コロナ終息に向けて:各国レポート第三弾(12)台湾

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台湾(人口約2357万人)

メリー・ジェーン

①新型コロナウイルス感染状況について、いまはどうなっていますか?

コロナに苦しむ多くの国に比べ、台湾はコロナ予防の模範生だと言っても過言でもありません。いままで、台湾の人々は1年近くも平穏な日々を過ごしてきました。ところが今年の4月に中華航空のパイロットの感染により、全国で多数のクラスターが発生し、台湾国内の感染者数が急増しました。

5月11日に7件の国内感染が確認された後、12日に16件、13日に13件、14日に29件の国内感染が確認されました。これまでの感染は、ほとんどが海外での感染でしたが、この4月末で状況が一変しました。

今は台北のどこに行ってもほとんど人の姿を見ることがなく、昨年からすると、想像できないことです。

台湾3−1

感染経路をトラッキングするため、政府は「実名制」という新しい制度を導入しました。台湾の国民がコンビニやスーパーで買い物をするとき、QRコードをスキャンして無料防疫ホットラインにショートメールを送ったり、その場で自筆でサインしたりして個人行動履歴を残すという制度です。それをしないと、罰金が科せられます。

また、屋外でマスクを着用していない場合、検挙されたら即罰金となります。マスクを外してタバコを吸っただけで数万円の罰金を科せられた人がいるというニュースも見ました。台湾はまさに罰金を科すことで、昨年の第一波をロックダウンといった方法をとらずに平和的に乗り切ったのでしょう。しかし現在、新北市はほとんどロックダウンの状態になっており、いつも私が通っているジムも5月末まで休業しています。

現在、毎日約500人がPCR検査の結果コロナ陽性と診断され、その多くに変異種のウイルスが確認されています。この文章を書いている時点(2021/5/28)では、全国で累積7,315件の感染が確認され、78名の方が亡くなっているようです。

②ワクチン接種については、どのように進められ、現在(執筆時点)、どのような状況ですか?

率直にいうと、罰金を科すよりも、国民のワクチン接種率が高くならないとコロナの終息は無理だと個人的には思っています。台湾は政治の関係でWHOに加入できないので、防疫に関する最新情報の多くが共有されていないことに加え、ワクチンも国際的に入手できません。現在、国民の接種率は世界でも最低レベルの約1パーセントしかなく、これは日本よりもさらに低い値です。それにもかかわらず、与党は中国からのワクチンの受け入れに強く反対しています。 時々、「ウイルスより人、政治が怖い」と本気で思うことがあります。

今日は6月に日本が台湾にワクチンを寄付するという話を聞きましたが、これが正しいニュースであることを願っています。

③現在(執筆時点)、国や自治体からの規制や制限、援助がありますか?

今ではほとんどの企業に勤める人が在宅勤務をしています。外でマスクを外すと罰金を科せられるので、昼食時にマスクを外すことすら、多くの人にとって心配事のひとつとなりました。

一方、台湾でもっとも有名な夜市文化も、新型コロナウイルスの被害者になってしまいました。収入が減って生活が成り立たなくなった店主も多く、現在政府は補助金の経済政策を検討しているようです。

台湾政府は2週間(5/14~5/28)を乗り切ることを国民に訴えており、それまでは家にいることが求められているため、ほとんどの人が約2週間分の食料を用意し、家を出ていません。

⑤近況について、ご自由にお書きください。

今年4月末からの爆発的なコロナ感染拡大後、多くの台湾人がSNSで「台湾人は2週間で危機を解決できることを世界に見せつける」と発言していますが、私はナンセンスだと思っています。ウイルスが都会に入り込むと、長期戦になるはずです。 早くワクチンの接種が普及する日が来ることを願うばかりですね。


メリー・ジェーン:台湾在住のアプリマーケター。


コロナ終息に向けて:各国レポート第三弾(11)ドイツ

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ドイツ(人口約8302万人)

長谷川圭

①新型コロナウイルス感染状況について、いまはどうなっていますか?

2021年5月に入ってからようやく新規感染者数も下向きに転じ、5月後半からロックダウンにともなう規制も解除されつつあります。

②ワクチン接種については、どのように進められ、現在(執筆時点)、どのような状況ですか?

ドイツはほかのヨーロッパ諸国に比べ、ワクチン摂取に大きく出遅れていたのですが、最近になってようやくワクチン不足も解消されつつあり、6月からはワクチン接種の優先順位が全国で撤廃され、誰もが接種できるようになる予定です。

③現在(執筆時点)、国や自治体からの規制や制限、援助がありますか?

去年の11月ごろから半ロックダウンが敷かれていて、食料品など日常生活に必須な物品を売る商店以外は――レストラン、映画館、博物館なども含めて――すべて閉鎖されていたのですが、感染率の低下にともない、最近ではPCR検査を通じて感染していないこと証明した者(検査から24時間以内)、あるいは2度目のワクチン接種を済ませた者は一部店舗で買い物ができるようになりました。

⑤近況について、ご自由にお書きください。

日本よ、早く日本国内の感染拡大を封じ込めてくれ、という思いです。私は翻訳業のかたわら大学などで日本語も教えているのですが、交換留学などで日本行きが決まっていたのにコロナの影響で行けなくなった学生を、去年の春から何人慰めてきたことか……。彼らからしてみれば、ドイツよりも感染者数も、感染率も、死者数もはるかに少ない日本が外国人を受け入れていないことが、頭では理解できても、心情的に納得できないのでしょう。一生に1回、日本の大学や高校で半年か1年を過ごすチャンスが巡ってきたのに、それがだめになったのですから。

今年の夏から日本に留学することが決まっているのに、本当に行けるかどうかまだわからない学生もいます。そんな彼らのためにも、もちろん日本で生活する私の家族そして日本全国のみなさんのためにも、日本が事態をコントロールできる日が早く来るのを望んでいます。


長谷川圭(はせがわ・けい):ドイツ語・英語翻訳家、日本語教師。ドイツ・チューリンゲン州イエナ在住。


コロナ終息に向けて:各国レポート第三弾(10)トルコ

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トルコ(人口約8200万人)

西岡いずみ

①新型コロナウイルス感染状況について、いまはどうなっていますか?

