コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(13)デンマーク

デンマーク(人口約580万人)

針貝有佳

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

2022年4月7日現在、デンマークでは新型コロナウイルスの存在はほぼ忘れ去られています。オミクロン株は2月中旬にピークアウトし、その後、感染者は減少し続けています。デンマーク人のなかではすっかりコロナ騒動は過去の出来事となっており、ただいまアフターコロナ生活を満喫中です。

1日の新規感染者数の推移(2021年10月〜2022年4月7日)
参照元: JHU CSSE COVID-19 Data

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

現在、コロナ関連の規制はゼロです。2022年2月1日、デンマークは新型コロナを「社会の脅威になる病気」というカテゴリから外し、EUで初めて新型コロナに関する規制の全面撤廃に踏み切り、世界中のメディアを騒がせました。しかも、デンマーク人は自粛をしないので、2月1日以降、屋内外問わずマスクをしている人を見かけることはほとんどなく、街はすっかり日常の風景を取り戻しています。屋内施設や交通機関でもマスクをしている人はほぼゼロです。ショップ、カフェ、レストランも通常営業していますし、通勤・通学も通常モードで、コロナ前と変わらない様子で社会がフル回転しています。

集会の人数制限もなく、屋内外で大規模イベントが開催されています。さらに、2022年3月29日には、海外からデンマークへの入国者に対する規制や制限措置も撤廃され、デンマークへの出入国も自由になりました。このように、規制はゼロのデンマークですが、高齢者や身体が弱い人への配慮は推奨されています。たとえば、病院や老人ホームなどでは、マスクやフェイスシールドを着用することが推奨されています。

また、コロナ陽性が発覚した場合の自主隔離も推奨されています。ただ、あくまで推奨であって義務ではない上に、陽性から4日後には自己判断で隔離を解除できます。たとえば、無症状や軽い症状(鼻水・喉の痒み・ちょっとした咳など)の場合は、陽性発覚から4日後には自由に外出できますし、明らかに症状が出た場合も、陽性発覚から4日後に症状が軽くなっていれば自己判断で自由に外出できます。尚、コロナ陽性者の同居人には一切の規制がなく、濃厚接触者でも普通に日常生活を送れます。

検査キットで陽性反応が出たときの写真

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

デンマーク政府は最初から一貫してワクチン接種を強く推奨してきました。また、国民も政府を信頼し、積極的にワクチン接種をしてきました。おかげで、国民のワクチン接種率は非常に高く、2022年4月7日時点で3回目接種率(18歳以上)は76%、2回目接種率(12歳以上)は約89%に上ります。

年齢別に見ると、3回目のワクチン接種率は65歳以上の高齢者では約95%に上っています。リスクグループである高齢者のほぼ全員をカバーしているという安心感がデンマークにはあるのです。また、50〜59歳では85%以上、40〜49歳では75%以上、20〜30代では約55%が3回目接種を完了しています。

現在は身体の免疫力が低い人に4回目接種を実施していますが、デンマーク政府によれば、秋以降には一般の人たちに対しても4回目接種が推奨される可能性があります。

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

2022年1月末から2月は、私にとって忘れられない1か月となりました。コロナ報道のため、日本のテレビ局向けにデンマーク現地の動画を何十本も撮影して送る生活でした。そんな思い出ができたのは、デンマーク政府による衝撃的な記者会見があったからです。

2022年1月26日、オミクロン株が蔓延し、1日の新規感染者数が4万人、ときに5万人を超えるなか、デンマーク政府は2月1日から規制を全面撤廃すると発表したのです。理由に挙げられたのは、高いワクチン接種率、高い検査率、重症化しにくいオミクロン株の特性、重症者数の減少などでした。

2022年1月26日、メッテ・フレデリクセン首相の記者会見。EU初の規制全廃へ。

記者会見が行われた当時、保育施設も学校も職場もコロナによる欠席者が続出していました。感染者数もピークアウトしておらず、私から見れば先が見えない状況だったので、デンマーク政府が規制の全面撤廃に踏み切ったことに大きな衝撃を受けました。

急いでそのことを日本のテレビ局に伝えたところ、この記者会見は衝撃ニュースとして取り上げられ、各局から取材依頼が殺到しました。結局、1か月の間に7本の番組制作のために奔走することになり、コペンハーゲンの街や人びとの様子を撮影しては各局に送りました。

コロナを通じて見えてきたのは、デンマーク人の価値観であり、国民性でした。デンマークの人びとは、敵は他人ではなくコロナであるという共通認識を持ち、コロナ対策をめぐって他人を非難しません。必要以上に自粛しない代わりに、他人にも自粛を求めません。また、どんなときも楽しむことを諦めず、可能な範囲で存分に楽しみ、未来を信じて活動を止めません。パンデミックを通じてデンマーク人から学ぶことは多かったように感じます。

コペンハーゲンの街。コロナ報道のための取材中に撮影

最後に、参考までに、デンマークのコロナ対策の特徴をまとめます。

デンマークのコロナ対策の特徴

  • 1.政府による明確なルール設定とわかりやすい説明→国民の政治への信頼
  • 2.政府による長期的なビジョンの提示→今後の生活の見通し
  • 3.シンプルにデジタル化されたシステム→検査・ワクチン接種のしやすさ
  • 4.高い検査率(無料)→高いデータ監視力→小さな変化に即対応可能
  • 5.高いワクチン接種率→重症化予防
  • 6.メリハリのある対策→国民のストレス軽減(ガス抜き)
  • 7.政府のフットワークの軽さ→何かあれば臨機応変に対応してくれる安心感

現在、アフターコロナモードのデンマークですが、デンマーク政府によれば、秋には再び感染者数が増加し、変異株にも注意する必要があるとのことです。ワクチンの4回目接種も視野に入っており、今後の対応が気になるところです。


