コロナ終息に向けて:各国レポート(15)スペイン

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スペイン(人口約4,693万人)

米田真由美

①新型コロナウイルス感染状況について、いまはどうなっていますか?

スペインでは、6月中旬に警戒宣言が解除され、7月に国境を解放して以降、感染者数は増加の一途を辿っています。感染者数の累計は44万人、死者数は2万9000人に達しています。8月28日時点で1日の新規感染者数は3800人、1週間で100人以上の方が亡くなっていて、新規の入院患者数は1000人を超えました。

ただ、コロナによる医療崩壊のニュースが大々的に取り上げられるようなことはなくなりました。アリカンテの総合病院もピーク時のような逼迫や混乱はないようです。しかし、今は普通の風邪の症状でも病院へ行くとPCR検査対象となるので、検査数が急増し、検査結果書類の紛失、結果報告の遅延など、杜撰な管理体制が露呈しています。

②国や自治体からの規制や制限はありますか?

行動制限解除後、すぐにマスクの着用が義務化されました。スペインでは観光・飲食産業が国の経済を支えているため、ごく一部の国を除いて入国制限はなく、6月末から7月にかけて入国規制の緩和が急ピッチで進んだほどです。その効果かどうかはわかりませんが、アリカンテのビーチは驚くほど賑わっています。ただ、実際には休業を強いられているリゾートホテルも少なくなく、飲食業界にとっても厳しい夏であることに違いありません。

感染拡大が確認される地域ごとに移動制限が設けられていましたが、8月中旬に宣言解除後、初めてスペイン全土のナイトクラブやディスコなどの閉鎖、路上での喫煙(2m以上の安全距離が確保できない場合)や飲酒の禁止など規制の強化が始まりました。また、普段生活をともにしていない家族や同居人以外との10名以上の集まりは自粛対象となります。このように、スペイン全土で感染防止対策を講じなくてはならなくなりました。観光客の誘致やバカンスシーズンの影響で人の流れが一気に増えるので、第二波の到来は誰もが予想していたこととも言えます。

感染防止意識の低い若者の間ではクラスターが発生することも多く、毎日のように、集会を取り締まっているニュースが流れています。こういった取り締りは自治体のSNSやインスタグラムなどの若者の目に付きやすいところで発信され、自治体も市民への安全防止策と現状の周知に力を入れていることがうかがえます。

③国や自治体からどんな援助がありましたか? あるいはありますか?

一律での現金支給はありませんが、世界でも話題になったベーシックインカムの導入があります。実際のところベーシックインカムの審査は厳しく、貧困層からの不満も出ています。支給の遅延などもあり、即効性のある救済措置としては機能していないようです。一時的な失業者に対する補償も即席で作られた政策という感じが否めません。新型コロナウイルスに感染した場合の休職補償はあるものの、今後の雇用に関する法整備が急がれます。

アリカンテでは5〜6月にかけて自治体から不織布マスクが支給されました。またホテルや商店にセイフティマーク(ステッカー)を配布したり、無料の市内観光を実施したりと経済活動促進に力を入れていますが、ショッピングや施設利用のクーポン券の配布などはありません。店側は配られたステッカーを貼り、感染防止対策の基準を守っていることをアピールしています。

教育現場ではIT環境の整備の遅れが目立ちました。PCの支給や通信環境の援助などはなく、教員も生徒も国からの支援はほとんどなかったように思います。

④日常生活や街の様子など、とくに前回のレポート時から変わったことがあれば教えてください。

マスクや消毒液不足は早い時点で解消されており、今はどこでも手に入れることができます。品薄状態だったスーパーも通常に戻り、アジア系スーパーにも輸入品が並ぶようになりました。商店では入り口付近に消毒ジェル設置が義務付けられ、利用客の使用が促されています。コロナ以前は法律で規制されていましたが、不景気対策で大手百貨店やホームセンター、ショッピングセンターが日曜日も営業をしています。7月以降、自宅勤務からオフィスワークへ移行している人も増えていますが、引き続き在宅勤務を推奨したり、新しいシフト制での出勤を導入したりする企業も出てきました。

小中学校、高校は9月初旬から中旬にかけて対面授業開始の予定です。各自治体でも教育現場への対応は異なり、教育省と自治体、現場、保護者の間で混乱が起こっています。大学はオンラインと対面を組み合わせた授業のところが多いようですが、海外からの留学生は激減し、あらゆる方面に影響が出ています。

⑤近況について、ご自由にお書きください。

表向きには“日常生活”が戻っているようにも見えますが、もともと高かった失業率の水準がさらに上がり、負の連鎖が起こっています。景気後退の影響で雇用環境や治安の悪化が心配されていて、新しい貧困層の広がりにも大きな不安を抱えています。

