のブースター接種率は63.3%となっています。

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

上記いろいろ書きましたが、オランダの現状をいま一度簡潔に述べるとすれば、今回の新型コロナ感染症COVID-19については政府の判断でいわば強制終了した感があります。個人的にも、もちろんこのまま終息していくことを願っていますが、言うまでもなくウイルスがこれでなくなるわけではなく、今後はようすを見ながら気をつけて過ごしていくしかないのではと思っているところです。

キングスデーのライデンの街中のようす

またこの時期のオランダは5月休みというのがあり、外国へ旅行に行く人たちがとても多く、空港が大混乱となっています。KLMなどは地上勤務者の人員不足でフライトをキャンセルしたりもして、批判噴出状態です。以下、オランダ語のニュースのリンクです。いかに異様な光景か、雰囲気だけでもわかるかと思います。

https://nos.nl/artikel/2427132-topdrukte-schiphol-voorbij-maar-nog-steeds-lange-rijen-bij-incheckbalies


國森由美子(くにもり・ゆみこ):オランダ語文芸翻訳者、音楽家。オランダ・ライデン在住


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(23)マレーシア

マレーシア(人口約3200万人)

橋本ひろみ

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

マレーシアでは2021年の年末から2022年の初めにかけて、1日の新規感染者数は停滞していましたが、今年の2月からオミクロン株が猛威をふるい、2022年3月10日をピークとして、1日に30,787人もの新規感染者がでました。知り合いや身近な人のなかにも感染者が出たという話も多く耳にしました。その後減少し続け、現在では昨年末同様の状況にまで収まってきました。

ワクチン接種がかなり進んだため、現在の感染者数は134,469人いるものの、その97.6%にあたる131,235人は自宅隔離であり、重症化するケースも少なく、病院や隔離センターの負担や使用状況も去年の逼迫した状況に比べかなり余裕が出てきています。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

2021年10月18日からクアラルンプールを含む州や地域において、国家回復計画(NRP)および強化された活動制限令(EMCO)の第4段階が施行され、標準作業手順書(SOP)の緩和が発表されました。この段階では、マスク着用はまだ義務づけられていますが、手洗いなどの感染対策を行い、ソーシャルディスタンスを保つなどといったSOPを守ることで、3回目までのワクチン接種完了者については、ほとんどの活動が再開できるようになりました。

また、宗教活動や集会も許可され、州をまたがる移動も規制がなくなり、レストランなどの営業時間の制限もなくなりました。SOPを守ることにより、スポーツやライブやイベントも再開され、学校や教育機関も再開が許可されました。今年の2月8日には、建物に入る前に行われていた体温チェックと手書きの個人情報の記録の提示義務も廃止されました。

さらに、2020年3月18日よりコロナ感染症対策として実施されていた観光ビザでの入国禁止措置が2022年4月1日より解除されることがマレーシア政府より正式発表され、ワクチン接種完了者に関しては入国時の自宅や隔離施設などでの隔離期間も免除されるようになりました。現在、これらの規制緩和によりコロナ前の状況にさらに近づいています。

活気を取り戻しつつあるバザーの風景

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

2022年4月12日現在、マレーシア保健省の公開データによると、最低1回のワクチン接種を受けた人は、27,567,306人で、国内の人口の84.4%であり、2回目の接種を受けた人は25,984,454人で国内人口の79.6%、ブースター接種を受けた人は15,933,049人で国内人口の48.8%となっています。2回目の接種までは政府の奨励もうまくいき、わりとスムーズに接種が進んでいきました。しかし、ブースター接種に関しては、副反応が大きいことや様々な懸念や意見もあり、まだ国内人口の約半分にとどまっています。

いつもの渋滞が戻ってきたクアラルンプール中心部

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

今年の4月1日、ワクチン接種完了者は、マレーシアとシンガポール間を隔離や規制なしで移動ができるようになったことを受け、国内はお祭り騒ぎのような歓声に包まれました。これを皮切りに徐々に他国との国境も開かれていき、多くの人が待ち望んでいた海外旅行や留学、海外での就職活動が、勢いを増して展開していくと思われます。

しかし、新型コロナウイルスがマレーシアに到来して以来、コロナ禍で受けたダメージは経済的にも精神的にも大きく、今後いかに回復に向けて活動していくのかが問われています。とくに経済面では、失われた雇用、外国人労働者不足、国や企業、個人の経済危機、流通の停滞など、多くの課題が残されています。

また、規制は大きく緩和されたものの、人々のコロナ感染に対する懸念はまだまだ強く、企業でも、仕事が在宅でできれば、社員はそのまま在宅勤務を続けていますし、学校や教育機関でも対面授業は再開されているものの、感染者が出るとなんらかの対応をしなければならなかったり、また、いまだにオンライン授業を続けていたりする教育機関もあります。実際の活動においては、状況を見ながら慎重な判断が迫られています。