針貝有佳(はりかい・ゆか):デンマーク語の翻訳者、ライター。デンマーク・ロスキレ在住。ホームページ https://www.yukaharikai.com


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(12)韓国

韓国(人口約5127万人)

小佐野百合香

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

韓国では2021年の末ごろから新型コロナウイルスの感染対策規制を緩和する方向に政策が転換しました。それから感染者が急増しており、2022年1月末に新規感染者が1万人を超えてから毎日万単位で増加しています。2月の中旬には約10万人、3月の中旬には過去最高の約62万人が感染しました。現在も1日30万人〜40万人前後の新規感染者が出ていますが、次第に減少傾向となっています。

友人や教授など、身近なところでも感染者がどんどん増加しており、新型コロナウイルスの流行を肌で感じています。私自身も3月末に感染し、1週間の隔離生活を送りました。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

オミクロン株の重症化リスクが低いことと、ワクチン3回目の接取率が60%を超えていることから、飲食店の営業制限やソーシャルディスタンスも徐々に緩和されており、オフラインの授業を開始している大学も増えています。感染者は増え続けていますが、規制はどんどん緩和されているためでしょうか、観光地などに行くとあまりの人の多さにコロナ以前の風景を見ているかのようです。

規制緩和により人であふれているソウルの花見の名所

2022年5月10日から、進歩政党の文在寅氏に代わって保守政党の尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏が大統領に就任します。尹錫悦氏は飲食店やカフェの営業制限の全面解除など規制緩和を掲げているため、政権が変わってからは制限が強化される可能性は低いのではないかと思います。

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

韓国の3回目のワクチン接種率は現在(2022年3月26日)63.5%で、私の周りでもほとんどの人が3回目の接種を完了しています。早い人では4回目の通知が届いたという人もいますが、2回目の副反応が強く、3回目の接種を受けない人もいます。人によって副反応にかなり違いがあり、熱が出たという人もいれば、腕の痛みだけしかなかったという人もいました。私は3回目のワクチンを予約しようと思っていた時にコロナに感染してしまったため、次のワクチンをいつ受けるか悩んでいます。

治療センターで提供された薬

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

急激な感染者の増加で、ソウルに住んでいる私も3月末にコロナに感染しました。くしゃみとのどの痛みを感じ、抗原検査キットで検査してみたところ陽性でした。そこで、ソウルの各所にある検査所でPCR検査を受け、大学の寮内にある臨時隔離施設に一時的に移りました。翌日陽性判定が出たため、ソウルの東大門区にある「生活治療センター」という隔離施設で1週間過ごすこととなりました。「自宅隔離が可能な人は、自宅で1週間隔離すること」が原則となっていますが、私が生活治療センターに入れたのは寮に住んでいるからだったようです。現在ソウルでは、ホテルや大学の寮の一部が隔離施設として利用されており、食事や薬、シャンプー、タオルなど生活に必要なものが全て無料で提供されます。海外でのコロナ感染で不安でしたが、外国人に対しても韓国人と同じ対応をしてもらえるのはとてもありがたかったです。

陽性の印が現れた抗原検査キット

4月からワクチン接種者(2回目の接種から180日以内に3回目接種完了が条件)は入国時の隔離が免除されることとなりました。規制の緩和に対して不安もありますが、夏には2年半ぶりに日本に帰国できるかもしれないと期待しています。


小佐野百合香(こさの・ゆりか):ソウル市立大学に在学中。韓国史学科4年生


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(11)コロンビア

コロンビア(人口約5034万人)

ロブレド・ゴンサロ

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

新型コロナウイルスによるパンデミックが始まって以来、コロンビアでは、2022年3月末までに累計608万4,240人が感染しました。そのうち591万7,334人は快復しましたが、13万9,595人はCOVID-19が原因で死亡しています。4月初旬の現在、一日の新規感染者数は300人ほどに減ってロックダウンも解除されていますが、4月30日までは緊急事態の措置が続けられます。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

屋内や公共の乗り物内では今もマスクの着用が義務づけられていますが、2022年3月には、ワクチン接種者の割合が70%を超えた地域で、屋外でのマスク着用の義務が解除されました。しかし多くの人が家の外でマスクを外すことを恐れ、着用を続けています。中国などで感染が再拡大しているといったニュースを聞き、油断をしないよう気を付けている人も多いようです。

一部の県や都市ではまだ独自の規制を敷いているところもありますが、政府による、国内旅行を含む移動の禁止令は解除されました。また、エル・エスペクタドール紙は3月末の記事で、4月3週目のイースターにコロンビアを訪れる外国人観光客の数は2万5,000人にのぼるだろうと書いています。これは2021年同期と比べて230%の増加となります。首都ボゴタと地方の合計9空港では国際便も飛んでおり、到着する外国人の半分をアメリカ人、メキシコ人、チリ人、ペルー人、スペイン人が占めています。海外からの渡航者には、隔離は義務づけられてはいませんが、18歳以上の海外からの渡航者(在留資格を持つ外国人は除外)には、少なくともすでに2回のワクチン接種の完了が求められています。

規制の緩和にともなって経済も回復の兆しを見せています。しかし、ロックダウンや強制的な隔離で経済的に厳しくなった人々に対するいくつかの支援は、2022年の12月まで続けられる予定です。「収入と生活の質」に関する公的な調査の結果、400万世帯が、2か月ごとに98ドルの支援を受けています(ひと月の最低賃金は265ドル)。これはパンデミックの影響をできるだけ軽減するために2020年につくられたプログラムです。

さらに若者や高齢者に対するさまざまな支援や、消費税の還付制度なども実施されています。銀行口座を持っていない受給者は、デジタル決済や、現金受け取りのサービス業者を利用することも可能です。送金のお知らせはスマホなどにテキストメッセージで届くため、貧困層の人たちのデジタル媒体の使用率が上がりました。

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

2022年2月末までに、コロンビア全国で7,724万8,506回分のワクチンが接種されています。認可されているワクチンは、ファイザー、アストラゼネカ、ジョンソンエンドジョンソン、シノバック、モデルナ、ジファックスです。