この夏休み、海水浴場や集合住宅のプールは混雑しているものの、レジャー施設は閑古鳥が鳴いているようです。積極的に人と会うことを控え、なるべく家族で行動するなど工夫している人は多く、公共交通機関などでもマスク着用を乗客同士で声がけするといった光景も見られます。一部を除いたほとんどの人が、状況をわきまえ、みんなでこの状況を乗り切ろうとしているように思います。感染増加は止まりませんが、コロナウイルスに感染したからといって直接的に職を失ったり、差別を受けたり、責められたりすることのないスペインの社会には感謝したいです。

アリカンテのサンフアン(San Juan)ビーチ

アリカンテのサンフアン(San Juan)ビーチ


米田真由美(よねだ・まゆみ):スペイン・アリカンテ在住のコーディネーター・通訳者。アリカンテ大学語学教育センター勤務。

コロナ終息に向けて:各国レポート第二弾(14)台湾

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台湾(人口約2,360万人)

メリー・ジェーン

① 新型コロナウイルス感染状況について、いまはどうなっていますか?

新型コロナウイルスの感染が今年の1月に拡大してから8か月が経ちました。台湾の感染状況は、他の国と比べて落ち着いたように見えますが、つい最近も感染者がちょこちょこ出ていて、台湾の人たちはコロナに対する危機感を改めて感じています。現時点(8月30日)では、国内感染者数は累積488人、死亡者数は7人です。

ここのところ国内の感染確認者はほぼゼロだったのですが、最近、海外の空港で台湾からの入国者10人が陽性だということがわかりました。その10人は、到着先の空港でPCR検査を受け、そのうちの4人は台湾以外の国で感染したと判明したものの、残りの6人の感染経路はいまだに明らかになっていません。陽性だった10人と接触した台湾国内の人たちも全員PCR検査を受けましたが、みんな陰性でした。どうして、感染者が台湾にいたのに、国内から1人も感染者が出ないんだろうと、国民からは疑問の声が上がっています。

② 国や自治体からの規制や制限はありますか?

台湾はコロナ感染拡大のピーク(3月)後、は清明節(台湾のお盆)の連休を迎えました。多くの国民は今までの旅行ロスの気持ちが高まり、感染状況が収まっていることも相まって、リベンジ旅行(報復性旅行)という現象が台湾の各地で見られました。清明節以降の連休には、台北近郊の宜蘭(ぎらん)、台湾東部の花蓮(かれん)などは以前よりも観光客で賑わっていたようでした。

③ 国や自治体からどんな援助がありましたか? あるいはありますか?

もちろん、コロナによる消費低迷の復興に向けて、台湾政府もさまざまな取り組みを進めています。そのなかでもっとも物議を醸したのは「振興3倍券」という施策です。「振興3倍券」というのは、台湾国民であれば、1,000元(約3,600円)で3,000元(約10,000円)分を購入できるクーポン券のようなものです。紙製の振興券は郵便局で購入できますが、7月の頭に受け取りに行く人が多かったため、郵便局の前には行列ができていました。紙のチケットのほか、クレジットカードや電子マネーなどの対応もありますので、暑いなかで並びたくない人にとっては本当にありがたいですね。この給付金の支給により国内の消費押し上げ効果が見込める一方で、なぜ、ただ2,000元を支給するのではなく、国民がまず1,000元を支払わないといけないのか、という批判の声もインターネットの掲示板に殺到しています。

紙製振興3倍券

紙製振興3倍券

また、医療マスクの販売について、最初は政府がリソースを管理していたので、民営企業が医療マスクを売ることはできなかったものの、感染拡大が収まった現在では薬局やスーパーなどの小売業でもマスク箱売りの商品が並んでいます。芸能人とのコラボ商品のレースマスクも一時話題となり、発売日に即売り切れ盛況もありました。これからは、マスクもファッションアイテムの1つとして日常生活を輝かせるかもしれないですね。

④日常生活や街の様子など、とくに前回のレポート時から変わったことがあれば教えてください。

現在、ほとんどの企業はリモート勤務を終わらせていて、ラッシュアワーの通勤電車は以前のように満員です。ただ、電車に乗る際に必ずマスクをする決まりがあり、違反すると罰金が課されます。乗客の顔をじっくり見てみると、鼻の下にマスクを着用したり、布マスクをしたりする人も少なくはないので、あまりマスクをする意味がないのではと思うことも多々あります。

電車内の様子

電車内の様子

⑤近況について、ご自由にお書きください。

他国と比べて、台湾でのPCR検査の数は非常に少ないです。海外から入国した人は14日間の隔離が必要で、その後7日間の自粛要請もあるとはいえ、PCR検査はいっさい不要なようです。台湾国内の感染者はいないのに、外国へ渡った台湾人から続々と陽性反応が出たことから、国内ではもうすでに多くの陽性者がいるとしか思えません。政治家やコメンテーターもよくこの件について政府に提言していますが、いまだに納得のいく理由と対策案は出されていません。毎日しっかり防疫意識を高めて生活をしていくこと。これから自分、家族、大切な人々を守るために、それが唯一の方法なのだと思います。


メリー・ジェーン:台湾在住のアプリマーケター。