アイルランド(人口約約492万人)
石川麻衣
①新型コロナウイルス感染状況について、いまはどうなっていますか?
9月15日現在、一日の感染者数357、死者3名。今までの国内感染者数31,549、死者1,787名。段階的に規制を解除していく予定だったものの、国民からの不満もあり、予定を繰り上げて6月末にはすべての規制がほぼ解除されました。しかし、第二派の到来で再び規制が強化され、室内や野外で集まれる人の数がまた制限されている状況です。
老人施設などのクラスターが目立った第一波に対し、第二波は食肉工場などでクラスターが発生し、劣悪な環境で働く低賃金労働者たちの問題が明るみになりました。また、パブ経営者たちも多大な被害を受けています。アイルランドでは、ギネスビールを飲みながらアイリッシュ音楽を楽しめるパブが旅行者にも人気ですが、今は食事を提供するパブ以外は営業禁止。5か月間店を閉め続けたパブ経営者たちはさすがにしびれを切らし、「とにかく店を開けさせてくれ」と政府に訴え、パブ同士で結束して#Supportnotsympathy(「同情するなら金をくれ」の意味)運動をSNS上で展開。「俺たちは怒っている」とばかりに腕を組んでカメラを睨みつけるパブ経営者の写真がネットに出回りました。結果、政府はパブへの1600万ユーロの補償政策を発表しました。一方で、パブが規制に違反した際の罰はさらに重くなった模様です。
そんななか、政府のお偉いさんがたがゴルフクラブの会合に出席し、その数が室内のイベントで集まれる人数50名を上回っていたことが判明し、国民の怒りが爆発しました。大臣たちは辞職や謝罪に追われ、ラジオでは毎日のように、怒り狂った国民の声が流されました。
②国や自治体からの規制や制限はありますか?
お店に入る時や交通機関を利用する時は、マスクはマストです。第二波後は、政府が公共交通機関の使用を控えるよう呼びかけたため、以前よりも少し空いたように思います。
③国や自治体からどんな援助がありましたか? あるいはありますか?
フリーランスを含め、コロナで仕事を失った人や収入が減った人などがすぐに申請できる「Covid19 失業手当」(一週間に一人当たり3万円程度支給)は、2021年の4月まで続くそうです。
④日常生活や街の様子など、とくに前回のレポート時から変わったことがあれば教えてください。
保育園は少し前からすでに再開していますが、5か月間休みだった学校もようやく8月末に再開したようです。先日、観光スポットに10代の若者が100人単位で押し寄せ、泥酔して公共物を破損させた事件がニュースになりました。そういった若者の奇抜な行動が目立つ昨今ですが、彼らがストレスを抱えるのも当然かなとも思います。すべてが停止し、将来の見通しもままならない状況の彼らを、一概にも、責めるわけにはいかない気がします。在宅勤務が可能になったことで都会に住む理由がなくなり、田舎へ引っ越す人が増えました。北西部のドニゴール地方では住宅の購入数が劇的に増えているようです。
⑤近況について、ご自由にお書きください。
何か起こるごとに国民がしっかりと感情をあらわにし、政府に対して怒ったり訴えたりして、不完全ながらも一つずつ速やかに問題を解決していく国民の瞬発力に、学ぶことが多い今日この頃です。
国立劇場アベイ座は、国がいま向き合うべき問題を綴った「アイルランドへの手紙」を一般公募し、国民の切実な思いを俳優たちが読み上げるという取り組みをオンラインで企画しました。ジャーナリストのフィンタン・オートゥール氏も登壇して自身の文章を詠みあげ、この「不可視な」コロナによって、食肉工場で働く低賃金労働者、集団で暮らさざるを得ない移民たち、施設で暮らすお年寄りなど、今まで視界の隅っこでしか認識していなかった「弱者」、いわば、「目に見えぬ者(The Invisible)」が可視化された、と語りました。「弱者から目を逸らせば、そのツケが自分に回ってくる。その複雑な社会構造がやっとコロナによって明るみになった。だからこそ私たちは誰一人として見捨ててはならない、これを機に誰もが『見える』存在にならなければならない」と語っていたのが印象的でした。
また、何人かの政治家も登場し、自ら詩を詠みあげました。実は、アイルランドの大統領は詩人なのです。こういった場で、政治家たちもいっしょになって何かを創り続けることの重要さを訴えるのを見ていると、この国には、政治と芸術との間にあまり隔たりがないように感じられます。不安はあるものの、夫とともに芸術に携わる者として、大変心強くもあります。
石川麻衣(いしかわ・まい):通訳、英日翻訳家(主に演劇、芸術関係)、ナレーター。国際演劇協会会員。アイルランド・ダブリン在住