飲食店によっては、入店時に3回接種の証明書を求めるところもあるようです。健康上の理由で1回しか接種ができていないという看護師の友人は、レストランに入るたびに店員にそのことを説明しないといけないと嘆いていますが、医療従事者の証明書を見せるとたいていは入れてもらえるそうです。

学校では今年1月の新学期から、対面の授業が再開されています。政府は新学期に先立ち、ヨーロッパの例に倣って、子供たちにワクチン接種をさせるよう親に訴えかけるキャンペーンを行いました。昨年末までに新型コロナウイルスの感染が確認された子供は、全国の子供の8%に当たる44万人で、そのうち260人が亡くなっています。

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

社会生活はコロナで大きな打撃を受けています。人々が集まる機会が大幅に減ったことに加え、最低賃金が10%上がったにもかかわらず、物価が上がって購買力が下がっています。2020年には、パンデミックの最中、政府の増税政策に反対するデモ隊の一部が暴徒化し、道路が閉鎖されるなどの騒ぎが起こりました。そのため食料品が届かない地域がでてくるなど問題が拡大し、政府は増税案の延期に追い込まれました。不安定な生活を強いられる国民が増え、コロンビアはOECD諸国のなかで失業率が二桁台にのぼる数少ない国のうちのひとつになっています。

保守派の現政権への不満から、左派政党の人気が高まっており、世論や大方のアナリストは、今年5月の大統領選では政権交代が起こるだろうと予測しています。最も有力といわれている新大統領候補は、1998年に政界入りし、2014年から2015年にボゴタ市長を務めた元ゲリラのグスタボ・ペトロ(61歳)です。彼がコロンビアの大統領になったら、企業の国有化や社会主義政策を進めたチャベス政権下のベネズエラのようになってしまうのではないかと恐れる声も少なくありません。コロンビア人投資家だけでなく、コロンビアでビジネスをしている日本人を含む多くの外国人が、いざとなればすぐに資金を国外に持ち出せるよう準備をしながら、大統領選の行方を見守っています。


ゴンサロ・ロブレド:コロンビア出身のジャーナリスト。スペイン語翻訳者。1981年より日本在住。スペインのエル・パイス紙に寄稿した記事:https://elpais.com/autor/gonzalo-robledo/


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(10)イギリス

イギリス(人口約6665万人)

アレクサンダー・ペイトン

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

イギリスでは、昨年末(2021年)まで新型コロナウイルスの勢力も比較的落ちつきをみせていましたが、オミクロン株の流行に伴い、感染者が急激に増えました。その拡大を食い止めるために、12月に「プランB」が発令され、公共の場でのマスク着用や、大規模イベントでのCOVIDパスポート(*)の提示などが義務づけられました。その効果もあり、再び落ちつきを取り戻し、現在は、すべての規制が取り除かれ、ほぼ通常の生活ができるようになりました。大規模イベント等も実施されるようになり、マスク着用の義務もなくなりました。しかし、周りを見渡すと、身近な人にも、やはり罹患者はいるというのが実状です。

(*)COVIDパスポート…2回のワクチン接種証明書、もしくは直近に受けた検査での陰性証明書

新規感染者数の推移

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

イングランドでは、新型コロナウイルス対策のすべての規制が、2月末に撤廃されました。マスク着用の習慣が全くなかったイギリス人ですが、スーパーマーケットなどに行くと、今まで通りマスクをしている人もそれなりにいます。それぞれ個人で予防しようという意識は残っています。政府もワクチン接種、屋内の換気、こまめな手洗いや消毒、マスク着用等を呼びかけています。規制はなくなりましたが、今でもお店の入り口には、消毒液等が置かれていますし、ほとんどの店員さんはシールドやマスクを着用しています。

お店の前に設置されている消毒液とガイダンス

ウイルス検査で陽性反応が出た人も自主隔離する必要はなくなりましたが、大人は5日間、子供は3日間、自主待機をするよう、また、他人との接触を避けるよう勧告されています。 一方、スコットランドでは、いまだにマスク着用義務、可能な限り在宅業務を行うというルールは継続中です。

テイトモダン美術館内(ロンドン)

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

イギリスでは12歳以上の78%強が1回目の接種を、73%が2回目を、57%が3回目の接種を終えています。病院から連絡が入り、オンラインで、近い会場での接種を予約ができるので便利です。学生は接種会場に行かずとも、学校から集団接種ができる日程が伝えられ、希望者は学校での接種も可能なので、比較的容易にワクチン接種を受けることができます。

イングランド北部の街リーズ

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

政府から「COVIDと共に生きる」という指針が発表され、規制等も解かれたこともあり、コロナに感染するのはインフルエンザにかかるのと同様ではないかという感覚になってきました。この3年間、隔離や施設閉鎖等で、国民全体が様々な強制を強いられてきましたが、その中でも子供たちは一番の被害者のような気がします。学校の研修旅行や、記念イベントなどすべてがキャンセルされ、友達と楽しめたであろう学校行事を体験することができなかったのは、青春の一ページが奪われてしまったようで本当に残念に思います。今は元の生活に戻りつつあるので、コロナとうまく共存しながら、早く安心して暮らせるようになることを祈っています。

春を迎えたコッツウォルズ

アレクサンダー・ペイトン:英日翻訳者。イギリス・コッツウォルズ在住


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(9)トルコ

トルコ(人口約8200万人)

西岡いずみ

トルコ、イスタンブルよりメルハバ(こんにちは)! こちらは3月に入って大雪が降り続き、なかなか寒さが緩まないでいましたが、3月末になって一気に夏の気配がしてきました。コロナを取り巻く(あるいはコロナに取り巻かれているとも言える)状況にも緩和が見られます。