第2弾のレポート以降、新型コロナウイルス検査結果陽性者数、発症者数は昨年12月初頭ごろまで増加を続けたが、その後、徐々に減少に転じ、今年2月21日には新規陽性者数6,546人、新規発症者数601人にまで抑えられました。

しかし再び増加に転じ、4月21日には新規陽性者数が61,967人とピークに達し、 4月22日には新規発症者もピーク数の3,128人となりました。その後の全土完全外出禁止期間を挟み、5月24日現在の新規陽性者数は7,523人、新規発症者702人で、これまでの感染者総数は519万4,010人、死亡者総数は46,446人となりました。

[注&お詫び:トルコ保健省のCOVID-19情報プラットフォームでは、2020年11月24日以前は、新規発症者数のみが公表されていました。そのため私の第2弾レポートまで新規感染者数としているものは、ここで言う新規発症者数のことです。今回のレポートとの間に齟齬が生じていることをお詫びいたします。]

②ワクチン接種については、どのように進められ、現在(執筆時点)、どのような状況ですか?

昨年12月末に初めて中国製ワクチンが空輸され、今年1月13日に保健省大臣を筆頭に初の接種が行われました。医療関係者、次に65歳以上の高齢者へと接種対象が広げられ、5月24日現在、約12万人 (全人口の14.6パーセント)が接種を完了しています。

中国製ワクチン導入以降、ドイツ製、ロシア製などのワクチンが導入され、現在国産ワクチンも正式認可に向けて試験接種やさらなる開発が進められています。ワクチンの接種は無料で、国が運営する医療情報・診療予約ポータルから予約することになっています。

③現在(執筆時点)、国や自治体からの規制や制限、援助がありますか?

昨年5月以降、基本的に65歳以上と20歳未満の人の日中の外出制限、すべての年齢の平日夜間・週末の全面外出禁止といった措置が、感染状況に合わせて変更を加えながら適用されていますが、ショッピングセンターを含め多くの業種の営業は許可されています。

ただし、飲食店については、禁止されていた店内店頭での飲食が3月初めに再開されましたが、1か月ほどですぐにまた禁止になりました。なお、出前、テイクアウトは許可されています。

飲食店の店内店頭での飲食が解禁になった3月頃の様子。パンダは中国人観光客に戻って来てほしいという気持ちの表れでしょうか

飲食店の店内店頭での飲食が解禁になった3月頃の様子。パンダは中国人観光客に戻って来てほしいという気持ちの表れでしょうか

4月13日に断食月(ラマダン)が始まった当初も緩い制限が続いていたのですが、感染者数の再度の増加、変異株の流入、断食月に伴う人々の往来増加の予測から、4月29日19時から5月17日朝5時(断食月明けの祝日の最終夜)までトルコ全土で全面外出禁止令が出されました。

全面外出禁止令が解除された現在では、平日21時から5時までと土日終日の外出は禁止されたままです。ただし、ワクチン接種をまだ受けていない65歳以上は平日日中10時から14時のみ外出可と、より厳しく制限されています。また、65歳以上と18歳以下は公共交通機関の使用が禁止されています。

一方、断食月前も現在も、多くの外国人観光客はPCR検査の陰性結果を提出すれば入国でき、さらに検査結果の提出義務がない国もあります。外国人は滞在期間中も外出規制の対象とならず、行動は自由です。マスク着用の義務は昨年の感染拡大初期から続いており、これは外国人にも適用されています。

国からの援助として目ぼしいものといえば、最近になって小規模の事業主(飲食店、理髪業、旅客輸送業など)に3,000~5,000リラの給付金が出されることが発表されました。学校に関しては、昨年9月からこれまでの間に、授業・登校形式、試験の有無や方法などの措置が何度も変更され、学生とその家族はかなり翻弄されています。

9月の新学年開始時、教室内の生徒の人数制限や登校日の減少という措置をとることにより、全学年の生徒が平等に通学できるような対策が講じられました。しかし、感染者数を抑え込むことができず、結局、小学1年生、中学高校の最終学年(8年生と12年生)のみ対面授業、その他の学年はテレビとインターネットによる遠隔授業に切り替えられました。さらに昨年11月以降、全学年の対面授業がなくなりました。

我が家の9年生(高校1年生)の娘は、平日毎日ほぼ9時半から14時半までZoomを介して授業を受けています。先生は自宅から授業を行うのですが、乳幼児をお持ちの先生も複数いて、子供がむずかるために授業が中断されることもあります。

先生であれ学生であれ、通常でも自宅で授業に集中するのは大変なのに、このように制御不能な理由による授業中断は、両者にとってますます大変だろうと感じます。ただ、時々そばで授業の声をもれ聞くだけの第三者にとっては、授業の合間に小さな子供の声が聞こえると微笑ましく感じます。ですから学生たちにとっても意外とホッと息がつける瞬間なのかもしれないと、思ったりもします。

子供たちがいなくなった学校の校庭でくつろぐウサギ! 以前はここで子供たちが走り回っていました

子供たちがいなくなった学校の校庭でくつろぐウサギ! 以前はここで子供たちが走り回っていました

④変異株の広がり、もしくはワクチン接種普及の前後で、日常生活や街の様子など変わったことがあれば教えてください。

政府はより感染力が強く、重症化しやすい変異株の広がりを報告し、注意を促していますが、今のところ医療機関の深刻な病床不足などは生じておらず、一般の人々も平穏を保っています。

都市部の住民は、外出禁止を含めた様々な制限の影響を大きく受けやすいと思いますが、比較的平穏な理由として、地方出身者の多くが自発的、あるいは失業によって(公にはパンデミック期間中の解雇は禁止されていますが)、一時的または完全に地元に戻ったことが考えられます。都市出身者も、日本の感覚からするとかなりの割合で(特別にお金持ちでなくても)別荘を所有しており、コロナの感染拡大以降、都市部を離れて例年より長い期間別荘に滞在しています。

