コロナ終息にむけて:各国レポート(5)マダガスカル

madagascar

インド洋の島国マダガスカルにおけるコロナウイルス感染防止の舵とり

フランス語情報センター翻訳チーム

マダガスカルは、現地語では好んで「先祖の土地」を意味する「タニンヂャザナ」と美称され、バオバブの巨木や高品質のバニラで知られる、アフリカ最大の島国です。1960年にフランスから独立し、日本の1.6倍の国土に約2,700万の人口を擁するこの国は、46歳のアンドリー・ラジョリナ大統領の指揮下、世界の最貧諸国の常連からの脱出をめざしています。

つい先日まで、新型コロナウイルス感染者数の増加は連日1桁台で推移し、マダガスカル政府主導のコロナウイルス対策が感染の拡大防止に奏功していたかと思われていました。ところが、5月7日分の政府発表で突如35人の新規感染が明らかになり、現地消息筋の抱いていた密かな危惧が、いきおい現実味を帯び始めた感があります。

最新の5月13日分の政府発表によると、マダガスカル国内の累計感染者は212人、累計快復者は107人、入院者は105人、重症者および死亡者はなし。13日の新規感染者は20人、このうち15人が沿岸部の港町トアマシナ(別称タマタブ)、3人がバオバブ街道で有名なムラマンガ、2人が首都のアンタナナリボに在住する者です。なお、実施されたPCR検査は、5月10日までに4,481件。

マダガスカルにおけるコロナウイルス対策は、3月22日、ラジョリナ大統領がマダガスカル全土における15日間の国家保健緊急事態を宣言して本格的に始動しましたが、4月19日からは段階的な緩和措置へ移行しています。緩和後の主要規制は以下のとおり。

・車両利用(徒歩を含む)での移動可能な時間は6時から13時まで。
・違反者に罰則を設けたマスクの着用義務の継続。
・大都市圏3県アナラマンガ(首都アンタナナリボの所在県)、アチナナナ(トアマシナの所在県)、オート・マツィアチャ(フィアナランツァの所在県)の住民の県外移動禁止。
・夜間の自宅外出禁止時間の短縮(21時から午前4時まで。3月22日以降緩和までは20時から午前5時まで)。
・50人以上の集会、家族の祝宴、スポーツイベント、文化イベントの引き続き禁止。
・民間企業の業務再開を各企業の判断に委ねる。
・行政省庁は最低限の業務を再開する。
・レストランおよび食堂の営業時間は13時まで。ただし13時以降は配達サービスを可能とする。
・公共輸送機関の再開。乗客数を制限しての乗り合いバスとタクシーの営業再開。
・公立および私立学校の再開は段階的におこなう(最終学年および3年生の授業は4月22日、7 年生は4月27日から)。

私どもが現地の活動拠点としている有限会社ソマコワ社は、上述の移動禁止対象圏のアチナナナ県の沿岸部トアマシナにあり、コロナウイルス感染者を収容する国立ムラフェーノ病院が徒歩10分の距離にあります。5月7日から13日までにマダガスカル全体で合計89人の感染者が確認され、そのうち52人がトアマシナ在住です。ソマコワ社の主要スタッフも近隣に居住していており、この数値を見ていると、関連情報にはいやがおうにも敏感になります。

日本のメディア(5月6日付け朝日新聞デジタル)でも紹介され、ラジョリナ大統領自らのトップセールスによって昨今とみにメディア露出度の高くなったマダガスカルの伝統生薬「アルテミシア」関連の情報もその一つ。マダガスカル国内では、「CVO」の商品名でコロナ感染予防・治療用に薬局の店頭で販売されています(写真は、店頭に並ぶCVO)。

cvo

CVOの販売価格は1リットルが3,000アリアリ(日本円で約85円)、330㏄の瓶入りが1,500アリアリ(約45円)、14包入りの煎剤が1万アリアリ(約285円)。最貧困層と学童には無料配布がなされているようですが、法定最低賃金が月額20万アリアリ(約5,700円)ですので、庶民にとって特に安価なわけではありません。

CVOに使われているアルテミシアはヨモギ属キク科の植物。マラリアの予防・治療に使われてきました。マダガスカルでは、乾燥したアルテミシアが路上で売られています。原産国は中国。マラリアとの闘いでもあったベトナム戦争で、米軍は治療薬としてキニーネ(クロロキン)を使って兵力を維持していたのに、ベトコン・解放軍には治療薬がなく兵力の減耗が避けられませんでした。そこでホーチミンは毛沢東に援助を依頼。中国から北ベトナムに提供されたのがアルテミシアです。アルテミシアはマラリアの予防・治療に絶大な効果を発揮し、北ベトナムの戦争勝利に貢献しました。そして、マダガスカルを含むアフリカ諸国でも栽培されるようになりました。

アルテミシアは、人体に無毒であることが証明されているそうですが、WHOはその「使用を推奨しない」としており、フランスでは販売が禁止されています。フランスのテレビ局France 24は「マラリア・ビジネス」というドキュメンタリー番組で、その理由を「製薬会社からの圧力である」と結論づけています。

そのようななかで、ラジョリナ大統領は5月11日、コロナウイルスに対するCVOの効能に関するFrance 24の座談会に出席し、「マダガスカルではコロナウイルスの治療にCVOが使われており、明らかに効果がある。マダガスカルでのコロナウイルスによる死者はゼロだ」と言い切りました。

他方、コロナウイルス感染の報告のない北西部の港町マジュンガで、5月3日に24名のデング熱の感染が発生し、同日中に市内全域の清掃が行われたにもかかわらず、6日時点で感染者数は9倍強の227名に急増しています。デングウイルスの感染力は非常に強く、今後の爆発的感染拡大が懸念されます。現時点のマダガスカルは、コロナ後の世界を語る前に、次なる難局との対峙を余儀なくされていると言っても過言ではないでしょう。


株式会社フランス語情報センター翻訳チーム:代表の中平信也(なかだいら・しんや)とパートナーの脇るみ子(わき・るみこ)で運営。どちらも日本在住のフランス語通訳・翻訳者。マダガスカルと日本のあいだを定期的に往復している。