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

第三回目のレポート執筆時2021年5月24日の感染者数は7,523人で、その後夏に向けて増加を続け、10月中旬に3万3,000人台になりましたが、その後、減少に転じていました。しかし12月21日トルコで最初のオミクロン株感染者が確認されて、再び増加しました。今年2月8日には感染者数が11万1,096人とピークを迎え、それ以降は減少に転じています。トルコ保健省の発表によれば、3月29日現在の新規陽性者数は16,190人(新規検査数28万8,968件)、亡くなった方は63人。これまでの感染者総数は約14万8,000人で、死者の合計は約9万7,800人になりました。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

外出禁止措置は昨年2021年7月1日に完全に解除され、昨年9月に新学年を迎えて以来全国一律の学校閉鎖は行われていません。また、飲食店もコロナ発生以前とほぼ同じ営業時間に戻っています。週末などは、繁華街のカフェの屋外席は客で溢れかえっています。とりわけ3月3日に、病院、学校、劇場などの閉鎖空間を除いてのマスク着用義務解除と、HES(Hayat Eve Sığar =「命は家に収まる)」の略で、トルコ政府のCOVID-19感染者追跡システム)コード使用解除が行われたことにより、コロナ終息への期待が高まってきました。ちなみに、政府によるマスク着用義務の解除宣言の直後、今まで我が家で購入していた50枚入りマスクの値段が、いきなり40トルコリラ(約330円)から30トルコリラ(約248円)に下がってびっくりしました。

自宅近くの繁華街にて。マスク着用者は半数以上といったところ

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

トルコは国産の新型コロナワクチン(TURKOVAC)を開発し、昨年12月に一般人への接種を始めましたが、感染者数の減少や感染防止措置の緩和などに伴い、接種への関心も薄れつつあるようです。トルコ保健省の発表によると、3月29日時点でのトルコ国内でのワクチン接種状況は、

  • 1回接種 57,776,278人 (全人口の93.08%)
  • 2回接種 52,968,985人 (同85.34%)
  • 3回接種 27,606,020人 (同44.05%)

となっています。3回接種を終わらせた人の数が2回接種を終わらせた人の数よりかなり低いことがわかります。私の友人のなかには早い段階で3回目、あるいは4回目の接種を終えた人もいる一方で、3回目接種については、副反応などを気にして躊躇する人もちらほら見られます。

トルコの各県における、最低2回ワクチンを接種した18歳以上の人の割合の図は以下。西高東低です。

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

規制緩和が進むなか、3回目のワクチン接種をした人の数が伸び悩んでいるとは言え、人々の意識が完全に緩んでいるわけでもありません。マスク着用義務解除後もかなりの人が戸外でもマスクを着用していますし、私が通っているいくつかのカルチャーセンターでは、外出規制がないにもかかわらず受講者数が外出規制措置以前の数まで回復せず、大きな経営難に直面しています。

また、外出規制により世界的に宅配サービス業が急成長したと思いますが、トルコも例外ではありません。それに伴い、以前はこちらではあまりみかけなかった原動機付き自転車が増加しました。イスタンブルの道幅は狭く、運転マナーがあまりよくないため、外を歩くときに怖い思いをすることが多くなり、そのたびに「これもコロナのせいだなー」と感じます。公共交通機関の利用を避けて自家用車を購入する人も増えました。そのため自動車の販売価格の高騰も見られます。このように、コロナ発生直後とは異なる状況が発生しています。

公園で。高齢者は遊ぶ子供たちを眺めながら、免疫力アップのために日光浴をしている

さて、このレポートを書いているのは3月末で、2022年のラマダン(断食月)が始まる4月2日まであと数日を切っています。今年のラマダンは多くの規制が緩和され、イフタール(毎日の断食明け)時の人々の集まり、行き来も活発になると予想されます。今年は戸外で多くの人が集まって断食明けの食事をするイベントを復活させる、と宣言している自治体もあります。警戒を怠らず、十分な予防対策をとりながら、人々の交流が以前のような形に戻っていくことを祈っています。


西岡いずみ(にしおか・いずみ):主婦、ときどき翻訳者。トルコ・イスタンブル在住


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(8)ポーランド

ポーランド(人口約3,839万人)

岩澤葵

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

現在3月30日時点で、新規感染者数は1日6,000人ほどです。2月の頭に1日5万7,000人の新規感染という信じられない数字を叩き出した四度目の感染爆発。ようやくそこから落ち着いてきました。決して良い状況とは言えませんが、ポーランドの人々は楽観的にとらえているように感じます。

2021年の夏から秋にかけて、しばらく落ち着いた時期が続き、それ以降「もうコロナは終了」ムードのポーランドです。政府も、商業施設の営業規制や厳しい入国制限など行わない方針を貫きました。生活はコロナ以前とほとんど変わりません。この一年間で、イベントが中止されたり学校の授業がリモートに切り替わったりしたのは第四波の前後のみでした。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

3月28日から、ついにポーランド全国でマスクの着用義務が完全撤廃されました。その他のことが段階的に規制解除されていくなか、長い間公共交通機関や屋内でのマスク着用は必須でした。今ではコロナによって規制されている内容を探す方が難しいほどです。各所に設置された消毒液、時々見かける店内のパーテーションや人数制限などはすでに日常に溶け込んでしまい、不自由や違和感を感じることはありません。

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

3回目の接種にあまりメリットを感じない――接種しても感染する、国内では未接種者への規制などがない、副反応が強いなど――という意見を多く耳にします。そのためか、2回の接種を完了しているのは国民の半数ほどで、3回目のブースターショットをしている人は国民の3割程度にとどまります。

新型コロナが流行しはじめた当初、マスクをするかしないか、感染対策は必要か否か、ポーランド人たちの間で頻繁に議論が行われていたように、ワクチンについても賛否両論があり、一定数の反対派がいます。ワクチンを打たない派の人たちは、ワクチン接種を条件とした規制に柔軟に対応して生活しているようです。旅行時にはPCR検査を受ける、ワクチン証明がなくても入店できるお店を探す、どうしても無理なら諦めるといった具合です。そもそも、ポーランド国内で生活している分には、ワクチンを打たなくてもあまり影響はないように思います。