また伝統的な家族形態がいまだに残っていることや、宗教による結びつき、相互扶助の考えが強いことも大いに関係していると感じます。以前書いたように、キスや抱擁を伴う挨拶の習慣はなくなりましたが、人々の精神的な結びつきや親愛感情は変わっていないように思います。

さて、これを書いているのは5月24日なのですが、政府は感染状況を鑑みながら、6月1日以降さらなる制限解除の意向を発表しています。街中ではコロナの影響で廃業した様々な店舗が目につく一方、私が住む地域の小さな商店街の中でさえ、新たに菓子店が開業したり、新しいカフェが開業の準備をしたりしています。テレビやネットでは、リゾートホテルのコマーシャルもよく目にします。

多くの人が政府の新たな発表を心待ちにしているのを感じます。昨年日本に帰れず、今年も帰れない私はというと、解除が進んだらカフェで友人とお茶をする、娘と少し遠出をするというささやかな夢を思い描きながら、室内エクササイズと趣味に没頭している毎日です。


西岡いずみ(にしおか・いずみ):主婦、ときどき翻訳者。トルコ・イスタンブル在住。


コロナ終息に向けて:各国レポート第三弾(9)イギリス

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イギリス(人口約6665万人)

安原実津

①新型コロナウイルス感染状況について、いまはどうなっていますか?

前回の第二弾のレポート以降、再び感染者が急増し、昨年の11月上旬から4週間限定のロックダウンがはじまりました。秋に入ってから感染者が増加した原因は、前回のレポートで書いた外食促進支援策にあるといわれています(実際、このキャンペーンが行われているあいだのレストランの混み方は尋常ではありませんでした)。

そして12月に入ってロックダウンが明けたと思ったのもつかの間、今度はイギリス型の変異株が猛威をふるい、ロンドン周辺のイングランド南東部はクリスマス前からまた事実上のロックダウン状態に。そのまま全国的なロックダウンに移行しました。

いまは感染状況の推移を見ながらロックダウンの段階的な緩和が行われているところで、つい先日(5月17日)、緩和は第三段階に進みました。今回の緩和では、レストランやカフェの屋内での営業がはじまり(屋外での営業は4月半ばに行われた第二段階の緩和から再開)、博物館や娯楽施設などの営業も再開されたので、集まることのできる人数にまだ制限はあるものの、ようやく以前の日常に近い状態が戻ってきたという感じです。

ピーク時の昨年12月29日には8万人を超えていた1日の新規感染者数も、ワクチンの接種が進むとともに一時は1,300人程度にまで減少しました。ただインド型変異株の影響で、最近の1日の新規感染者数は2,000人前後と、再び微増傾向にあるようです。

路上にできた屋外席

路上にできた屋外席

②ワクチン接種については、どのように進められ、現在(執筆時点)、どのような状況ですか?

ワクチンの接種は昨年の12月上旬にはじまりました。まずは介護施設の入居者と介護従事者、次に80歳以上の高齢者と医療従事者への接種が行われ、その後は徐々に接種予約受付年齢を下げるかたちで接種が進められています。

いま(5月23日時点)は32歳以上が受付対象です。予約専用サイト、もしくは電話で1回目と2回目の接種予約を同時にとります。2回目の接種は1回目の接種の11〜12週間後ということになっています。1回目の接種をできるだけ早く進めるために、意図的にこの期間を長くしているのだそうです。5月23日時点では成人人口の72.3パーセントが1回目の接種を、43.5パーセントが2回目の接種を終えています。

私も1回目の接種を受けてきました。副反応の問題が取りざたされているアストラゼネカ社のワクチンでしたが、私の場合は少し体がだるくなった程度で、特にこれといった症状は出ませんでした。

③現在(執筆時点)、国や自治体からの規制や制限、援助がありますか?

少し前まで海外旅行は原則的に禁止されていて、3月末には特別な理由もなしに国外に出た場合には5,000ポンド(約70万円)の罰金が課されるという法律までできました。しかし今回の第3段階の緩和で海外旅行も解禁になりました。ただし、行き先がどこであれ再入国前のPCR検査は必須で、感染リスクが中程度の国から入国する場合にはそれに加えて10日間の自己隔離が、感染リスクが高い国から入国する場合には自己負担で隔離用のホテルに10日間滞在することが義務づけられています。

また、ロックダウンで休業した事業主への休業補償制度は、給付額に多少変更はあるものの、9月末まで延長されました。

ロンドン中心部の様子

ロンドン中心部の様子

④変異株の広がり、もしくはワクチン接種普及の前後で、日常生活や街の様子など変わったことがあれば教えてください。

インド型変異株の広がりを受けて、50歳以上の人の1回目のワクチン接種から2回目の接種までの期間が8~12週間に短縮されました。このような変化はありましたが、私の住んでいる地区ではいまのところ変異株の感染者の数が少ないせいか、日常生活での変化を感じることはありません。

⑤近況について、ご自由にお書きください。

今回の緩和で、観光客がいないことを除けば街の様子はほぼ元どおりになりました。現在の状態にたどり着くまでの期間は私にはとても長く感じられました。

今回は冬のロックダウンだったので、外でできることが夏よりいっそう限られていたからだと思います。ロックダウン中、真冬のテムズ川で泳ぐ強者もときどき見かけましたが、私には近所を散歩するか、「Lockdown loo(looはイギリス英語でトイレの意)」というインターネットのサイトで使えるトイレのある場所を確認して、たまにその近くに出かけるくらいのことしかできませんでした。

「Lockdown loo」というのは、ロックダウン中でも開いている公衆トイレがわかる私設サイトで、利用者からの情報で常時トイレの状況がアップデートされています。冬のあいだはずっと生活必需品を売る店以外の営業が禁止されていて、外出中に暖を取れる場所もなかったので、気分転換に家から少し離れたところに出かけるときには、このサイトを使って、開いているトイレのある公園などを選ぶようにしていました。

インド型変異株の影響で、6月21日に予定されているロックダウンの全面的な解除に遅れが出るかもしれないといわれていますが、もし予定どおりロックダウンが終わらなかったとしても、今回の第三段階の緩和でさまざまな屋内施設の営業が再開され、できること、行けるところの選択肢がようやく増えたところなので、いまよりも前の状態には戻ってほしくないというのが正直なところです。


安原実津(やすはら・みつ):ドイツ語・英語翻訳者。イギリス・ロンドン在住。


コロナ終息に向けて:各国レポート第三弾(8)ネパール

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ネパール(人口約2861万人)

勝井裕美

①新型コロナウイルス感染状況について、いまはどうなっていますか?