現在(2022年4月15日)マレーシアはラマダン(断食)の月で、約半月後には断食明けを祝うマレーシアの最大の祝祭ハリラヤがあります。従来は、首相(や王室)のハリラヤ・オープンハウスが開催され大勢の人が集まったり、帰省や親戚宅を訪問して家族や親戚と共に盛大にお祝いをしたりします。今年はウィズコロナで、どのようなハリラヤになるのでしょうか。週単位、月単位で状況も変化していますが、状況を見ながら最善の判断をしていきたいと思います。一日も早くコロナの終息を迎え、新しい日常が到来することを心待ちにしています。

マスクを着用し、公共交通機関を利用する人々

橋本ひろみ:マレーシア、クアラルンプール在住。翻訳者、日本語教師


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(22)オーストラリア

オーストラリア(人口約2499万人)

徐廷美

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

昨年、2021年6月のレポートでは、1日の新規感染者が数十人にとどまっていると述べたが、オミクロン株の影響からか、12月中旬から徐々に感染者が増加した。そして今年1月に入るとその数は急激に増え、中旬には1日の新規感染者が15万人に上るまでとなった。その後減少傾向を見せ、2万人前後まで下がったところで、3月中旬より再び上昇を見せ(これはオミクロン株BA2の影響かどうかはっきりしない)、現在は5万人前後で推移している状況だ。

感染者の多くは20代であり、次いで30代、40代だが、10代の感染者も多い。コロナによる死亡者数は、やはり70代以降に集中しており、80代が最も多い。だが、4月15日現在、ICUに入院している全国の重症者は129人で、医療現場において脅威とはなっていない。ワクチン接種2回完了者は人口の83.4%で、3回目のワクチンについては61.7%が接種を終了している。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

オーストラリア政府は従来、厳しいロックダウン政策をとってきた。国境も完全に封鎖し、オーストラリア国民と永住権保持者以外の入国を認めてこなかった。ところがイギリスなどヨーロッパ各国に倣ったのか、昨年10月15日にはロックダウンを終了した。一部公共施設でのマスク着用を求める以外は、大人数での集まりも制限しなくなり、現在はほぼコロナ以前の生活に戻っていると言っても過言ではない。

今年2月18日には水際対策もゆるめて、留学生やビジネスマンだけでなく、一般観光者の入国も可能になった。飲食店の営業制限もなくなり、スマートフォンによる入店チェックも入店者の追跡も現在は行われていない。教育現場も小学校から大学まで、全て対面授業となり、マスクの着用も義務づけられてはいない。

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

人々はすでにウィズコロナ政策を受け入れ、感染をそれほど恐れているような様子は見られない。このイースターホリデーは街も活気にあふれ、海外旅行を楽しむ人々が急増したと言われている。病院、高齢者施設等では、コロナ感染対策を行っているが、他の感染症と同様のレベルの予防策、ケア方法であり、コロナだけを特別に恐れる雰囲気はなくなりつつある。今後も、経済の復活を目指したい政府のコロナ政策に大きな変化はないと思われる。

祝祭の雰囲気を取り戻したシドニー・ロイヤルイースターショーの模様(4月17日、シドニー・オリンピック・パークにて)

徐廷美(そ・じょんみ):2014年からオーストラリア・シドニーで7年生活し、日豪両国の看護師資格を取得。現地の大学院で看護学を専攻後、現在は日本で大学教員


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(21)モザンビーク

モザンビーク(人口約3000万人)

森本伸菜

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

2022年4月5日時点でのコロナ感染者総数は約22万5,000人。死者は2,200人。2020年9月に非常事態宣言から災害事態宣言(State of Public Calamity)に移行して以来、現在も感染拡大が続いているとしてレッドアラートのレベルには変更ありません(*)。

*災害事態宣言は、3段階の警戒レベル(警戒度が高い順に赤、オレンジ、黄)が設定されており、今現在も「警戒レベル赤」である。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

現在、夜の外出禁止令は撤廃され、すべての国境も開いています。学校もすでに普通に再開しています。長く禁止されていたバーの営業も再開され、営業時間も今では23時までになりました。私のいるトーフはビーチで有名なところです。2020年には閉鎖されていたそのビーチも、昨年6月には「黙って歩くだけ」が許可され、次に「16時まで遊べる」ようになり、今は「18時まで遊べる」ようになりました。ただし、ビーチでの飲酒は今でも禁止です。

屋内、または屋外でも人が多く集まる市場などではまだマスク着用が義務づけられていますが、マスクをしている人はどんどん減っています。なお、政府からの支援は、以前にもお伝えしたように何もありません。

パーティができるようになりました

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

現在のワクチン接種率(必要接種完了)は、国民の43%と公表されています。ただし、これは2回接種したとして計算されているので、1回だけの人もいるので、人数をみればもっと高い数字になると思います。ワクチンは海外から寄付されたもので、そのメーカーは中国製が数種、そのほかはアストラゼネカ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどです。やはり中国製のものが一番多いと思います。