コロナ開始からすでに2年が経過し、良くも悪くもみんな慣れ、この少し変化した生活に順応しているように見えます。

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

今年2月、久しぶりにやってきた感染爆発の影響で、出演予定だった約50公演ものコンサートがキャンセルになりました。心の糸がぷっつりと切れてしまいました。これまでの辛い時期を耐えやっと巡ってきた大きなチャンスだったこともあり、くやしさ、虚しさでしばらく立ち直れませんでした。

それから3か月。もうポーランドでコロナのことを気にしている人はいません。2月末に隣国で戦争が始まってからというもの、緊張感と不安が生活を支配し、「それどころじゃない」という空気なのが正直なところです。ウクライナの市街地への攻撃が本格化してから、すでに100万人以上のウクライナ人がポーランドに避難して来ているのは日本でも報道されているとおりです。ポーランドは驚異的な瞬発力ともいえる速さで支援を開始し、政府による正式な受け入れ態勢も瞬時に整えられました。素晴らしいことですし、ポーランドの人々を誇りに思います。

一方で、この状況が長期化した場合に、支援側の体力がどこまで持つのか心配です。もともと西側の諸国と比べ経済的に豊かとはいえないポーランド。避難民への支援は市民のボランティアから民間企業までさまざまな形で行われていて、その多くは個人の好意による寄付がほとんどです。

また、政府は金銭的な援助や無償での就学許可等を発表。各地から賞賛の声が集まっていますが、その資金はどこからやってくるのでしょうか? 昨年9月から現地企業で翻訳の仕事に就いて働き始めたものの、今後のポーランド経済の状況によってはこの国に長く滞在するのは厳しいかもしれません。予測不可能な事態が次々と発生して今後を見通すことが難しいなか、私自身も冷静な判断を迫られているように感じます。

2年ぶりに開催されたクリスマスマーケット。街中にウクライナ国旗があふれています

岩澤葵(いわさわ・あおい):クラリネット奏者・ポーランド語翻訳者。ポーランド・ヴロツワフ在住


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(7)イタリア

イタリア(人口約6036万人)

アヤ・ナカタ

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

2022年3月24日現在、イタリアの大部分の州がホワイトゾーン(*1)になっています。サルデニア州のみイエローゾーンですが、3月28日からホワイトゾーンになることが確定しました。保健省の感染者数推移のグラフ(3月7日現在)(*2)を見ると、イタリアでは2022年1月中旬ごろに最後のピークがきて、その後だいぶ落ち着いていましたが、このところ再び感染者数が増えてきているようです。ピエモンテ州に関して言えば、2月2日からイエローゾーンになりましたが、3月7日、ホワイトゾーンに戻りました。

ホワイトゾーンになったとはいうものの、実生活、とくに学校などでは「先生がコロナになった」とか「生徒がコロナになった」という理由で学級閉鎖になっているところもあります。また「濃厚接触者なので出席できません」という生徒もいて、オンラインで対応するということもあります。というわけで、コロナが完全に鎮静化したという感じはしません。それよりも、「コロナに慣れてきた」「コロナと共生する」という方向に向かっているように感じます。

*1 イタリアはコロナの感染状況によって、州ごとにホワイトゾーン、イエローゾーン、オレンジゾーン、レッドゾーンに分け、それぞれのレベルに合わせた規制措置を講じている。ホワイトゾーンは安全と見なされ、外出制限はなし。色が濃くなるにつれて危険度が増し、レッドゾーンはロックダウンとなる。

*2 グラフ https://lab.gedidigital.it/gedi-visual/2020/coronavirus-i-contagi-in-italia/

毎日消毒(地下鉄の張り紙)

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

2022年の年明けあたりから、マスク着用の規制が厳しくなり、公共機関、教室などではFFP2マスクの使用が義務づけられています。薬局が便乗値上げをしないようにと、通達が出ましたが、わたしが最初に手にしたFFP2マスクは1枚2ユーロ(約270円)もして愕然としたものです。「こうなったら、使い倒すぞ」と、二重マスクで対抗しました。つまり、手製のマスクを内側にして(こちらは洗う)、外側はFFP2マスク(使いまくる)にしたのです。

現在、屋外でのマスク着用は免除されたため、わたしは、地下鉄駅を出ると同時に、マスクを外して深呼吸します。マスクをせずに歩いている人の数も増えました。一方、マスクをしつづけている人もいます。また、大学では教師にFFP2マスクが無料で配られています。当初は正規職員だけという触れ込みで、かなりの反感を買いましたが、多くの臨時講師を雇用している状況に鑑み、今は関係者全員に配布されています。

公共機関では、いまだに乗車人数の制限を行っていますが、これも建前化しているように思われます。学校が終わる時間やラッシュ時はバス、路面電車、地下鉄ともにかなり混雑しています。車内では、たいていの人が規則通りのFFP2マスクをしています。店内の人員制限もまだまだ厳しく、パン屋、薬局などはたいてい一度に二人しか入れません。それほど長く待つことはないとしても、けっこう長い列をよく見かけます。逆にスーパーなどスペースが広い場所での規制はそれほど厳しくなくなったように思われます。

経済の立て直しという意味では、「グリーン化のための工事費用を割引する」という計画が発表され、布に覆われた工事中の建物が目につきます。グリーン化とは、たとえばソーラーパネルの取りつけや、屋根に断熱材をはさむ、二重窓にするなどエネルギー削減に役に立つ改装のことです。