2021年5月22日現在、感染者の累計は505,648名。第二弾のレポートを書いた2020年9月以降徐々に感染者が増え、10月には1日の新規感染者数が5,743名になったが、その後緩やかに減っていき、2021年3月には1日の新規感染者数は100名前後に落ち着いた。

しかし、インドでの感染者急増とそれに伴うロックダウンを避けてインドに出稼ぎに行っていた労働者の多くが帰国した際に、隔離等の感染対策がほぼ取られなかったため、国境付近で感染者が増えていった。

加えて、2020年末から政情が不安定になり、政治集会や支援者による行進が全国各地で行われたり、また3月下旬から文化的行事で多くの人が集まったが、その際に十分な感染対策が取られなかったりした。そのため、首都カトマンズを中心に4月中旬以降、感染者が急増し、5月12日には最多の9,238名の新規感染者を記録した。検査数が足りていないことも影響していると思われるが、陽性率(1日の検査数当たりの陽性者数の割合)は5月以降40%前後を推移しており、実際の感染者数はもっと多いと思われる。

現在、病床は足らず、医療体制はひっ迫している。患者は、酸素不足で入院できなかったり、病院にいてもただ廊下や建物入り口に座って待機せざるを得ない状況にある。

ネパール国内にはウイルスの遺伝子を解析する公的機関がないため十分な検査ができていないが、最近の感染の多くはインドで最初に確認された変異株B.1.617が多いとみられている。昨年の感染時よりも若い人が重症化しており、知人の知人まで広げると亡くなった方の話の数が格段に増えた。

この悲惨な状況に対し、最近ではネパール政府のみならず国連、WHO(世界保健機関)がネパールへの支援を呼びかけた。それに呼応して酸素シリンダーや酸素濃縮器など医療資機材の支援を各国政府が表明している。

レストランは営業不可だが、朝だけテイクアアウトなどをしている店も

レストランは営業不可だが、朝だけテイクアアウトなどをしている店も

②ワクチン接種については、どのように進められ、現在(執筆時点)、どのような状況ですか?

これまでに211万名以上が第1回目接種を受けた。インド政府から無償提供されたアストラゼネカ社のワクチン100万回分を使った接種第1回目が2021年1月から医療関係者対象に始まり、その後、購入分100万回分と合わせて接種対象は高齢者にまで広がった。

また、中国政府が無償提供した80万回分のワクチンの接種が中高年まで対象を広げて行われた。まさに中国とインドのワクチン外交が繰り広げられている。しかし、インドでの感染者急増によって、既に購入予約ずみのアストラゼネカ社のワクチン(製造会社はインドのSerum Institute)の到着は10月以降になる見込みで、第1回目の接種を受けた人が第2回目を受けられない事態になりつつある。

ワクチンは基本的には、居住地域の行政事務所に接種登録をして指定されたコミュニティセンターや病院で接種する。しかし、感染者が急増した4月後半からは病院の前に接種待ちの行列が朝からでき、一時混乱が見られた。

③現在(執筆時点)、国や自治体からの規制や制限、援助がありますか?

中央政府は2021年4月に入り、各郡(日本の都道府県に相当)や市町村に対して、人々の行動を規制する権限を与えた。4月中旬からProhibitory Order(行動規制)というロックダウンを課す郡が増え、5月17日現在77郡中74郡がProhibitory Order中である。例えば、首都カトマンズでは4月29日からProhibitory Orderが始まった。現在、食料品店や生活必需品店以外の営業は禁止、それらの店も朝10時までのみ営業可、車両通行は原則禁止、バス・飛行機の公共交通機関も停止、食料品や薬を買いに行くときだけ朝の10時までだけ外出可となっている。カトマンズへの出入りも交通許可証がないとできない。

国際線も停止中だが、エベレストに登頂していた人など数千人の外国人観光客がネパール国内に取り残されていると言われ、今後、いくつかの国が自国民を帰すために臨時退避便をアレンジすると思われる。

休業補償などはない。労働者の8割を超える日雇い労働者等のインフォーマルセクターの人々は仕事をなくし、食費や家賃支払いにも困っている。朝の買い出し時に出会う物乞いが増えた。

医療関係者や食料品運搬業者は通行できるが、警察の車両チェックあり

医療関係者や食料品運搬業者は通行できるが、警察の車両チェックあり

④変異株の広がり、もしくはワクチン接種普及の前後で、日常生活や街の様子など変わったことがあれば教えてください。

カトマンズのProhibitory Orderと同時に私も在宅勤務となった。買い物が朝しかできないので、6時半ごろ起床して、運動不足解消のためストレッチをしてから、買い物がてらに1時間ほど散歩している。そして、毎朝9時のオンライン定例会議に間に合うよう戻るというのが最近の日課となっている。普段であればカトマンズにいて会える距離にいる日本人とオンラインでおしゃべりするのが息抜きである。

ロックダウン生活が始まってまだ1か月だからか、感染者急増を怖がってか、多くの人が行動規制に従っている。一度昼間に外に出てみたことがあるが、通りにはほとんど車も人影もなく静かだった。