一般の人は当初はなんとなくワクチンに対して拒否ムードでしたが、政府の強い推奨によって時間とともに抵抗感がかなりなくなったように見えます。とは言ってもワクチン自体の絶対数が足りないので、全員が打てる状況ではありません。

私たち家族も本来は無料のはずの中国製のシノバックを有料で2回打ちました。その後、2021年11月末に息子のパスポートを取るために南アフリカに出国した際、ブースターとしてファイザー製のワクチンを打ちました。ファイザーでは副反応が出て、熱、倦怠感がありながらも、経営しているレストランのための食材集めをしておりました。そしてモザンビークに戻るためにコロナのテストをしたところ陽性となり、出国できなくなり、滞在を2週間近く伸ばしました。ブースターの副反応と思っていたのは、コロナ感染の症状だったようです。

下校風景

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

現在もレッドアラートのレベルであることに変わりないですが、私たちの周りではもう、コロナは深刻な問題ではないとの認識が大きく広がっています。うちのレストラン・スタッフ12人のうち半数以上が、昨年12月から今年の1月にかけてコロナに罹りました。特に検査をしたわけではありませんが、症状からコロナだと確信しています。皆、症状も軽く終わりました。

今の時期は海外からの観光客が少ない時期ですが、それでも過去2年の同時期に比べ、外国人観光客は確実に増えているように見えます。皆、今年はコロナ以前の状況近くに戻るだろうと期待しています。友人たちは母国への帰省を含め、海外旅行の計画を立て始めています。


森本伸菜(もりもと・のびな):モザンビーク・トーフで日本食レストラン「すみバー・アンド・キッチン」を南アフリカ人の夫と経営。現地の子どものためのコミュニティなどの活動に深く関わっている


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(20)チェコ共和国

チェコ共和国(人口約1065万人)

岡戸久美子

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

2022年4月現在、1日当たりの新規陽性者数は約4,000人~7,000人と変動はあるものの、減少傾向にあります。PCR等検査実施数は2022年年初の20%程度に減少しており、無症状や感染していても症状が軽いなどで検査を受けていない人がかなりいるともみられていますが、過去最多となった2月初旬の57,000人超に比べればかなり落ち着いたといえます。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

昨年11月末にオミクロン株が確認され、またたく間に感染が広がったため、みんなが楽しみにしていたクリスマスマーケットが急遽中止されるなど、冬の間は規制強化やワクチンのブースター接種の推奨などコロナ対策関連のニュースが続きました。しかしそれも、今年2月をピークに感染者が減少し、落ち着きを見せたことから、3月より徐々に規制緩和が進み、商業施設や飲食店、劇場などに入る際に義務づけられていた陰性証明のチェックも不要となりました。これにより、検査を受ける人が激減したものと思われます。4月9日には、あらゆる国からのチェコへの入国時規制が解除、長く残っていた公共交通機関でのレスピレータ(FFP2マスク)着用義務も4月14日よりとうとう解除されました。医療機関等でのレスピレータ着用義務など多少の規制は残っていますが、普段の生活に大きく関わる部分の規制がほぼすべて解除となったため、周囲では「コロナ規制は完全に終了」といったムードが広がっています。

住宅街にやってきた移動遊園地
マスクやソーシャルディスタンスを気にする人はもういません

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

オミクロン株による感染拡大時にブースター接種が強く推奨されたため、3回目(ワクチンの種類によっては2回目)を受ける人が一時期増えました。その一方で、ワクチンを接種しても感染する、すでに感染したことがあっても再感染するということから、副反応のあるワクチンをまた接種するのは気が進まないという声も多く耳にしました。また、コロナに関する規制強化やワクチンに反対する人もわりと身近に何人もいました。

首都プラハと地方の街を行ったり来たりという生活をしていた私の個人的な印象ですが、どちらかというとプラハに住む友人・知人は規制を受け入れ、ワクチン接種に対しても積極的な人が多く、地方の小さな街に住む人びとに規制反対派が多かった気がします。

非感染証明の提示義務が解除されたいまとなっては、ワクチンの話題を耳にすることはほぼなくなりました。感染から身を守るというよりは、ワクチンパスによる非感染証明のために接種していた人が多かったのではないかと思われます。

公園でリラックスする人びと①

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

この春より、他の欧州諸国と同様チェコでもほとんどの規制が解除となり、ほぼ終息ともいえる状況になっています。しかし、現在人びとの心は、感染が収まってきた時期と前後して起きたロシアによるウクライナ侵攻が気がかりでコロナどころではない、というのが実際のところです。もともとウクライナからの移民も多く、さらに歴史的な経験からも他人事とは思えないチェコでは、隣国であるポーランドやスロバキアとともにいち早くウクライナへの支援を表明し、動いています。一難去ってまた一難、といった悲嘆の声も多く、元の生活に戻る見通しはなかなか立てられそうにありません。とにかく平和で穏やかな日常が一日も早くすべての人に訪れることを願って、日々自分にできることを考え、暮らしていかなければと思っています。

