不要な言葉 その4

書籍翻訳セミナー「フィクション編」の最後にも「不要な言葉」をたくさん紹介させていただきましたが、今回のテーマは代名詞

先日添削した課題のなかの訳文を少しアレンジしてみました。
こんなシーンです。

「どうやってこのことがわかったのですか?」
「それは、通報があったからです。そのおかげで、この家族は逃げることができました」
「その証拠はありますか?」
「この家族が送金したときの伝票を持っています。」
「そうは言っても、その金は誰のところに行ったかわからないわけですね」

読んでいると違和感ありますよね。
訳すときにこんなに代名詞だらけにはしない……とほとんどの方が思われるでしょう。
でも、課題ではこのシーンにたくさん代名詞が使われていました。
訳しているときは原文にひきずられ、こんなに代名詞だらけになっていても自分ではなかなか気づかないものなのです。

これぐらいならどうでしょう?

「どうやってわかったのですか?」
「通報があったからです。おかげで、この家族は逃げることができました」
「証拠はありますか?」
「この家族が送金したときの伝票を持っています」
「そうは言っても、その金は誰のところに行ったかわからないわけですね」

訳文のなかにこういうやりとりが出てきても、そんなに気にならないのでは?
ゲラでも赤が入らないかもしれません。

では思い切って、代名詞を全部とってみましょう。

「どうやってわかったのですか?」
「通報があったからです。おかげで、家族は逃げることができました」
「証拠はありますか?」
「家族が送金したときの伝票を持っています」
「でも、金は誰のところに行ったかわからないわけですね」

当然、この会話にいたるまでには「この家族」の話がでてくるのですから、「家族」だけでも十分通じませんか? 「その金」もしかりです。

会話にテンポをもたせたければ、もっとコンパクトにもできます。
たとえば、こんなふうに……

「どうしてわかったんです?」
「通報ですよ。おかげで、家族は逃げることができました」
「証拠は?」
「家族が送金したときの伝票があります」
「でも、結局、金の行方はわからない……」

いかがです?
ここまで来ると、セリフがとても生き生きしてきて、読んだだけで話している人の表情まで浮かんできませんか?

(Y)