車両通行禁止

車両通行禁止

⑤近況について、ご自由にお書きください。

昨年に続いて2回目のロックダウン生活なので、どこで何が買えるか、どこで情報が得られるかがわかっており、昨年ほどの生活上の不安はない。ただ、異常に高い陽性率のなか、ひたすら感染しないようにしなくては!と思いながら生活している。

また、ネパールのような社会保障の整っていない発展途上国では、感染症そのものだけではなくロックダウンによる経済的影響が、もともと経済的に厳しい人々に顕著に表れてしまう。NGOとしてできることをやらねばと他のNGOと検討を進めており、できるだけ早く形にしていきたいと思う。


勝井裕美(かつい・ひろみ):特定非営利活動法人シャプラニール=市民による海外協力の会 (https://www.shaplaneer.org/)ネパール事務所長。ネパール・ラリトプール市在住。


コロナ終息に向けて:各国レポート第三弾(7)チェコ共和国

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チェコ共和国(人口約1065万人)

岡戸久美子

①新型コロナウイルス感染状況について、いまはどうなっていますか?

第2弾のレポートを提出したあたりから感染者増加の兆候が見え始めていたチェコでは、その後感染が急速に広まり、2020年10月5日に非常事態宣言が発令されました。人口当たりの新規感染者数が欧州最悪を記録し、多少の規制緩和があったかと思えばすぐに規制が強化されるといったことを繰り返しながら、非常事態は今年4月の宣言解除まで188日間継続する結果となりました。

これまでの死者数は3万人を超えます。居住地区からの自由な移動の制限、夜間外出禁止、店舗や飲食店の営業停止などにより不自由な生活や経済的不安を募らせた人々がロックダウン反対デモを行ったり、警察と衝突したりといったニュースもありました。

プラハの旧市街広場

プラハの旧市街広場

今年3月にはコロナに感染して亡くなった方々を悼み、25,000もの十字架がこの石畳に描かれました。いまでもこのように、一部消えずに残っています。

チェコ3ー2

十字架が描かれた石畳

しかしワクチン接種が功を奏したのか、感染状況が改善傾向にあるとしてこの4月から段階的に規制緩和が進んでいます。

学校は人数制限のためのローテーション授業の段階を経て、やっと全員が登校できるようになり、屋外のみ営業が許可されることとなった飲食店では早速たくさんの人々がビールを手に集っています(ただし利用者は陰性を証明する書類等を携帯する必要あり)。少しずつですが、やっと生活を楽しむにぎやかな声が聞こえるようになってきました。今度こそ終息に向かってくれることを願ってやみません。

②ワクチン接種については、どのように進められ、現在(執筆時点)、どのような状況ですか?

2020年のクリスマス以降、医療従事者や高齢者など優先順位に基づき順にワクチン接種が進んでおり、現在、一般の40代の人々のワクチン接種予約が可能となっています。6月初めには16歳以上のすべての人が予約対象となる見通しで、接種費用は公的健康保険でカバーされます。

ただし、チェコの公的保険制度の対象とならない外国人長期滞在者(駐在員など)については5月末をめどに予約開始できることをめざしていまだシステムが改修中で、費用は自己負担となるようです。

現在チェコで認可されているワクチンは4種(ファイザー・ビオンテック、モデルナ、アストラゼネカ、ジョンソン&ジョンソン)、接種するワクチンを自分で選ぶことはできません。

③現在(執筆時点)、国や自治体からの規制や制限、援助がありますか?

上述のように、規制は徐々に緩和されてきている段階ですが、国内全企業には週1回の抗原検査を全従業員に実施するよう義務付けられており、職場で家族以外の人と接触する場合は個人事業主でもその対象となります。(費用は保険負担)

現在は終了していますが、法定隔離が必要となった被雇用者への手当支給、FFP2などの防護マスク着用義務(通常のマスク不可)にともなう防護マスクへの付加価値税の一時的な免除などの措置もありました。

④変異株の広がり、もしくはワクチン接種普及の前後で、日常生活や街の様子など変わったことがあれば教えてください。

十分な検証がなされないままのワクチン普及に対する懸念の声もありますが、変異株の広がりなどで規制が極限まで強化されてゴーストタウンと化していた街に少しずつ活気が戻り、子どもたちの笑い声が聞こえるようになった背景にはワクチンの普及があるのでは、と個人的には感じています。とはいえ、こちらのワクチンは日本で認可されていないものもあり、どのワクチンを接種するか自分で選択することができないため、もう少し様子をみたいと思っています。

⑤近況について、ご自由にお書きください。

規制緩和がはじまり、やっと厳しい時期を乗り越えたのではという希望と喜びも大きいですが、改めて過去の各国レポートを振り返ってみると、まだまだこの先どうなるのかわからないといった不安はあります。

チェコでは昨年、第1波を封じ込めたとして夏のホリデーシーズンに観光を全面開放したことや、その後感染者が増えつつあるのを知りながらロックダウンを避け続けたことがひどい感染拡大を招いたのではという見方があります。どんな状況にあっても、気を抜いてはいけないのだと改めて感じました。まだまだ気を引き締めつつ、一刻も早くあらゆる地域の状況がよくなることを願うばかりです。


岡戸久美子(おかど・くみこ):英語翻訳者・通訳者。チェコ共和国プラハ在住。


コロナ終息に向けて:各国レポート第三弾(3)アイルランド

アイルランド

アイルランド(人口約490.4万人)

石川麻衣

①新型コロナウイルス感染状況について、いまはどうなっていますか?

1日の感染者数は300人から400人の間を2か月ほどさまよっている状態ですが、病床利用率は1月のピーク時に比べれば大幅に下がりました。カトリック教徒が大半を占めるアイルランドでは、クリスマスは欠かすことのできない行事。クリスマスに合わせて去年の12月に規制を一気に緩めたのが大きな間違いでした。これを機に感染者数が跳ね上がり、変異種の影響もあって数字が下がらす、レベル5のロックダウンが5か月間も続きました。

レストラン(一部、テイクアウトは継続)、パブ、小売店、プール、理髪店、劇場、映画館、ジムなどすべてクローズ。仕事や身内の介護といったやむを得ない理由がない限り、活動範囲は5キロメートル圏内にとどめなければなりませんでした。

クリスマス前に一時的に賑わったダブリンの中心街

クリスマス前に一時的に賑わったダブリンの中心街

②ワクチン接種については、どのように進められ、現在(執筆時点)、どのような状況ですか?