公園でリラックスする人びと②
こういったささやかな日常の大切さを感じます

岡戸久美子(おかど・くみこ):英日翻訳者。チェコ共和国北西部在住


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(18)フランス

フランス(人口約6706万人)

野村真依子

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

オミクロン株による感染拡大が2022年1月末に峠を越えたのち(ピーク時期の1日の新規感染者数は約40万人)、感染者数は順調に減り続けていましたが、3月に入って再び増加に転じました。オミクロン株BA.2の感染力が強い、ワクチン接種から時間が経過してワクチンの効果が落ちている、規制緩和が早すぎた、などがその要因として挙げられています。 とはいえ4月初旬の現在、感染者数増加の勢いは鈍化しつつあり、入院患者数も微増にとどまっています。最近の1日の新規感染者数は10万人くらいですが、規制が復活する兆しもなく、政府も市民も楽観的に見えます。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

2月初めから、それまであった規制(ワクチンパス、屋内外のマスク着用義務、集会の人数制限など)が段階的に解除されています。3月14日以降で残っているのは、公共交通機関と医療機関・関連施設でのマスク着用義務と、医療施設でのワクチン接種・陰性証明の提示くらいです。ただし、マスクは「推奨」されてはいるため、場所にもよりますが街中でも3分の1~4分の1の人がまだ着用している印象です。着用義務がある場でも守らない人はちらほらいますが、警察によるチェックはもはや見かけません。

あいかわらず薬局前に設置されているコロナ検査用テント(2022年4月)

濃厚接触者の隔離義務もかなり緩和され、自己検査であっても陰性であれば隔離する必要はなくなりました。この場合の検査キットも、濃厚接触者である旨を申告すれば基本的に薬局で無料配布されます。そもそもPCR検査や抗原検査も、ワクチン接種を拒否している人が自己都合で検査するなど一部の場合をのぞき、だいたいは自己負担なしで受けられます。

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

4月4日現在、対象となる人口の58.7%がワクチン3回接種済み、79.5%が2回接種済みです。インターネットで簡単に接種の予約が取れるため、希望者は速やかに接種を完了できますが、一方で、依然として接種に抵抗している人もいます。衛生パス(*)・ワクチンパスに反対するデモは一時期、毎週末の恒例行事になっていました。ワクチンパス導入が発表された際は、抵抗をあきらめた人が予約サイトに殺到しましたが、パスも不要になった今、接種率が急上昇することはなさそうです。とくに、2021年の年末から始まった5-11歳児の接種はあまり進んでいません。

接種キャンペーンは、日本のように職場レベルや自治体レベルではなく、全国一律に、年齢や職業、病歴に応じて各自が自由に予約する形で進んだため、全体を見れば効率よくスムーズに進んだと思います。

*ワクチン接種証明、陰性証明、回復証明のいずれか。病院や高齢者施設、障がい者施設、飲食店や文化・娯楽施設での提示義務があった。

カフェは元どおりのにぎわい(2022年4月)

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

さすがのコロナ禍もひと段落した感・もう慣れた感があり、日常がかなり戻ってきた気がします。4月10日には大統領選挙の第1回投票がありましたが、投票所では感染者も投票を許され、その場合でもマスク着用は義務ではない、という(ちょっとビックリな?)政府の対応でした。ウクライナ情勢など心配の種には事欠きませんが、夏休みの計画を本格的に立てる時期ということもあり、私を含む多くの一般市民の間では、コロナは頭の隅に追いやられています。

ただ、コロナによる出入国上の制約に次いで、今度はウクライナ情勢による航路上の制約で、あいかわらず日仏間の行き来は(人もモノも)一筋縄ではいかない状況が続いています。この点が早く解消されるとよいのですが……。

劇場で開催できず公園で行われたバレエの発表会での一コマ。足元はスニーカー(2021年6月)

野村真依子(のむら・まいこ):英語・フランス語翻訳者。フランス在住


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(17)アイルランド

アイルランド

アイルランド(人口約490.4万人)

石川麻衣

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

ここ数週間(2022年4月10日執筆)の新規感染者数は、平均で1日3,000~4,000人程度です。年末年始は、オミクロン株が猛威を奮い、1日2万人を超えていましたが、今はだいぶ落ち着いています。しかし、いまだに救急外来でも長時間待たされることがあり、現在、75歳以上で診察待ちの患者数(緊急性のある疾患のある人)は約84,500人にも上り、うち25,000人は、1年以上も待たされているとのことです。全人口で見ると、約90万人が治療を必要としていながらも待機させられているとのことで、まだまだ課題は山積みです。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