校舎受付のマスク無料配布

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

大学では教職員も学生もみなワクチン接種が義務づけられています。ワクチンを3回受けたという証明(スーパーグリーンパス)がないと授業をすることも、受けることもできません。大学ではスーパーグリーンパスのチェックもあります。さすがにいまは毎日「見せてください」とは言われなくなりました。掲示板を見たら「教師と学生のスーパーグリーンパスチェックは抜き打ち検査にシフトした」というポスターが貼ってありました。いまのところ、4月末までは現状の体制が維持されることになっています。そのようななか、今年の1月8日、50歳以上(イタリア市民、EU市民、外国人市民)に、ワクチン接種が義務づけられました。

12歳以上50歳未満へのワクチン接種に関しては義務づけられてはいません(イタリアでは12月中旬から5-11歳へのワクチン接種も始まりました)が、週末レストランにピッツァを食べに行くにも、ワクチンを接種していない人は、PCR検査を受けなければなりません(有料しかも48時間のみ有効)。そのため、家族全員での行動がむずかしくなり、「家族会議で娘のワクチン接種を決めた」などという話も聞きました。さらに今朝(3月24日)、「4回目の限定的接種の話し合いが始まった」というニュースもはいってきました。

私の場合、3回目のワクチン接種については、保健省から連絡がありました。「あなたの2回目のワクチンはX月Y日に期限が切れます。あなたの3回目の接種はX月Y日の〇時〇分です。場所は○○」というメッセージが携帯電話に入りました。ちなみに2回目までファイザーを打ちましたが、3回目はモデルナを打ちました。腕の痛みと疲労感は相変わらずでしたが、無事に済みました。息子は「ワクチンは嫌だ」と接種を渋りつづけているうちに、コロナにかかってしまいました。幸い、発熱した程度で重症化はせず、ワクチンを打たなくてもよいお墨付き(り患証明)を得て、検査なしで外出(食事や映画館など)できるようになりました。

大学の校舎前のバール

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

今朝(3月28日)、突然、上海のロックダウンが報じられました。イタリアも感染者が微妙に増えているようで、予断を許さない状況です。街にはこのコロナ禍で閉店した店がたくさんありますが、その後はたいてい不動産屋になっているのが目立ちます(とくに、市の中心)。不動産屋がもともと持っていた店なので、そこを自分たちのオフィスにしただけなのか、あるいは、コロナ禍で不動産の売れ行きがいいからなのか、よくわかりませんが、このご時世に不動産を買えるのは誰なのでしょう? 世情が不安定だからこそ「手堅い不動産に投資する」のか?

わたしが教えているトリノ大学の外国語学科は、今年も教室での対面授業とオンライン授業を同時開講しています。トリノ近辺に住む学生たちはさすがに教室に戻ってきており、オンライン授業の出席者は主に地方在住の学生たちだと思われます。オンライン授業はまた、コロナにかかったり、濃厚接触者になったりして外出できない学生のセイフティ・ラインとしても、活用されています。

コロナが日常化した現在、学生たちの授業態度もコロナ以前とはだいぶ変化しています。「ほかにすることがないから」と冗談交じりに言う学生もいますが、全体的に集中力が上がり、実力もぐっと上がってきているように感じます。コロナ禍で交換留学システムがすべて停止し、残念な状況であったにもかかわらず、頑張っている学生たちの姿にはひじょうに頼もしいものがあります。

最近は「学習院に留学します」「埼玉大学に行きます」と少しずつ、日本に旅立って行く学生も見受けられるようになりました。現地での勉強と生活はなんといっても語学上達の最良の方法なので、こちらも胸をなでおろしつつ、素晴らしい経験をして戻ってきてほしいと祈っています。

授業風景

アヤ・ナカタ:日本語教師。1987年イタリアへ移住。トリノ市郊外のコッレーニョ市在住


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(6)アメリカ合衆国

アメリカ合衆国(人口約3億人)

N.K.

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

2022年3月27日現在、ジョンズ・ホプキンス大学の報告によるとアメリカ国内のコロナウイルス感染者総数は7,994万9,000人、死亡者数は97万6,000人を超えた。また、新型コロナワクチンに関しては、全人口の77.5%が少なくとも1回目の接種、66.0%が2回目の接種、29.5%が3回目の接種を完了している。

昨年2021年11月下旬にアメリカ国内で初めて感染力の強いオミクロン変異株が見つかり、12月中旬には感染者が急増して今年の1月上旬にはピークを迎え、1日の新規感染者が100万人を超えることもあった。しかし、2月に入るとアメリカ国内の感染状況は急激に減少し、3月現在の1日あたりの新規感染者数の平均は約3万人、ピーク時の3%になった。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

アメリカではこれまで各自治体や企業などで独自のコロナ対応をしてきた。私の勤務する大学では2020年3月中旬に学期途中で急遽オンライン授業へと移行し、同年8月末に新年度を迎えて対面式とリモート式の両方を取り入れたハイブリット式授業となった。しかし、実際のところ対面式授業の実施は特殊な場合に限られ、私の担当する授業も翌年2021年の夏学期までは完全オンラインで実施された。

2021年8月末から新年度が始まると全面的に対面式授業が再開され、私も約1年半ぶりに教室での対面授業に戻った。ただし、大学の建物への立ち入りは大学関係者のみに限られ、マスク着用は必須、そして校内のいたるところに消毒噴霧器が設置されていた。各教室には飛沫感染対策として除菌シート、そして教卓にはアクリルパーテーションが設置され、授業の開始前には教卓やプロジェクターなどの機器を除菌するのが常となった。

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

8月末に対面授業が再開された当初、大学側はワクチン接種を任意としていたが、学生や教職員はワクチン接種証明書の提示を求められ、ワクチン未接種者には定期的にPCR検査を受けて陰性証明書を提出するなどの義務が課された。規定に従わない者は大学の建物に入ることができず、なかには一定期間授業に出席できなくなった学生もいた。結果的にワクチン接種が進み、ほとんどの学生や教職員が2回のワクチン接種を完了した。そして12月に入ると、大学は学生を含む大学関係者全員に対してワクチン接種の義務化を決定した。