昨年末あたりから、医療従事者や高齢者を優先にワクチン接種がはじまりました。70歳以上のグループに入る夫も4月末にワクチン1回目を、5月頭に2回目を無事に接種。ワクチン接種に関わっている近所の看護師さん曰く、目立った副反応の事例はあまり聞かないそうです。夫も痛くもかゆくもなかったようで、その日の終わりには打ったことすら忘れていました。

現時点(5月23日)で、全人口の10.5パーセントが2回目の接種を終えています。高齢者や、医療従事者、重症化するリスクの高い人たちなどの優先グループを経て、今月から40代の人たちの受付が開始されます。一時は、登録しているGP(一般開業医)から直接「接種しに来てください」と連絡が来るかたちでしたが、4月15日より、69歳以下の年齢層は、国の政府機関が運営するHSE(国民保険サービス)のウェブサイト上で予約するようになりました。

基本的に滞りなく進んでいますが、ワクチン接種予約を含む国民保険サービスシステムがロシアを拠点とする犯罪集団によるサイバー攻撃を受け、現在、大きな問題になっています。

③現在(執筆時点)、国や自治体からの規制や制限、援助がありますか?

最近は、「ウォークイン・テスト・センター」が各地にでき、症状がなくても予約なしに立ち寄って無料で検査ができる施設が開設されました。

④変異株の広がり、もしくはワクチン接種普及の前後で、日常生活や街の様子など変わったことがあれば教えてください。

アイルランドの冬は夜が長く、太陽の当たる時間が短いのですが、冬の暗さとロックダウンが相まって、青少年が非常に不安定でした。多くの労働階級(貧困層)がコロナ禍で職を失うことにより、アイルランドに根付いた階級差がさらに表面化したように思います。

長期化した学校閉鎖も影響したのか、労働階級の住む地域で、青少年の犯罪が目立ちました。去年のハロウィン前後は花火の投げ合いが問題になり、冬の間は、ご近所さんの車の窓が立て続けに割られ、殺傷事件が後を絶ちませんでした。家の近くでは、有望視されていたサッカー少年がナイフを使った喧嘩に巻き込まれて亡くなり、また職場からの帰宅途中だった50代のアジア系女性も若い男の子に首を刺されて亡くなりました。

警察が没収したナイフは、数えきれません。そして規制が緩みつつあるいま、今度はストレスを溜めた若者1,000人以上が夜な夜なダブリンのとある広場に集い、酔っ払って大暴れ。苦情が相次ぎ、広場そのものが閉鎖されるという事態に発展しました。

長い冬を終えて、ようやく春を迎えた頃は、こちらの春の象徴でもあるスイセンの花が多くの人の心を癒しました。また、アイルランドには渡り鳥や野鳥が多くみられます。パンデミックを機に鳥を観察する人が爆発的に増えたとか。私もそのひとりです。鳥の種類の多さに魅了され、鳥の写真が100枚以上もたまってしまいました。規制が緩和されてから少し足を伸ばして野鳥を見に行くようになったものの、まだ店は閉まっていて公共トイレもゼロなので、トイレ対策が意外と大変です。

春の到来を告げる水仙。多くの人々を元気づけました

春の到来を告げるスイセン。多くの人々を元気づけました

⑤近況について、ご自由にお書きください。

コロナ禍で影響を受けた人への失業手当(補助金)が6月末で打ち切られるといわれていますが、もう少し延ばしてほしいという声もあります。近所でも、かつてお店があった場所が売りに出されているようで、「売り出し」の看板が目立ちます。在宅勤務になるだけで特に影響を受けなかった人や、多忙極まりない日々から逆に解放された人がいる一方で、職を失い、精神疾患に悩む人も増え、メンタルヘルス・サービスが追いついていない状態です。実際、ロックダウン中にドラッグ使用者が大幅に増えたと言われています。

定期的にダブリンの中心で行われているロックダウン反対デモには、陰謀説を信じる不思議な宗教団体の存在もあり、それが目立つ一方で、コロナ禍で職を失ったごく普通の人たちも参加しています。しかし、1年間の空白期間を経て発表された演劇作品は優れたものばかりです。長い間家にこもって自分自身と向き合った末に良い作品が生まれているのかもしれません。

そんななか、アイルランドの科学コンクールで、16歳の男の子が「3分間入れるだけで、入れたものがウィルスフリーになるケース」なるものを発明し、最優秀賞を受賞しました。そんな微かな希望を感じつつ、かたやコロナ疲れを少し感じながらも、夏は少し遠出して田舎でささやかな「ステイケーション(国内旅行)」を楽しもうと思っています。

鳥を観察する人が激増。ダブリンに生息する野鳥のひとつ、オオジュリン

鳥を観察する人が激増。ダブリンに生息する野鳥のひとつ、オオジュリン


石川麻衣(いしかわ・まい):通訳、英日翻訳家(主に演劇、芸術関係)、ナレーター。国際演劇協会会員。アイルランド・ダブリン在住。


コロナ終息に向けて:各国レポート第三弾(2)インド、バングラデシュ

インド bangladesh

インド(人口約13.66億人)、バングラデシュ(人口約1.63億人)

大橋正明

①新型コロナウイルス感染状況について、いまはどうなっていますか?