医療機関でのマスク着用は必須ですが、それ以外の場所でのマスク着用の規制はすべて撤廃されました。2月末にマスク着用が義務ではなく個人の判断にゆだねられるようになってから、お葬式会場、教会、劇場、様々な趣味の講座が開催されるコミュニティーセンター、バス、電車、カフェ、どこへ行ってもマスクをしている人はマイノリティーです。人に会うと、以前のようにハグや握手をするのも当たり前になってきました。ラジオ局では自主的にマスク着用を義務化するなど、仕事場によって異なりますが、コロナ禍では当たり前だったソーシャルディスタンスは嘘のように消え、もはや忘却の彼方です。ハグやキスや握手を断るのは失礼、という雰囲気さえ漂います。つい最近までラジオでは、解除された規制(特にマスクの義務化)を元に戻すか否かの討論が連日のように行われていましたが、そんな議論も、ウクライナ侵攻による難民のニュースに飲み込まれて、徐々に消えつつあります。

元に戻りつつある街の風景

そもそもパブのような騒がしい場所では、叫ばなければ相手の声が聞こえないので、距離を保つこと自体厳しかったところに、マスク着用義務がなくなると、ソーシャルディスタンスを含めコロナ禍における習慣があっと言う間に崩れていきました。人が集う場所では、マスクをしなければ失礼どころか、マスクをつければ失礼、という雰囲気に移行しつつあるほどです。ひとりだけマスクをしていると、自分だけが心を閉ざしているようにも感じられて、逆に気まずいのです。

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

2022年4月10日現在、約290万人(アイルランドの人口は約500万人)がワクチンのブースター接種を済ませています。オミクロン株が猛威を奮った2021年のクリスマスシーズンから年始にかけて、いち早くブースター接種をしようと、指定の薬局の前で並ぶ人々の姿が目立ちました。現在、65歳以上に、2回目のブースター接種、つまり4回目のワクチン接種をするよう呼びかけています。

先週、「ゲーム・チェンジャー」と呼ばれている米国ファイザー製の新型コロナワクチンの飲み薬〈パクスロビド〉がダブリンに到着し、まずは入院患者を対象に各病院で使用を開始するようです。

毎年、春の到来を知らせてくれる水仙

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

一歩前に踏み出したら、もう足を元に戻すことはできないというように、マスクも何もかも脱ぎ捨ててズンズンと前へ進むアイルランドの人々のエネルギーを感じます。私も、そのエネルギーに背中を押されて先日、久しぶりに旅行のために航空券を予約しました。コロナ禍で一気に空港の警備スタッフが解雇されたせいで警備が追いつかず、ダブリン空港は連日、搭乗までの待ち時間が3時間を超えているようです。しかし、久しぶりに飛行機のチケットを予約したときは、胸が高鳴りました。

劇場も、ぎっしりと席が埋まるようになってきました。先日、由緒あるゲート劇場でサミュエル・ベケットの『勝負の終わり』を観劇しました。連日満席。開場前にロビーで立ち飲みをする人たち、場内に響き渡る笑い声や、むんむんとした熱気。ふとコロナ前に戻ったような錯覚に陥り、孤につままれたような気分でした。

去年の末に、私自身の企画がある劇団のメンターシップ・プログラムに採用され、現在、英国のシェフィールドにいるアーティストとZOOMでやり取りをしています。また、ZOOMを駆使しながら、アイルランドの戯曲を日本に紹介する機会にも恵まれました。舞台芸術はライブが一番と思い知らされたコロナ禍でしたが、「リモート」という新たなコミュニケーション手段をうまく交えながら、徐々に国際的な演劇プロジェクトが復活していくことを願うばかりです。

ダブリンのハップニー橋

石川麻衣(いしかわ・まい):通訳、英日翻訳家(主に演劇、芸術関係)、ナレーター。国際演劇協会会員。アイルランド・ダブリン在住


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(16)スペイン

スペイン (人口約4694万人)

米田真由美

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

2022年4月の時点での感染者数は、ピーク時(2022年1月13日)の5%と減少傾向にあります。感染状況は、2021年の夏以降一旦落ち着いていましたが、やはりその前年同様、クリスマス休暇を境に一気に増加傾向に転じ、2022年1月には新規感染者数が7日間平均で12〜13万人(*)、1日あたり20万人を超える日もありました。その後2月に入ると徐々に減少し、現在の新規感染者数は7日間平均で6,000人ほどまでに減少しています。

*直近7日間の新規感染者数累計を7で除した1日あたりの平均数。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

規制については、一部の州を除き、ほとんどの州で撤廃されています。

飲食店内の人数や営業時間制限も徐々に緩和され、ナイトクラブなども夜間通常営業に戻っています。ただし、屋内でのマスクは引き続き義務づけられています。屋外では義務づけられていないのですが、街中の様子を見てみるとマスクをしている人は多いように思います。

ワクチンパスポート(COVID PASS)の提示義務についても地域により差があります。私が暮らすバレンシア州においては飲食店、映画館(屋内レジャー施設)、特別養護老人ホームなどでは引き続き提示が求められています。