感染者は今年1月にピークを迎えたあと、2月になると急速に減少し、屋内でのマスク着用義務などの規制緩和も進んだ。私の住む地域でも、3月上旬にはほとんどのK-12(幼稚園年長から高校まで)の学校現場でもマスク着用義務が撤廃された。また、多くの大学でもマスク着用義務が解除されはじめ、私の勤務する大学でも3月下旬にはマスク着用が任意となった。

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

私が住む地域の公共交通機関においては、運転手も乗客もワクチン接種の有無に関わらずマスク着用義務が継続されている。そんななか、3月中旬になって公共のバス会社従業員へのワクチン接種義務化が決定した。だが、運転手を含む従業員約20%が期限までにワクチン接種を済ませられずに、勤務できなくなったため、日々のバス運行スケジュールにも影響が出た。多くの従業員たちはワクチン接種を済ませて徐々に職場復帰したが、ワクチンを接種せずに早期退職を選んだ人たちもいるそうだ。その間バス会社は、乗客の理解を得るために2週間ほどバス運賃を無料にして運行を続けた。

コロナ感染者数の減少に伴い、日常生活における制限の緩和が進んでいるが、最近アメリカ国内で話題になっているのはインフレーションの加速だ。インフレを引き起こしている原因はいくつかあるが、やはりコロナ禍における人手不足、生産の停止、そしてサプライチェーン(*)の混乱が大きな要因となっているようだ。コロナ禍で一時14.7%まで上昇した失業率は現在3.8%までに落ち着いたが、コロナ対策の一環であった手厚い失業手当給付に加えて、働き方や価値観を見直す人が増えた結果、Great Resignation(グレート・レジグネーション)「大退職時代」の到来とまで言われた。

コロナ禍前の日常を取り戻しつつあるアメリカでは、経済活動が再開しはじめたことにより需要が拡大して物価の高騰を引き起こしている。今年1月に発表された消費者物価指数は前年比7.5%の上昇となり、家計を圧迫している。ある統計によると、平均的家庭での1か月の生活費が275ドル(約3万3,000円)ほど上昇しているという。とくに、すでに高騰していたガソリン価格のさらなる上昇が著しく、3月に入ってからはウクライナ情勢の緊迫化により拍車がかかり、車社会と言われるアメリカの日常生活に今後も大きな影響を与えることになりそうだ。

日常を取り戻しつつあるアメリカだが、コロナ禍で変わってしまった人々の価値観や生活が完全に元に戻ることはないだろう。マスクをせずに人々が集う様子を見ると、コロナが収束したかのような錯覚に陥るが、まだ新型コロナウイルスがなくなったわけではない。また、最近ヨーロッパ諸国で急増しているオミクロン株BA.2系統の感染の波が今後アメリカにもやってくるかもしれない。それでも、コロナと共存しようとする新しい日常はすでに始まっているようだ。

*商品や製品が生産され消費者の手元に届くまでの、調達、製造、在庫管理、配送、販売、消費といった一連の流れのこと。

私の勤務する大学の各教室には除菌シートが設置されている

N.K.:大学講師、アメリカ東部在住


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(5)中国

中国(人口約14億人)

高希

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

2022年3月20日現在、中国の国内感染者数は累計で1万8,586人います。そのうち、市中感染者は1万6,530人で、入国者の感染は2056人です。中国の市中感染者数は2020年3月から1日100人程度に抑えられてきましたが、現在は海外からの感染者の入国やオミクロン変異株の影響で、増加傾向にあります。とくに吉林省、上海市や深セン市などでは感染者数が多く、日常生活に支障が出てきています。該当地域では公共交通機関の一時停止や感染者が住む団地住民全員に対し少なくとも七日間の自宅隔離を義務づけるなど日常生活が制限されています。専門家は多くの地域で集団感染が発生している原因の一つとしてオミクロン株の感染力の強さと、症状が出にくく発見が難しいことを指摘しています。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

中国全土で「ゼロコロナ」対策を実施しています。これは「感染者ゼロ」を指しているわけではなく、感染者の発見、診断、隔離、治療を最大限早期の段階で行うことで、継続的な市中感染を阻止することを目標としています。この政策は今後も続くと予測されています。感染者がいない都市では、交通機関を使うときにマスクの着用を義務づけられている以外、ほとんど規制なしで生活を送ることができます。一方、集団感染が発生した都市の市民には多くの制限が設けられています。

例えば、ビッグデータなどの技術により感染者と同じ場所に滞在したと判明した場合、該当者にメッセージを送り「健康コード(*)」を「感染リスクが高い」ことを意味する黄色に表示し、さらにPCR検査と一週間の隔離を義務づけています。一緒に住む家族も同様に管理されます。もし濃厚接触者と判断されたら、同じ職場の人までPCR検査と在宅隔離が要請されます。集団感染の規模によっては、交通機関の一時期停止や映画館の休業、学校のリモート授業、全員PCR検査を義務づけるなどの厳しい規制や措置がとられることもあります。

また、ある都市では市中感染が発生したら、市民の「健康コード」に星マークが表示されます。移動先によっては、立ち入り拒否や、PCR検査陰性の証明と到着後七日間の在宅隔離を義務づけられることもあります。それ以外に、新規入国者に対しては、二週間の集中隔離と一週間の在宅隔離を義務づけています。

以上のように、人々の移動は国内外を問わず不便な状況に陥っています。「ゼロコロナ」対策を実行し続けるかぎり、この状況は変わらないかと思います。

列に並んでPCR検査を受ける人たち

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

中国では、二回目のワクチン接種を85%の人が完了し、三回目の接種も35%の人が完了したと報道されています。政府は積極的にワクチン接種を推進しており、国家公務員や国有企業の従業員には三回目のワクチン接種が義務づけられています。国民もワクチン接種が自分ためになると認識しており抵抗を持つ人は少ないようです。ただ、中国国外ではファイザーやモデルナのワクチン接種後に、個人差はあるものの副反応として発熱の症状が出るのが一般的だと海外在住の友人から聞きました。しかし、中国製のシノファーワクチンは接種後ほとんどの人は何も副反応がありませんでした。私も三回接種を受けましたが、何の症状もありませんでした。これは少し謎だなと思います。