連日インドメディアは、自国の悲惨な状況とそれに対応した外国支援の動きを伝えている。実際5月13日時点のインドでは、4月以来新規感染者数がどんどん増え続け、5月6日には1日に41万人以上、死亡者数も4,000人を超した。病床や酸素の不足に加えて、医療インフラが乏しい地方への広がりも報じられている。この原因は、感染力が強いとされるインドの変異株が広がったこと、インドの与党BJP(インド人民党)の支持者が多いヒンドゥー教徒数千万人が参加するクンブメーラという大祭が通常どおり開催されたこと、いくつかの州で行われた州選挙でBJPなどが大規模集会を開催したことなどだろう。

インドの新規感染者数も、ここ数日は多少の減少を見せ、5月20日には約26万人になった。これ減少が持続的になるかは、もう少し様子を見る必要がある。この新しい変異株は、日本にとっても脅威になりかねない。

インドの爆発的感染拡大は、北隣のネパールでも西隣のパキスタンでもほぼ同様だが、ピークがインドより少し早い。ネパールでは1日の新規感染者が9,300人ほどの5月11日がピークで、その後少し減少を見せた。しかしその後、再び増加の気配もみせている。一方パキスタンでは、1日の新規感染者が6,000人を超えた4月中旬がピークで、その後少しずつ減少が続き、5月中旬には2,500人程度になったが、ネパールと同様にその後再び上昇している。

インドとミャンマーに挟まれたバングラデシュは、今回の流行のピークがパキスタンよりさらに早く、4月11日に新規感染者が約7,600人に上った。4月11日以降減少に転じ、5月半ばに1,000人以下になったが、5月18日には1,272人になりその後増加が続いている。

インドの新規感染者数も、ここ数日は多少の減少を見せている。インドがパキスタンやバングラデシュのような持続的減少に転じるかは、もう少し様子を見る必要がある。

②ワクチン接種については、どのように進められ、現在(執筆時点)、どのような状況ですか?

インドは世界で最も早く今年の1月中旬に予防接種を始めた国のひとつで、自国で開発や生産したワクチンを周辺国とも無償・有償でシェアしていた。5月13日の時点で1回でも接種を受けた人数は1.76億人と多いが、13億人を超す人口のうち、2回接種を終えたのは2.8パーセントでしかなく、まだ多くの国民が取り残されている。

その一方、前述のインド国内での爆発的な感染拡大で、ワクチンが国内でも不足しはじめ、予定していた近隣諸国への輸出や国際枠組みCOVAX(*)への提供がストップしただけでなく、ワクチン輸入に転じた。

バングラデシュはインドより少し遅れたが、同じ1月、インド製ワクチンを使って接種を開始した。5月13日時点で、1回でも接種を受けたのは931万人で、2回終えた人の割合は2.1パーセントである。先述のインドの状況変化でインドからの輸入が止まったことで、バングラデシュ政府は急遽中国やロシアを含めた他国からの輸入を模索しているが、かなり先になりそうだ。

その結果、そうした国々からの影響力が南アジアで強まることを、インドもバングラデシュも心配している。一方、これらの2国よりかなり遅れて接種が始まった日本だが、おそらくまもなく接種率で逆転するだろう。インドと南アフリカがWTO(世界貿易機関)に提案し米国を含めた多数の国が支持している、Covid-19対策関連の知的財産権の一時停止が早急に実現しないと、ワクチン生産には時間がかかり、貧しい国へのワクチンの適正価格での提供はさらに遅れるだろう。

*新型コロナウイルスワクチンを共同購入し途上国などに分配する国際的枠組み。WHO主導により、2020年に発足。

③現在(執筆時点)、国や自治体からの規制や制限、援助がありますか?

インドの中央政府は、このパンデミックへの対応策を州政府に任せている。例えばデリー首都圏政府は、4月19日からロックダウンを始め、その後3回延長して、現在も続いている。インド第三の大都市コルカタを抱える西ベンガル州政府も、しばらく前から行動制限していたが新規感染者の増加が止まらず、5月16日から交通機関、オフィスやモール、学校の授業やあらゆる集会などを月末まで完全停止する。他の大都市や州も大同小異だ。

バングラデシュ政府も4月14日からロックダウンを開始し、同様に延長を繰り返し、5月23日までロックダウンの予定だ。公立の小学校も一年以上閉鎖が続いており、一部でオンライン授業が行われているが受講できない子どもも多く、教育の遅れや格差は深刻な問題だ。

南アジアでの感染拡大を受け、日本政府は5月12日から当分のあいだ、インド、バングラデシュ、パキスタン、ネパールからの日本人を除く来日者については、「特段の事情」がない限り上陸拒否を始めた。

⑤近況について、ご自由にお書きください。

このようななか、ミャンマーから逃れバングラデシュの人口密度の高いキャンプ地で暮らす100万人ほどのロヒンギャ難民では、巷ほどのコロナ大流行が報告されていないことは不幸中の幸いだった。しかし、5月21日から1週間、ロヒンギャキャンプもCOVID-19の流行でロックダウンが始まった。これまでに 823 人のCovid-19の患者で、12人の死者(1.5パーセント)とのこと。このため、食料配給と医療関係以外の活動が停止された。

WHOの報告によると、4月11日までの時点でロヒンギャの患者の総数は465 人で死者10人(2.2パーセント)だったので、わずか40日間で新規患者が358人、新規死者が2人(0.6パーセント)増えたことになる。

「誰も取り残さない」を掲げるSDGsの時代に、この難民たちへのワクチン接種は、いつ誰の負担で行われるのだろうか。


大橋正明(おおはし・まさあき):聖心女子大学教授、聖心女子大学グローバル共生研究所客員研究員、SDGs市民社会ネットワーク共同代表、シャプラニール=市民による海外協力の会監事、日本バングラデシュ協会会長 。


コロナ終息に向けて:各国レポート第三弾(1)フランス

france

フランス(人口約6706万人)

白仁高志

①新型コロナウイルス感染状況について、いまはどうなっていますか?