学校や教育機関では2021年9月の新学期以降、ほぼ完全に対面で授業が行われています。イベントや行事も可能な限り通常開催するようになっています。もちろん地域差はあるでしょうが、海外からの留学生もほぼ通常通りの受け入れを行っています。しかし、11月中旬ごろからオミクロン株の流行とともに、子どもの間での感染が急速に拡がり、小中学校では学級閉鎖になることが度々ありましたが、その学級閉鎖のルールも徐々に緩和されていきました。

2022年1月に入るとクリスマス休暇明けでさらに感染が拡がり、保健局の対応に混乱がみられました。感染者の隔離期間、PCR検査を受ける必要がある濃厚接触者の基準や手順など保健局の対応が度々変更しました。ピーク時において、軽症者へは電話診療のみで、休職手続きなども、全て電話とメール、地域医療センターのWEBで行われていました。これは医療体制や病床の逼迫を防いだ一方で、デジタル作業に明るくない高齢者などにはとても親切と言えるものではありませんでした。

また、人口が少ない地方では対応が遅れることがよくあったそうです。最寄りの地域医療センターでPCR検査や適切な診療が受けられないなど、都市部との格差に驚くことがありました。

市内の公園でマスクをして遊ぶ子どもたち

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

スペインはEUのなかでもワクチン接種率が高く、3回目の接種も進んでいます。2021年夏以降、高齢者や基礎疾患のある人から接種が開始されました。他のEU諸国に比べると始動は少し遅かったように思います。ファイザーやモデルナが2回接種で完了なのに対し、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)社製のワクチンは1回のみの接種タイプだったため、バレンシア州でのブースター接種はJ&J社製ワクチン接種者を優先して開始されました。これはあくまで個人の感想ですが、職場ではワクチン接種が遅かった人のなかに感染が多かったように思います。

また、外国人留学生や1か月程度の一時滞在者にもワクチン接種用の一時的な医療保険カードを発行(*)するなど、シムテム化も迅速で、誰もがスムーズに接種できる環境だったように思います。

*ワクチン接種は、地域医療センター(日本でいう保健所)が管轄しており、接種するには公的医療保険に加入している必要がある。公的医療保険に加入するにはスペインで税金を納めている必要があるため、旅行者、留学生などの加入は不可となる。そのため、一時滞在者対象に、医療サービスを含まない、ワクチン接種用のための医療保険カードが発行された。

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

スペイン全土としては「アフターコロナ」ではなく、市民の意識、政府の政策が「ウィズコロナ」へと向かっているという印象です。

バレンシア州では3月下旬からコロナ感染者の隔離や休職などの定義が大きく変更されました。働く現場では新たな混乱を招くことが予想されていますが、確実に「コロナとともに暮らす」を目標としているのがわかります。

昨年12月から3月頃までの第6波では、私自身が一家で感染したこともありますが、これまでと違って、家族や友人、知人など直接の知り合いに感染をした人が急激に増えた印象がありました。長引くコロナで経済的に大きな問題を抱えながら、習慣や文化的慣習が人々の暮らしに大きく影響しているスペインではクリスマス時期の人の集まりや流れを規制することが難しく、いかに医療を逼迫させずにコロナとともに市民の社会生活を維持するかが政策のポイントでした。

2020年3月の非常事態宣言以降、これはスペインだけではないかもしれませんが、コロナ禍で最も適応能力が高いのは子ども達だと、感慨深く思う場面が沢山ありました。楽しみにしていた行事やイベントが担任の先生や学友のコロナ感染で中止になることがあっても、決して大人を責めたりせずに、子どもも保護者とともに頑張ろうという姿勢がありました。もちろん、そういったことばかりではなく様々なドラマがあったと思いますが、スペインは少なくとも感染者が生きづらいというような社会ではないと改めて思いました。これはレポート第一弾から一貫して感じていることです。

市街のオープンカフェで外食を楽しむ人々

非常事態宣言中、親が医療従事者であったり、リモートワークが不可能な職業の場合は、その子どもたちは特に辛い思いをしていたと思います。いまようやく、また学校に通えるようになった子どもたちは、校庭で遊ぶ時にマスク着用を強いられても文句一つ言わず学友との時間を精一杯楽しんでいるように思います。隔離生活がどういうものか身に染みてわかっているのでしょう。

こうした子どもの柔軟な姿勢や、学びの速さ、感謝の気持ちはぜひ大人も見習いたいものです。コロナでネガティブなことは多くありましたが、コロナがなければ学び得なかったこと、海外で暮らしていたからこそ多くの気づきがありました。今後のウィズコロナ生活でも困難にぶつかることは多くあるでしょうが、子どもたちに倣って学びの多い生活にできればと心から思っています。


米田真由美(よねだ・まゆみ):スペイン・アリカンテ在住のコーディネーター・通訳者。アリカンテ大学語学教育センター勤務


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(15)マダガスカル

マダガスカル(人口約2,697万人)