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

パンデミックはそろそろ終わるだろうと考えていましたが、中国の市中感染は2年ぶりにひどくなり驚いています。今年またコロナにより生活が制限される可能性があると考えるだけでストレスがたまります。一昨年と昨年はまだパンデミック前の生活に戻ることを期待しながら暮らしてきましたが、今年に入るとパンデミックや国際情勢の影響で期待する日常が戻ってこない可能性を受け入れつつあります。

日常に戻ることをただ待つだけではなく、様々な規制の中でどのようにして後悔がない人生を送るかということを考えて生活するようになりました。コロナの影響で悔しいことがあったとしても、その悔しさを人生の一部として受け入れるのも成長かなと自分を慰めています。

移動が制限される日々ですが、本や映画を満喫したり、実際には行けない遠方の地を想像しながら旅行の計画を立てたりして、今できることを楽しんでいます。あるとき、ふと「発見の旅とは新しい景色を探すことではない。新しい目で見ることなのだ」という名言が頭に浮かびました。確かに、家にこもっていても、新しい目を養成するのにぴったりだと思います。今年はコロナの終息を期待せずに、無常の世界に適応できる能力を鍛えながら、パンデミックの中でも元気に生きていくと思います!

*健康コード:個人の移動履歴や位置情報などに基づいて、使用者の感染リスクを表示するQRコード。コードの色は三つあり、緑色は感染リスクが低い、黄色は感染リスクがある、赤は感染リスクが高いという区別です。

地下鉄や空港といった人が集まる場所に入るときには、健康コードの提示やマスク着用が義務づけられています

高希(こう・き):中日・中英翻訳者。中国南西部の四川省成都市在住


コロナ終息に向けて:各国レポート第四弾(4)ネパール

ネパール(人口約2,919万人)

勝井裕美

①現在(執筆時)の新型コロナウイルスの感染状況について教えてください。

2022年の年明け後、感染者数が急増し、1日の新規感染者数が1万2,000人となったり、陽性率が5割を超えたりする日もありましたが、1月下旬には減少しはじめました。3月19日の1日の新規感染者数は17人(PCR検査と抗原検査の陽性者数合計)、陽性率は1%を切り、死亡者数ゼロ日も1週間続いています。

②現在の生活のなかで、コロナウイルス関連で規制や制限されていること、義務付けられていること、支援されていることなどはありますか?

年明けの感染者数急増時には郡(日本の都道府県に相当)ごとに学校での授業が禁止され、行動規制が課されました。その頃、ネパールは結婚式シーズンでしたが、結婚式をはじめとする集会等の人数制限、ホテルやレストランでは収容人数の半数以下での営業、バスの運行禁止、国内線の空港でのワクチン接種証明書の提示義務などが定められました。また一時期は、日付が偶数日にはナンバープレートの末尾が偶数の車だけが走ってもよいという車両規制ルールも導入されました。しかし、こうした規制のなかで、スーパーマーケットやレストランでのワクチン接種証明書提示などは、実際にはほとんど行われていなかったように思います。

その一方で、市役所などの行政機関を訪れる時にはワクチン接種証明書を提示しなければならないというルールが課されたため、これまで接種を後回しにしていた人が急いで接種をするという現象も起きました。

しかし、思いのほか早く感染者数が減ったこともあり、1月末頃から徐々に規制が緩和され、2月13日からはワクチン接種が完了した12歳以上の子どもを対象に学校が再開し、3月5日にはすべての行動規制が解除されました。政府は現在、マスク着用といった、国民ひとりひとりができる感染対策の実行を呼びかけています。

エベレスト街道の感染対策を呼びかける看板(2021年12月)

③ワクチン接種については、どのような現状ですか?

国民全体の約64%、18歳以上の約81%が2回の接種を終えています。一方で3回目の接種は184万回と国民全体の6.3%に留まっています。ネパール政府は4月中旬までに18歳以上への2回接種を完了する計画ですが、昨年のワクチン接種開始当初に比べると接種率の伸びは鈍化しており、計画が達成できるかどうかはわかりません。

鈍化の理由としては、ワクチンの供給量は足りているものの山岳部の遠隔地への供給体制やそのための人員が整っていないことや、感染者数が急速に減ったことで人々のワクチンへの関心が低くなったことが言われています。 しかし、首都カトマンズに暮らす私の所属団体のネパール人職員たちは第3回目の接種が始まると情報を交換して早々に接種していました。ですから、気軽に近所で摂取できるのであれば、誰でも接種したい気持ちはあるのではないかと思いました。

ワクチン接種の行列(2022年1月)

④近況や思い、今後の見通しなど、ご自由にお書きください。

ネパール政府は2020年を観光年と定め、外国人観光客200万人を目標としていました。ですが、新型コロナウイルスの世界的流行により、この計画は雲散霧消し、それから2年が経過しました。100万人以上が観光関連業界で働くという観光立国のネパール。現在、外国人観光客を呼び戻そうと、3月5日に入国制限を大幅に簡素化し、2回以上のワクチン接種証明か72時間以内に受けたPCR検査の陰性証明書の提出で入国後の隔離義務などがなくなりました。最近では、欧米やインドからと思われる人たちを町や空港で見かけることも少しずつ増えています。ヒマラヤの緑の中に色鮮やかなトレッキングウェアにリュックを背負った人たちが行き来する風景が早く見られるようになってほしいものです。

エベレストへの入り口の街ナムチェも閑散としている(2022年1月)

勝井裕美(かつい・ひろみ):NPO法人シャプラニール=市民による海外協力の会(https://www.shaplaneer.org/)ネパール事務所長。ネパール・ラリトプール市在住