パンデミックは人を恋しくさせる
シーモア・ダニエル
初めまして、ハワイ在住のダニエルといいます。
私が勤めているトリプラー陸軍病院は現在、ハワイ全体のロックダウンにともない、院内でのソーシャル・ディスタンスを保つため、必要最低限の職員しか出勤させていない状態です。私は臨床カウンセラーとして働いているのですが、3月早々にリモートワークとなりました。
「いくらパンデミックといっても、あの癒しと常夏のハワイがロックダウンなんて想像できない」と思う人は多いのではないでしょうか。私も日々、家族以外の人間と一切会わずにトロピカルな熱帯雨林に囲まれた生活を送りながら、「これでいいのかな~」と思うことがよくあります。その反面、どこかモヤモヤする気持ちがついてまわり、やり場のなさを感じるのが正直なところです。そのモヤモヤ感はちょっとした倦怠感にも似ています。
コロナウイルス感染拡大の影響で、ハワイの34%の労働人口が失業し、1日3食すらまともに食べられない家族が急増する苛酷な状態のなかで、テレワークをしながら「公務員」として安定した給料をもらいつづけている身分の私が抱えるモヤモヤ感なんて、「贅沢な悩み」と言われてもしかたないかもしれません。仕事の打ち合わせもクライアントとのカウンセリングもすべてZoomで行われ、買い物も食品宅配サービスに頼み、何一つ不自由のない生活を送っているはずなのに、こんなにメリハリがないのはなぜなのでしょう?
そのうえ、「コロナ貯金」も着々と進んでいます。出費をともなう外出がいっさいなくなり、子どもの習い事も消えたからです。先日、車のガソリンを入れたときには、なんと2カ月ぶりでした。
運動すればいいって? はい、しています。毎日のジョギングとHIIT(オンライン上でできるトレーニング)は欠かさずやっています。家族で散歩やハイキングに行くこともあります。ついこのあいだ、2カ月ぶりに家族でビーチに行き、子どもたちは大はしゃぎでした。
じゃあ、いったい何が不満なのかというと「ズバリこれ」というものもないのです。
ただ、隣人のジェレミーを見ていると、モヤモヤの原因がわかってくるような気がします。彼は独身で、ロックダウンになる前は「野菜のピーラー」をフリーマーケットで売っていたミュージシャンでした。そう、まさに「自由人」。もちろん彼は、州政府が出している外出禁止令なんてまったく気にしません。違反者の摘発に目を光らせるハワイ警察を尻目に出かけたかと思えば、ミュージシャン仲間と夜な夜などんちゃん騒ぎです。
あまりのうるささに、何回通報してやろうかと思ったことか……。平気でバーベキューにも誘ってきます(笑)。それでもなぜか私は、100%白い目で彼を見ることができないのです。どんちゃん騒ぎにはもちろん驚かされて迷惑ですが、仲間との交流はわかる気がするからです。
ロックダウンによって何が一番変わったかというと、それは「普段」がなくなったことです。
ロックダウン以前の私の「普段」はというと、職場に行き、同僚と打ち合わせをし、クライアントのカウンセリングを行い、仕事が終わり子どもたちを学校に迎えに行って、いっしょにブラジリアン柔術を習い、道場生と交流し、週末は友達たちとバーベキューをし、ビーチに行く。
そんな「普段」の中心となっていたのは、「人」だったんですよね。
いくらZoomで頻繁に連絡を取り合っていても、どこかで限界を感じてしまうのです。Zoomでは、どうしてもスクリーン上の写真とお話をしているような違和感があり、生身の人間が発する「気」が欠けている気がして、どこか物足りなさを感じてしまう。そして、その「物足りなさ」の蓄積が、モヤモヤ感を作りだしているのだと思います。
早い話が、人が恋しいのでしょうね。自分には家族が身近にいるけど、ジェレミーみたいな独り者だったら同じ行動をとっているかもしれませんね。
でも、どんよりとしたニュースだけではありませんよ!
2週間前、生まれて間もない子猫ちゃん(まだ胎盤とへその緒が付いていました)を保護したことで、家族に新たなメンバーが加わりました! 最初は車に轢かれたネズミだと思って通り過ぎたのですが……。こういうのを「縁」というのでしょうね。
では、日本のみなさんお気をつけて!
シーモア・ダニエル:臨床カウンセラー。2019年よりハワイ在住。