フランス語情報センター翻訳チーム(中平信也、脇るみ子)

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

マダガスカルの公衆衛生省の発表によると、3月26日~ 4月1日の一週間の新型コロナウイルス感染状況は次のとおり。

  • 新規感染者数:検査者総数 2,527人、内 41人陽性
  • 新規死亡者数:4人、重症者数:22人
  • 新規快復者数:33人

2022年1月初旬の感染者数1700人超/週、死亡者50人超/週をピークにコロナ禍は減少の一途をたどっている。しかし、南半球に位置するマダガスカルはこれから寒くなること、首都にある国際空港の再稼働に続いて地方空港での国際便の再開が閣議決定されたこと、ワクチン接種率が低いことを考えると、コロナ感染再拡大も懸念されている。

私たちの現地法人の従業員。写真撮影は唯一の日本人(会社代表)による。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

外出時間の制限、多人数での集会の禁止、他県への移動の禁止または制限、飲食店に対する営業時間の制限、屋外でのマスク着用の義務化など、ほとんどの規制・制限は解除されている。ただし、病院、スーパーマーケット、オフィスではマスクの装着が奨励されており、マスク非着用の場合、入店・入室が拒否される場合がある。首都圏でマスクをしている歩行者は全体の30%程度。政府はテレビを通じ、手洗い、うがい、1メートル以上の間隔確保を繰り返し推奨している。政府はまた、希望者への新型コロナワクチンの無料接種を行っている。

出国の場合、出発前のPCR検査が(政府指定の病院で出発2日前に検査を受け、翌日結果が出る)、場合によってはワクチン接種証明の提示(要求される時とされない時がある)が必要である。入国の場合、到着時にPCR検査が行われる。政府指定のホテルで検査結果を待ち(2日間)、陰性であれば翌日から自由行動となる。陽性であれば、政府指定のホテルで2週間の隔離の後に再検査となる。

「国境なき医師団」は、そのHPの「活動ニュース」の2021年5月31日付「マダガスカルで最悪レベルの食料危機(*)」のなかで、「新型コロナウイルス感染症流行により、マダガスカルへの入国制限、首都と南部地域を結ぶ国内便の停止などの措置がとられ、援助物資の運搬に影響が出ている 」としているが、このような状況は改善されつつある。ただし、食糧危機の解決にはほど遠い。

*同ニュースによると、マダガスカル南部の地域全体で急性栄養失調に陥っている子どもの数は7万4,000人、そのうち1万2,000人は重度の栄養失調である。

タマタブ最大の市場バザールケリー

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

UNICEFのマダガスカル支部の発表によると、3月9日時点でのマダガスカルの新型コロナワクチンの接種状況は次のとおり。

  • 1回目の接種を終えた人が125万8,980人、2回目の接種を終えた人が101万2,453人
  • 2回接種を終えた人はまだマダガスカルの全人口の3.5%
  • ワクチン接種は、兵士・憲兵隊・警察官等の治安関係者・医療従事者・公務員そして都市部住民を中心に奨励されており、マダガスカルの全人口の7割近い農村部居住の人々のほとんどはまだ接種を受けていない

我々の関係する現地法人ソマコワでも、事務職10名のうちワクチン接種に応じたのは3名のみ。コロナに対する警戒感は、マラリアやエイズのそれよりも低い。つまり、マダガスカルの人々の生活環境には、新型コロナウイルスよりも恐ろしい疫病が存在する。

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

マダガスカルでは、新型コロナウイルスの前に肺ペストが流行し、誰もがマスクを着用して外出していた。21世紀になってペストが流行する国が残っていることに驚いたが、マダガスカル公衆衛生省は今年2月、2021年にマダガスカルで新規に確認されたハンセン病患者数が1334人と公表した。世界保健機関(WHO)によれば、マダガスカルでは毎年、1,000人ほどの新規ハンセン病患者が発生している。今なお、らい病がこの規模で発生する国があることにも驚かされる。

驚くのは病気についてだけではない。昨年のクリスマス(2021年12月25日)には、ミサが行われているカトリック教会に落雷し、大人4人と7歳~17歳の子ども6人の合計10人が即死した。マダガスカルの雨季(11月頃~4月頃)には雷雨が多発し、これほどの規模ではないものの、落雷による死亡は毎年発生している。

フランスのTVニュース「フランス24」によると、我々の拠点とするマダガスカル第2の都市タマタブ近郊の観光地セントマリー島付近で昨年末150人を乗せた木造船が沈没、85人が死亡した。沈没した船は下の写真のとおり小さい。よく150人も乗れたと思うし、乗せたと思う。

このように不条理としか言い得ない出来事と背中合わせの日常を生きるマダガスカルの人々にとって、新型コロナウイルス感染は当初から我々が思うほどに特別な事柄ではなかったのかもしれない。彼らにとっての身に迫る危機は、コロナ前と比較して、30%上昇した物価、25%上昇した主食のコメの価格である。増大する生活苦は犯罪の凶暴化をもたらしている。


