SARSから学んだ台湾
メリー・ジェーン
私は映画マニアで、子供のころからよくアメリカ映画と邦画を観てきました。映画のストーリーのほとんどは、非現実で日常生活では起こり得ないことが多いですが、2011年に公開された『コンテイジョン』は、まさに、今の状況を予言するかのような作品で驚きました。コロナウイルスの感染が世界じゅうに広がっていき、総感染者数が500万人を超えているこの状況は、『コンテイジョン』で描かれたシーンにそっくりです。
私が中学3年生のころ、台湾はSARSに襲われ、多数の感染者と死者を出しました。今は当時のことをよく覚えていませんが、学校で毎日体温を測られたことは記憶にあります。また、台北市立和平医院でクラスターが起こり、多くの医師や看護師たちが病院から逃げようとする姿をテレビのニュースで見ました。当時、父と仕事をしていた日本のクライアントが、何箱ものマスクを送ってくれました。コロナ感染拡大の最中に、父は家の倉庫から当時のそのマスクを出してきましたが、綿布生地と明らかに大人に合わないサイズはまるで日本の「アベノマスク」。思わず笑ってしまいました。
SARSの経験を踏まえ、今年の旧正月の時期、つまり1月下旬のコロナウイルス感染が拡大する前に、台湾はすでに入国制限や検疫などの対策を行いはじめました。そんななか、私は友人と3人で東京に訪れたのですが、マスクと消毒液をつねに持ち歩き、日本にいるあいだずっとマスクをつけていました(黒いマスクをつけると、原宿キッズに似ていると言われました!)。そして、日本人の友達からマスクをお土産としてもらいました。「日本は大丈夫だよ!」「SARSが流行ったときは、日本では死者は出なかったよ!」とも言われました。そのときのことを振り返ると、少し悲しくなります。あのとき、もうちょっと強く、日本の友達に感染防止の考え方を押し付ければよかったなと思いました。
私の国、台湾は、コロナウイルス感染の早期段階での封じ込めに見事に成功していると言っていいでしょう。
5月22日の時点で、台湾のコロナ感染者は441人に抑えられ、1か月間以上も国内での感染者は出ていません。このまま水際対策がうまくいけば、感染の第2波も回避できるだろうと思います。今回、一人のヒーローがあらわれました。それは、中華民国衛生福利部部長である陳時中氏です。コロナ対策本部長でもある陳氏は、台湾ではヒーローのような存在になっていて、毎日、テレビや電車のなかで、陳氏が国民全員にコロナ感染拡大防止を呼びかける声が流れています。
台湾のコロナ対策は、世界からも賞賛されています。ただでさえマスクが不足しているのに「学校でからかわれるから」と言ってピンク色のマスクをしたがらない小学生のために、陳氏はピンク色のマスクをつけて国会に参加しました。これは台湾で大きなニュースとなり、共感を呼びました。もちろん、日本でも注目を浴びているIT大臣のタン氏もすごいと思いますが、陳時中部長がいなければ、台湾はこのようにコロナの感染拡大を封じ込められなかったのではないでしょうか。
現在の台湾はもう収束に向かっています。でも、電車に乗る際には必ずマスクをしないといけないし、ソーシャルディスタンスを保って感染を防ぐために、店の中では席を隔てて飛沫防止板が設置されています。私は以前はしょっちゅう駅の地下階でダンスを練習していたのですが、そこも密閉空間のために3月から利用禁止になり、いまだに解放されていません。今は全体的に少しリラックスした雰囲気ではありますが、ワクチンが開発されて導入されるまで、このような生活がしばらく続くことになるのでしょう。
このコロナ禍で、みなさんの日常生活には大きな影響が出ていると思います。面倒なこともたくさんあると思いますが、これからはきっといいことがあると信じて、もう少し頑張りましょう。
メリー・ジェーン:台湾在住のアプリマーケター。