フランスは昨年(2020年)夏に、一時、ロックダウンが解除されました。その後また感染者数が増えて、10月30日に2度目のロックダウンが始まりましたが、春のロックダウンほど厳しいものではなく、ひとりで運動をする目的での外出が1日1時間、自宅から10kmまで、内務省のウェブサイトからダウンロード可能な証明書携帯を条件として認められました。

春とは違って学校も閉鎖されませんでしたが、食料品など日常生活に必要なものを売る店以外のカフェやレストランなどは営業を停止し、テニスクラブ、ジムなどのスポーツクラブも閉鎖されました。この2回目のロックダウンは、例えばイギリスで行われたものと比べて緩やかだったので、なかなかその効果が現れず約 2か月間続きました。2回目のロックダウンの解除にもかかわらず、私が所属するパリ北郊外のクレイユ(Creil)のテニスクラブは閉鎖が続き、今年(2021年)4月になってようやく再開されています。その後、3月に感染者数が1日あたり約3万人となり再度急増したため、3月19日に3度目のロックダウンが始まり、今回は学校も3週間休校になりました。

5月14日時点で、フランスのこれまでの感染者数の総数は584万8,154人、死者が10万7,452人(フランス公衆衛生局データ)。2回目のロックダウン以降、感染の大部分は、英国、南アフリカなどの変異株によるものとなっています。3回目の外出制限は以下のようなスケジュールで緩和される予定です。

5月3日、日中の外出制限の終了。

5月19日、夜間外出禁止を午後7時以降から9時以降にして、商店、カフェ・レストランのテラス席が営業を再開し、美術館、映画館、劇場も人数制限をして再開。

6月9日、夜間外出禁止を午後11時以降とし、カフェ・レストランの店内での営業を再開、体育館の再開、テレワークの緩和。6月30日、外出禁止令の終了。

②ワクチン接種については、どのように進められ、現在(執筆時点)、どのような状況ですか?

ワクチン接種は、2020年12月27日に老人用施設に入所している高齢者、医療従事者などから始まり、2021年4月12日から55歳以上、5月10日から50歳以上、5月12日から全ての成人が対象となります。5月14日の時点で、国民の約30パーセントにあたる1929万9,124人が1回目接種済みとなっています(フランス公衆衛生局データより)。

私が住んでいるクレイユ市でも市内に集団接種センターがあり、また、接種用の巡回バスも市内を回っており、事前に電話で予約して接種が受けられます。今後、8月までに成人全員(5200万人)が接種を受けるには1日約60万回の接種が必要で、国民全員の接種が完了するのは現在のペースだと2021年12月4日になります(covidtracker.frの情報より)。

③現在(執筆時点)、国や自治体からの規制や制限、援助がありますか?

上述のように、現在はフランス国内での移動制限が解除されています。各県によって違いはあるものの、マスクは引き続き、ほとんどの公的な場所で義務化されています。また、入国・出国制限については、EU圏外からフランスへ入国する人は出発前の72時間以内にRT-PCR検査(RNAを対象として逆転写酵素(Reverse Transcriptase)を用いた検査)を受けて陰性証明をもらい、搭乗時に航空会社に提示して、到着後1週間、隔離生活をし、1週間後にもう一度検査をすることが義務付けられています。

休業補償については、翻訳の仕事をしている私のような業種の例ですが、外出制限期間中の各月の収入が2019年の同じ月よりも50パーセント以上減った場合にその差額が全額フランス政府により補償されます。

④変異株の広がり、もしくはワクチン接種普及の前後で、日常生活や街の様子など変わったことがあれば教えてください。

これまで夜7時以降の夜間外出制限が続いてきたので、窮屈な思いをしている人が、特に若い人たちに多いものと思われます。

⑤近況について、ご自由にお書きください。

感染者数、死者数は漸減傾向ですが、まだ完全に収まっていないなかで、フランス政府は制限措置を緩和していこうとしており、再度の感染者数増加がないかどうか注意深く見守る必要があると思っています。


白仁高志(しらに・たかし):フランス語・英語の翻訳・通訳者。フランス・パリ郊外のクレイユ在住。現在、日本に一時帰国中。


コロナ終息に向けて:各国レポート「第三弾」をはじめます

世界じゅうが新型コロナウイルスの脅威にさらされはじめてから、すでに1年半近く。

コロナ終息を願ってはじめたこのブログの第一弾からちょうど1年、日本が第二波に見舞われた直後の第二弾からも半年以上たちます。

現在、日本では変異株の感染が増え、2021年5月19日の新規感染者数は全国で5,819人、北海道、東京都、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、岡山県、広島県、福岡県に緊急事態宣言が出され、さらに「まん延防止等重点措置」が実施されている区域もあります。

一方でワクチン接種がはじまっているものの他の先進国に比べてなかなか進まず、2か月後に開幕が「予定」されている東京オリンピックについても不確定要素が多く、新型コロナウイルスをめぐる状況はまだまだ先行きがみえません。

では、海外はどうなのでしょうか。変異株が驚異的な広がりをみせている国、何度目かのロックダウンに突入している国、ワクチン接種率があっというまに高まって人々がどんどんマスクをはずして外出している国……。日々さまざまなニュースが入ってきますが、どれも断片的です。各国の実情まではなかなかみえてきません。

「各国レポート」第三弾はコロナ終息期に予定していましたが、そんないまだからこそ、各国から寄せられるレポートが貴重な記録と情報源になるのではないかという思いから、これまでご協力いただいた方々に第三弾の執筆をお願いしました。

第二弾のように第三弾も、以下の質問に答えていただくという形をとります。

  1. 新型コロナウイルス感染状況について、いまはどうなっていますか?
  2. ワクチン接種については、どのように進められ、現在どのような状況ですか?
  3. 現在、国や自治体からの規制や制限、援助がありますか?
  4. 変異株の広がり、もしくはワクチン接種普及の前後で、日常生活や街の様子など変わったことがあれば教えてください。
  5. 近況について、ご自由にお書きください。

これまでと同じく、今回もまたあくまで執筆者の個人的なレポートです。また、執筆していただいた日とブログへのアップ日には何日間かのタイムラグがありますので、その間に状況が変わっていることがある点もご了承ください。

各国からの報告を1日に1~2か国の割合で紹介していく予定です。

たくさんの方にお読みいただけることを願っております。

株式会社リベル