株式会社フランス語情報センター翻訳チーム:代表の中平信也(なかだいら・しんや)とパートナーの脇るみ子(わき・るみこ)で運営。どちらも日本在住のフランス語通訳・翻訳者。マダガスカルと日本のあいだを定期的に往復している


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(14)バングラデシュ

バングラデシュ(人口1.63億人)

大橋正明

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

バングラデシュでは、2021年7~8月がこれまでの最悪の流行期で、新規感染者数のピークは8月2日の15,989人、死者数のピークは8月8日の245人だった。しかしその後順調に減少し、12月の新規感染者数は数百人に落ち着いた。ところが2022年に入った途端に新規染者数は再び急増し、1月27日で15,807人と最悪の記録に迫った。

しかしこの流行期の死者数の最多は2月9日の33人と、昨年8月に比べるとかなり少なく、このパンデミックが軽症化したように見える。新規感染者数はその後急激に減少し、4月に入ってからは数十人ほどで、死者数も一桁台かゼロになり、状況はほぼ落ち着いた。それでも毎日のTVニュースでは、ヘッドラインの一つになっている。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

政府によるマスク着用の指示は今も出されており、街中ではそれを守っている人もいるが、守ってない人、顎に引き下げている人も目立つ。学校はこのパンデミックの初期から長期間閉鎖され、リモート授業は富裕層が通う私立学校では実施されていたが、公立学校では全国的なテレビやオンライン授業が行われていた。とはいえ、そもそもテレビやパソコンを持っている家庭が少なく、その効果は限定的だった。

しかし今年2月中旬から学校は開き始め、3月中旬に全面再開となった。4月初めに始まったイスラム教徒の断食月の期間、例年授業は短縮されるか休みになるが、今年度はこれまでの遅れを少しでも取り戻すべく、通常時間で授業が行われている。

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

4月4日現在、1回以上の接種を受けたのが77.4%、必要回数完了(恐らく2回と推定される)が65.4%、3回目のブースター接種を受けた人が6.1%となっている。ただ、ダッカ市では3回目を受けた人も珍しくない。

副反応の違いはかなり大きい。1~2回の接種のワクチンの大半が、中国製のシノファーム社かインド製のアストラゼネカ社のものであった。ところが3回目で使われているワクチンはモデルナ製が多く、副反応はそれまでより強いという。

バングラデシュはこのワクチンの供給の大半を他国や国際機関からの支援に頼っているが、3月初め、リトアニア政府がバングラデシュへの50万回分のワクチン提供をキャンセルした。その理由は、3月3日の国連総会のロシア非難決議にバングラデシュ政府が賛成せず、棄権したからだ。ワクチン外交の一端を垣間見た思いがする。

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

3月中旬の学校全面再開以来、登下校に車を使う児童生徒が多いことから、ダッカ市内の交通渋滞が以前のような深刻な状態に戻ってしまったことも、多くの人に大きな影響を与えている。また例年この断食月の間は消費増のために食料品や燃料などの価格が上るが、今年はウクライナ侵攻などもあり物価が異常に高騰しており、庶民の一番の関心事はそこに集中している。

新型コロナウイルス感染症に話を戻すと、新規感染者数の減少は、バングラデシュに留まらず、周辺の南アジア諸国でも同様だ。この状態が継続するなら、このパンデミックについてのバングラデシュの人々の関心は、今後さらに小さくなっていくだろう。

多くの人々の現在の健康に関する関心は、ダッカ市で大流行している下痢である。今年3月27日付の現地紙は、首都ダッカで「下痢病院」として知られる大規模な国際下痢研究所(International Centre for Diarrheal Disease Research, Bangladesh)附属病院では、毎日1,200人の下痢患者を治療するという過去60年で最悪の事態に陥っており、市内の他の病院でも同様な傾向がみられる、と報じている。原因としては市内の上水道の汚染が疑われているが、特定はされていない。また例年7~9月に大流行するデング熱に対する警戒の声も、聞こえ始めている。

取材協力:(NPO法人)シャプラニール=市民による海外協力の会 内山智子バングラデシュ駐在員

参考資料:

https://www.thedailystar.net/views/editorial/news/early-diarrhoea-outbreak-alarming-2991061

COVID-19 vaccine Bangladesh

https://qz.com/2139368/lithuania-cancelled-its-vaccine-donation-to-bangladesh/

https://www.dhakatribune.com/dhaka/2022/03/15/dhaka-dwellers-suffer-amid-unusual-traffic-gridlock


大橋正明(おおはし・まさあき):聖心女子大学教授、聖心女子大学グローバル共生研究所客員研究員、SDGs市民社会ネットワーク共同代表、シャプラニール=市民による海外協力の会監事、日本バングラデシュ協会会長